8話 もう一度

 レイセ:主人公。

     黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。

     融合者。

     契約者。

 黒崎鏡華:プロミネンスと名乗っている。

      ルビー・アグノス。

      融合者。

      契約者。

      月と太陽の国女王にして、現人神。

      小学六年生。

      美月と友達。

      レイセと婚約している。

 リビア:聖国クリアの元代表。

     レイセと婚約している。

 黒戸美月:零維世の妹。

      小学六年生。

      鏡華と友達。

      非常にかわいく、ファンがいる。

 黒竜:真名、レムリアス。

    白竜と並ぶ最古の神獣。

    レイセと契約している。

 黒沼直樹:ベル。

      黒羽学園高等部の数学と物理の教師。

      中等部生徒会顧問。

      融合者。

      聖国クリアの守護者。

 黄山十夜:春日高校一年生。

      融合者。

      契約者。

      ファガス。

 青井友介:七星学園高等部一年生。

      融合者。

      契約者。

      コナル。

 エウェル:クリア・ノキシュの妻。

      故人。

 エーシャ:エウェルとクリアの娘。

      クリアとは血が繋がっていない。

 ボーデン・バレット:フレドの補佐。

           連合国クロトの守護者。

           閑話に登場。

 クルダム・ゼロス:ノスヘルの元代表。

          文官長。

 フレドリック・ユルロア:連合国クロトの守護者長纏め役。

 ノイトル・ロベスト:月と太陽の国の従者長。

 ヒルデ・ガント:月と太陽の国の神官長。

 ロウル・ヒスリー;月と太陽の国の従者兼料理人。

 クアクル・ロウナー:月と太陽の国の従者兼料理人。

 カシアル・シュース:月と太陽の国の従者兼裁縫士。

 スレガリン・ラウナル:月と太陽の国の従者兼裁縫士。

            カシアルの弟子。

 リメア・ラメウス:月と太陽の国の神官兼付き人。

 ヒメア・ラメウス:リメアとは姉妹。

          月と太陽の国の神官兼付き人。

 レイ:『光の旋律』リーダー。

    長命種。

    血の繋がっていない子供がいる。

 ダズ:聖国クリアの守護者。

    リビアの代わりを務めている。

 ロウエル・ノキシュ:商業都市ノキシュの代表。

 テラセス・マシア:ロウエルの護衛。

          孤児。

          ライサムとは兄弟の様に育った。

 ライサム・マシア:ロウエルの護衛。

          孤児。

          テラセスとは兄弟の様に育った。

 セシル・マイカ:レイセの近衛兵。

         元一流の冒険者。

         お嬢様風。

 シャレット・キニクル:レイセの近衛兵。

            元一流の冒険者。

            お転婆風。

 ゼレア・ロットル:レイセの近衛兵。

          元一流の冒険者。

          姉御風。

 シルドレ・ナバリ:レイセの近衛兵。

          元一流の冒険者。

          不思議さん風。

 リアンナ・ドバスカリ:海洋国家ドバスカリの女王。




『帰って休め』


 時刻は夜十時。


 俺達は素振りから解放された。


 朝八時から夜十時まで、昼の休憩を除けば振りっぱなしだ。


 そんな生活が五日続いている。


 ゼアスは一定のリズムで、結界を的にして全力で振っている。



 あれが全力だと信じたい。


 そして、一切休まない。



 気が付いたら違う武器で結界を的にしている。


 俺達にもプライドが有る。


 ゼアスが休まない以上、俺達も休めない。


 最初の三日で筋肉痛が全身に広がり、今は体中が熱を発している。


 ゼアスは、いつも十時でピタリと振るのを止めて言う。


『帰って休め』



 帰り道、俺たちはゼアスの話をする。


「ファガス、何者だと思う?」


「知るか」

「あいつが異常だとしかわからん」


「そうだな」

「異常だ」

「何よりも、集中力がおかしい」


「ああ、剣速は鍛えれば身に着くかもしれんが、あの集中力は別だな」

「十時には奴も息が上がってる」

「奴も全力だ」


「そうだな」


「コナル、俺の家で一杯やるか?」


「無理すんな」

「もう食って寝る事しか出来ないだろ」


「バレてたか」


「当り前だ」

「俺も同じ事してんだぞ」


「一体、いつまで続くんだ?」


「お前、聞く勇気有るか?」


「無い」

「嫌な予感しかしない」

「聞かない方が良い気がする」


「俺もそう思う」

「じゃあな、また明日」


 俺はファガスと別れた。


 この時間にやっているのは居酒屋位だ。


 食事して、洗濯して、風呂に入って、寝る。


 計算された、ギリギリの時間設定だ。


 訓練場まで五分だから成り立つ。


 これで月と太陽の国から給金が出ているんだ、サボれない。


 居酒屋では絶対に酒を飲んではいけない。


 寝てしまう。




 次の日。


 夜十時。


 俺は耳を疑った。


『明日は休みにする』

『七日に一度は休みだ』

『覚えておけ』


「休みが有るのか?」


『不満か?』


「い、いや」

「意外なだけだ」


『気を抜くなよ』

『解ったら、帰れ』




 そして、なんと二十年それが続いた。


 全力の素振りが二十年だ。


 それ以外何もやっていない。


 ゼアスには何度も喧嘩を吹っ掛けた。


 その度に返り討ちにあった。


 そうこうしている内に俺達は五十代に成っていた。


 体力は衰え出した。


 ゼアスは衰えていない。


 剣速は鋭さを増している。


 俺達の全盛期は素振りで終わってしまった。


 普通なら、これからは次の世代の育成を行う時期だ。


 だが、ゼアスはこう言った。


『素振りはそろそろ止めだ』

『模擬戦をする』

『返事は?』


「わ、解った」


「……おう」


『どの武器でも良い、かかって来い』


 俺は大剣で切りかかった。


 奴は盾で防いだ。


 余裕で防がれた。


 俺は連続で剣を振るった。



 思った以上に体が動く。


 やれる、まだやれる。


 俺は歓喜していた。


 確実に実力は上がっていた。


 もう少しでゴールかもしれない。


 この時はそう思った。




 そして、更に十年経った。


 模擬戦をひたすらに繰り返した。


 空虚な日々だった。


 ある日、ゼアスはこう言った。


『訓練は以上だ』

『思ったより早く済んだな』

『次はもう一度冒険者として外に出ろ』

『絶対に一度は外に出ろよ』

『命令だ』

『また会おう』



 早く済んだだと? 


 何を言っている。


 また会おうだと?


