16話 魔銃



 レイセ:黒戸零維世。

     レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

     連合国クロトと聖国クリアの王。

 ルプリレ:プロミとリビアと女性の元管理者が融合した存在。

 リビア:リビア・クロト。

     聖国クリアの元代表。

     レイセと結婚している。

 プロミ:プロミネンス。

     ルビー・アグノス。

     黒崎鏡華。

     月と太陽の国アウグストラの女王。

     現人神。

     レイセと結婚している。

 ジャド:『マギ』のエース。

     キシに次期纏め役に推されている。

     三番目の真理への到達者。

 アルコル:黒巣壱白の分裂した姿。

      『能力』が使える。

      『リーベラティーオー』のリーダー。

 フレイズ:『マギ』のリーダー。

 ロミール:『創聖』のリーダー。






(レイセ視点です。)


 チッ。


 アルコルが舌打ちした。


 三百五十九階層と三百六十階層の間の祠で合流した時から、不機嫌だった。


 三百六十階層に入った途端、舌打ち。


 三百五十九階層までは順調に来られた。


 アルコルも口ではそれを認めていた。


 この階層から、『マギ』と『創聖』、二チーム合同での攻略になる。


 ここからが本番だ。


 問題なく来られていた、つもりだが。


 不機嫌なアルコルに話かけるのは俺でも躊躇う。


 聞くしかないんだが。


 レイセ:「アルコル、どうした?」


 アルコル:「気付いて無いのか?」

 アルコル:「油断が過ぎるぞ」


 ルプリレ:「魔物の気配が無いですね」

 ルプリレ:「そこに違和感がするのね?」


 アルコル:「そう言う事だ」


 レイセ:「確かに魔物の気配を感じないが」

 レイセ:「気配を探れないって結論に行きついたのか?」


 アルコル:「チッ」

 アルコル:「そうだ」


 ジャド:「アルコルさん、落ち着いてください」


 アルコルは深呼吸した。


 落ち着いたらしい。


 アルコル:「『マギ』の魔銃の照準は、気配読みに頼っている」

 アルコル:「この階層から照準できなくなる可能性がある」


 レイセ:「気配読み出来ないって根拠は?」


 アルコル:「今サテライトを一組飛ばして確認している」

 アルコル:「この祠を出たら、外は岩山に入り口が見える」

 アルコル:「中まで見ていないが、中の構造によっては最悪挟撃される」

 アルコル:「気配が読めていたら挟撃出来ないだろ?」


 レイセ:「…………」

 レイセ:「ここはあくまでも訓練施設か」

 レイセ:「ありそうな話かもな」


 アルコル:「だからそう言っている」


 レイセ:「で?」

 レイセ:「魔物は見つかったか?」


 アルコル:「ああ」

 アルコル:「入口にコボルトが数体」

 アルコル:「頭が犬の亜人だ」

 アルコル:「嗅覚が鋭い筈だ」

 アルコル:「こちらの位置がバレてそうだ」


 ジャド:「対策を考え付きましたか?」


 アルコル:「俺が行って殲滅するのが手っ取り早い」


 レイセ:「訓練にならないぞ」


 アルコル:「回りくどい説明になる」


 ジャド:「話してみてください」


 ルプリレ:「そうね」

 ルプリレ:「聞きます」


 俺達四人だけじゃない。


『マギ』と『創聖』のメンバー全員が注目している。


 アルコルが長く話すのは珍しい。


 アルコル:「『マギ』は戦闘を、魔銃を使って行う」

 アルコル:「今はそれが主軸になっている」

 アルコル:「だが使い方がなっていない」

 アルコル:「照準を気配読みに頼っているからな」

 アルコル:「俺のやり方と違う」

 アルコル:「今までは黙認してきた」

 アルコル:「俺からお前らへのイメージの流し込みでは修得出来そうに無いからだ」

 アルコル:「お前らは強い」

 アルコル:「青子は『能力』で任意の相手の精神をジャック出来た」

 アルコル:「青子だけの『能力』だ」

 アルコル:「青子はジャックする時、同時に相手の肉体と精神を強化していた」

 アルコル:「だからジャックが可能だった」

 アルコル:「イメージの流し込みには本来その位の負荷がかかる」

 アルコル:「お前らは強いが、精神体だ」

 アルコル:「俺の感覚をそのまま流し込んだら、おそらく壊れる」

 アルコル:「打開する手っ取り早い方法は、レイセに中継させる事だ」

 アルコル:「俺が戦闘を行い、サイコメトリーを使ってレイセに情報を流し込む」

 アルコル:「レイセは皆に俺のイメージを流し込め」

 アルコル:「そのまま流すなよ、取捨選択をお前に任せてやる」


 レイセ:「俺は壊れないと?」


 アルコル:「根源に触れて平気な奴が壊れる訳ないだろ」


 ルプリレ:「確かに」


 レイセ:「ホントかよ」


 アルコル:「根源に触れ続けるなど、普通は無理だ」

 アルコル:「お前が平気なのは、何らかの取捨選択を無意識に行っている為だ」

