第16話 神木遊間

 零維世:黒戸零維世。

     レイセの現世の姿。

     黒羽高校二年生。

     副会長。

     芸能活動をしている。





 神木遊間。


 何者だ?


 立ち居振る舞いからかなりの強者とわかる。

 


 向こうも俺の実力がわかる筈だ。


 実力が近い。

 

 この状況では敵と考えるのが自然だろう。


 怪し過ぎる。



 こいつがいる状況で電話して大丈夫か?

 

 何かの罠か?


 まあ良い。


 押し通ってやる。


 俺は電話まで移動し、受話器に耳を当てる。

 

 …………。


 なんの音もしていない。


 そもそもディスプレイの表示が消えている。


 入力した番号が表示されない。


 電源を確認する。



 コードが切られている!


 落ち着け。


 状況確認だ。


 零維世:「遊間さん?」

 零維世:「質問良いですか?」


 遊間:「どうぞ」


 零維世:「貴方は何故ここに?」


 遊間:「この町に住んでいる友人と急に連絡が取れなくなりまして、家に行ってみたんですが留守でした」

 遊間「少し様子がおかしい気がしましたので、パトロールのついでに庭から様子を見て貰うように頼みました」


 零維世:「パトロールに行かれてから何分くらい経ちました?」


 遊間はスマホを確認する。


 遊間:「四十分経ってますね」

 遊間:「少し遅いかな」


 遊間はスマホを操作し続けている。


 しばらく目を離さない。


 焦りを感じる。


 零維世:「どうかしましたか?」


 遊間:「電波が繋がらなくて……」


 零維世:「…………」


 こんな会話をしてる余裕はない。


 駆け引きが面倒だ。


 殺気をぶつけて反応を見る。


 遊間:「殺気が洩れてるぞ!」

 遊間:「目的はなんだ!?」


 俺は遊間にタックルした。


 遊間を交番から外に連れ出す。



 間髪入れずに、グレネード弾が撃ち込まれた。


 弾は火炎弾だ。

 


 交番は一瞬で火の海になった。



 殺気を向けた時の反応から遊間への敵認定を止めた。


 俺のこいつへの印象は”中庸”だ。


 悪い奴じゃなさそうだが、偏りが無いのは不自然だ。


 何か普通じゃない。


 関わらない方が無難だ。


 零維世:「巻き込んで悪かったな」

 零維世:「じゃーな」


 たぶんこいつはたまたまここに居ただけだ。


 反応でそれもわかった。



 俺はこの場を離れ警察署に移動する。


 警察署の位置は掲示板の地図で確認している。


 遊間:「ちょっと待てよ!」

 遊間:「置いて行くなー!」


 遊間が追いかけて来る。


 零維世:「追いかけてくるな!」

 零維世:「グレネード弾を撃って来た奴等が狙ってんだぞ!」


 遊間:「俺を足手纏いみたいに扱いやがって!」

 遊間:「スカしてんじゃねー!」


 零維世:「お前なんなんだよ!」

 零維世:「こっちくんな!」


 遊間:「俺がお前を助けてやるよ!」

 遊間:「俺の方が上だから!」


 零維世:「はあ?」

 零維世:「俺は知らんぞ!」

 零維世:「勝手にしろ!」



 俺達は並んで五キロほど走った。



 依然として周囲に人の気配が無い。


 民家が有るのにだ。



 どうなってる?


 俺を狙うだけの事で村ごと人払いしたのか?


 この短期間で?


 手が込み過ぎてる。


 この分だと、警察署も望み薄だ。


 ダラダラしてられない。

 

 手っ取り早く行く。


 零維世:「おい、遊間」


 遊間:「なんだ?」

 遊間:「零維世」


 ……。


 どうでも良いが、こいつなんで嬉しそうなんだよ。


 話し掛けただけだぞ。



 反応がいちいちめんどくさい。


 突っ込み出したらキリが無さそうだ。


 無視しよう。


 零維世:「おい!」

 零維世:「今警察署に向かってるが、状況的に意味が無さそうだ」

 零維世:「どう思う?」


 遊間:「一応目的地があったんだな」

 遊間:「確かに意味が無さそうだ」

 遊間:「人払いが済んでいる」


 零維世:「やっぱそう思うか?」

 零維世:「追いかけて来てる馬鹿どもを相手した方が速い気がする」

 零維世:「どう思う?」


 遊間:「俺は最初から気付いてたぞ」


 なんだこいつ?


 まともに会話する気ないだろ。



 何故張り合おうとする?


 無視しよう。


 零維世:「俺は勝手に始めるぞ」


 遊間:「助けてやろう」


 敵は市街地用の迷彩服を着た三人組だ。


 実力はそれほどじゃない。


 気配消しが出来ていない。



 だが手に持った武器は厄介だ。


 アサルトライフルとグレネードランチャーと火炎放射器の三人組。


 考えた奴はアホだ。


 国を間違えている。


 奴らは一応こちらの気配を感じる事が出来るらしい。


 近づく前に撃って来た。


 グレネードランチャーから弾がポンポン飛んで出て、道路が炎で満たされる。


 車が停まってるのに関係無しだ。


 引火して車が、バン!! と爆発する。


 俺達は建物の角に隠れている。


 少しはライフルの弾を節約しろよ!


