16話 傷

黒巣壱白:黒羽学園高等部一年生。

     自分自身の記憶がこの約一週間しか無い。

     四章主人公。

     全ての武道に精通している。

     達人クラス。

     『能力』が有る。

     記憶が無くなる前は『アルタイル』記憶が無くなった後は『シリウス』と呼ばれる。

     『能力』トゥエルブ・サテライト(精鋭六人の鋭い視線)、

     ランプ(煌々と輝く命の灯)、

     スライド(前動作の完全消去)、

     グレイ・フレイム(灰色の終焉)

姫黄青子:黒羽学園高等部一年生。

     類い稀な美人。

     『能力』を持っていない、らしい。

     壱白のビルに匿われている。

     『能力』部隊の隊員。

     管理者。

     終焉が見えない。

黒戸和馬:壱白の執事にして、後見人。

     管理者の中のバランサー・司会進行役。

紫幻唯康:ヤスさんと呼ばれている。

     大学生位の年齢。『能力』部隊の隊員。

     『能力』カット(結合との離別)

紫幻忠時:トキさんと呼ばれている。

     『能力』部隊の隊員。

     ヤスの1つ下の弟。

     『能力』ハイ・リフレクション(極大反射)

樹百枝(いつき ももえ):年齢不詳。

            姉役。

            テレパス。

            銀色の理知的な眼鏡を掛けている。

            長い茶色の髪。

            落ち着いた雰囲気がある。

池水雫(いけみず しずく):十五歳。

             サイコメトリスト。

             黒のセミロング。

アイナ=ロニック:事務処理全般担当。

         ボーイッシュなショートカット。

         身のこなしは達人クラス。

         髪は金髪。

長月瑠璃(ながつき るり):トランジスタグラマー。

              顔が小さい。

              童顔。

              『能力』ストレングス(超人の体現)と、

              ヒール(即時自己回復)




 

