42話 気合の問題


 レイセ:黒戸零維世。

     レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

     連合国クロトと聖国クリアの王。

     カーミュ・セーグルと融合した。

 ルプリレ:プロミとリビアと女性の元管理者が融合した存在。

 リビア:リビア・クロト。

     聖国クリアの元代表。

     レイセと結婚している。

 プロミ:プロミネンス。

     ルビー・アグノス。

     黒崎鏡華。

     月と太陽の国アウグストラの女王。

     現人神。

     レイセと結婚している。

 ジャド:『マギ』のエース。

     キシに次期纏め役に推されている。

     三番目の真理への到達者。

 アルコル:黒巣壱白の分裂した姿。

      『能力』が使える。

      『リーベラティーオー』のリーダー。

 ぺセシュ:『創聖』のヒーラー。

      ロミールの双子の妹。

      戦闘の指揮を行う。

 ジーク:聖国クリアの守護者。

     クレラメイと融合。

     真理への到達者。

 アリシア:『悠久の旅人』のエース。

      クリアの孫。

 ファガス:海洋国家ドバスカリの王。

      黄山十夜。


    


(ファガス視点です。)


 四百五十階層を攻略した。


 出来てしまった。


 レイセが突出していた。


 あんなに速く攻略出来たのはレイセのおかげだ。


 何度も言うが、レイセが突出している。


 俺達は付いて行けていない。


 ダンジョン攻略に時間が欲しい。


 もう少し、鍛えたい。


 鍛えて、レイセに追いつきたい。


 四百五十階層を攻略して戻って来た今日は、メンバーで焼肉を食べている。


 活気は余り無い。


 レイセがかっ飛ばしすぎたせいだ。


 本人は疲れたらしい。


 飲みながらウトウトしている。


 お前がそんなだと、怒る気無くすわ。


 ベンチに座って、ウイスキーをこぼしかけているレイセをルプリレが介護。


 微笑ましい。


 が、俺はそんな場合じゃない。


 ルプリレに直訴だ。


 ファガス:「ダンジョン攻略のペースを落として貰えないか?」


 ルプリレ:「確かに、最近のレイセはおかしい」

 ルプリレ:「付いて行けない」


 ファガス:「言葉が通じて助かった」


 レイセ:「眠い」

 レイセ:「気合の問題だろ?」


 ファガス:「気合云々で根源に手なんて突っ込めるか!」


 レイセ:「眠い」

 レイセ:「うるせー」

 レイセ:「気合で何とかする以外に、無いわ」


 ルプリレ:「シロさんの自主訓練が終わったから、レイセにはシロさんとの訓練の時間を取らせるつもりなの」

 ルプリレ:「自然と攻略ペースは落ちるわ」

 ルプリレ:「五百階層まで残り少ないし」

 ルプリレ:「ファガスも参加する?」


 ファガス:「俺か?」

 ファガス:「なんで?」


 ルプリレ:「なにか掴めるかもしれません」

 ルプリレ:「ちなみに、明日は私も見学します」


 レイセ:「明日の話だろ?」

 レイセ:「明日考えろ」

 レイセ:「今日は、今しか出来ない話するぞ!」

 レイセ:「ファガス、カルビが旨い、食べとけよ」


 ファガス:「寝るのか食べるのかどっちかにしろよなー」

 ファガス:「カルビな、食べるわ」


 レイセ:「塊のやつな」


 ファガス:「ああ、長い奴?」


 レイセ:「それ!」


 ファガス:「お前、どんだけ飲んだんだ?」

 ファガス:「呂律まわってないぞ」


 レイセ:「神獣の解毒作用が不調だ」

 レイセ:「想定外」


 ルプリレ:「ウイスキーをハイボールで飲んで、ウイスキーの瓶二本あけてるわね」


 ファガス:「明らかに飲み過ぎだろ」


 レイセ:「トイレ行ってくる」


 ルプリレ:「自分で歩ける?」


 レイセ:「大丈夫」


 ルプリレ:「ホントに?」


 レイセ:「大丈夫」


 レイセはふらふらとトイレに向かう。


 ルプリレは仕方ないからついて行った。


 ルプリレは終始笑顔だ。


 リラックスしているレイセが見られて満足らしい。


 俺はレイセに言われたカルビが焼けた。


 ハサミで切って食べ易い大きさにする。


 箸でつまんで口に入れる。


 肉汁が口の中いっぱいに広がる。


 柔らかい。


 美味い。


 美味いなー。


 泣きそうになる。


 お前はー。


 そんな、ドロドロに疲れて、ドロドロに酔って、それでも俺に気を遣うのか?


 はー。


 うめ―。


 もう一枚焼こう。


 レイセの分も焼いてやるか。


 もう食べ終わっていた感じだが関係ない。


 無理やり食わせてやる。


 レイセとルプリレが戻って来た。


 レイセ:「ウイスキー飲む?」


 ルプリレ:「アタシ、お酒はそんなに」


 レイセ:「俺がどんなのが好きか、興味ない?」


 ルプリレ:「ずるい言い方ですね」


 レイセ:「一口で良いから、飲んどいて」


 ルプリレ:「もー」


 俺の事は無視か?