 もう会う事は無いだろう。


 俺の人生は終わった。


 残りの人生は、使う暇が無かった金を使い、気楽な生活をしたい。


 結婚は何故かする気がしなかった。


 どの女にも、それほど魅力を感じなかった。


 独り身でも後悔はない。


 それに、俺の中には友介がいる。


 完全な一人には成れそうもない。


 俺の中の友介が囁く。


 外に出ろと。


 ゼアスの言う通りにしろと。


 俺には意地になって逆らう意思も無かった。


 俺はその声に従ってしまう。



 そして俺は俺の運命を知る。




 *   *




 俺は『ロストエンド』から手を放した。


「神歴二千三百五十年まで行った」


「僕も二千三百五十年まで行きました」


「私は今から行ってくるわ」


「俺たちは待ってたら良いのか?」


「ああ、十夜、友介、鏡華を待ってくれ」


 鏡華は『ロストエンド』に手を掛け、放した。


「これで追いついた訳ね」


 俺は十夜と友介の訓練を急いだ。


 改変が有ったかもしれない。


 認識出来ないが。


「北で王に成ったようですね」


「ああ、連合国クロトだ」

「伝わったか?」


「ええ、噂は聞いています」

「落ち着きましたか?」


「落ち着いたが、聖国に帰るのはもう少し先だ」

「セラリアダンジョンを攻略する」

「連合国クロトの人員育成が済んでいない」


「直樹、聖都クリア以外のダンジョンは何処まで攻略した?」


「八十階層ですね」


「そうか、そのまま攻略を続けてくれ」

「死ぬなよ」


「解っています」

「早くしてくださいね」

「ダズさんが焦れてます」


「あいつはいいんだよ」

「焦れても」

「そういう役目だ」


「そのまま伝えますよ」

「きっと怒るだろうなー」


「知るか」

「あいつが選んだんだ」

「俺が王だ」

「従ってもらう」


 俺が王。


 俺が王だ。


 笑い飛ばすしかない。


 つらい、かもしれない。


「十夜、友介、次に向こうに行ったら、宮殿に来てくれ」


「鏡華もそれで良いな?」


「ええ、やっとね」


「俺たちは若返った」

「これでゼアスの野郎をぶちのめせる」


「はは、ぶちのめせるか」

「楽しみだな」


「そうね」


「なんだ、その反応」

「俺たちの人生はあいつに消費された」

「一矢報いたい」


「ゼアスは部分融合の達人らしい」

「部分融合は出来るか?」


「二十年も武器を振り続けたんだぞ」

「出来るに決まってる」


「俺は二百年やったが、出来るならそれでいい」


「今日は解散にするか?」


「いえ、もう少し情報交換したいですね」


「零維世、愚痴に付き合え」

「今日俺たちがどれだけ恐怖したか、聞け」


「じゃ、もう一回カフェに戻るか?」


「お前の家、近いだろ?」

「なんか食わせろ」


「おお、美月ちゃんいるか?」


「友介、お前まだそんな事言っているのか?」


「こいつ、向こうで結婚しなかったんだよ」


「影から見守るんじゃ無かったのか?」


「見守るけどな」

「けどな」

「顔を見たいんだ」


「お前マジでロリコンな」


「うるさい」

「お前が言うな」

「で?」

「いるのか?」

「家に」


「残念」

「外出中だ」

「でも、マジなら俺も応援してやる」


「いや、いい」

「俺はいずれ向こうで生活する」

「それはいい」


