3話 決着



 レイセ:黒戸零維世。

     レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

     連合国クロトと聖国クリアの王。

 リビア:リビア・クロト。

     聖国クリアの元代表。

     レイセと結婚している。

 プロミ:プロミネンス。

     ルビー・アグノス。

     黒崎鏡華。

     月と太陽の国アウグストラの女王。

     現人神。

     レイセと結婚している。

 シロ:黒巣壱白の分裂した姿。

    『ロストエンド』の元マスター。

    『能力』が使える。

 ガリム:『狂奔』のリーダー。

     老人の管理者。

 スーリー:『狂奔』のサブリーダー。

      チームの纏め役

 ラドセス:『狂奔』のサブリーダー。

      広報担当。

 ストルム:『狂奔』のサブリーダー。

 ダットル:『狂奔』のサブリーダー。

 キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。

    死兵国プロンシキの元英雄。

    『リーベラティーオー』の纏め役。

 ジャド:『マギ』のエース。

     キシに次期纏め役に推されている。

     三番目の真理への到達者。

 アルコル:黒巣壱白の分裂した姿。

      『能力』が使える。

      『リーベラティーオー』のリーダー。





(キシ視点です。)


 思えば長い道のりだった。


 ここで全てを振り返り、感傷に浸りたい所なんだけどね。


 そんな暇無いな。


 ルプリレの強さは本物だ。


 僕の七つの大罪だけでは太刀打ち出来ない。


 ルプリレの攻撃は続く。



 ルプリレは右拳を引き、右肩を後ろに。


 同時に左肩が前に出て、左拳を前に。


 上半身の回転だけでの攻撃。


 僕は全く対応できない。


 速すぎる。


 直ぐ近くで気配がそう動くのをやっと捉える事が出来る程度だ。


 ルプリレの左拳が僕の右頬を強く打つ。


 パァーーーン!!


 僕は彼女から見て右に吹き飛ぶ。


 恐らく、彼女は力の融合を使いこなしている。


 ジャドと同等かそれ以上の身体能力だ。


 ジャドと戦った事があるお陰でなんとか意識を保っていられる。


 が、反応できない。


 彼女はこのまま畳み掛けて来る。


 誤算だった。


 これほどまでに力の差が有るとは。


 これは油断じゃない。


 僕は力の融合の持続時間が短い。


 使いどころを絞らないといけなかった。


 この状況は必然だ。


 今考えるべきは、勝機についてだ。


 必要なのは隙だ。


 隙が欲しい。


 ほんの少しで良い。


 ほんの少しの隙間さえあれば、状況をひっくり返せる。


 手札はまだある。


 隙。


 隙が欲しい。


 このまま何もできないで終わるのか?



 ルプリレが地面を蹴って僕に追いつく。


 吹き飛ばされた僕の左腕を、ルプリレは掴んだ。


 僕は反応できない。


 ルプリレの右拳が、僕の腹に突き刺さる。


 下から上に突き上げるようなボディーブロー。


 ドゴン!!


 僕の体は上に跳ね上がる。


 僕は考える。


 意識を手放さない。


 何か、何か挽回する手がある筈。



 ルプリレが両足で地面を蹴った。


 上空に投げ出された僕を、ルプリレが追う。


 僕が放物線の頂点に達したタイミングでルプリレが追い付く。


 ルプリレは両手を組んで、上から下に振り下ろす。


 ドン!!


 僕は真下に撃ち落とされる。


 ルプリレは空に結界を展開。


 結界を蹴って、僕を追う。



 次が留めだ。


 その次は無い。


 もう耐えられない。


 何か、何か手は無いか?


 立会人はどうしている?


 次の一撃を貰っても、僕は死なないと?


 意識を失うだけって判断か?


 死にそうに痛いぞ。



 隙が無い。


 手は無い。


 僕の負けだ。




 僕は意識を失うまいと、体に力を入れた。


 気休めだ。


 僕の体に、ルプリレの右拳が触れる。


 そう思った時、視界がぼやけた。


 間に、スライムのラーナーシルが滑り込んでいた。


 ラーナーシルは物理と魔法に強い耐性がある。


 ドッバーーー!!


 ルプリレの右拳の威力でラーナーシルがバラバラに吹き飛ぶ。


 ラーナーシルはスライムだ。


 バラバラに吹き飛んでも死なない。


 身体を繋ぎ合わせれば元通りだ。


 ラーナーシルが自分で出てくれた。


 僕から頼んだんじゃない。


 そんな余裕は無かった。


 勝機が出てきた。


 隙だ。


 ルプリレの攻撃の勢いが少し落ちる。


 ここで一気に手札を使い切る。


 僕は死ぬ。


 この賭けも上手く行かない可能性が高い。


 だから反則負けには成らないだろう。



 ルプリレの、ベリーの目に、僕はどう映るんだろうか?


 間違った方向への努力。


 蔑まれるのがオチだろ?


 分かっていても辞める訳には行かない。


 僕だって運命に怒っても良い筈だ。


 違うか?



