11話 肉体の記憶
黒巣壱白:黒羽学園高等部一年生。
自分自身の記憶がこの約一週間しか無い。
四章主人公。
全ての武道に精通している。
達人クラス。
『能力』が有る。
記憶が無くなる前は『アルタイル』記憶が無くなった後は『シリウス』と呼ばれる。
『能力』トゥエルブ・サテライト(精鋭六人の鋭い視線)、
ランプ(煌々と輝く命の灯)、
スライド(前動作の完全消去)、
グレイ・フレイム(灰色の終焉)
姫黄青子:黒羽学園高等部一年生。
類い稀な美人。
『能力』を持っていない、らしい。
壱白のビルに匿われている。
『能力』部隊の隊員。
黒戸和馬:壱白の執事にして、後見人。
出来過ぎる男。
紫幻唯康:ヤスさんと呼ばれている。
大学生位の年齢。
『能力』部隊の隊員。
『能力』カット(結合との離別)
紫幻忠時:トキさんと呼ばれている。
『能力』部隊の隊員。
ヤスの1つ下の弟。
『能力』ハイ・リフレクション(極大反射)
樹百枝(いつき ももえ):年齢不詳。
姉役。
テレパス。
銀色の理知的な眼鏡を掛けている。
長い茶色の髪。
落ち着いた雰囲気がある。
池水雫(いけみず しずく):15歳。
サイコメトリスト。
黒のセミロング。
アイナ=ロニック:事務処理全般担当。
ボーイッシュなショートカット。
身のこなしは達人クラス。
髪は金髪。
長月瑠璃(ながつき るり):トランジスタグラマーという奴。
顔が小さい。
童顔。
『能力』ストレングス(超人の体現)と、
ヒール(即時自己回復)
「きっと、もう『アルタイル』は戻って来ない」
「彼の目に私は映ってなかった」
「そう思ってたわ」
「でも違うのね」
「傷つけない様に、気遣われてた」
「私の気持ちは、届いてたのね」
「……」
「だろうな」
「馬鹿な奴だ」
「ちょっと、そんな……」
「間抜けと言い換えよう」
「いい加減にしてよ!」
「ふん、勘違いするな、『アルタイル』の事だ」
「奴は危機に気付いていた」
「だが結果的に仲間を悲しませている」
「自分の力だけでなんとか出来ると思ったか?」
「最初から仲間の力を借りておけよ!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「同じ間違いは避けたい」
「事態は切迫している」
「協力してくれ」
「食事が済んだら、俺の肉体から記憶を手繰り寄せる」
「シズク、出来るな?」
「任せて下さい」
「百枝さん、シズクが見た映像をみんなに送れるか?」
「私を誰だと思ってるのよ」
「いや、知らんけど」
「あら?」
「ヤスから説明無かった?」
「申し訳ないが、『能力』の簡単な説明だけだね」
「恥かいたじゃない」
「完全に自爆だぜ」
「大丈夫そうだな」
「じゃ、さっさと食べよう」
「わ、私は……」
「いいから、青子、食え」
「でも」
「私が命令するわ」
「しっかり食べてね」
「ずるいです」
「当り前でしょう?」
「うう」
「返事は?」
「り、了解しました」
「よろしい」
青子は、命令通り、食べた。
命令だから慌てて食べたりしない。
瑠璃の命令だしな。
「なんで『シリウス』なんて大層な呼び名に変えたの?」
「『アルタイル』も大概だろ」
「なら、俺の増えた『能力』に合わせようと思ってな」
「焼き焦がすもの、だ」
俺は自分の増えた『能力』を四人に伝えた。
「瑠璃」
「俺の味覚ではカレーが旨い」
「うるさい」
「なんで私は呼び捨てなのよ」
「なんとなく?」
「あんたが旨くても、『アルタイル』が美味しいと感じてたか解らないでしょ?」
「まあ、お前に対して罪悪感は有ったろうな」
「旨いから」
「デリカシーまで失くしやがって!」
「腹立つー」
「俺はもう『シリウス』だから関係ない」
「責任感も失くしたの?」
「俺は、取りたい責任だけ、取る」
「ホント、人間とは思えないわ」
「ふふ」
「青子、余裕じゃない?」
「えー、私に当たらないで下さい」
「記憶を手繰る前に、決裁を……」
ここは一階だ
何気なく、窓の外を見た。
かなり遠くに有る塀の上を、猫が歩いてるのが見えた。
また猫か?
俺は猫からパンドラの箱を連想してしまった。
仲間と良い雰囲気になりかけた途端、冷や水を浴びせられた様な気分だ。
まだ波乱が有るのだろう。
油断するな、俺。
記憶だ。
俺の記憶には何が残っているんだ?
