12話 ”色欲”と”怠惰”


(ファガス視点です。)


 俺は階段の下か。


 急ぐ。


 レイセ達に近寄らせない。


 それにしても、俺一人で大丈夫か?


 シェルミとカインに騙されて無いか?


 ちょっと不安だ。




 いた。


 少年が一人。


 中学生位の見た目だ。


 美しい顔立ちだから、性別がハッキリしない。


 服装から少年と判断した。


 話しかける。


 ファガス:「お前が”色欲”のアスモデウスで間違いないか?」


 アスモデウス:「間違いないですよ」


 ファガス:「その見た目で戦うのか?」

 ファガス:「年齢を操作出来るんだろ?」


 アスモデウス:「余裕ですね」

 アスモデウス:「その余裕、いつまで続くかな?」


 アスモデウスは指を鳴らした。


 瞬間、リアンナが二人出現した。


 際どい服装をしたリアンナが二人。


 奴が具現化した像だ。


 本人じゃない。


 リアンナはアスモデウスに頬を撫でられ、うっとりしている。


 はー。


 落ち着け。


 挑発だ。


 わかり易い挑発。


 イライラするが、許容範囲だ。


 アスモデウス:「顔色が変わりましたね」

 アスモデウス:「余裕はどうしました?」


 ファガス:「うるせー」

 ファガス:「余裕なんて始めからないわ」

 ファガス:「さっさと始めるぞ」


 アスモデウスはレイピアを具現化した。


 リアンナの像二人もレイピアを具現化した。


 リアンナの像の一人が俺の後ろに回り込む。


 俺はアスモデウスから目が離せない。


 何をしてくるかわからない。


 俺の右側に、もう一人のリアンナが移動する。


 俺は双剣を出した。


 こちらから仕掛ける。


 そう思った瞬間、アスモデウスから鋭い突きが来た。


 一瞬で半身に構え、踏み込んで来た。


 俺はその突きを左側に避けた。


 光る突きは伸びて、俺の後ろに回っていたリアンナに届いた。


 リアンナは胸を突かれてその場に倒れた。


 胸を突かれたリアンナは、突き刺された瞬間、ファガスとつぶやいた。


 リアンナの像は残ったままだ。


 お、俺が避けたらリアンナが刺されたのか?


 その発想が脳裏によぎる。


 アスモデウス:「どうやら、罪の意識を感じた様ですね」

 アスモデウス:「僕には、僕がどんな像を出現させているか把握出来ていません」

 アスモデウス:「貴方の弱点になる存在が見えている筈です」

 アスモデウス:「罪悪感があるなら、貴方は負ける」

 アスモデウス:「この術にかかって死ななかった存在は皆無です」

 アスモデウス:「ダメ押しに宣言しておきます」

 アスモデウス:「避けた場合にどうなるか、少しも考えなかったのですか?」

 アスモデウス:「僕の勝ちだ」


 倒れたリアンナは黒い霧に成って俺に近づいてきた。


 俺は避けようと、バックステップ。


 俺が動くのに合わせて、霧も移動し、俺は霧を吸い込んだ。


 避けられなかった。


 身体が重く感じる。


 気分が悪くなって来た。


 吐きそうだ。


 色欲は精神攻撃を使ってくる。


 わかっていた事だ。


 全てまやかしだ。


 わかっている。


 解っていて引っかかってしまった。


 どうする事も出来ない。


 されるがままだ。


 どうする?


 考える時間が欲しい。


 黒い霧を吸い込んだ所為で、思考が鈍い。


 考えが纏まらない。


 どうやら時間切れだ。


 もう一人のリアンナが俺の後ろに回り込む。


 やはり俺はアスモデウスから目が離せない。


 アスモデウスが動いた。


 高速の光る突き。


 俺は左手に盾を具現化し、盾で突きを上に逸らした。


 俺は突きを逸らしたと同時に右手に槍を創り出し、前に突いた。


 突いた。


 アスモデウスだと思っていた存在は、リアンナだった。


 俺が突いたリアンナは倒れた。


 アスモデウスを殺す気で突いた。


 リアンナは倒れた。


 落ち着け、どうせ虚像だ。


 アスモデウス:「敵の能力が判明していないのに、迂闊に反撃をする」


 後ろから声がする。


 後ろにいたリアンナと、前にいたアスモデウスが入れ替わっている。


 俺は後ろを振り返った。


 アスモデウスがレイピアを前に構えて立っていた。


 確かに迂闊だった。


 リアンナが死んだ姿を見せられて焦ってしまったのか?


