4話 奇跡を
レイセ:主人公。黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。
融合者。
契約者。
黒崎鏡華:通称プロミネンス。
本名ルビー・アグノス。
融合者。
契約者。
リビア:守護者。
クリアの為に国を造った。
光刃のリビア。
黒戸美月:零維世の妹。
俺は『ロストエンド』の扉から手を離した。
鏡華は横で笑っている。
実に嬉しそうだ。
笑える所なんてあったか?
よく笑えるな。
「それで、何故戻る気になったの?」
「向こうで死んだらどうなる?」
「ああ、その事ね」
「俺はドアに手を掛けていた」
「そう見えていたはずだ」
「向こうで死んで帰って来られなくなったら、ドアを掴んでいた俺はどうなる?」
「私はドアを掴んだ人が消えたところを見たことが無いわ」
「これは私の推測なんだけど」
「無かった事になるわ」
「存在そのものが消されて、最初から無かった事になる」
「私たちはそれを認識できないわ」
「そうやって
「私は長い間仲間を探しているわ」
「でも私には今こっちの世界の仲間がいない」
「こっちの世界の仲間がいたはずよ」
「たぶん今の私は誰かの犠牲の上で成り立っている」
「認識できないけど、そんな気がする」
「そうか」
「俺があの世界に行くと知っていて声を掛けなかったのにも、理由があるのか?」
「私が貴方の未来を告げてしまうと、未来が確定してしまう可能性があったわ」
「それは変じゃないか?」
「辻褄が合わなくなる」
「未来は繋がっている」
「俺がどんな行動を取ろうと、未来は確定していたはずだ」
「違うわ」
「選択によっては物語の為に私の方が改変される」
「改変?」
「物語の為だと?」
「あの世界はどこかおかしい」
「貴方はそう言っていたわよね」
「私もそう思う」
「あの世界はあり得ない事が起こりすぎる」
「あの世界はドラマに過ぎるわ」
「そう思うでしょ?」
「調整している奴がいるわ」
「これは私の勘だけど」
「そしてその調整はこの世界にも影響しているわ」
「貴方はもう巻き込まれてしまっている」
「気を抜かないでね」
「調整している奴とは、それは…………」
「神かもしれないわね」
「俺たちを踊らせて喜んでいるのが、神か」
「相当趣味が悪いな」
「そうね」
「今は聖国クリアを救う事だけを考えて」
「俺の名前が付いているのか」
リビア。
やり過ぎだぞ。
かわいい奴め。
「ちょっと気持ちの整理を付ける」
「一晩くれ」
「美月の顔を見たいのも本当だ」
「二百年位会っていない」
「一晩で良いの?」
「一週間くらいかかるかと思ってたんだけど」
「いや、一晩だけで良い」
「サボると無気力になる」
「驚いた」
「貴方もなの?」
「なんだお前もか」
「話が早くて助かる」
俺たちは店の前で別れた。
俺は家に帰った。
美月はいつも通りだった。
久しぶりにリラックスできた。
しばらく美月の顔を見られなくなる。
俺は美月の顔をじっと眺めた。
また気持ち悪いと言われたが気にしない。
俺は気持ち悪くて良い。
その素直な反応も俺の支えになる。
俺は美月の作ったご飯を食べて、しばらくしてから布団に入った。
眠れない。
戦いが終わったら二人で旅に出る、か。
完全に死亡フラグだな。
リビアが俺を思って、国を造った、か。
実感出来ない。
出来ないが、あの後、彼女はサバスを守りつづけた。
俺は彼女を助けたい。
俺はきっと苦戦するだろう。
だが死なない。
俺は勝つ。
この世界を操っている奴がいるなら。
俺が奇跡を起こす所を見たがるはずだ。
俺はそれを利用させて貰う。
俺はいつの間にか眠っていた。
何故かぐっすり眠れた。
次の日、朝からランニングをして、普通に学校へ向かった。
帰りに生徒会の勧誘を受けて、答えをはぐらかした。
いつも通り。
学校からの帰りに『ロストエンド』に寄った。
『ロストエンド』の前で鏡華が待っていた。
「俺から先に行かせてくれ」
「わかったわ」
