12話 対価

黒巣壱白:黒羽学園高等部一年生。

     自分自身の記憶がこの約一週間しか無い。

     四章主人公。

     全ての武道に精通している。

     達人クラス。

     『能力』が有る。

     記憶が無くなる前は『アルタイル』記憶が無くなった後は『シリウス』と呼ばれる。

     『能力』トゥエルブ・サテライト(精鋭六人の鋭い視線)、

     ランプ(煌々と輝く命の灯)、

     スライド(前動作の完全消去)、

     グレイ・フレイム(灰色の終焉)

姫黄青子:黒羽学園高等部一年生。

     類い稀な美人。

     『能力』を持っていない、らしい。

     壱白のビルに匿われている。

     『能力』部隊の隊員。

黒戸和馬:壱白の執事にして、後見人。

     出来過ぎる男。


紫幻唯康:ヤスさんと呼ばれている。

     大学生位の年齢。

     『能力』部隊の隊員。

     『能力』カット(結合との離別)


紫幻忠時:トキさんと呼ばれている。

     『能力』部隊の隊員。

     ヤスの一つ下の弟。

     『能力』ハイ・リフレクション(極大反射)

樹百枝(いつき ももえ):年齢不詳。

             姉役。

            テレパス。

            銀色の理知的な眼鏡を掛けている。

            長い茶色の髪。

            落ち着いた雰囲気がある。

池水雫(いけみず しずく):十五歳。

             サイコメトリスト。

             黒のセミロング。

アイナ=ロニック:事務処理全般担当。

         ボーイッシュなショートカット。

         身のこなしは達人クラス。

         髪は金髪。

長月瑠璃(ながつき るり):トランジスタグラマーという奴。

              顔が小さい。

              童顔。

              『能力』ストレングス(超人の体現)と、

              ヒール(即時自己回復)




 