 アルコル:「そうじゃないと説明が付かない」

 アルコル:「それが根拠だ」

 アルコル:「受け入れろ」


 ルプリレ:「納得したわ」


 レイセ:「お前が返事してどうする」


 ルプリレ:「良いじゃないですか、やってみてよ」


 ジャド:「断れないんだろうなー」


 レイセ:「わ、わかった、やってみる」


 ジャド:「やっぱりね」


 アルコル:「視覚の全部だけじゃない、五感全部だ」

 アルコル:「ちなみに、紫幻達は視覚の一つだけで吐いていた」


 レイセ:「それは引き受ける前に言ってくれよ」


 アルコルは仮面を外した。


 確かにもう必要無いか。


 遅すぎた位だ。


 アルコル:「できるだけ両目を使う」


 レイセ:「助かる」


 ルプリレ:「じゃあ、なるべく魔銃を使って下さい」


 アルコル:「そうだな」


 ジャド:「火魔法と風魔法は使えましたっけ?」


 アルコル:「キシからイメージを流し込まれた」

 アルコル:「使えるぞ」

 アルコル:「属性の複合は得意じゃ無い」

 アルコル:「魔銃の威力はお前らに劣るだろうな」


 アルコルは空間から魔銃を取り出して、弾丸のマガジンを体に装着した。


 アルコル:「行ってくる」

 アルコル:「次の階層までの祠に辿り着かなくても、三時間で一旦戻って来る」


 レイセ:「わかった」

 レイセ:「気をつけて」


 アルコルは、ああ、と返事して、スライドで移動していった。




 三時間後。


 アルコルが戻って来た。


 アルコル:「階層主がいた」

 アルコル:「片付けてきた」

 アルコル:「しばらく魔物は寄り付かないだろう」


 レイセ:「感想は?」


 アルコル:「俺のサテライトとスライドは銃器への相性が良い」

 アルコル:「イメージを流し込んでも、俺と同じようには行かないかもな」

 アルコル:「敵は問題なく倒せた」


 ルプリレ:「じゃー、レイセに情報を流してみて」


 レイセ:「お前さっきから俺にちょっと厳しめじゃない?」


 ルプリレ:「そう?」

 ルプリレ:「いつも通りですよ」


 そんな事無いだろ。


 ルプリレはジャドを見た。


 ジャドは目を逸らして、言った。


 ジャド:「いつも通りです」


 ジャド、俺はお前を責めない。


 アルコルは俺達を無視して、俺の肩に手を乗せた。



 情報はアルコルがここから移動し始めた時点からだ。


 アルコル自身を上空から見下ろす俯瞰。


 アルコルの両目で見た前方。


 今の所この二つが見えている。


 祠を出てしばらくすると大きな岩に入り口が一つ。


 入り口付近にコボルトが三体。


 スライドは高速だ。


 あっという間に入り口まで辿り着く。


 その間に敵を片付けるようだ。


 入り口を認識したと同時に、サテライトの視点が三つ増える。


 立体として見る気が無いらしい。


 単眼で三つ増えた。


 視点が使えるのは、十二までだ。


 今は七つ。


 増えた三つが先行して入り口から中に入る。


 入り口に入った視点が真っ暗になる。


 アルコルは、妨害と判断する、と口で言った。


 解説してくれるらしい。


 増やした三つの視点を切った。


 コボルトは入口の前に一体。


 入り口の左右に一体ずつ。


 魔銃の射程に来た。


 アルコルは左手で魔銃を使う。


 右手にはカタナを持ったままだ。


 アルコルは左のコボルトの足を狙う。


 魔銃についてあるサイトにコボルトが合わさる。


 視界にそれが見えた。


 引き金を引いた。


 二回。


 弾は速い。


 威力が無いなんてのは嘘だ。


 引き金を引いたとほぼ同時に、コボルトの左太ももに着弾。


 コボルトは構えていた弓を落とした。


 入り口の右側にいたコボルトが矢を放つ。


 アルコルは進行方向に対して左に直角に移動。


 矢を躱す。


 同時に魔銃を右側のコボルトに向ける。


 両目でしっかり狙って、コボルトの左足を狙う。


 二回引き金を引く。


 全ての動作に迷いが無い。


 全てノータイムだ。


 コボルト二体が蹲っている間に接近。


 真ん中のコボルトは双剣を構えて待っている。


 真ん中のコボルトを撃った。


 二回続けて。


 コボルトは剣で弾き返す。


 アルコルは止まらず接近。


 左、右とコボルトの頭に照準を合わせ、留目をさす。


 二発ずつ。


 真ん中のコボルトの間合いに入った。


 同時にアルコルのカタナの間合いだ。


 アルコルはそのままの勢いで、カタナを振り上げ、振り下ろした。


 コボルトは双剣を交差させ、防御態勢。


 防ごうとした双剣がバターの様に切り裂かれる。


 アルコルはカタナの間合いで静止。


 今度は右から左にカタナを振るった。


 コボルトの上半身と下半身が分かれる。


 アルコルは、コボルトの死体を避けて、岩山の入り口に突入した。



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