聖国クリア、聖都クリアの『ロストエンド』で待ち合わせた。
彼女は来た。
だがまだ安心は出来ない。
改変の可能性がある。
俺の未来はまだ確定していない。
俺は黒竜が身体全体を覆っているとイメージした。
そして黒竜を鎧に変えた。
黒の全身鎧。
これで良い。
俺は、クリアは、まだ聖国に帰って来ていない事にする。
王になるには準備が必要だ。
用意されたものにそのまま収まっても務まらないだろう。
北には別の大地があり、そこでは人間同士が勢力争いをしているらしい。
プロミから聞いていた。
まず北まで旅に出て、北で力を付ける。
北で王になる。
自分の力でだ。
リビアにも手伝ってもらうから二人でだな。
何年かかるかわからないが、それが必要だ。
『レムリアス』
『俺の代わりに声を出してくれ』
『声でバレる』
『俺の言いたいことがお前には解るはずだ』
『わかった』
『代わりに声を出してやる』
『プロミ』
『俺のやりたい事が解るか?』
「大体予想が付いたわ」
「帰ったと告げ無いのね」
『ああ、まだ準備が出来ていない』
「先の事を考える余裕があるのね」
「良い事だわ」
「でも良いの?」
「貴方を待ってるのはリビアだけじゃ無いのよ」
『そうか』
『まだいるのか』
『そんな馬鹿な奴が他にも』
『だが、俺は今回これで通す』
『そいつらはリビアがいなくなって困るだろうが仕方がない』
『リビアを止めなかった罰だ』
『俺は俺の罰をこれから受けていく』
『お
『お前の時間はまだあるのか?』
「もう無いわ」
「火山に向かわないといけない」
「ここでお別れね」
『ああ、二百年世話になった』
『ありがとな』
「どういたしまして」
『ロストエンド』でプロミと別れた。
あっさりと別れた。
現実世界で会えるのは確実だからだ。
何年後かはわからないが。
勝てたら、だが。
俺は城に向かう。
衛兵に止められそうになったが、リビアの名前を出すと引き下がった。
リビアは中々恐れられているようだ。
客室で待っているとリビアが来た。
目を腫らせていた。
もう泣く必要はないのに。
彼女を安心させてあげたい。
『リビア』
『俺は今回素性を隠す』
『協力してくれ』
『もう俺の事を誰かに話したか?』
「いいえ、まだです」
「まだ話していません」
「私も気持ちの整理が必要でした」
『そうか』
「ええ」
昨日の晩リビアの事を考えたが涙は出なかった。
俺が泣くことはもう無いのだろう。
俺の為に生きると言ったクリアに流した涙が最後だ。
涙は枯れた。
あの時に一生分流し終えた。
近くで待機していた敵の大群が動き出した。
気配で解る。
残された時間はそう多くない。
わかっていた事だ。
『打って出るぞ』
「こちらの準備がまだ整っていません」
『では準備出来次第、駆け付けてくれ』
『先に行くぞ』
『後で落ち合おう』
外に出て敵に向かって走った。
数千はいる。
しかし、問題は無い。
俺は群れの中心に飛び込んだ。
『『ザ・ビュー シーン アット ジ・エンド(最終到達点)』』
俺を中心に黒い空間が敵を覆い尽くす。
空間から無数の槍を形成し射出。
槍は黒い光を放ちながら敵を追尾する。
ただ一人を除いて敵は全て倒れた。
『派手な登場だな、黒いの』
『雑魚を殺していい気になるなよ』
『完全に三下のセリフだな』
『もうしゃべるなよ』
『この世界の神に向かって、デカい口を叩くな!』
『お前が神か?』
『笑わせる』
『殺し方を決めた』
『神なら奇跡を見せてみろ』
『奇跡が必要なのは、お前の方だろうが!』
奴は強い。
青竜と融合している。
いや、取り込まれている。
制御できていないが力はありそうだ。
大剣を奴に振り下ろした。
両手で全力の振り下ろし。
一瞬で漆黒の大剣を具現化させた。
奴は左の盾で受けた。
奴も一瞬で盾を具現化した。
俺の全力の振り下ろしを片手で防いだ。
右の剣で突いてくる。
盾で防いだと同時に右手に剣を具現化していた。
俺は手が塞がっている。
俺は結界三枚で防いだ。
結界二枚が砕かれる。
以前より結界の強度は増している。