食事を終えた俺達は三階の会議室に移動した。
「さあ、どうすれば良い?」
「そこに座ってて下さい」
「私が額に触れます」
「それだけです」
「百枝さん、用意はよろしいですか?」
「待って、念の為に貴方と手を繋いどくわ」
百枝とシズクは手を繋いだ。
「俺とは手を繋がなくて良いのか?」
「シズクの『能力』は強いわ」
「思いが強いと引き剥がせなくなる」
「貴方は力を抜いて、リラックスしてて」
「みんなも適当にイスに座って、リラックスよ」
「無理言わないでくれよ」
「『アルタイル』が危機に陥って、記憶を代償にしたんだよ?」
「そうだぜ、リラックスは出来そうにない」
「本人はリラックスしてるけどね」
「その、俺を変な奴扱いするのやめろよ」
「俺は言われた通りにしただけだぞ」
「決裁、決裁の納期を決めたいです」
「え?」
「今?」
「今それ言う?」
「ずっと言ってました!」
「そうだ」
「四人に言ってなかったな」
「改めて言うぞ」
「俺の肉体の記憶から、敵の気配や特徴を探り出して、各個撃破する」
「今日中にだ」
「そして、溜まった書類を片付ける」
「どの位溜まってる?」
「二ヵ月よ」
「少ない訳無いわ」
「今日と、明日学校が終わってから、やる」
「まだ学校に行く気なの?」
「入学したら卒業するのがルールだ」
「それが貴方の、取りたい責任?」
「うるさい」
「負けた気に成るだろ」
「やっぱ『アルタイル』だな」
「どこがよ」
「瑠璃」
「お前も通うか?」
「……」
「私はヤスより年上です」
「……」
「そうか」
「『アルタイル』は女性関係の勘が働かないようなんだが……」
「『アルタイル』は気遣い出来てました」
「出来て無いのは『シリウス』の所為でしょ」
うん。
そんな気もしていた。
「さ、さっさと始めるぞ」
「逃げないでよ」
「もう」
だって青子、仕方ないだろ、許せ。
「明日、明日必ず片付けて貰います」
「終わるまで帰しません」
これは聞かなかった事に出来ないか?
ちょっと、怖い。
シズクが俺の額に触れた。
「どの位遡ります?」
「青子」
「俺が事故に遭った日は?」
「四月七日よ」
「解りました」
動画の巻き戻しの様に、時間が巻き戻っていく。
場面は飛び飛びだ。
シズクが俺の肉体から読み取った映像を、百枝が『能力』で全員に伝達する。
「たぶん、この辺りですね」
「巻き戻っている間の内容を把握出来たのか?」
「まさか」
「見えているのは、皆さんと同じです」
「ちょっと良く当たる勘程度と思ってください」
「ここから等倍速で見て行きます」
「良いですね?」
「悪い」
「任せる」
「はい」
窓から青子のアパートを見ている。
青子がアパートから出てきた。
後を付ける。
青子は学校に向かった。
シズクは時間を少し進めた様だ。
学校から帰って来る。
帰る青子の後をつけて、『アルタイル』も帰って来る。
窓から青子のアパートを監視している。
微動だにしない。
「目に触れてくれ」
シズクは余った方の手を俺の瞼に触れた。
アパートを監視している映像に、『能力』ランプ(煌々と輝く命の灯)のエネルギーの炎が重なって見えた。
全員が吐きそうにしている。
俺の『能力』を共有した所為だ。
終焉を直視するのは苦痛が伴う。
時刻は真夜中だろう。
ビルの上を飛び移るエネルギーの炎が見える。
異常な輝きだ。
まだ離れているが、解る。
ゴールデンウイーク明けに灰にした奴と同じだ。
額から手繰り寄せた映像では、奴には腕が無い。
だが、目の『能力』では巨大な腕がエネルギーの塊として見えていた。
腕を使って、ビルを飛び移っている。
『アルタイル』は窓から手を出し、外側の壁に手を触れる。
『能力』スライド(前動作の完全消去)で左手の手のひらを起点にして滑り降りて行く。
速度が出ている。
右腕でアサルトライフルを抱えている。
怪物が青子のアパートに飛び移ろうとしたと同時に、発砲。
特殊な消音装置が付いてるんだろう。
音は全く響かない。
怪物の注意を惹き、近くの公園に移動する。
公園は町中にしては、広い。
『アルタイル』は『能力』スライドとランプで、奴の見えない腕の攻撃を躱しながら、銃撃を続ける。
長い間、その状態が続く。
怪物は余裕だ。
楽しんでいる。
『アルタイル』は完全に遊ばれていた。
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