15話 出会い
目が覚めると、涙を流していた。
最近多い。
寝ている途中で目を覚ます事も増えている。
何かを思い出しそうになって目が覚める。
前世の記憶というやつなのか?
あのよく見る夢に関係している。
差し迫る何かを感じ、何かを思い出そうとするが、思い出せない。
何を忘れてしまったのだろうか?
顔を洗いに行くと、洗面所にリビアもいた。
涙を流す俺を見て、心配そうにしている。
俺は笑顔を作って言う。
「心配しないでください」
「何でもないんです」
そう言うので精一杯だった。
案内人になって五年目。
また春が来た。
案内人生活は順調だ。
相変わらずリビアと新人枠を担当している。
アルとクレストさんも無事に案内人になった。
俺の悪だくみは成功し、クレストさんも結界を使えるようになった。
ついでにタロストさんとトアスさん、ちゃっかりダズも。
ジグ爺とスワルズさんはダメだった。
アルは俺のグループ、クレストさんはトアスさんのグループに属している。
あんなに俺を嫌っていたアルとは、今や同僚で飲み友達だ。
気が合う。
俺とアルにリビアも加わって、同じグループ三人で飲む事もある。
最近は一人で外に出る事が多くなった。
前はリビアとよく外に出ていたが、ここしばらくリビアはダズと外に出ているようだ。
ダズに気配読みを習っているらしい。
正直、リビアの気配読みに訓練の必要は無い。
そう思う。
俺は避けられているのかもしれない。
最近、俺はリビアが何を考えているか良くわからない。
付き合いが長すぎるのが、良くない方向に作用しているのか?
一度二人で話す時間を作るかな。
俺が外に出るのは、腕が鈍るからだ。
ダンジョンは五十階層よりも下がある。
ダズ達先達から、絶対に降りるなときつく言われている。
理由は不明だ。
考えるなと言われている。
だから、強い奴との緊張感を外に求めるしかない。
相変わらず絶対に会ってはいけない奴もいる。
それでも、そいつらを避けて行動するコツを掴んでおきたかった。
場数が物を言う。
とはダズの言葉だ。
俺は不測の事態の為に鍛えておきたかった。
前に死にかけた時の記憶は薄れつつあった。
今、案内人で力を入れているのは、次の案内人候補をスカウトすることだ。
ダズはもっと人数を増やすつもりらしい。
忘れてしまった何かは外にある。
そんな気もしていた。
今日も外に出る。
人の気配がする。
外でだ。
今、案内人は俺以外、外にいないはずだ。
急いで気配の方に向かった。
子供だった。
三人いる。
どの子も十二歳程といったところだろうか。
やせ細っているのでもっと年が上かもしれないが。
保護しようと声を掛けるが言葉が通じない。
何と日本語で返してくる。
俺は、ああそうか、日本語かと思い、
「助けてあげるから付いて来て」
と日本語で返した。
何故か驚いた顔をされる。
俺は夢でさんざん日本語を聞いている。
普段使っている英語もどきより達者なくらいだ。
少し面白いなと俺は思った。
子供たちに悪いが。
子供たちはしぶしぶと付いてくる。
警戒心はまだ解けていない。
実を言うと俺も警戒していた。
何にか?
子供たちにだ。
子供たちが放つ気配はそこらの魔物よりずっと強い。
近寄ってくる魔物は少ないだろう。
俺は三人に襲い掛かられた場合の事を考えている。
三人に連携されれば俺は死ぬ。
子供たちは武器を持っていないが、頭の中で何回シミュレーションしてもそうなる。
確実だろう。
ダズが俺に声を掛けた時もこんな気持ちだったのだろうか?
この魔槍のクリア様が子供を恐れている。
魔槍のクリアか。
大層な二つ名だ。
笑って済ます胆力が求められてるんだろう。
連れて帰る前に警戒心を解かないといけない。
声を掛ける。
「どこから来たの?」
「石牢から逃げてきました」
「貴方は何者なんですか?」
何者か?
