17話 喪失の先に

黒巣壱白:黒羽学園高等部一年生。

     自分自身の記憶がこの約一週間しか無い。

     四章主人公。

     全ての武道に精通している。

     達人クラス。

     『能力』が有る。

     記憶が無くなる前は『アルタイル』記憶が無くなった後は『シリウス』と呼ばれる。

     『能力』トゥエルブ・サテライト(精鋭六人の鋭い視線)、

     ランプ(煌々と輝く命の灯、

     スライド(前動作の完全消去)、

     グレイ・フレイム(灰色の終焉)

姫黄青子:黒羽学園高等部一年生。

     類い稀な美人。

     『能力』を持っていない、らしい。

     壱白のビルに匿われている。

     『能力』部隊の隊員。

     管理者。

     終焉が見えない。

黒戸和馬:壱白の執事にして、後見人。

     管理者の中のバランサー・司会進行役。

紫幻唯康:ヤスさんと呼ばれている。

     大学生位の年齢。

     『能力』部隊の隊員。

     『能力』カット(結合との離別)

紫幻忠時:トキさんと呼ばれている。

     『能力』部隊の隊員。

     ヤスの一つ下の弟。

     『能力』ハイ・リフレクション(極大反射)

樹百枝(いつき ももえ):年齢不詳。

             姉役。

             テレパス。

             銀色の理知的な眼鏡を掛けている。

             長い茶色の髪。

             落ち着いた雰囲気がある。

池水雫(いけみず しずく):十五歳。

             サイコメトリスト。

             黒のセミロング。

アイナ=ロニック:事務処理全般担当。

         ボーイッシュなショートカット。

         身のこなしは達人クラス。

         髪は金髪。

長月瑠璃(ながつき るり):トランジスタグラマー。

              顔が小さい。

              童顔。

              『能力』ストレングス(超人の体現)と、

              ヒール(即時自己回復)




 時刻は夕方だ。



 雑魚に基地の位置がバレたらしい。


 ついにこの時が来た。


 俺、瑠璃、ヤスさん、トキさんは外に出た。


 腕の怪物が四体、建物の側面を腕で殴りつけていた。


 速やかに処理する。


 急がないといけない。


 本命が来てしまう。



 五分で片付けた。


『来たわ』

『反応は四つ』


『位置は?』


『もう見えるわ』


『ああ、確認した』


『青子に落ち着く様言ってくれ』


『どうなの?』


『全員に終焉が見える』


『ふー、そ、そうよね』


『まだ、どうなるか解らない』

『気をしっかり持っておけよ』


 敵の怪物の見た目は、腕の奴と似ている。


 取り立てた違いは見られない。



 車イスの少年が中央に位置している。


 取り囲むように怪物が三体。



 瑠璃、ヤスさん、トキさんが怪物三体を引き受けた。


 俺は車イスの少年と話がある。


「もう、止めないか?」


「はは、命乞いにはまだ早いよ」


「あくまでも勝負を付けると?」


「そりゃそうさ、憎しみの感情が抑えられないよ」


「青子が何かしたのか?」


「君に話しても仕方ないさ」



『瑠璃とヤス、トキの戦闘が始まったわ』

『瑠璃の『能力』、ヤスの『能力』、トキの『能力』それぞれに対応した『能力』を出して来た』

『みんなを上回った『能力』を出して来たわ』


『そうか、予想通りだな』


『…………』


 全員の視覚が共有されている。



 瑠璃は怪物に殴りかかる。


 チタン合金の棍棒で、全力で殴る。


 だが、ビクともしない。


 怪物が瑠璃を殴る。


 瑠璃は両腕でガードした。


 クロスにガードした両腕が、砕ける。


 普通なら使い物にならない。


 瑠璃は『能力』で回復した。


 一方的に殴られ続ける。


 回復が追い付かなくなるのは、時間の問題だ。




 ヤスさんは怪物と剣術勝負をしている。


 剣術の腕はヤスさんが上だ。


 しかし、切断する力で負けていた。


 始めに鍔迫り合いした時に、ヤスさんは気付いた。


 自分の刀が切られていると。


 その後は刀の先を犠牲にして、敵の剣撃をズラして凌いでいる。


 時間稼ぎは長く持たない。




 トキさんは特殊な大口径のハンドガンで怪物を狙撃した。


 怪物はトキさんと同じように反射した。


 怪物は指先から何かを射出した。


 銃に比べると威力が無い。


 射出した何かは、数十回反射して威力を増し、トキさんを狙った。


 トキさんは反射板で軌道をズラそうとした。


 軌道は変わった。


 反射板は粉々に砕けた。


 もう、トキさんは攻撃出来ない。


 打った弾が反射して帰って来た場合、耐えられる保証が無くなった。


 遮蔽物になるものまで、必死で走っている。




 少年の最初の『能力』は怪物を作る事だったようだ。


 仲間がいない少年は怪物を作った。



 『能力』を発現していない管理者は『能力』を自由に選んで発現できるのでは?


 管理者の『能力』の発現には、回数制限があるのでは?




