9話 次へ向かう

 

 今後も三十階層を超えられそうだとリビアに伝えに行く。


 何と説明しよう?



 仕方がない。


 起こった事をありのまま説明した。




 リビアはなぜか納得している。


 俺は自分で説明しておいてなんだが、信じて貰えると思っていなかった。


 リビアは、


「私はあの時、クリアが奇跡を起こすのを見ました」

「限界を超える所を」

「不思議と私にもできる気がしています」


 と、そう言った。


 そうか、俺だけじゃなかったんだな。


 リビアが回復するまで一人で先に進んでおくと伝えた。


「先に五十階層まで攻略するかもしれないが構わないだろう?」


 リビアは笑っていた。




 リビアの回復力はすごいらしい。


 五か月かかると思っていたが三か月ほどに縮まりそうだ。



 また槍がダメになっていた。


 槍を光らせるとダメらしい。


 槍が耐えられない。


 丈夫な槍がいる。




 槍を買いに行こう。




 あの鍛冶屋に来た。


「うっス」

「クリアさんお久しぶりっス」


「あれ?」

「俺名乗ってたっけ?」


「案内人は有名っスからね」

「自分はバラータって言うっス」

「魔鋼武器ではそれなりに名が通っているっス」

「覚えておいていただけると光栄っス」


「ふーん、魔鋼って何?」


「魔鋼は鉄に魔石を混ぜて作る合金ッス」

「焼き入れすることにより普通の鋼より強度、硬度、耐衝撃性、耐摩耗性、靭性、耐熱性が高い性能を得られるっス」

「その後の研ぎが難しくなるっスが、そのあとさらに付与魔術で強度を高める事もできる、現在最高級素材っス」


「付与魔術を使うってことは魔法の触媒になる?」


「なるっス」

「後加工で魔法耐性も高められるっス」

「防具にも使われるっス」


 自由自在か。


 いいな、打ってつけだ。


 でもお高いんでしょう?


「その魔鋼で槍を作ってほしい」


「形状は前と同じでいいっスか?」

「重量は前より重くなるっス」



 金額の入力された計算機の魔道具を見せられた。


 マジか!


 武器ってそんなにするの?


 払えるよ。


 払えるけどね。


「あと、普通の槍が欲しい」

「今一本欲しい」


「了解っス」

「魔鋼槍のおまけっス」

「魔鋼槍は三週間後のお渡しっス」





 三十一階層まで一週間でたどり着いた。


 三十階層はどうしたかって?


