第30話 もう一つのダンジョン攻略4



 キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。

   『リーベラティーオー』の纏め役。

    プロンシキの元英雄。

    死兵使い。

 ジャド:『マギ』のメンバー。

     『リーベラティーオー』の纏め役を引き継ぐ、予定。

     真理への到達者。

 アルコル:『復讐者』。

     『救世主』とも呼ばれている。

     黒巣壱白の分裂した姿。

     『能力』が使える。

 ネロ:『ディープフォレスト』のリーダー。

    氷上国家カハの国王。

    故人。

    キシが死兵として使っている。

 ローク:『トパーズ』のリーダー。

 フレイズ:『マギ』のリーダー。

 サリーン:『トパーズ』のメンバー。

 ケイト:『トパーズ』のメンバー。

 ロメイン:『マギ』のメンバー。





(サリーン視点です。)


 転送装置に入る。


 出た先に、二人。


 ベリーとアルコルさん。


 座り込んでなにか食べてる。


 まー、匂いで解るけど。


 一応聞いてみる。


 サリーン:「到着」

 サリーン:「何食べてるの?」


 ベリー:「お疲れ」

 ベリー:「カレーを作ったわ」


 アルコル:「来たか」


 サリーン:「ベリーって料理出来たんだ」

 サリーン:「初めて知った」


 ベリー:「普段は外で済ませるんだけどね」

 ベリー:「キシの知識を共有してるから、やれば出来るのよ」


 サリーン:「え!?」

 サリーン:「キシさん料理するの?」


 ベリー:「しない」

 ベリー:「しないけど、レシピ見て作れる程度には出来るのよ」


 サリーン:「ええー!?」

 サリーン:「女子力高い」


 ベリー:「ふふ」

 ベリー:「本人に言ってあげて、喜ぶわ」


 アルコル:「もう少し静かに食べろ」


 サリーン:「私も食べよ」


 ベリー:「どうぞ」


 ベリーがカレーライスをよそってくれた。


 アルコルさん?


 無視します。


 反応にミスるとそこから怒られてしまう。


 怖い。


 聞かなかったことにする。


 どうかこれ以上コメントしないで。


 意識をカレーに持っていく。


 一口食べる。


 予想より美味しい。


 サリーン:「美味しい」

 サリーン:「玉ねぎを飴色になるまでバターで炒めた?」

 サリーン:「下味はコンソメと葡萄酒?」


 ベリー:「ふ、正解」

 ベリー:「レシピは、配られてる端末に標準で入ってるやつよ」


 サリーン:「興味無いけど、私の味覚は正常ね」


 ベリー:「違いが分かる人に食べて貰って幸せだわ」


 サリーン:「左様か?」


 ベリー:「しかり」


 アルコル:「なんだその言葉使い」


 無視します。


 反応するとまた怒られる。


 ちょっとしたボケに対するツッコミにしてはドスが効きすぎてる。


 怖い。


 カレーの事考える。


 美味しかった。


 全部食べた。


 寝よう。


 さっきは疲れたー。


 サリーン:「ちょっと眠る」


 ベリー:「うん」

 ベリー:「みんなが揃ったら起こすわ」


 サリーン:「ありがと」

 サリーン:「おやすみー」


 私は寝た。



 目が覚めた。


 みんなは?


 全員寝てる。


 八人揃ってる。


 安心した。


 もうひと眠りするかな?