 少年は、一度発現させた『能力』を何度も使い、データを取っていた。


 俺達はそれに気付ていた。


 なるべく、反撃を許さず、一撃で仕留めて時間を稼いだ。


 『能力』を選んで出せるのなら、相手に合わせた『能力』を出す方が強い。


 切り札は残しておくに限る。



 戦闘経験が無い少年は気が付いていない。


 封印が弱まって、しびれを切らして『能力』を使ってきやがった。



 ここまでは予想通り。


 と、言うか、他に手が無かった。


 奴の住処を割り出せなかったのが痛い。




 俺はハンドガンで少年を撃った。


 少年は銃弾を反射し、俺に突進してきた。


 サバイバルナイフで攻撃してきた。


 俺は持っていたハンドガンで軌道をズラした。


 ハンドガンは真っ二つに成っている。


 突進には俺の『能力』スライド、切断はヤスさんの『能力』、反射はトキさん。


 この分だと、瑠璃の『能力』も使えるのだろう。


「それが、学習の成果か?」


「今頃解ったのかい?」

「もう遅いけどね」

「僕には、君の終わりが見えてる」


「俺にも、お前の終わりが見えている」


「嘘だ!」


「本当だ」

「試すか?」


 少年の腕が俺の腕を掴んだ。


『『シリウス』!』

『やめて!』


 青子の声は聞こえない。


『俺がやる』

『青子を頼む』


 数秒後、俺は灰になった。



 やはり、神と『能力』の出力勝負をすると、負ける。


 神は長命だ、焼き尽くすのに時間が掛りすぎた。



 これも予想していた。



 和馬に頼んで、魂を、目を残してもらった。


 数時間は様子を見られる。


 行く末を見届けたい。



 百枝さんを通して、青子が俺の死を理解した。



 あああああああああああ



 青子の苦悩の声が響く。



 青子は白く発光した。


 やはり、仲間の死で覚醒する。



 眩い光が辺りを照らす。



 青子は百枝さんの肩に触れた。


 百枝さんを通して、シズクに意思が届く。


 シズクからサイコメトリー『能力』を吸い上げる。


 シズクは気絶した。



 百枝さんを通して、瑠璃、ヤスさん、トキさんと繋がる。


 サイコメトリーでそれぞれの技術を吸い上げた。



 テレパスで三人を完全に支配する。


「私がやるわ」


 ヤスさんの腕は回復した。


 両腕で剣を構え、一閃。


 飛翔する剣撃は、怪物を両断した。



 トキさんの足も回復した。


 義足が外れ、左足がみるみる生えて行く。


 トキさんは引き金を引いた。


 数十枚の反射を経て、漏斗状になった反射板に吸い込まれ、銃弾は放たれる。


 怪物が防御に出した板全てを貫いて、怪物は絶命した。



 瑠璃は、両腕を構えた。


 ジャブ、ジャブ、ストレート。


 全ての拳が目にも留まらぬスピードで放たれ、的確に頭を捉える。


 三発目のストレートで、怪物の頭が弾け飛んだ。


 瑠璃は、ジャックされたまま、自分のアドレナリンを感じていた。


 味覚と嗅覚も戻っている。



 百枝さんが気絶した。


 『能力』を吸い上げられたのだろう。



 瑠璃、ヤスさん、トキさんも気絶した。



 青子は窓にダッシュし、三階から飛び降りた。



 アイナは茫然と見ていた。




 青子は数度の跳躍で車イスの少年の前に辿り着いた。


 少年は残った力を全て使い、足を回復させた。


 青子は泣いていた。


 青子の手には日本刀が出現していた。


 連撃を放つ。


 全ての斬撃は反射し、少年を狙う。


 少年は反射板を出して防ごうとするが、強度が足らない。


 全ての斬撃が少年に命中する。


 少年はバラバラになった。


 そして、一瞬淡く光ったと同時に、少年は灰になった。



 青子は、俺が灰になった場所にいた。


 灰になった俺を掬いあげようとする。


「ううう、あっああ………」


 すまん。


 青子。


 お前は生きてくれ。



「貴方が居ない世界で生きて行けっていうの?」

「ごめんね」

「私の所為だ」

「貴方が生きて」


 ちょっと待て。


 待て!


 おい!!


 青子の体は光になる。


 光の端が、俺に置き換わっていく。


 彼女が消えようとしている。


 俺の意識は途絶えた。










 気が付くと、俺は倒れていた。




 彼女の、青子の姿は何処にもなかった。




 ああああああああああ!!




 ふざけやがって!


 どうなっているんだ?!


 どうすれば良かった!?


 誰の所為だ?


 ああ、青子。




 俺は、俺は、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



 俺は、手に持った日本刀を振り下ろした。


 空間が裂ける。


 左手を裂け目に差し込む。


 男の首を掴んだ。


 灰にする。


 まず一人。


 人間に『能力』を与えるとかいう、ふざけた奴は今消した。


 俺の心理に、これ以上はダメだ。


 と言う声が聞こえる。


 うるさい。


 うるさい。


 うるさい!!


 俺は、俺は、俺を妨げる感情を切り離した。


 俺は分裂した。


 肌の色が褐色に変色した俺は、空間に亀裂を作りそこに入り込んだ。


 一つだった頃に最後に考えていたのは、管理者を全て殺す、だった。

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