 ちょっと遊んでやったさ。



 三十一階層はまた一フロアだけで構成されている。


 そしてかなり広い。


 出てくるのは、影のミノタウロスだ。


 大きな体躯に牛の頭。


 二本足も牛のそれだ。


 ミノタウロスは長くデカい斧を両手で持っている。


 前のケンタウロスより体格に武器がマッチしている。


 二十九階層の続きと考えるとずいぶん強そうに思える。


 だが三十階層のあいつに比べるとそうでもない。


 ハッキリ言って雑魚だ。




 食料はまだ全然ある。


 敵はわらわら出てくるが問題にならない。


 どんどん進もう。


 三十九階層まで一フロアが続いた。


 フロアの広さはどんどん広くなった。


 そしてフロアの中に段差がところどころあった。


 一段が高くても脛くらいの高さで、それより高かったり低かったりする。


 かなり戦いにくい。


 敵の強さは問題じゃない。


 体力の問題だ。


 出てくる敵はミノタウロスだった。




 まだ食料はある。


 往復できる分は裕にある。


 四十階層の階層主を倒す。




 階層主は八メートル程の馬鹿でかいミノタウロスだった。


 今までの比じゃない大きさだ。


 扉が閉まる部屋じゃない、いつでも引き帰せる。




 ミノタウロスは、体格とは反して機敏に動いた。


 斧の連続攻撃。


 デカい斧をぶんぶん振り回してくる。


 だが素早く振り回し、隙が少ない。


 俺は下がりながら牽制する。


 槍を光らせると槍が壊れるので光は使わない。


 斧に槍を当てて行く。


 威力の高い突きは、斧を上に弾く。


 ミノタウロスのガードは固い。


 斧をすぐに体の前にやるか、反対に間髪入れずに攻撃してくる。


 やはり次の行動までが機敏で隙が少ない。


 構わず斧に突きを当てて行く事を繰り返した。


 斧にヒビが入る。


 こうなるだろうと思っていた。


 あともう少し。



 斧を粉砕した。


 隙の出来たミノタウロスに留めをさした。


 まだまだ余裕がある。




 四十階層を攻略できた。


 いったん帰ろう。




 帰りの二十七階層でトアス、タロスト、クレストに会った。


 クレストににらまれている気がする。


 リビアの弟だからな。


 仕方ない気もする。


 リビアに似て美形だ。


 タロストは喋らない。



 トアスとは久しぶりだ。


「やあ、やっと会えたね」

「リビアを助けてくれてありがとう」


「いや、あれは助かったって言えるのか?」


「命があったんだ」

「助かったんだよ」

「今日は三十階層に挑戦かい?」


「いや、三十階層はもういい」

「今日は四十階層を攻略してきた」


「!!!!」

「一人でかい?」


「ああ」

「この分だと五十階層はすぐだ」


「………」

「僕たちは思い違いをしていたらしい」

「三十階層での事を少し教えてくれないかい?」


 俺は詳しく説明した。


「…………」

「やっぱりね」


 なんなんだよ。


「僕たちは今日三十階層に行くつもりなんだ」

「君は拠点に戻るんだよね?」

「戻ったらダズに四十階層を攻略したとしっかり伝えるんだよ」

「それで伝わると思う」

「四十階層攻略おめでとう」




 拠点に戻ってきた。


 やはりダズは拠点にいた。


 かなり気まずいが声を掛ける。


「ダズ」

「四十階層を攻略してきた」


「一人でか?」


「トアスにも言われたよ」


「あいつに会ったのか」

「よく気が付く奴だ」


「一人がそんなにおかしいか?」


「いや」

「リビアを見舞いに行った時、三十階層での詳しい話を聞いておいた」

「見当は付いている」

「お前には三十階層の情報を与えておくべきだった」

「済まない」


 ダズ謝るな。


 お前は悪くない。


 俺も想像がついている。


 悪いのは俺だ。


 俺がリビアを死なせそうになった。


 それが真実だ。


「三十階層は、入った人間の実力に合わせて、出てくる魔物の強さが変わるんだろ?」


「気が付いていたのか?」


「あの悪魔の性格の悪さは俺の中にある暴力性そのものだ」

「気づく」


「そうか」

「しかし、一年経たずに一人で四十階層か?」

「笑えるな」


「ダズも一人で行けるだろ?」


「俺と比較するな」

「生意気すぎるぞ」


「この分だと、武器が仕上がったら五十階層もすぐだ」


「五十階層も一人で行く気か?」


「まだ全力が出せてない」

「行けるさ」




 リビアの見舞いに来た。


 四十階層を攻略出来たと伝える。


 おめでとう、と言われた。


 先に五十階層を攻略するから、リビアが治ったら三十階層より先を案内させてくれ、と言ってみた。


 リビアは、一人で大丈夫です、って返事しやがった。


 年下に気遣われるのが嫌みたい。


 意地っ張りめ。



 元気そうで良かった。