どこかで聞いた様なセリフだ。
まだ名乗っていなかった。
「僕はクリア」
「ダンジョンを案内する仕事をしているよ」
「今日はたまたま町の外にいたんだ」
「言ってる事わかる?」
首をかしげる。
やっぱりわからないらしい。
よくある事だ。
笑い飛ばそう。
確かに場数が物を言う。
今まで一人の子供がずっと受け答えをしている。
達者にしゃべれるのは一人だけらしい。
俺はダンジョンと、壁に守られた町、案内人について説明した。
「なるほど、わかりました」
「貴方は信用できそうです」
聡明な子供だ。
「名前はなんていうの?」
「僕はベル」
「そっちがカー」
「女の子がランです」
名前があってよかった。
無い可能性もあった。
「警戒を解いて貰えますか?」
バレていたらしい。
聡明な彼をますます気に入った。
「そっちも頼むよ」
俺とベル君が警戒を緩めたのがわかったのか、残りの二人も警戒を緩めてくれた。
「石牢について聞いていいかい?」
「ええ、大丈夫です」
「だいぶ落ち着いてきました」
「ここから三日ほど行ったところにある、石で出来た牢屋に閉じ込められていました」
「鉄格子から、黒い角の生えた白装束の男が見えました」
「見たのはほんの一瞬だけですが」
「石牢での生活は……」
「あまり言いたくありません」
彼らは皆やせ細っている。
無理に聞き出さない方が良さそうだ。
「もう少し速く歩いても良いかい?」
「このペースだとあと三日かかるんだ」
「走っても大丈夫です」
「三人とも走れます」
「じゃー、ペースを上げるよ」
残りの二人もうなずいている。
聞き取りは出来ているようだ。
いつも一週間分の食料を持ってきている。
三人で分けても十分持つだろう。
一日でサバスに着いた。
帰りが遅いのでリビアが壁の前まで迎えに来ていた。
もう少しで行き違いになる所だった。
町に戻ってから、石牢での生活についてそれとなく聞き出した。
牢の中に時々入れられてくる魔物を食べて、食いつないでいたらしい。
調理せずにだ。
かなり壮絶な体験だ。
それではしゃべりたくも無くなる。
言葉も日本語しか通じない。
サバスで生活するのは大変だろう。
しばらくは俺が面倒を見なくてはいけない。
ダズと相談だな。
子供たちがサバスに着いて二週間がたった。
兵士と結界師の寄宿舎に、四人部屋を借りて過ごしている。
彼らは必死で言葉を覚えている。
まあ、一番必死なのは俺なのだが。
二週間子供たちに付きっ切りで、案内人の仕事は休まざるを得なかった。
その代わりと言えば良いのか、子供たちの覚えるスピードは驚異的だ。
そろそろ日常会話をこなせそうだ。
「気分はどうですか?」
「ベリーグッド」
「昨日はよく眠れましたか?」
「アイコールドスリープウェル」
心配されているようだ。
今朝、泣いているところを見られたせいだ。
つまり日本語で質問され、英語で答えて教えている。
質問攻めだ。
疲れる。
アイムベリータイアード。
ダズには一か月時間を貰った。
この一か月の間に、案内人にスカウトする。
人材としては申し分ない。
ダズには強引で構わないと言われているが、無理に薦めたくないのが本音だ。
ダズだって本音はそうだろう。
自分から興味を持ってくれれば良いが。
そう思っていたら、聡明な彼、ベル君が聞いてきた。
「いつまで僕たちはここにいられますか?」
正直に話すしかない。
彼は聡い。
嘘をつくと信用が無くなる。
「君たちには、あと二週間で有る選択をして貰う」
「答えによってはそれでお別れになるかもしれないね」
「ここにいられなくなるだけだよ」
「君たちの親になってくれる人達のところに行くだけさ」
彼は少し考えた後、こう質問した。
「あなたの望む答えなら、もっとこのままでいられますか?」
あなたの望む答えなら、か。
その賢さは悲しいな。
そう思ってしまった。
俺は悪人だ。
ダズの事を悪く思っている訳じゃ無い、俺には合っていた。
彼らはどうか?
一緒にいたいだけだ。
全部バレている。
案内人に誘うしかない。
信用してくれているからこその正直な問いかけだ。
「僕と同じ案内人になるなら、ここに三人一緒にいられるよ」
命の危険がある職業だ。
だが忠告しなかった。
たぶん彼にその説明は必要ない。
そもそも彼はわかったうえで質問してきたのだ。
「僕は案内人になります」
彼は即答した。
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