 レイセ:「聞いていたか?」


 ファガス:「俺に言っているのか?」


 レイセ:「そりゃそうだろ?」


 視線がおかしなところにあっているんよ。


 わかるか!


 レイセ:「明日の訓練では、シロさんの具現化能力を試すつもりだったんだ」

 レイセ:「お前が来るなら、根源に繋がる所見せるか」


 いきなり真面目な話。


 そう。


 こいつ、真面目な話と、そうじゃ無い話の区別無いんだった。


 その日はそのまま終わった。


 リアンナは『クレイモア』と接触して、こっちに来なかった。




 次の日。


 訓練場。


 レイセが迷宮都市に作った訓練場。


 訓練は午前から始まった。


 俺は見学。


 ルプリレと同じ。


 見ているだけ。


 これで何かのヒントになるのか?




 訓練が始まって二時間。


 レイセはシロさんに殴られ続けている。


 未来予知を使えるシロさんに、正攻法で勝つのは不可能だ。


 レイセは足掻きながら、手が無いか考えているようだ。


 訓練は訓練のていを成していない。


 ただレイセが殴られているだけだ。


 レイセが、ルプリレが見せたかった物とは?


 ルプリレはよく我慢出来るな。



 バキッツ!


 またレイセが殴られた。


 訓練は更に二時間経っていた。


 訓練は終わらない。


 レイセの顔はボコボコだ。


 こんな物を見せられるなんて。


 目的が見えない。


 ルプリレの表情は真剣だ。


 何かに耐えている。




 その後もレイセは殴られ続けた。


 意味がわからない。


 ルプリレに、帰って良いか? って聞くと、ダメと断られた。


 絶対に帰ってはダメらしい。


 その後、更に数時間レイセは殴られていた。



 ある時からレイセの動きが変わる。


 殴られるだけじゃない。


 殴られた瞬間、拳を振り回すようになった。


 ヤバい。


 解って来た。


 ゾクゾクする。


 殴られた瞬間、拳を振り回すレイセを見続けた。



 これだけ殴られて、まだ続けられるのは、根源に繋がっているからだ。


 根源を感じているだけじゃない。


 根源に触れて、手を突っ込んでいる。


 そうじゃないと説明がつかない。


 そして、殴り返す拳の精度が上がってきている。


 動きを読まれて一方的に殴られているのに、殴り返す拳の位置が、まともになっている。



 更に数時間レイセは殴られた。


 もう夜だ。


 レイセの拳は、シロさんに届くようになった。


 カウンターじゃない。


 同時だ。


 シロさんから殴られる方向を予測し、その方向に振り抜く。


 威力もシロさんと同等だ。


 これだ。


 こうなる事がわかっていたんだ。


 だから俺に見させた。


 確かに気合の話だった。


 気合だ。


 気合だけで追いつきやがった。


 根源との繋がりは気合。


 言葉でなく、態度で現した。


 気合を馬鹿にしていた。


 違う。


 全ては気合の問題だった。


 やられた。


 お前がそういう態度なら、俺にも思う所あるぞ。


 レイセの頭が跳ね上がると同時に、シロさんの頭も跳ね上がる。


 そんな時間が更に数時間続いた。


 もう夜中だ。


 音を上げたのはシロさんだった。


 レイセは耐えやがった。


 これで解った。



 俺には気合が不足している。


 気合をバカにしていた。


 気持ち云々でどうにかなる事は少ない。


 それはそう。


 だが、気持ちでどうにかなる問題もある。


 有るのと無いのとでは全然違う。


 今回のレイセの行動に感動した。


 レイセ。


 お前。


 やるな。


 感心した。


 確かに気合の問題だわ。



 レイセはしばらく休憩した。


 顔の傷が消えて行く。


 レイセに俺は声を掛けた。


 俺と勝負しろと。


 今からだ。


 夜からやる。


 今思い付いたんだ。


 俺をその気にさせたんだ、付き合ってもらう。



 レイセは、いいぜ。


 と、よ。


 今から付き合ってくれるらしい。



 俺はレイセの顔面を殴る。


 レイセは俺の顔面を殴る。


 その繰り返し。


 俺は、根源に手を突っ込んだ。


 クラクラする。


 何処に立っているか定かじゃない。


 でも、そうしないと殴り返せない。


 どれだけ殴り返しても、レイセは返して来る。


 半端無い。


 レイセ、お前って奴は。


 俺達の殴り合いは朝まで続いた。


 ルプリレは付き合ってくれた。


 リアンナも途中から見ていた。


 結局、レイセが殴り勝った。


 俺は勝てなかった。


 だが解った。


 躊躇しない。


 根源から力を引き出す。


 俺はかなりコツを掴んだ。


 そうだよな。


 無理しても、そうそうは壊れないよな。


 魔物の王との戦いでは、活躍してやる。


 たぶんそうなる。


 見とけよー。


 俺はリアンナをお姫様抱っこして帰った。


 レイセもルプリレも機嫌良さそうだった。


 そうだろう。


 俺が飛躍したからな。


 ホントに見とけよー。

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