 武器が出来た。


 バラータから受け取った。


 赤い。


 赤い槍だ。


 使った魔石の色がそのまま反映されるらしい。


 良い色だ。


 気に入った。


 なんとなく長い付き合いになりそうだ。




 また一か月分の準備をする。


 今度は五十階層攻略を目指す。




 槍が使いやすい。


 前より重いが、俺の身体能力が上がっている。


 軽く振り回せた。


 槍に光を載せるのが容易になった。


 光は魔法の一種かもしれない。


 光を載せても槍はびくともしていない。


 魔鋼で作ったのは正解だった。




 もう遠慮しない。


 黒い光を載せた攻撃を、惜しげもなく使っていく。


 全ての敵を一撃で打っていく。




 一週間で四十階層まで来た。


 デカいミノタウロスも光を載せた攻撃を食らわせ、一撃で倒した。




 四十一階層だ。


 部屋と通路がつながった構造だ。


 二階層に似ている。


 だが天井は高い。


 出てくる敵は、あいつだ。


 三十階層のクソ悪魔だ。


 うじゃうじゃ出てきやがる。


 戦っていると、そばで影が集まって生成する。


 武器を持っていないが、こいつらは運動神経がいい。


 非常に邪魔くさい。


 端から倒していく。


 まだこいつを見ると少しりきんでしまう。


 早く抜けてしまおう。




 四十一階層から四十九階層まで同じような構造だった。


 たぶん階層を移動するごとに部屋の位置が変わるタイプだ。


 敵はあの悪魔だ。


 問題なく進めた。




 ついに五十階層。


 たぶん、案内人としてやっていけるかの大きな節目になる。


 正直まだ全力は出せていない。


 余裕がある。


 行けるだろう。




 階層の入り口に扉がある。


 入ると閉じるやつだろう。


 覚悟を決めて中に入る。



 影が中央に集まっていく。


 影の大きさはそれほど大きくない。


 しかし、気配読みの危険信号が煩い。


 三十階層の時より上かもしれない。


 そんな予感がする。



 現れたのは、二刀流の影の騎士だった。


 手に一本ずつ両刃の片手剣を持っている。


 影は鎧の騎士の様に見えた。


 人間の大きさと大差ない。


「Kuaaaaaaaaa!!」


 甲高い声を上げて突進してきた。


 鎧風の影は鋭く切り込んでくる。


 一瞬で間合いの内側に入られた。


 異様に素早い。


 二刀同時に振り下ろしてきた。


 たまらず柄で受ける。


 余りの衝撃に足元が砕ける。


 二刀同時に振り下ろしたら、二刀を持っている意味がないだろ!


 バカじゃ無いか?


 でたらめ過ぎる!!


 そこから騎士は体を回転させ横に二刀薙ぎ払ってくる。


 間合いが近い。


 躱せない。


 柄で受けるしかない。


 防戦一方だ。


 距離を取ろうと足で騎士を押し返し、後ろに飛んだ。


 騎士は俺のバックステップに追従してくる。


 距離を取らせてくれない。


 騎士は右、左、右と払いを繰り出す。


 二刀同時だ。


 動きが素早い。


 躱せない。


 右、左、右と柄で受ける。


 柄の間を縫うように左を差し込んできた。


 ギリギリ身を捻らせて躱す。


 柄で押し返して無理やり体と体の間に、槍の先を滑らせる。


 狭い間合いでの渾身の突き。


 黒い光は騎士の鎧を貫いている。


 だが止まらない。


「Weeeeeee!!」


 甲高い声を上げて右で突いてきた。


 速い。


 とっさに体をずらせて躱す。


 騎士の左が右に払われる。


 距離を取ろうと俺はバックステップ。


 また追従してくる。


 騎士の動きが鈍らない。


 突きが効いていない。


 異常な瞬発力で間合いの内側に入ってくる。


 また二刀同時の振り下ろし。


 柄で受ける。


 柄で押し返そうとするが、今度は二刀に更に力を込めて逆に押し返してくる。


 すさまじい力だ。


 後ろに飛びのいて、前に突きを繰り出す。


 カウンターの突き。


 黒い光は今度も騎士の鎧を貫いている。


 だが倒れない。


 更に俺はバックステップ。


 距離を取って光る突きで奴を貫く。



 一回。



 二回。



 三回。



 騎士は消滅した。





 倒した。



 苦しい戦いだった。


 一歩間違えれば死んでいた。


 だが、これは始まりに過ぎない。


 只の訓練だ。


 そう思おう。


 こいつとはこれから何度となく戦い、全て勝っていく。


 案内人の仕事はここからが本番だ。


 達成感が無いわけじゃ無い。


 気持ちを切らさず、熱い心のまま、次へ、次へと向かうのだ。




 さあ、拠点に戻ろう。

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