4話 どうしようもない

 

(レイセ視点です)


 キシ:「冥界の神、組成のフェグルドよ!」

 キシ:「我に力を!」


 キシに稲妻が落ちる。


 神の怒りに触れたか?


 いや、違う。


 キシの雰囲気が変わった。


 冥界の神とやらがキシに力を貸したんだ。




 キシは手刀を構えた。


 キシの手から、オーラのような何かが長く伸びている。


 射程は長い。


 剣と同じくらいまで伸びている。


 キシは誰もいない場所に向かって手刀を振り下ろした。


 衝撃波が闘技場を切り裂く。


 轟音。


 魔物の王と戦った時や、クロスと戦った時には、地面に傷一つつかなかった。


 文字通り、破壊不能物質で出来ていた。


 その地面に、大きな亀裂が出来てしまった。


 ありえない威力。


 今の俺が全力を、すべてを絞り出してもこうは行かない。


 手刀の一振りで思い知った。


 勝てない。


 おそらく勝てない。


 奇跡に縋るしかない。


 魔物の王と戦った時は最後まで抵抗した。


 今度もそうするか?


 勝てない。


 勝てない。


 勝てない。


 逃げるか?


 いつかこうなる日が来ると思っていた。


 たぶん、もう奇跡は起こらない。


 禁じ手を使うしかない。


 レイセ:「バランサー、この世界の時間を止めて俺たちを向こうの世界に戻せ」


 バランサー:「…………、不可能です」

 バランサー:「隙が無い」


 キシ:「逃げる算段か?」

 キシ:「最後まで戦えば、奇跡が起こるんじゃないのかい?」


 レイセ:「お前はもう、勝てるような相手じゃない」

 レイセ:「諦めるさ」


 ルプリレ:「レイセ!」

 ルプリレ:「何か、手があるのね?」


 レイセ:「ああ、一応な」

 レイセ:「でもその為には、隙を作らないといけない」


 キシ:「ふふ、それは大変だ」


 ガリムと少女の姿が無い。


 逃げ切れたか?


 ルプリレ:「レイセ!」


 レイセ:「武器化はいらない」

 レイセ:「受け太刀できない」

 レイセ:「みんなはこの場から離れろ!」


 キシ:「させるわけないだろ」


 キシは白い領域を闘技場に広げた。


 領域の中では瞬間移動が使えない。


 通常の数十倍の重力を感じる。


 領域から出られない。


 レイセ:「とにかく、全力で離れてくれ!」


 みなが、重い体を引きずって闘技場の外に向かう。


 ルプリレもだ。


 なぜかクロスとボーデンは残っている。


 レイセ:「離れろって」


 クロス:「お前、どうやって隙を作るつもりだ?」


 レイセ:「案なんて無いぞ」

 レイセ:「気合だけだ」


 クロス:「レイセ、時間を稼げ」

 クロス:「後はボーデンがなんとかする」


 ボーデン:「ええ」

 ボーデン:「案があります」


 レイセ:「お前の隠している『能力』とかか?」

 レイセ:「わかった」

 レイセ:「キシ、待たせたな」


 キシ:「じゃー、始めるか」


 レイセ:「ああ」




 キシが飛ぶように一歩踏み出した。


 俺は頭を両手でガード。


 キシの右拳が俺の腹を突き破る。


 痛てえ。


 俺は右腕でキシの右腕を払った。


 キシの右腕が腹から抜ける。


 俺は瞬時に腹を回復。


 キシは右足でハイキック。


 俺は横に吹き飛んだ。


 キシの動きが速すぎる。


 防御出来ない。


 痛みで気を失いそうになる。


 吹き飛んだ俺にキシが追いついた。


 キシの左拳が俺の顔面へ。


 防御出来ない。


 俺の顎が吹き飛び、体も逆方向に飛ばされる。


 痛みの事を忘れそうだ。


 意識を保てない。


 無我夢中だ。


 キシは手刀を上に構えた。


 俺は顔を回復する。


 俺は右に飛んだ。


 俺がいた場所が手刀の衝撃波で吹き飛ぶ。


 地面に大きな亀裂が出来る。


 衝撃波を連続で飛ばしてきやがった。


 二回は躱したが、三回目はダメだった。


 衝撃波をモロに喰らった。


 俺の上半身はバラバラに砕け散った。


 だが、まだ存在感が残っている。


 根源から力を絞り出して飛び散った体を復元する。


 俺の上半身は復元した。


 ダメだ。


 どうにも出来ない。


 歯が立たない。


 まだ、ほとんど時間が経っていない。


 どうするんだよ。


 キシ:「君と遊ぶのも楽しいけど、さっさとやること済ますか」


 レイセ:「!?」


 キシは空間に手を突っ込んだ。


 空間の中からガリムが引きずり出された。


 キシ:「なにか『能力』を使ってみなよ」


 ガリム:「むう」


 キシ:「出来ないだろ?」

 キシ:「ジャドは無力化の条件に引っかからなかった」

 キシ:「今の僕には『能力』が通用しない」

 キシ:「死ね」


 キシはガリムを握り潰した。


 俺には何も出来なかった。


 ガリムの存在感が消失した。


 キシ:「あと、二人」


 キシはもう一度空間に手を伸ばした。


 キシの手は少女を掴んでいる。


 クロス:「準備が出来たぞ」


 キシ:「お前たちに何が出来る?」


 クロス:「命を賭けた攻撃だ」


 レイセ:「おい、待て!」

 レイセ:「どういうことだ!?」


 クロスは魔銃を撃った。


 光り輝く弾丸はキシに命中した。


 キシは手で払おうとした。


 キシが弾丸に手を触れた瞬間、威力が増した。


 光が強くなる。


 威力が強まる。


 弾丸はキシでも振り払えない。


 キシの動きが止まる。


 クロスが大剣を具現化。


 キシの首に剣を食らわせる。


 キシの首を切り離した。


 バランサー:「時間停止!」

 バランサー:「強制帰還!」


 あの弾丸はボーデンだった。


 命を弾丸にしやがった。


 ボーデン、命を懸けやがった。


 お前、奥さんはどうする?


 それでいいのか?


 キシは死んでいない。


 首を落とされたくらいで奴は死なない。


 俺は禁じ手を使う。


 俺の事なんか信じるなよ。


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