14話 アルコル2



 レイセ:黒戸零維世。

     レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

     連合国クロトと聖国クリアの王。

 ルプリレ:プロミとリビアと女性の元管理者が融合した存在。

 リビア:リビア・クロト。

    聖国クリアの元代表。

    レイセと結婚している。

 プロミ:プロミネンス。

     ルビー・アグノス。

     黒崎鏡華。

     月と太陽の国アウグストラの女王。

     現人神。

     レイセと結婚している。

 ジャド:『マギ』のエース。

     キシに次期纏め役に推されている。

     三番目の真理への到達者。

 アルコル:黒巣壱白の分裂した姿。

      『能力』が使える。

      『リーベラティーオー』のリーダー。

 フレイズ:『マギ』のリーダー。

 ロミール:『創聖』のリーダー。




(アルコル視点です。)


 大迷宮百階層まで来た。


 ここは草原だ。


 遮るものが無い。


 敵が無限に寄って来る。


 俺は広範囲に注視を展開する。


 敵を積極的に引き寄せる。


 魔物の王の城に向かう時は大群を相手にする。


 それを想定する。


 この階層は、ゴブリンが大量に湧く。


 斬撃のコントロール可能範囲に敵が入って来たら、切り伏せる。


 一体入って来た。


 斬撃を飛ばす。


 ハッ!


 一体を両断した。


 そうだ。


 どんどん来い。


 もっとだ。


 俺の間合いは広い。


 間合いに十体同時に入って来る。


 ォラ!


 ォラララララララララ!!


 全部仕留める。


 もっとだ。


 もっと来い。


 死ね。


 死ね。


 死ね。


 死ね!


 死ね!


 死ね!


 死ね!


 死ね!!


 死ね!!



(ジャド視点です。)