 俺は和馬に質問が有る。


 夜に和馬を訪ねた。


「こんな夜更けにどうされました?」


 そう言いながら、淹れ立てのお茶が出て来る。


 舐めやがって。


 ふう。


 落ち着け。


 大事な質問だ。


「俺の『能力』について、俺は理解し切れていない」

「解説を頼めるか?」


「内容によります」

「貴方がランプと名付けた方ですか?」

「グレイ・フレイムですか?」


「『能力』は複合している」

「両方に関係する」

「解っているだろ?」


「質問の意図が見えました」


「答えは?」


「答えられません」

「ほぼ、勝負の答えと同じ事だからです」


「ほぼ?」

「例外が有るのか?」


「世界は数ある可能性の中から一本のストーリーを選び出します」


「何の話だ?」


「管理者はストーリーの選定を行う者達です」

「過去、現在、未来は、ストーリーの変化により、無限に広がり続けます」


「つまり?」


「過去に合わせて未来が変化し、未来に合わせて過去が変化します」


「なんだと!?」


「改変は常に起こり得ます」


「…………」


「貴方は青子さんに終焉が見えないと言っていた」

「ですが、それは今の時点で可能性が高い方が反映されているに過ぎません」

「貴方の質問は、おそらく貴方方の敵に終焉は有るのか?」

「という内容でしょう」

「私が答えられるのは、見れば解る」

「と、言う事だけです」


「…………」


 落ち着け。


 プラスに考えろ。


 絶望しないで済みそうだ。


 青子が死なない事がほぼ確定している。


 …………。



 漠然とした不安は募る一方だが、信じる他ない。



 こういう時は、相談だ。


 仲間に意見を聞いておこう。


 出来る事は限られている。


 全てやり切って、勝負とやらに挑む。


「一つ、頼みたい事がある」

「引き受けてくれるか?」


「公正さに関わらないのなら、考えますよ」


「実は…………」


「…………」

「みなさんは貴方に生きていて欲しいと願っています」


「只の保険だ」


「勘違いしておられるようですが、引き受けました」


「和馬」

「ありがとう」

「やる事が決まった」

「お休み」


「ええ」

「おやすみなさい」



 寝ようかと思ったが、今日済ませておく方が良い。


『百枝さん、起きているか?』


『……』

『ごめん』

『聞いてたわ』


『そうか』

『なら話が早いな』

『瑠璃は起きているか?』


『のぞきは私だけか』


『『能力』をオフに出来ないんだろ?』

『仕方ないさ』


『瑠璃は起きてるわ』


『今からそっちに行く』

『意見を聞きたい』


『解った』

『寝間着で良い?』


『そっちがそれで良いなら』

『十分後に行く』


『了解』



 十分後。



 エレベーターを使い、七階に向かう。


 エレベーターを出た所に、スリッパが用意してある。


 スリッパを履いてリビングに向かう。


「夜中にすまんな」


「大事な話なんでしょ?」


「まあな」


「百枝さんも聞いといてくれ」

「青子にはまだ伝えられない」

「じゃあ、俺の予想を話す」



「…………」


「…………」


「どう思う?」


「『アルタイル』は予想してたと思う?」


「確信は無かった筈だ」

「グレイ・フレイムが無かったからな」


「最悪を想定し過ぎると、そっちに引っ張られるわ」

「わかってる?」


「ああ、予想が当たらない様に最善を尽くそう」


「そうね」

「もし勝負に勝てても、青子が壊れてしまう」


「…………」

「青子に終焉が見えていないので安心していたが、ショックを受けるかもな」


「あたりまえよ!」

「『アルタイル』は引き継がれてるわね」


「…………」

「悪かった」

「気遣いが無かった」


「貴方に謝られてもね」

「…………」


「百枝さん、どうした?」

「泣いてるのか?」


「…………」

「私は、前線に出ないから…………」

「その、貴方達の迷いの無い感情は、…………」

「ちょっとキツイ」


「ふふ、ビビった?」


「ええ、恐れ入りました」


「ヤスとトキもたぶん動じないわよ」


「そうね」

「泣かない様にしないと」


「…………」

「『能力』を引き出す為と言って、青子の精神面を鍛えて行く」

「良いな?」


「了解」


「了解」


「百枝さん、テレパシーで青子以外に説明を頼む」


「了解」


「いよいよとなったら、俺から青子に話をする」

「それで良いな?」


「ええ」

「そうね」

「話しておくべきね」


「私もそれが良いと思う」

「いきなりだと、壊れてしまうし、間に合うかも知れないし」


「ああ」

「だな」

「じゃあ、寝る」

「二人とも、お休み」


「「おやすみなさい」」




 青子と二人で学校に行き、学校から基地に向かい、夜家に帰ってゲームして寝る。


 そんな毎日が続いた。



 青子は武道で精神鍛錬。


 俺は書類仕事もやった。



 敵は相変わらず出現していた。


 青子が目的なので、他に被害は出ていない。



 目撃情報は増えていた。


 情報は、周り回って俺に届く。


 管理者関係の情報は伏せ、未知の生物の撃破報告だけを上層部に挙げていた。


 週に一回位、敵を一気に片付け、日常を送る。



 安定した毎日だった。


 敵が本格的に仕掛けてこない。


 俺の予想は当たっているんだろう。



 中間テストが終わり、期末テストも終わった。


 夏休みが来る。



 思い出作りをしても許されるのだろうか?


 夏の日差しを受け、青子とかき氷を食べる。


 仲間と一緒に、花火を見る。


 きっと楽しいだろう。


 彼女の傷に成らないだろうか?


 俺を、俺達を、許してくれるだろうか?




 俺達は、夏を沖縄で過ごした。


 チーム全員で沖縄旅行だ。


 和馬も付いてきた。


 誰もが理想とする、夏休みだった。


 もちろん、海にも行った。


 女性陣の水着は眩しかった。


 かき氷を食べ、花火を見た。


 青子の屈託の無い笑顔を忘れる事は無い。



 俺は、この笑顔と共に有りたい。


 ずっとだ。




 季節は夏から、秋を通り過ぎ、冬に向かおうとしていた。



 寒くなって来たある日、俺は青子に話が有った。


 俺は俺の予想を青子に伝えた。


 青子は泣いていた。



 十二月。


 雪が降っていた。


 基地には全員が揃っていた。



 大きな物音と共に、振動が有った。


 非常警報が鳴り、職員が避難していく。



 青子は間に合わなかった。


 俺は落ち着いていた。

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