第24話 検証

 


 レイセ:黒戸零維世。

     レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

     連合国クロトと聖国クリアの王。

 アリシア:『悠久の旅人』のエース。

      クリアの孫。

 ジーク:聖国クリアの戦士。

     レイセに認められ、鍛えている。

     クレラメイと融合した。

     真理への到達者。

 プロミ:プロミネンス。

     ルビー・アグノス。

     黒崎鏡華。

     月と太陽の国アウグストラの女王。

     現人神。

     レイセと結婚している。

 アリア:『フィナリスラーウム』所属。

     ニーナ、プロミと親友。

     ダズに交際を迫られているが、保留中。




(レイセ視点です。)


 アリシアとジークの距離は百メートル。


 アリシアは風魔法のエアカッターを連続で放ちながら、ジークを追いかける。


 ジークはアリシアの方を向いたままバックステップして百メートルを維持している。


 ジークはエアカッターを、部分融合で作り出した刀で撃ち落としながら後退し続ける。


 アリシアのエアカッターは威力が小さいが隙も小さい。


 威力の小ささを手数で十分補えている。


 エアカッターを撃ち落とすのに精一杯で、ジークは前進できないでいる。


 ここまでは想定内。


 肝心なのはここからジークがどう攻撃を仕掛けるか、だ。


 ジークは短弓を二組具現化した。


 同時に腕を二本部分融合で追加する。


 エアカッターを短弓二組で相殺するようだ。


 部分融合で矢をほぼ無限に作り出せる。


 ジークは後退しながら、飛んで来たエアカッターを矢でどんどん相殺した。


 エアカッターに押されていたジークは後退を辞め、アリシアも前進を辞めた。


 エアカッターと矢の打ち合いだ。


 手数の勝負。


 結界も使い出し、お互いの攻撃を阻害し合う。


 次第にジークの矢が増え、アリシアのエアカッターが減っていく。


 アリシアは後退。


 ジークは前進。


 形勢は逆転した。


 なるほど。


 一応試してみる価値はあるかもな。


 レイセ:「二人共、もう良いぞ、ありがとう」


 ジーク:「ここからの展開は良いのですか?」


 アリシア:「そうよ」

 アリシア:「ここからが肝心じゃない?」


 レイセ:「そう焦るな」

 レイセ:「限定された条件下での選択肢の検証だ」

 レイセ:「後で試すさ」


 ジーク:「次は僕と王で同じ状況を再現しますか?」


 レイセ:「アリシアでは、仮想仮面の男には不足か?」

 レイセ:「言うようになったなー」


 アリシア:「失礼しちゃうわね」


 ジーク:「仮面の男の飛ぶ斬撃を矢で撃ち落とせた場合には有効な手かもですが……」


 レイセ:「まーな」

 レイセ:「今回シロさんには文字通り盾になって貰うつもりだ」

 レイセ:「仮面の男の斬撃の勢いを殺す武器は部分融合で作らないといけなくなる」


 アリシア:「シロさんが盾になっても仮面の男の斬撃を防げるか、わからないんだっけ?」


 レイセ:「そうだ」

 レイセ:「仮面の男の攻撃は全て一撃必殺だ」

 レイセ:「シロさんが盾になる位しか手が無い」

 レイセ:「部分融合では無理の可能性が高い」



 今、ベル達は『狂奔』に会いに、迷宮都市に出かけている。


 俺とジークの訓練の時間を作る為だ。


 時間を無駄にできない。


 俺は、仮面の男と戦う。


 リビアとプロミは、キシと戦う。


 魔物の王と戦うには、『フィナリスラーウム』と『リーベラティーオー』の共闘が必要だ。


 これは管理者が、共闘しないと勝てない、と明確に提示してきた、いわゆる達成条件だ。


 魔物の王を倒すには、達成条件を満たさないと無理だろう。


 そうなるように出来ている。


 たぶんだが。


 ならばなぜ『フィナリスラーウム』と『リーベラティーオー』が試合をするのか?