 また罪悪感。


 一瞬思考が停止した。


 その隙に俺はまた黒い霧を吸い込んだ。


 身体に力が入らない。


 膝をついてしまいそうだ。


 立っているのがやっとだ。


 思考が定まらない。


 リアンナを刺した感覚が手に残っている。


 気持ちが折れてしまいそうだ。


 アスモデウスはまた指を鳴らした。


 リアンナが二人出現する。


 くそう。


 まだその攻撃が続くのか。


 アスモデウス:「まだ続けますか?」


 こっちのセリフだ。


 絶対倒す。




(ジャド視点です。)


 ベルフェゴールは笑っている。


 背の高い、痩せた男。


 ベルフェゴール:「どうした?」

 ベルフェゴール:「掛かって来ないのか?」


 男までの距離、五メートル。


 僕は一歩で踏み込み、左拳を左から右に振った。


 ベルフェゴールは盾を具現化して防御。


 魔法の流し込みを試みるが、淡く燃えている盾が魔法を遮断している。


 盾に接触して解った。


 僕の全属性融合魔法より強力な魔法で盾を覆っている。


 長く触れていると、僕の拳がダメになる。


 ベルフェゴールはバックステップ。


 五メートルさがった。


 ジーク:「アリシア、頼む」


 アリシア:「わかったわ」


 アリシアが盾になって、ジークが装備する。


 ジーク:「俺が行く」


 ジャド:「いや、僕が行く」

 ジャド:「恐らく、次は反撃がある」

 ジャド:「防御を頼む」


 ジーク:「了解」


 僕はベルフェゴールの目の前に瞬間移動して、右のアッパーカット。


 ベルフェゴールは頭を横に動かして避けた。


 躱したと同時に、ベルフェゴールは膝蹴りを繰り出してきた。


 動きが速い。


 来たと思った時には喰らっていた。


 僕は吹き飛んだ。


 バン!!


 と音が後から響く。


 吹き飛んだ僕に向かって、ベルフェゴールは魔法を撃って来た。


 溜が少ない。


 僕は態勢が崩れて躱せない。


 ジークが盾で防御に入ってくれた。


 空中に結界を具現化し、足場にして炎の塊を防御。


 凄まじい勢いで飛んで来た炎をジークは防御したが、炎の勢いを殺せず吹き飛ばされた。


 炎の塊の飛ぶ角度は変わった。


 飛び去った炎の塊は破壊不能物質で出来た壁を焼いている。


 ふー。


 落ち着け。


 敵は押し込んで来ない。


 状況は?


 僕はあばらを数本折られた。


 重症だ。


 部分融合で補強するが、痛みは残る。


 異常な威力の炎だったが、その前のアッパーからおかしかった。


 わかっていたかのように躱された。


 動きが速いだけじゃない。


 無駄が無い。


 七つの大罪、”怠惰”。


 弱点を見つけ、後の先を取って来る。


 左拳で殴った時に、何らかの癖から弱点を見つけたのか?


 もしそうなら、ジークは?


 ジークも弱点を掴まれたか?


 ジーク:「俺が行く」


 ジャド:「ああ、弱点を完全につかまれない内に倒す」


 ジークが自分の間合いまで近づいた。


 ジークは大盾で横に殴る。


 ベルフェゴールは盾で防御。


 ジークは右足で蹴りを入れる。


 ベルフェゴールは盾で防御。


 最初の大盾の攻撃を防いだ時は衝突音がしていたが、右足での蹴りでは音がしなかった。


 ヤバい。


 僕は瞬間移動して、ベルフェゴールの後ろに出た。


 腹に向かって、右から左に振り抜いた。


 ベルフェゴールは振り返ってフックを防御。


 ベルフェゴールが後ろを向いた瞬間、ジークが大盾で殴ろうとする。


 ベルフェゴールは左手を後ろに向けて炎を放った。


 ジークは大盾で殴るのを止めて、炎を防御。


 ジークが炎を防御したと同時に、ベルフェゴールは振り返ってハイキック。


 ジークは前からの炎を防御していた為、横からのハイキックを防御出来ず、横に吹き飛んだ。


 僕は瞬間移動してジークを受け止め、破壊不能物質で出来た壁に叩きつけられるのを防いだ。


 吹き飛んだジークと、受け止めた僕に向かって、さっきより大きな炎の塊が飛んでくる。


 ジークは態勢を立て直し、僕の前に大盾を構えて防御した。


 炎の塊を横に逸らす。


 炎の攻撃でベルフェゴールから目を離してしまった。


 気付くと、ベルフェゴールは僕の間合いに入って、右腕を振り上げていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る