第32話 劣化版
キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。
『リーベラティーオー』の纏め役。
プロンシキの元英雄。
死兵使い。
ジャド:『マギ』のメンバー。
『リーベラティーオー』の纏め役を引き継ぐ、予定。
真理への到達者。
アルコル:『復讐者』。
『救世主』とも呼ばれている。
黒巣壱白の分裂した姿。
『能力』が使える。
ネロ:『ディープフォレスト』のリーダー。
氷上国家カハの国王。
故人。
キシが死兵として使っている。
ローク:『トパーズ』のリーダー。
フレイズ:『マギ』のリーダー。
サリーン:『トパーズ』のメンバー。
ケイト:『トパーズ』のメンバー。
ロメイン:『マギ』のメンバー。
(キシ視点です。)
ふう。
疲れた。
百階層前の広場に到着。
アルコルがいる。
会話は無い。
一瞥くれた後は目を閉じて壁にもたれ掛かっている。
最近のアルコルはチームメンバーと打ち解けている。
僕が来たら何かコメントするかと思った。
ダンジョン攻略にチームメンバーとの交流は不可欠だ。
融合者が必要なダンジョンがあるからね。
が、人との交流の所為でアルコルの復讐心が丸くなるのは困る。
僕は、アルコルを信用できなくなっている。
運命に対する反逆の心だけの存在では無かったのか?
分裂しても捨てるべき感情を捨てきれていない。
この男はまだ甘い。
やはり、僕は、僕の取れる手段全てを試す必要がある。
この攻略で確信した。
一緒に攻略を行って正解だった。
すでに収穫はあったが、攻略の方はどうか?
攻略出来そうか?
わからない。
前例が無い。
これから百階層で起こる困難に対して、対価は釣り合っているのか?
今の所はリスクの方が勝っている。
攻略後の褒美に期待しよう。
ま、攻略出来ないかもだけど。
百階層、か。
こういう時、推理が得意な仲間がいると便利だな。
アルコルに聞いてみよう。
キシ:「百階層の予想は?」
アルコル:「…………」
アルコル:「今まで戦った中で一番強い敵が、『能力』を持って出て来る」
キシ:「……」
キシ:「同等のやつって事!?」
キシ:「そのものが出たら倒せないよ!?」
アルコル:「劣化版だろう」
ふー。
焦った。
なるほど。
納得感がある。
全ては試練の為の練習だ。
なら、出て来る敵は試練に合わせたものになる。
百階層の敵は、劣化版の魔物の王だ。
納得した。
二時間経った。
仲間が全員揃って、しばらく経つ。
全員無言で座り込んでいる。
どうせしばらく休憩だ。
と、思って誰も意見を言わない。
良い雰囲気ではない。
百階層の話を誰もしない。
サリーンと、ロメインと、ケイトの三人は、この広場に辿り着いて直に気を失った。
三人は意識を取り戻したが、次に向かう気力が残っていない。
ベリー、ジュリット、アイアリは空気を読んで、そこにいるだけだ。
士気を上げる必要が有りそうだ。
策はあるけど、気が進まない。
僕は思ってる事と逆の事しか出来ないのか?
はーあ。
キシ:「丸一日位休憩にする?」
キシ:「どう思う?」
アルコル:「俺に言ってるのか?」
アルコル:「ああ、それで良い」
アルコル:「一日休憩だ」
キシ:「このダンジョンを攻略したら、なにかしてくれるんだよね?」
アルコル:「ああ、言ったな」
アルコル:「なんらかの形で労ってやる」
キシ:「例えば?」
アルコル:「…………」
アルコル:「チッ、考えるのが面倒だ」
アルコル:「お前が考えろ」
キシ:「なんでも良いって事でしょ」
キシ:「みんな、なんでも一つ言う事を聞いてくれるって!」
アルコル:「考えるのが面倒だ」
アルコル:「それでもいいが……」
ロメイン:「ヤル気出させようという意図が丸見えね」
ケイト:「何して貰おうかな?」
サリーン:「もう一回料理でも良いかも」
アルコル:「何か、罰ゲームみたいになっていないか?」
アルコル:「キシ、お前も協力しろ」
キシ:「知らないよ」
アルコルは舌打ちした。
チームメンバーには、元気出せって言う僕の思惑が伝わったみたいだ。
笑顔が戻っている。
アルコルもあまり嫌がっていない。
丸く成られちゃ困るんだが、今を乗り切るにはこれしかないんだよねー。
丸くなったのは僕かもね。
その後、僕は出来立ての野菜スープと出来立てのパンを出して、みんなに振る舞った。
今日の為に町で作らせた物を振る舞った。
評判が良い。
準備しといて良かった。
食事の後は、お酒を飲んで、寝た。
時間が来た。
そろそろ丸一日だ。
全員で扉を通る。
両開きの扉を外に開く。
また、雲の上だ。
ステージの広さはわからない。
端が見えない。
無いかもしれない。
全員が扉を通ると、扉が消えた。
雲の上の空間に取り残された。
アルコル:「全員下がれ!!」
全員が大きくバックステップ。
僕らがいた場所の足元に白い塊が出現していた。
白い塊はグニュグニュと蠢き、人型になる。
魔物の王:『ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ』
その声に恐怖を感じる。
理屈じゃない。
全員がそうだろう。
ケイト:「は!?」
ロメイン:「な!?」
サリーン:「うそ!?」
丸一日の休憩時間に、百階層は魔物の王が出るって教えといたよ?