「一旦止めて、休憩にしよう」


「もう、ですか?」


「私たちはまだ余裕が有るわよ?」


「…………」

「俺の気持ちの問題だ」

「時間が無いからな、五分でいい」

「五分くれ」

「外の空気が吸いたい」

「誰か案内してくれ」


 基地の中は複雑な構造に成っていて、『能力』を使っても外へのルートは解り難い。


 テロ対策だろう。


「私が案内します」


 アイナが申し出た。


 意外だ。


 アイナは無言で前を歩く。



 一階。


 外に出た。



 自動販売機がある。


 缶コーヒーを二つ買って、一つをアイナに投げた。


「ふー、タバコでも吸いたい気分だ」


「未成年でしょう?」

「経験あるのですか?」


「知らんよ」

「記憶が無い」


「私も『アルタイル』のしようとしている事が解りました」


「そうか」


「責任感の強い方でした」


「腹は立たないのか?」


「彼は判断を間違わない」

「必要だとの判断でしょう」


「そうかもな」


「みんなは気付くと思うか?」


「おそらくは……」


「青子は?」


「……」

「私には『能力』がありません」

「が、利用価値は有ります」

「青子さんには以前『能力』を使えたという記録だけです」

「彼女は、勘が鋭い」

「自分が部隊に呼ばれた事の意味に気付いてしまうでしょう」

「貴方の『能力』ランプに、彼女はどう映っているのですか?」


「……」

「『アルタイル』は生真面目過ぎるだろ」

「馬鹿じゃ無いか?」


「本質的には貴方も同じでは?」


「追い込まれたら、俺も同じことをやると言いたいのか?」


「違うと言い切れますか?」


「…………」


「私には、貴方の方が、危うく見えます」


「あんたを部隊に呼んだ理由が解ったよ」


「明日は書類を片付けて下さいね」


「はー、今言うなよ」


「プロですから、納期は守らせます」


「へー、へー」


「そろそろ五分です」


「解った」

「腹を括る」


「そうして下さい」




「落ち着いた」

「再開してくれ」


 シズクは俺の額と瞼に触れた。


 映像は、戦闘の始めからだ。


 アパートに飛び移る怪物に発砲。


 怪物の注意を惹き、公園に誘導。


 『能力』スライドとランプで、巨大な腕の攻撃を避けながら、ライフルを斉射。



 怪物はダメージを受けていない。


 怪物は余裕だ。



 怪物の背中から腕が更に二本生えてきた。


 怪物から連続で攻撃される。



 まだ反撃出来ている。


 敵にダメージは無いが。



 腕が六本になった。



 アサルトライフルの弾が切れた。


 右肩にかけていたショットガンを使う。


 至近距離からの発砲。



 やはり、ダメージは無かった。



 近づけたのは一度だけ、躱すのが精一杯だ。



 映像に、ノイズが入る。


 始まった。



 書類を片手に、アイナと何か相談している。


 アイナに初めましてと挨拶している。



 ヤスさんと竹刀で稽古をしている。


 『アルタイル』は互角だった。


 しびれを切らせて『能力』を使う。



 トキさんと射撃訓練をしている。


 移動しながらの的当てだ。


 二人とも『能力』を使っている。


 勝負は『アルタイル』の勝ち。



 ヤスさんとトキさんと食事を取る。


 『アルタイル』はカレーを流し込んで去って行った。



 百枝さんとシズクと初めて会ったようだ。


 握手している。


 握手で色々読み取られて、感心していた。



 年齢はどんどん若くなっていく。



 小学生くらいの『アルタイル』は瑠璃と訓練している。


 瑠璃の手を引いて走った。



 瑠璃との訓練の映像がしばらく続く。


「良い匂いだね」


「そう、気に入って貰えてよかった」

「匂いきつく無い?」


「自分じゃ解り難いから、僕が判断してあげるよ」


「ありがと」


 『アルタイル』は怪物の攻撃を必死に躱している。


 反撃の手は残されていない。


 映像は、完全に過去に飛んだ。


「目、どうしたの?」


「先天的に目が見えなくて、手術して義眼を入れたんだ」


「義眼って解る?」

「偽物の目さ」


「もう見えないって事?」

「先天的って言うのはね、始めから見えないって事なんだ」

「見えた事無いんだ」


「そう、私が直してあげましょうか?」


「ふふ、じゃお願い」


 少女の手が輝き、少年の目を照らす。


「包帯、取ってみて」


「今なにかしたの?」

「暖かかった」


「目を開けてみて」

「もう、見えるでしょ?」


「見えるね!」

「見え過ぎるほど見える」

「どうなってるの?」


「さあ?」

「私には、出来るの」


「凄い!」

「どんなお医者さんにも出来なかったのに!」


「僕は、クロスイチシロ」


「君は?」


「ヒメキアオコ」

「どんな字書くの?」


「黒い鳥の巣の巣に、一番の壱、白い」

「で、黒巣壱白」


「私はね、お姫様の姫に、黄色いの黄、青色の青に子供の子」


「ふーん」

「黄色に青か、確か混ぜると緑色になるんだよね?」


「そうよ」

「黒と白を混ぜるとネズミ色ね」


「じゃ、君はミドリちゃんだ」


「なら、貴方はネズミくんね」


「緑色が解らないや」

「どんな色なの?」


「病院の外に、公園が有るの」

「樹が生えてる」

「緑色よ」

「一緒に行く?」


「うん」


 そこまで思い出して、映像は戻った。



 『アルタイル』は、怪物の腕に締め上げられていた。


 そのまま、何度も地面に叩きつけられる。



 絶体絶命。


 条件は整ったのだろう。


 『アルタイル』は決心出来ていた。



 声が聞こえる。



『我は汝の心より出し者』


『汝、力を欲するか?』


『力には、対価を必要とする』


『汝の返答や如何?』


『今、汝が思い描いた物を貰っていく』


 僕の願いは叶うのか?


『『能力』は対価に見合ったものとなる』


 なら、問題無いな。


 僕の一番大切な物だ。


『心得た』



 怪物は灰になった。



 『アルタイル』は気絶した。


 間髪入れずに、黒戸和馬が手当する。


 第三者は黒戸和馬だ。



 もう、過去を手繰る必要は無い。


 シズクは俺に触れるのをやめた。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 『アルタイル』は解っていた。


 攻撃が通じない事を。


 だが向かっていった。


 死地に追い込まれる事が、『能力』を得る条件なのだろう。



 あの敵は雑魚だ。


 でも、雑魚にダメージを通せないでいる。


 足手纏いだ。



 新たな『能力』が必要だった。


 だから、自分の記憶、自分自身を引き換えに、『能力』を得ようとした。



 グレイ・フレイムは強力だ。


 青子を守るために必要なのだろう。



 俺の考えは甘かった。


 敵は俺の想像を遥かに超える強さなのだろう。


 自分を消して、俺に後を託しやがった。



 ふざけやがって。


 怒りが込み上げてくる。


 俺はイスを蹴っ飛ばした。


「ガシャーン!!」



 会議室の中央の机の上に、黒猫が寝ころんでいた。

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