 ジャド:「始まりましたね」


 ロミール:「ですね」


 ジャド:「ここから何時間粘るか見ていましょう」


 ロミール:「すでに四十体」

 ロミール:「まだまだ増えそうです」


 アルコルさんの実力は本物です。


 体力の続く限り魔物を殺し続けるでしょう。


 憂さ晴らしは何時間続くのか…………。


 ジャド:「アルコルさんの体力が切れたら加勢します」


 ロミール:「了解です」


 ……。


 …………。


 ………………。





 四十八時間が経過しました。


 魔物の討伐、というか、虐殺が続いています。


 階層には殺意が充満しています。


 ロミール:「凄い!」


 ジャド:「まだ始まったばかりです」

 ジャド:「そろそろ階層主が出てきます」

 ジャド:「レイセさんに、長引きそうと連絡します」


 ロミール:「はい」


 レイセさんの端末にメッセージを送りました。


 見たら電話が掛かってきます。



 ここの階層主は遠距離攻撃主体。


 アルコルさんには近づかない。


 戦いは長引きます。


 それにしても、なんという剣速。


 斬撃のスピードが上がっています。


 カタナを振るった次の瞬間には、敵に到達しています。


 そう見えます。


『能力』も加わって凄い威力です。


 魔道具が振動しています。


 レイセさんからでしょう。


 レイセ:「どうした?」

 レイセ:「何かあったか?」


 ジャド:「アルコルさんの戦闘が続いています」

 ジャド:「長引きそうです」


 レイセ:「だろうな」

 レイセ:「奴は一週間と言っていたが、それ以上かかりそうか?」


 ジャド:「持久力はもっと持つでしょう」

 ジャド:「長引かせる気があるなら」


 レイセ:「わかった」

 レイセ:「更に一週間伸びる用意をしておく」

 レイセ:「でも、奴は一週間と言った」

 レイセ:「考えがあるのかもな」


 ジャド:「アルコルさんの理性を信用しても良いのでしょうか?」


 レイセ:「お前は信用しろよ」

 レイセ:「お前の大将だろ」


 ジャド:「魔物に対する殺気が凄くて……」


 レイセ:「まだ余裕が有るからだな」

 レイセ:「何階層にいる?」


 ジャド:「百階層で粘っています」


 レイセ:「なら、余裕が無くなる筈だ」

 レイセ:「ソロで簡単に倒せる強さの階層主じゃない」

 レイセ:「俺も行けば良かったぞ」

 レイセ:「アルコルの本気を確認したかった」


 ジャド:「僕が確認します」


 レイセ:「敵チームのまとめ役が確認してもなー」


 ジャド:「まだそんな認識でしたか?」


 レイセ:「お前はどうなんだよ?」


 ジャド:「どうでしょうね?」


 レイセ:「アルコルの殺気が無くなったら、奴は本気だ」

 レイセ:「無心になったら本番だ」

 レイセ:「見極めろ」


 ジャド:「了解」


 レイセ:「アルコルの間合いには入るなよ?」


 ジャド:「当り前です」


 レイセ:「なら良し」

 レイセ:「切るぞ」


 通信が切れました。




 レイセさんと話してから、三日経ちました。


 今で丸五日。


 魔物は湧き続けています。


 階層主はゴブリンアーチャー。


 体格は普通のゴブリンより二回り大きい。


 アーチャーの放つ矢の威力はそこそこですが、速度が際立って速い。


 打った次の瞬間到達する速さ。


 カイン程の威力は無いです。


『光の旋律』、レイさんの矢に似ています。


 二人は距離を保ったまま、打ち合っています。


 アーチャーは取り巻きをアルコルさんにけしかけ、隙を作ろうと必死です。


 アルコルさんは雑魚を片付けながら、斬撃をアーチャーに向かって放ちます。


 アーチャーは旨く躱しています。


 そんなやりとりが三日続いています。


 アルコルさんの動きに変化が始まりました。


 無数の敵を殺しながら、アーチャーの矢を狙っています。


 殺意は薄れてきています。


 ロミール:「ここからが、本番、でしょうか?」


 ジャド:「みたいですね」


 斬撃がアーチャーの矢に当たり始めました。


 飛ぶ斬撃が、アーチャーの矢を遮ります。


 アルコルさんの動きは衰えないです。


 反対に、アーチャーに焦りが見えます。


 アーチャーは打つペースを早めます。


 相殺が始まって、最初は中間距離でぶつかり合っていました。


 ぶつかる位置がどんどんアーチャーに向かって移動していきます。


 ジャド:「これは……」


 ロミール:「勝負が決着しそうですね」


 アルコル:「聞こえるか?!」

 アルコル:「よく見ておけ!!」


 アルコル:「『空白作成』(ゼロ・カウンター)」


 アーチャーの矢が放たれた瞬間に、矢に斬撃が当たり出しました。


 アーチャーが矢を撃つ動作の全てがことごとく相殺されます。


 アルコル:「それが限界か?」

 アルコル:「留めだ」

 アルコル:「『滅殺』(カウント・キリング)」


 相殺と相殺の合間に、無数の斬撃が繰り出されました。


 躱す動作も、打つ動作も出来ない、動けない空白期間に、叩きこめるだけの連撃。


 アーチャーはバラバラに切断されました。


 全ての敵が引いて行きます。


 アルコル:「帰るぞ」


 アルコルさんは、僕らの近くに瞬間移動してきました。


 ジャド:「了解」


 ロミール:「了解です」


 強い。


 最後の攻撃でどれだけ叩き込んだんだ?


 目で追えなかった。


 僕らの大将は強い。


 クインが喜んでいるのが、視界の端に見える。


 そうか、喜んでるか。


 そうだね。


 僕も嬉しい。


 レイセさんは、アルコルさんと一対一で勝負する筈だ。


 いずれはそうなる。


 魔物の王を倒した後だ。


 そうなった場合、勝てる気でいるのか?


 このアルコルさんに?


 勝ち筋は見えているのか?


 僕も気合を入れて追いつかないとね。


 ロミール:「最後にどれだけ攻撃したんですか?」


 アルコル:「知るか」

 アルコル:「沢山だ」


 ジャド:「冗談のつもりですか?」


 アルコル:「そんな訳あるか」

 アルコル:「無心でやった」

 アルコル:「数えている訳無いだろ」


 無心で、か。


 レイセさんも言っていたな。


 無心。


 感覚が同じ地点にある為か?


 聞いてみるか。


 ジャド:「レイセさんは、アルコルさんの殺気が消えて、無心になったら本番と言っていましたよ?」


 アルコル:「生意気な奴だ」


 ロミール:「無心、ですか?」

 ロミール:「なにか意味が?」


 アルコル:「まー、集中しているか? って話だ」


 ジャド:「集中できたんですね?」


 アルコル:「ああ、そうだな」

 アルコル:「最近は自分に成長が感じられなくて焦っていたかもな」


 ジャド;「今は?」


 アルコル:「さっきのは見ただろ?」

 アルコル:「一段階上に上がった」

 アルコル:「精神ではあいつの方が上なのかもな」


 ジャド:「認める発言」

 ジャド:「珍しい」


 アルコル:「うるさい」

 アルコル:「俺は今余裕がある」

 アルコル:「そういう時もある」

 アルコル:「無心か」

 アルコル:「なるほどな」


 気付いてなかったのか。


 面白い人だ。



 ジャド:「この後どうします?」


 アルコル:「帰って寝る」


 ジャド:「飲みに行きませんか?」


 アルコル:「攻略まで、あと何日ある?」


 ジャド:「あと二日」

 ジャド:「数えてなかったんですか?」


 アルコル:「うるさい」


 ジャド:「僕らに気を遣ってさっさと片付けたと思いましたよ」


 アルコル:「知るか」

 アルコル:「俺は機嫌が良い」

 アルコル:「奢ってやる」


 仕方ない、奢られてやるか。



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