第17話 プライバシーの侵害
零維世:黒戸零維世。
レイセの現世の姿。
黒羽高校二年生。
副会長。
芸能活動をしている。
遊間:神木遊間。
SS級冒険者連合『トゥエルブ』のサブリーダー。
誰もが認める二番手。
遊間:「SS級冒険者連合ってのはな……」
あ、俺の怒りに全く気付いてない。
マイペースに話し始めやがった。
悪気無さそうだ。
怒ってる俺が馬鹿みたいだ。
仕方ない、聞いてやるか。
遊間:「すべての地域の冒険者のトップが揃ってるって事なんだ」
零維世:「へー」
遊間:「へー、じゃ無い」
遊間:「お前は何もわかってない」
零維世:「絡むなよ」
遊間:「プロ野球選手のオールスターよりもっと凄いんだぞ!」
零維世:「へー」
遊間:「へー、じゃ無い」
遊間:「お前は何もわかってない」
遊間:「リアクションをサボるな」
零維世:「じゃー反応してやる」
零維世:「冒険者ってS級以上があったんだな」
遊間:「それ!」
遊間:「零維世、お前わかってるな」
何もわかって無いんじゃなかったか?
どっちなんだよ。
俺に茶番は必要無いぞ。
遊間:「冒険者はS級という頂点を基準にランクを付けている」
遊間:「SS級ってのはS級より大きくかけ離れた、基準の上に設定された者たちの事だ」
零維世:「S級と比較して、戦闘能力はどの位なんだ?」
遊間:「S級はダンジョン九十九階層までって感じだな」
零維世:「じゃ、SS級は?」
遊間:「百階層も余裕だ」
零維世:「余裕か、大きく出たな」
遊間:「良い例えを思いついた」
遊間:「お前、『フィナリスラーウム』で上位の実力だろ?」
零維世:「まーな、俺がトップって自信ある」
遊間:「『トゥエルブ』は全員がお前で出来たチームと思えばわかり易い」
遊間:「しかも、リーダーのカーミュはSSS級」
遊間:「お前より強い、確実だ」
零維世:「それが本当なら確かに凄いチームだ」
遊間:「だろう~?」
零維世:「ダンジョン攻略に行き詰ってた理由は?」
遊間:「カーミュが活動を止めていたんだ」
遊間:「理由は連携にある」
零維世:「あ、なんとなくわかる」
零維世:「個の力が優れていても、邪魔し合ってたら意味が無いからな」
遊間:「そうなんだ」
遊間:「俺達はカーミュの、兄貴のカリスマで集まったチームだからな」
零維世:「で?」
零維世:「今はどうなってるんだ?」
遊間:「当然乗り越えた」
遊間:「今は連携もばっちりだ」
零維世:「それで、チームの説明を始めた理由は?」
遊間:「ああ、そうだった」
遊間:「たしか……」
遊間:「『異世界転生録 ロストエンド』の信ぴょう性について『トゥエルブ』が認めてる、ってのが凄いって言いたかったんだ」
零維世:「信ぴょう性ね」
零維世:「俺がどう推理して本を書いたか解説しても良いが、お前興味ある?」
遊間:「無いな」
零維世:「だと思った」
零維世:「本に興味を持ったのは、リーダーのカーミュだろ?」
遊間:「なんでわかるんだ?」
零維世:「まー、勘かな」
零維世:「お前らのチームはリーダーの言う事しか聞かなそう」
遊間:「…………」
遊間:「お前やっぱ腹立つな」
零維世:「なんだ、藪から棒に」
遊間:「兄貴はお前に興味深々だ」
遊間:「こっちの世界のお前の事をあれこれ聞かれて、俺はファンでも無いのにやたらと詳しくなってしまった」
零維世:「ふーん」
零維世:「カーミュって、融合者じゃないんだな」
零維世:「意外」
遊間:「推理するなよ」
遊間:「プライバシーの侵害だぞ」
零維世:「推理がプライバシーの侵害なら、なにも考えられなくなる」
零維世:「ふざけんな」
遊間:「やっぱお前腹立つ」
零維世:「ただの嫉妬だろ」
零維世:「俺に非は無い」
遊間:「はー、お前、他人に嫉妬した事無いだろ?」
遊間:「幸せな奴だな」
遊間:「腹立つ気が失せてきた」
零維世:「確かに本気で嫉妬に悩んだこと無いな」
零維世:「そういう意味では幸せか?」
遊間:「俺に聞くな」
遊間:「お前、意外に素直だな」
遊間:「なら忠告しといてやるか」
零維世:「なんだ?」
遊間:「嫉妬を知らなくて、優れた人格になれる訳がない」
遊間:「もっと人を認めろ」
零維世:「…………」
零維世:「一理ある」
零維世:「羨ましがらないのは失礼かも、と思い始めた」
零維世:「お前結構良いこと言うな」
遊間:「調子こいて生きて来た奴にしか適応されない、汎用性の無い言葉だ」
遊間:「全く共感できない」
零維世:「無い物ねだりしたのは妻に結婚を申し込んだときだけだ」
零維世:「後は自分で何とかして来れた」
零維世:「本気で圧し折れた事の無い、他人を羨まない俺は脆いかもな」
遊間:「圧し折れた方が強くなるかも、なんて、折れた事の無い奴が言うセリフだ」
遊間:「たぶん折れた方が弱くなる」
遊間:「もとに戻らない」
遊間:「強い弱いの話をしたらな」