「零維世、ありがとな」


「僕も美月ちゃんを見てみたかったんですが、残念です」


「かわいい」


「かわいいわね」


「かわいいな」


 まあ、いい。


 悪い気はしない。


「じゃ、家に来い」

「俺が何か作る」


 その日は俺の家で夕方まで話した。


 美月が帰って来た。


 何か持って二階の俺の部屋まで来た。


 ドアをノックしている。


「いいぞ」


「兄がお世話になってます」


 俺が友達連れてきたのが珍しくて顔を出したらしい。


 お盆にお茶を用意している。


 お茶の数は丁度。


 玄関に並べてあった靴の数で人数はわかってたみたいだ。



「え?」

「鏡華ちゃんもいるの?」

「なんで?」


「えっとね、美月ちゃん、それはね…………」


「初めまして、黒沼直樹と言います」

「黒羽学園の教師です」

「鏡華さんが来年黒羽を受験するという事で、少しアドバイスしていたんです」


 直樹ナイス。


「そうなんですか?」


「鏡華ちゃんそうなの」

「零維世さんに紹介してもらったの」


「私にも言ってくれればよかったのに」

「私も黒羽受験するし」


「ま、まだ考えてる段階だったの」


「ふーん」

「そうなんだ……」

「で、こっちのお二人は?」


「美月ちゃん覚えてない?」

「俺、黄山十夜」


「ああ!」

「じゃ、そっちは、青井友介さん?」


「そう!」

「覚えていてくれたんだ!」


「俺達また、つるみ出したんだ」


「てっきり中学で友達出来たんだと思ったんだけど、違うんだ」

「なんか怪しいけど」

「まあ、いいか」

「ゆっくりしていって下さいね」


 美月が部屋から出て行った。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 なぜ黙る。


「『美月ちゃんを影から見守る会』に興味が湧いてきました」


「ですよね」

「私も入ろうかな」


「そうなんだよ」

「そうなるんだよ」


「だな」


「リビアさんになびかなかった訳ですね」


「いや、リビアの方がかわいいぞ」


「ふふ、じゃ、私は?」


「鏡華の方がかわいい」


「待て、零維世どういう事だ?」


「クロト王は二人と婚約しているんですよね?」


「なにー!?」

「お前いつの間に」


「俺は、お前はそう言うの興味無いと思っていたのに」

「美月ちゃんはどうするんだ?」


「どうもしない」

「妹だぞ」


「でも、血、繋がって無いだろ」


「美月は気付いてない」

「言うなよ」


「え?」

「血繋がってないの?」


「そうだ」

「俺は一歳頃から記憶がある」

「俺が初めてトイレに自分で行ったのを、褒めてくれたのは施設の職員だった」

「俺が三歳の時、美月は二歳」

「その時引き合わされた」

「両親は死んだ事に成っているが、真実はわからない」

「美月には両親の記憶がない」

「当然だ、両親は最初からいない」

「そろそろ、別々に生活しないとな」

「来年は美月を寮に入れる」

「俺も寮に入る」

「そのために黒羽を選んだ」


「その話、して良かったの?」


「ああ、お前らはもう家族みたいなもんだ」

「いずれわかるしな」



 その日は全員、ちゃっかり美月の手料理を食べて帰りやがった。

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