それを二枚砕かれた。
かなりの身体能力だ。
結界で耐えたと判断したタイミングで双剣を具現化した。
俺は双剣で下から×字に切り上げた。
俺が双剣を出したと同時に奴も双剣を具現化していた。
奴は双剣で上から弾いた。
俺の切り上げを易々と下に弾く。
奴は大きくバックステップ。
奴との距離は十メートル。
俺は弓を具現化し、矢を放った。
三射。
奴は双剣で打ち払っている。
俺は弓を槍に変化させた。
俺は槍を投げた。
奴は両手に持っていた双剣を消し、左手に盾を具現化していた。
奴は盾で受けた。
盾に槍が突き刺さった。
奴は盾を捨て、距離を詰めてきた。
素早い動き。
俺は再び弓を具現化した。
俺は矢を放つ。
三射。
矢を剣で払いながら突進してくる。
奴の勢いは衰えない。
かなりのスピードだ。
奴は右手に剣、左手に盾を具現化した。
俺は弓を長柄のハンマーに変化させた。
俺は長柄のハンマーを右から左へ振った。
奴は左の盾で受けた。
よろめきもしない。
右手に持っていた剣を短剣に変化させた。
右手で短剣を投げてくる。
俺は結界で受け止める。
さっきと同じように三枚出した。
二枚が砕かれる。
俺は長柄のハンマーを槍に変化させる。
結界で防いだと同時に槍で突く。
奴は薙刀を具現化した。
奴は槍の攻撃を薙刀で打ち払った。
二人ともバックステップ。
隙が無い。
具現化スピードは同等だ。
奴が下がった先で、レムリアスが具現化した。
角の振り下ろし。
奴は盾と薙刀を消して左に片手剣を出した。
奴は左片手剣で角の振り下ろしを受けた。
奴は右手に槍を具現化した。
奴は右手の槍でレムリアスを攻撃。
レムリアスは左ブレードで弾いた。
俺は左手の槍で突きを繰り出す。
奴は左片手剣を盾に変化させる。
奴は盾で受ける。
俺は左手の槍でもう一撃。
それも奴は左の盾で受け、押し返した。
余力がある。
レムリアスと連携して攻撃しても態勢が崩れない。
盾で押し返しながら奴は後退。
レムリアスが右回りして奴の盾の死角を取ろうとするのに対応している。
レムリアスが牽制で右ブレードの突き。
奴は右手に薙刀を具現化。
奴は薙刀でレムリアスの右ブレードを上に弾く。
レムリアスは、ブレードをうまく弾かれ態勢がブレる。
レムリアスにとって予想外の腕力なのだろう。
奴は両手の具現化を解いて、スピアを具現化。
スピアを両手で握っている。
奴はレムリアスの一瞬の隙に、スピアで突進した。
レムリアスは二本のブレードを交差させ、防御。
俺は奴の左側に向かって、長柄のハンマーを右から左へ。
奴はスピアを手放して、左に大盾を具現化して防御。
その後、奴はバックステップ。
下がった先にレムリアスが右ブレードを右から左に薙ぎ払う。
俺も大剣を具現化して左から右に薙ぎ払う。
奴は双剣を具現化。
双剣で二つの攻撃を上に弾いて、またバックステップ。
俺達の全力の払いを片手ずつで簡単に上に弾きやがる。
なるほど。
強い。
このまま粘っても奴は崩れない。
さっさと勝負を付けよう。
奴も同じ事を考えていた様だ。
大技を出そうとしている。
奴は大剣を具現化。
奴は青く禍々しく光る大剣を振り下ろした。
俺は左手に盾を具現化。
かなり威力のある攻撃。
だが俺は左の盾で受けた。
左だけで受けた。
俺の左腕から先が消失した。
奴は油断した。
奴の動きが一瞬止まる。
俺は右手に槍を具現化。
『さあ奇跡を見せてみろ『(クルシフィクション)
右の槍を奴の脇腹に突き刺した。
刺した槍から無数の長い棘を発生させ奴を内側からも貫いた。
そしてそのまま引き抜いた。
静かになった。
左腕の先をかぎ爪にして奴の胸を貫き、魔石を取り出した。
かぎ爪で魔石を握りつぶした。
終わった。
俺は歩いて帰る。
リビアが待っている。
プラスアルファは必要なかった。
奴に奥の手を使わせなかった。
左手を使って確実に勝利した。
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