 長いコイン集めが終わった今。


 いや、まだ『リーベラティーオー』は終わって無いか。


 まあいい。


 とにかく。


 今。


 両チームが互いに共闘に相応しいか試さなくてはいけない。


 魔物の王を倒せるかは未知数だ。


 だが、倒せたと仮定した場合、南半球のコイン集めで必然的に両チームが激突する。


 次は試合等とは言っていられない。


 それまでに和解したいが、無理な可能性が高い。


 こちらがどう言おうが、向こうから殺し合いを仕掛けて来る。


 舐められるのは避けないといけない。


 最悪の事態を想定する。


 仮に『リーベラティーオー』が弱かった場合は、達成条件を無視して、魔物の王を倒す。


 そのつもりで試合をする。


 さっきまでは、ジークと二人で話し合いを行っていた。


 俺が仮面の男と戦闘を行った場合、どういう状況に陥るか、だ。


 同時に、向こうはどう予想してくるかも考えないといけない。


 そして、実際に試してみる段階まで話を詰めた。


 俺が状況を俯瞰する為にアリシアにも協力を頼んだ。


 今はアリシアに協力してもらった一回目の検証だ。


 アリシアには細かい説明をする前に、実際に体を動かして貰った。


 その方が説明を納得し易い筈だ。


 細かい説明は今からする。


 敵を知り、己を知れば、か。


 アリシアには仮面の男のスペックから説明する。


 もう何時間もジークと話した。


 考えが凝り固まっているかもな。


 アリシアに説明すればもう一度考えを整理できるかもしれない。


 そろそろ三時か。


 リラックス出来る場所でコーヒーでも飲みながら説明するか。


 最近ジークは働き詰めだ。


 ジークにも休憩が必要だろ。


 俺も疲れて来た。


 何処かリラックスできる場所はと。


 俺より二人を優先する。


 レイセ:「アリシア、休憩を兼ねてちょっと状況を説明する」

 レイセ:「リラックスできる場所でコーヒーでも飲みながら説明したい」

 レイセ:「どこが良い?」


 アリシア:「んー」

 アリシア:「食堂でも良いけど、ホワイトボードがあった方が良いんじゃない?」

 アリシア:「そうなると、会議室は、リラックスできないし」


 ジーク:「王の執務室しかありませんね」


 レイセ:「良いけど、あそこリラックス出来るか?」


 ジーク:「王は出来るでしょ」


 レイセ:「俺は良いのよ」


 アリシア:「嬉しいくせに」


 レイセ:「じゃー行くか」


 アリシア:「ハイハイ」



 俺の執務室に移動した。


 アリアとプロミが応接セットで本を読んでいる。


 リビアとニーナとリアンナとランは外出中らしい。


 そうなのだ。


 溜まり場になっているのだ。


 居心地良いのよ。


 理由は俺じゃないけどね。


 今、メイドのナナにこの部屋を管理させている。


 その所為だ。


 俺達は気配に敏感だ。


 変に意識されると、居心地が悪い。


 ナナはその辺、鈍い。


 丁度いい鈍さ。


 そして余計な事を全くしないシンプルさ。


 淹れてくれるコーヒーも旨い。


 レイセ:「今からここを使うけど、良いか?」


 プロミ:「何始めるの?」


 アリシア:「レイセに訓練の状況説明を受けるの」


 アリア:「へー、ちょっと面白そうです」


 プロミ:「私も聞いとこうかな、暇だし」


 レイセ:「なんで暇があるんだよ」

 レイセ:「探してでも何かしてろよ」


 アリア:「訓練方法が無くて煮詰まって休憩になったのよ」

 アリア:「レイセさんからヒント貰うつもりかも」


 レイセ:「じゃ、聞いてけ」


 プロミ:「ふふ、わかった」


 レイセ:「俺も疲れて来て頭を整理したかった」

 レイセ:「人に説明すると、なにか閃くときがあるし、何が重要か再確認できる」


 レイセ:「彼を知り己を知れば百戦危うからず、ってのをやる」


 レイセ:「そこから、一歩進んで、戦ったらどうなるか予想して訓練する」

 レイセ:「わかり易いだろ?」


 プロミ:「意外と為になりそうね」


 レイセ:「普通は無意識にやる事を意識的にやって矛盾点を探す」

 レイセ:「たぶん有効だ」


 アリア:「不思議と説得力があります」


 レイセ:「俺もやった事ないけど、ほかに出来る事ないだろ?」


 ジーク:「訓練が的外れでも損は無いですもんね?」


 アリシア:「損得で考えるの好きじゃ無い」


 ジーク:「判定が厳しいんだよ」


 レイセ:「はいはい」

 レイセ:「まずは、仮面の男のスペックから説明する」


 レイセ:「でもそうだな、アリシアはわかり易くても、プロミとアリアは何言ってるかわかり難くなる、か?」


 ジーク:「さっきアリシアにやって貰った奴の解説からお願いします」


 レイセ:「そうだよな」

 レイセ:「結論から説明して、そこに至る道筋が間違って無いか、考えるのがいいよな?」


 ジーク:「ですね」


 レイセ:「一言で言うと、仮面の男に対する勝ち筋は、一撃離脱、だ」


 レイセ:「ヒットアンドアウェイを繰り返す」


 レイセ:「まず、近づけ無い」

 レイセ:「近づけても、向こうにはグレイフレイムという、即死『能力』がある」

 レイセ:「遠距離から攻撃が通らない」

 レイセ:「だからそうなる」


 レイセ:「アリシアには、詳しい説明の前に体を動かして貰った」


 レイセ:「仮面の男の飛ぶ斬撃を、アリシアのエアカッターで再現して、飛ぶ斬撃を搔い潜る方法が無いか、ジークに試して貰った」

 レイセ:「ジークは俺の替わりだ」

 レイセ:「俺は二人の動きを見てた」


 レイセ:「ジークはエアカッターを弓矢で相殺して手数で上回った」


 ジーク:「飛ぶ斬撃は矢では撃ち落とせないかもですが」


 レイセ:「そのあと状況説明する為にアリシアをここに呼んだ」

 レイセ:「OKか?」


 プロミ:「OKよ」


 アリア:「OKです」


 レイセ:「ふふ」

 レイセ:「良い返事だ」

 レイセ:「楽しくなってきた」

 レイセ:「次は仮面の男のスペックだ」



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