遊間:「自分の至らなさに気付く切っ掛けになるだけだ」
遊間:「俺もまだ途中だ」
遊間:「言いたい事わかるか?」
零維世:「わかるって言えば、嘘になる」
零維世:「そういう事だろ?」
遊間:「勘がいいんだな」
遊間:「お前は今回の襲撃で圧し折れろ」
零維世:「助けてくれるんじゃ無いのか?」
遊間:「俺が助けたくらいでどうにかなれば良いがな」
零維世:「どういう意味だ?」
遊間:「嫌な予感がする」
遊間:「俺の嫌な予感は良く当たる」
零維世:「嫌な予感ってのは当たる様に出来てるらしいぞ」
遊間:「寝てるこの女の頭から情報を抜き取る」
遊間:「彼女が何か不味い情報を持ってる事に百円賭ける」
零維世:「随分安上がりだな」
遊間:「俺が勝ったら、千倍払え」
零維世:「払うか!」
零維世:「自由自在じゃねーか!」
遊間:「たった十万で命賭けてやろうって言ってんのに、気遣いのわからん器の小さい男だ」
零維世:「だったらそう言え」
零維世:「雇ってやる」
遊間:「何が、雇ってやる、だ」
遊間:「助けてください、お願いします、だろ?」
零維世:「言わなきゃダメか?」
遊間:「お前、その首輪の所為で力が制限されてるんだろ?」
遊間:「自分でどうにかなりそうか?」
零維世:「助けてください、お願いします」
遊間:「そう、それで良いんだよ」
零維世:「心が圧し折れそうだ」
遊間:「軽口言えるなら大丈夫だ」
零維世:「始めてくれ」
遊間:「一気に読み込んでまとめて話すのは難しい」
遊間:「役に立つ情報が何かなんてのを判断するのも得意じゃない」
遊間:「読み取った部分を順番に話していく」
零維世:「なるほど、わかった」
遊間:「彼女の名前は木都宮里」
遊間:「三十二歳独身」
遊間:「一般人の恋人がいる」
遊間:「最初のデートでキスしたらしい」
遊間:「それから……」
零維世:「おい!」
零維世:「遊間!」
零維世:「ふざけるなよ」
遊間:「頭の固い奴だな」
遊間:「ちょっとくらい良いだろ」
遊間:「結婚を考えているが裏家業から足を洗う資金が無くて困っていた」
遊間:「暗殺者としてはそこそこのランクらしい」
遊間:「異世界へは行った事が無い」
遊間:「今回は白金組から仕事を紹介され、成功すれば最後の仕事になっていた」
零維世:「持ち物に連絡先は有るか?」
遊間:「あるようだ」
遊間:「これだな」
遊間は名刺を取り出した。
聞いた事の無い名前の商社の名刺だ。
本当なのは番号だけだろう。
遊間:「どうするんだ?」
零維世:「情報を引き出したあと倍額で雇い返す」
零維世:「彼女もその方が幸せになれるだろ?」
遊間:「雇い返す」
遊間:「悪く無いな、続けるぞ」
零維世:「頼む」
遊間:「彼女は白金組を通して、灰崎正人に紹介された」
遊間:「灰崎正人は『狂奔』の元主要メンバーだ」
遊間:「『狂奔』からはお前らがダンジョン完全攻略の情報を流し始めた時点で抜けたらしい」
遊間:「一緒に抜けたのは、香月レミ、香月ミア」
遊間:「双子だ」
遊間:「この二人は灰崎の信奉者」
遊間:「灰崎が『リーベラティーオー』に接触し、のし上がる為の手土産としてお前の首が選ばれたらしい」
遊間:「彼女がこれらの情報を知っているのは……」
零維世:「態とか?」
遊間:「そうだ」
遊間:「態々三人に言って聞かせやがった」
遊間:「伝言のつもりだろ」
零維世:「灰崎の性格を当ててやる」
零維世:「自分で手を汚さない」
零維世:「そして、自分で確認する」
零維世:「他人を信用しない」
零維世:「たぶん信奉者の二人の事も信じていない」
零維世:「俺達は今も奴に監視されている」
遊間:「彼女が持つ印象と合致してる」
遊間:「お前の言う通り監視されてるかもな」
零維世:「続けてくれ」
遊間:「灰崎は黒戸和馬がバランサーで、お前の親だと知っている」
遊間:「管理者が親として融合者を守る事は不公平らしい」
遊間:「俺もそう思う」
遊間:「白金組、志精教、レクトグループに働きかけ、クロスグループを麻痺させてるらしい」
遊間:「クロスグループを麻痺させることのできる期間は三日」
遊間:「三日以内にお前を殺し、管理者の席を『リーベラティーオー』が独占」
遊間:「そうなれば黒戸和馬は死ぬことになる」
遊間:「クロスグループの脅威は無くなる、そういう計画だ」
零維世:「穴の多い計画だな」
零維世:「これから向かうべき場所は?」
遊間:「クロスグループ本社」
遊間:「東京都心だ」
遊間:「奴らは手を出せなくなる」
遊間:「ちなみに今いるのは静岡だぞ」
零維世:「以外に遠いな」
零維世:「彼女たちを担いでくれ」
遊間:「他の情報は?」
零維世:「もう抜き取ったろ?」
遊間:「まーな」
零維世:「急ぐぞ」
俺達は三人を担いで走り出した。
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