 僕はネロを具現化し、発光体に変化させる。


 ネロという存在のイメージを光の剣に変化させる。


 ネロという概念を使い切る。


 もう二度とネロを具現化出来ない。


 そういうルールを定める。


 威力は相当高いだろう。


 長く伸びた光の剣に切断力は無い。


 只、存在感にダメージを与えるだけだ。


 立会人の静止は恐らくない。


 両手で握った剣を振り上げ、真下に振り下ろす。


 力の融合と、七つの大罪の力をフルに使った。


 動きの素早さは出ている筈だ。


 ルプリレは間に合わない。


 ルプリレは両手を上に突き出し、剣を掴む。


 ルプリレが掴んだと同時に剣は消滅した。


 ルプリレの左腕をジュリットが固定した。


 ルプリレは振りほどこうと、左腕を動かそうとする。


 ジュリットはルプリレの左側に吹き飛ばされた。


 その間に右腕にアイアリが張り付いた。


 ベリーがルプリレを背中から羽交い絞めにした。


 飛ばされたジュリットも瞬間移動で戻って再び左腕を固定する。


 ストルムさんとスーリーさんが僕に向かって跳躍した。


 二手遅い。


 ダッドルさんとラドセスさんは結界をルプリレの前に出した。


 遅い。


 僕は槍を構えている。


 以前カインが使った槍の投擲の模倣を行う。


 ルプリレを仕留める。


 もう間に合わない。


 確定だ。


 僕は槍を投げた。


 このまま命中すると、ベリー達も消滅する。


 解っていた。


 結界を破壊し、槍がルプリレに到達する瞬間、ルプリレが発光した。


 眩い光。


 目が眩む。


 目が見えないが、気配で解る。


 ルプリレは分離した。


 上半身が二つに分かれている。


 プロミとリビア。


 左右から固定され、後ろから羽交い絞めにされていても、すり抜ける事が出来るのだ。


 槍は、ルプリレを羽交い絞めにしていたベリーを貫いた。


 恐らく、何らかの方法で読まれていた。


 仲間に対する二度目の裏切り。


 分離したプロミとリビアが再び一つになった。


 ルプリレ:「さあ、時は来た」


 キシ:「ここからだ、ここからが勝負なんだよ」


 ルプリレ:「貴方は逃げると思ったわ」


 キシ:「僕は自分が創り出したイメージを裏切ったに過ぎない」

 キシ:「本人じゃない」

 キシ:「その認識が鍵だ」


 ルプリレ:「…………」


 ジュリットとアイアリとベリーが僕の横に立つ。


 それぞれが槍を手にしている。


 立会人の四人が止めようとする。


 だが、立会人には止められない。


 三人の具現化した像は立会人をすり抜ける。


 三人は槍で僕を深々と刺した。


 この傷は再生できない。


 致命傷だ。


 裏切ったら致命傷。


 それが僕のイメージだった。


 こればっかりは覆らない。


 僕の死が確定した。


 ここからだ。


 ここからが、真の勝負。


 真の賭けだ。


 震える手で、ポケットからメダルを取り出した。


 僕は精神を集中する。


 僕はカタナになる。


 完全な武器化だ。


 アルコルにはカタナが必要だ。


 完全に武器化して死ぬ。


 僕は武器化した。


 能力を引き継ぐメダルを取り込んだ。


 これで役目は果たしたか?


 ルプリレが呆れているのが気配でわかる。


 ベリーが僕をアルコルに向かって投げた。



(レイセ視点です。)


 カタナが飛んで来た。


 アルコルが受け取る。


 妨害できたが、そうはしなかった。


 カタナからキシの気配がしている。


 どんどん薄まっているが。


 そうか、キシ、死んだのか。


 アルコルがカタナを振り下ろす。


 俺はシロさんで出来た盾で受けた。


 アルコルの攻撃は止まった。


 カタナはビクともしていない。


 右手の片手剣を右から左に払う。


 アルコルは左手をカタナから離し、片手剣を掴んで止めた。


 俺は片手剣から手を離す。


 片手剣が灰になった。


 カーミュがアルコルの左側からバスタードソードで攻撃。


 カーミュはバスタードソードを右から左へ振る。


 アルコルはスライドで左を向き、カタナで攻撃を受けた。


 バスタードソードにカタナが食い込む。


 カーミュは慌てて剣を引いた。


 部分融合の剣では押し負ける。


 牽制にしか使えなくなった。


 カーミュは一旦離脱。


 ヒットアンドアウェイだ。


 バックステップするカーミュにアルコルが斬撃を飛ばす。


 カーミュは円の軌道で慌てて避ける。


 俺は、注視の特技を再び使った。


 アルコルが俺を向く。


 俺はシロさんを盾からカタナに変化させた。


 両手で握ってアルコルに向かって構えた。


 アルコルは右から左に払い。


 俺の手を狙っている。


 俺はアルコルの振りを、カタナを右から左に振って遮った。


 武器同士がぶつかり、高音が響く。


 二人共剣を前に構え直した。


 俺は振りかぶり、下に振り下ろす。


 アルコルは振り下ろしを右に払う。


 俺は一歩後ろに下がり、前に構える。


 アルコルは左足で一歩踏み込み、右から払った。


 俺はそれを右に払う。


 アルコルはスライドしながら後退。


 俺は力の融合を使っている。


 根源から力を引き出せるようになったのが大きい。


 カーミュの助けが無くても、アルコルと互角に打ち合えている。


 このままでは勝負が着かないな。


 そう思った時声が掛った。


 ガリム:「そこまでじゃ」


 そうか。


 殺し合いじゃない。


 試合だった。


 キシが死んだ時点で止めるのが普通だな。


 アルコルも静止に応じた。


 カタナの扱い方がわからないようだ。


 やれやれ。


 一段落だな。



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