 撃ちすぎだ!


 建物の角が無くなっていく。


 そして火炎放射器が来た!


 あっつ!!

 

 炎は届いて無いが、熱は十分届いてる。


 こんなのどうやって対処する?


 零維世:「おい、助けてくれるんじゃなかったか?」


 遊間:「もう弱音か?」

 遊間:「らしく無いぞ!」


 こいつ!


 いうに事欠いて、らしく無いってなんだよ!


 お前は俺の何を知ってるんだよ!


 さっき会ったばかりだろ!



 こいつに頼ったのがいけなかった。


 自分でどうにかするか。



 そう考えているとアサルトライフルが突っ込んできた。


 少し遅れて火炎放射器。


 離れた所からグレネードは相変わらずだ。



 俺なら火炎放射器を最前列に配置するが……。


 敵の趣味にイラっとする。



 余裕はまだある。


 まあいい。


 ライフルの斉射に合わせて、遊間が回避軌道を取る。



 おい!


 そっちはダメだ!


 見え見えの火炎放射器への誘導だろ!



 死ぬつもりか!?


 遊間は結界を展開し、火炎放射器からの炎を防ぐ。


 そして右手でナイフを具現化。


 遊間が投げたナイフはアサルトライフルの男の額を貫く。


 手加減無しだ。


 躊躇無しに殺しやがった。



 マジか!


 こっちの世界でそれをやってしまうか?


 俺はそんな覚悟ないぞ。



 いや、違う。


 死んでない。


 貫通して向こう側に出て行った。



 血が出ていない。


 どういう事だ?


 そうか!


 存在感か!


 存在感にだけダメージを与えたんだ!



 こいつ、めちゃくちゃ器用だ!


 その発想は無かった。


 俺にも出来るか?


 やるしかない。


 くっそー、こいつ頼りになるぞ。


 俺は今こっちの世界じゃ大きい武器は具現化出来ない。

 

 大きさはナイフが精一杯だ。


 概念の調整は試した事が無い。


 存在感にダメージを与えるイメージはわかっても、存在感だ《・》け《・》ってのはどうなんだ?


 やるしか無い。


 失敗したら殺人だ。


 遊間:「武器の形でなくても、気体を投げつけるイメージで大丈夫だ!」


 なるほど!


 気体か!


 俺はドッチボールの様な形をした塊を火炎放射器の男に向かって投げた。


 塊は勢いよく飛び、男の頭を打ちぬいた。


 男は崩れ落ちる。


 よし!


 あとは……。


 そこまで考えた時、遊間はグレネードランチャー使いの女をナイフで貫いていた。


 前言撤回。


 こいつ!


 馬鹿か!


 何の為に倒しにかかったと思ってるんだ!


 情報を得る為だろ!


 一人残しとけよ!


 どうすんだよ!?


 気付いてたって言ってただろ!?


 あーもう!


 イライラするな!


 零維世:「おい!」

 零維世:「気絶させたら情報を聞き出せないだろ!?」


 遊間:「何のだ?」


 零維世:「敵のに決まってるだろ?」


 遊間:「知り合いじゃ無いのか?」


 零維世:「知り合いってなんだ?」

 零維世:「警告なしに撃って来る奴等に知り合いなんているかよ!」


 遊間:「それをはやく言えよ!」

 遊間:「何やってんだ!」


 何やってんだ!


 は、俺のセリフだ!


 いや。


 いや。


 ま、待て。


 確かにこいつの言う通りかもしれない。


 デカい声を出し過ぎた。


 俺らしくない。


 落ち着け。


 深呼吸だ。


 フゥーーー。


 良し。


 落ち着いた。


 零維世:「周りに敵の気配が無くなった」

 零維世:「これでゆっくり話せるな」

 零維世:「協力してくれるなら説明するが、聞いてくれるか?」

 

 遊間:「よし、聞いてやる」


 なんか上から目線なんだよな。


 微妙にモヤッとする。


 まあ、頼りになりそうな気もするし、説明するけどな。



 俺は説明した。


 カクカクシカジカ、マルマルウマウマ。


 遊間:「なるほどな」

 遊間:「『フィナリスラーウム』と『リーベラティーオー』の戦争が発端か」

 遊間:「俺達の中でも『異世界転生録 ロストエンド』の信ぴょう性は高いと判断してる」


 零維世:「へー、お前は何処のチーム所属なんだ?」


 遊間:「SS級冒険者連合『トゥエルブ』だ」

 遊間:「俺はサブリーダーを務めてる」

 遊間:「SS級冒険者連合がどの位凄いかわかるか?」


 あ、腹立った。


 零維世:「うるせー」

 零維世:「二国の王にため口聞いてんじゃねー」


 遊間:「お前、態度デカいな」


 こっちのセリフだ。


 もういい、こいつを殺そう。


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