 ベリー:「どうしたの?」


 サリーン:「あれ、寝てたんじゃ無いの?」


 ベリー:「寝てるように見せてるだけだからね」


 サリーン:「そっか、そうだった」

 サリーン:「キシさん器用だわ」


 ベリー:「今更ね」


 サリーン:「どうしたの?」


 ベリー:「そうか」

 ベリー:「声かけたら、バレるか」


 サリーン:「話があるから声を掛けたって、普通は思うわね」


 ベリー:「私達はキシが特別に具現化した存在」

 ベリー:「キシはある約束事を自分に課していて、その条件を満たしていれば、具現化能力が高まる」


 サリーン:「詳細はしらないけど、知ってる」


 ベリー:「それだけ」


 サリーン:「それだけ?」


 ベリー:「そう、それだけ」


 サリーン:「続きは?」


 ベリー:「本当はわかってるんでしょ?」


 サリーン:「貴方の口から聞きたかった」


 ベリー:「意地が悪い」


 サリーン:「手繋いで寝る?」


 ベリー:「やめとくわ」


 サリーン:「でしょうね」

 サリーン:「言ってみただけ」

 サリーン:「おやすみ」


 ベリー:「おやすみ」


 私はもう一度寝た。



 三十分後に次のステージに移動する。


 今度はたぶん、風のステージだ。


 今回も偵察しない。


 アルコルさんの予想が当たっているからだ。


『能力』は追加された。


 なら、次はカットとリフレクトの複合。


 斬撃が飛んでくる。


 難易度が跳ね上がる。


 さっきみたいに通路の幅が広かったら楽なんだけど。


 狭いとキツイな。


 順番は同じ。


 アルコルさん、ベリー、私、ケイト、ロメイン、ジュリット、アイアリ、キシさんの順。


 アルコルさんが光の中に消えた。


 五分後。


 ベリーも光の中に。


 次は私。


 光の中に入った。



 出た。


 いつもの風のステージ。


 通路の幅も普通。


 一本道で、左右が嵐。


 良い予感がしない。


 話し合いでは、敵は一人だという結論になった。


 複数いると攻略不可能。


 そういう難易度だ。


 でも行くしかない。



 十メートル進む。


 吹き荒ぶ風がひとまとまりになる。


 人型。


 二メートル。


 私は慌ててバックステップ。


 大きく距離を取る。


 間髪入れずに斬撃が飛んでくる。


 まだ反射は無い。


 でも連続で飛んでくる。


 道幅が無い。


 円に移動して距離を詰めるとか、出来ない。


 躱せない。


 斬撃は威力が高い。


 盾は意味を成さない。


 高密度の槍を出して、斬撃の軌道をズラす。


 武器は一回の生成で、一回しか軌道をズラせない。


 素早さと精神力の勝負だ。


 敵はスライドが使える。


 後ろに後退しながら、斬撃を放って来る。


 敵がもう一体出ないと仮定しても厄介だ。


 斬撃の軌道をズラしながら、ダッシュして近づき、直前で瞬間移動するしかない。


 斬撃の軌道をズラす。


 槍を生成。


 軌道をズラす。


 生成。


 その間に全力で近づく。


 やはり敵は後ろに滑る。


 走りながら、ズラし、生成する。


 サリーン:「ハァアアアアアアアアアーーーーーー!!!!」



 追いかけっこは二時間続いた。


 最後は瞬間移動からの一撃で隙を作り、その隙を押し込んだ。


 生成のし過ぎで、脳が焼き切れるかと思った。


 反射してくる斬撃にタイミングを合わせるのに、目も酷使した。


 目の前がチカチカする。


 頭痛もだ。


 休みたい。


 限界だ。


 転送装置に急ぐ。


 転送装置の光をくぐり、三歩歩いたところで意識が途切れた。



 う。


 頭が痛い。


 私、どうしたんだっけ?


 転送装置で。


 あれ?


 転送装置まで行って?


 で?


 みんなは?


 アルコルさんとベリーとキシさんが起きてる。


 他は寝てる。


 八人ちゃんといる。


 フー。


 ハー。


 フー。


 ハー。


 深呼吸した。


 落ち着いた。


 私、気を失ったわ。


 誰かが介抱してくれたんだろう。


 ベリーかな?


 そんな気がする。


 サリーン:「ベリー、起きたわ」


 ベリー:「うん」

 ベリー:「まだ寝てて良いわよ」


 キシ:「だね」


 アルコル:「次の敵は更に厄介だ」

 アルコル:「休息の時間を多めに取る」

 アルコル:「気にせず休めよ」


 ベリー:「寝れば回復するって訳でも無いでしょ?」

 ベリー:「起きてじっとしてる」


 キシ:「まあ、それでも良いか」


 サリーン:「次の予想が聞きたい」


 アルコル:「さっきのステージは風だった」

 アルコル:「縦長のステージで、敵は後退しながら邪魔をした」


 サリーン:「うん、そうね」


 アルコル:「次はたぶんステージが変化する」

 アルコル:「何故か?」

 アルコル:「敵がこちらを殺しに来るからだ」


 キシ:「後退するのはアルコルらしく無いから、だと」


 アルコル:「試練が俺を超える事を目的としているなら、そうなる」

 アルコル:「俺の強みは攻めにある」


 サリーン:「敵の数は?」


 アルコル:「たぶん一体」

 アルコル:「今までより地力が上がってそうだな」

 アルコル:「ゴリ押しが通じなくなる」


 サリーン:「ステージの形は?」


 アルコル:「わからん」

 アルコル:「たぶん広いんじゃ無いか?」


 ベリー:「感想は?」


 サリーン:「最悪」


 ベリー:「同感」


 サリーン:「美味しいものが食べたい」


 キシ:「唐突だね」


 ベリー:「私も」


 キシ:「ネロが料理できる」

 キシ:「食材は理魔法の空間に揃えてきた」

 キシ:「何が食べたい?」


 アルコル:「俺が作ってやっても良いがな」


 キシ:「ああ、そういえば、なんでも出来るんだったね」


 アルコル:「なんでもは無理だ」

 アルコル:「作れる料理だけだ」


 キシ:「料理に限らず、だよ」


 アルコル:「子供の頃から、習い事を多くしてきたからな」


 キシ:「習い事、ね、特殊な習い事、だね」


 サリーン:「長年一緒にダンジョンに潜って来たけど、初めてですね」


 アルコル:「俺が料理する事が、か?」


 サリーン:「そうです」


 アルコル:「今回のダンジョンは難易度が高い」

 アルコル:「良くやっている」

 アルコル:「労いだ」


 キシ:「普段からやれよ」


 アルコル:「うるさい」

 アルコル:「今回は特別だ」

 アルコル:「百階層攻略後も何かしてやる」


 キシ:「してやる?」

 キシ:「上から目線だなー」


 アルコル:「知った事か」


 サリーン:「なに食べようかな?」

 サリーン:「迷う」


 アルコル:「食材は十分か?」


 キシ:「ああ」

 キシ:「けどそっちも持ち込んでるだろ?」


 アルコル:「まあな」


 サリーン:「え?」

 サリーン:「アルコルさん理魔法使えるの?」


 アルコル:「当たり前だろ」

 アルコル:「今更何言ってる」


 ベリー:「マジックバッグからしか物の出し入れしないから」


 キシ:「僕がイメージの流し込みしたからね」

 キシ:「融合者じゃないから部分融合とか使えないけど」


 サリーン:「瞬間移動は?」


 アルコル:「使えるに決まってるだろ」

 アルコル:「使えなきゃ不利過ぎる」


 アルコル:「で?」

 アルコル:「食べたい物は?」


 サリーン:「んー、オムライスで」


 アルコル:「女性っぽいの選ぶな」

 アルコル:「偏見か?」


 アルコル:「ソースは、ケチャップか?」

 アルコル:「デミグラスか?」

 アルコル:「卵の硬さは?」

 アルコル:「ライスの味は?」

 アルコル:「お前の好みに合わせてやる」


 はー、いい気分。


 いつもやって欲しいんですけど。


 偶に優しいから困る。


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