でも、百聞は一見に如かず、だわ。
凄まじいプレッシャーだ。
前回会った事があるから解かっていたけど。
魔物の王:『またお前らか』
魔物の王:『少しは成長したか?』
キシ:「記憶を引き継いでいるのか?」
魔物の王:『全ては一つに束なっている』
魔物の王:『今回は力を制限しての顕現だ』
魔物の王:『手加減は無い』
アルコル:「会話が面倒だな」
アルコル:「さっさと済ませたい」
魔物の王:『ハ、ハ、ハ、ハ、ハ』
魔物の王:『威勢だけではどうにもならんぞ?』
アルコルが斬撃を三つ放つ。
アルコルは同時にスライドで高速移動。
魔物の王に接近する。
魔物の王は右手にカタナを創り出した。
魔物の王はカタナを振るう。
カタナからは斬撃が放たれた。
アルコルが放った三つの斬撃を、魔物の王が放った三つの斬撃が打ち消す。
その間にアルコルは魔物の王と三メートルまで近づいた。
僕達は接近するアルコルのフォローに回る。
僕はアルコルの接近戦に寄りそう。
ロメイン、ケイト、サリーンは弓で遠距離攻撃に徹する。
ベリー、ジュリット、アイアリは一旦消える。
アルコルはたぶんこの後瞬間移動を使う。
アルコルが瞬間移動で出た場所と逆側に僕は飛ぶ。
僕は瞬間移動を連続で使い、魔物の王と三メートルまで距離を詰める。
ロメイン、ケイト、サリーンは魔物の王を中心に円の軌道を取る。
三人はアルコルが瞬間移動するのを待っている。
アルコルは魔物の王の真後ろに出た。
僕は魔物の王の正面に出る。
二人が同時に剣とカタナを振り下ろした。
瞬間、魔物の王が消える。
ロメイン、ケイト、サリーンの矢が魔物の王のいた場所を通過する。
魔物の王はアルコルの更に後ろに瞬間移動した。
魔物の王は右手のカタナを振り下ろす。
アルコルは解っていたかのように振り返って、魔物の王が振る下ろした腕を左手で受け止めた。
アルコルは右手のカタナで魔物の王を攻撃。
アルコルが魔物の王の右腕を掴んだタイミングで、魔物の王の左腕がアルコルの右腕を掴んでいた。
二人は同時に左手を離し、掴まれていた右手を切断する。
二人が切断した右腕が灰になる。
二人の右腕は『能力』超回復でみるみる再生される。
僕は二人が右腕を切断したタイミングで、魔物の王の後ろに瞬間移動した。
アルコルは右腕でカタナを拾い、そのまま切り上げた。
僕は槍で突きを入れる。
魔物の王は左を向き、右手の双剣でアルコルのカタナを弾き、左手の双剣で僕の槍を弾いた。
魔物の王は攻撃を弾いた後、腕を長く伸ばして攻撃してきた。
双剣の突きだ。
アルコルは後ろにスライドして躱し、僕は盾を出して防ぎながら後退した。
攻撃が重い。
アルコルはこの攻撃力の腕を掴んで止めたのか?
流石の怪力だ。
ロメイン、ケイト、サリーンの矢が、魔物の王に向かって飛ぶ。
魔物の王は上、左、右に矢を払っている。
魔物の王が右に矢を払ったタイミングで、アルコルは魔物の王の左側に瞬間移動。
接近した状態で斬撃を放つ。
魔物の王は左の双剣で斬撃をかき消す。
そして、左の双剣をアルコルに向かって投げた。
僕は魔物の王の右側に瞬間移動。
アルコルはカタナを両手で持ち、飛んで来た双剣を下から上に弾いた。
魔物の王が左の双剣を投げたタイミングで長柄の斧を振り下ろす。
魔物の王は右手に持っていた双剣を手放し、素手で斧を掴んだ。
ヤバい。
僕は斧を手放した。
長柄の斧が灰になる。
アルコルは両手に持ったカタナでアルコルに向かって斬撃を放つ。
僕は大剣を創り出し、魔物の王の右腕に振り下ろした。
魔物の王は左手の短剣で斬撃をかき消し、右手のナイフで大剣を受け止めた。
ロメイン、ケイト、サリーンの矢が魔物の王の頭に突き刺さる。
魔物の王:『ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ』
効いていない。
本当は避ける必要が無いのかも。
魔物の王の影が持ち上がり、影から一体の黒い鬼が出てきた。
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