第6話 具現化能力の限界は?

 キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。

    『リーベラティーオー』の纏め役。

     プロンシキの元英雄。

    死兵使い。

 ネロ:氷上国家カハの王。

    『ディープフォレスト』のリーダー。

    キシが殺して情報を抜き取り、死兵としている。

 ジャド:『マギ』のメンバー。



 魔道具で『復讐者』を呼び出す。


 ブー、ブー、ブー。


 …………。


 ブー、ブー、ブー。


 …………。


 反応が無い。


 どうしたものか?


 緊急通話を使えば、強制的に連絡も出来るが……。


 居所はわかっている。


 何処かのダンジョンに潜っている。


 ダンジョンの位置と攻略済みの場所を地図で打ち合わせておきたい。


 近日中に行く、ダンジョン攻略の為だけじゃない。


 総合的な打ち合わせが必要だ。


 …………。


 …………。


 …………。


 折り返しての連絡が無い。


 最終層なら連絡に応じられないからな。


 その辺の判断が難しい。


 んー。


 即断即決と行きたいところだが……。


 保留だな。


 保留にしよう。


 三日待つ。


 それ以上かかるなら、『復讐者』の替りにベリーに入って貰う。


 そうだ。


 今決まっているメンバーは、僕、『復讐者』、フレイズ、ロメイン、ジャド、クイン。


 あともう一人は、サブリーダーのロミルカか、ジャドの双子の弟のフェオだ。


 六人でも行けなくはないけど、七人が基本になる人数だ。


 通常のダンジョンでは、契約者と融合者の数は気にしなくて良いけど。


 とにかく、誰が行くかの返事をフレイズから貰わないといけない。


 ちなみに二人とも行きたがっているらしい。


 僕が好かれているとか、嫌われているとかの問題じゃない。


『復讐者』と接触したいんだ。


 僕だってそうだ。




 さっきの話し合いの後からずっと喫煙所にいた。


 タバコが無くなった。


 理魔法に頼りすぎて、残りの確認を怠った。


 空間の中にあると思っていたけど、もう無い。


 ホテルに何カートンか置いてある、筈。


 ホテルに帰るか。


 ホテルに寄って、飲み屋に向かおう。


 酒は嗜む程度だ。


 たくさん飲むほどテンションも上がらないしね。


 刺身定食とか食べたい。


 じゃー、移動だ。




 ホテルの前で見た顔に遭遇した。


 ジャドだ。


 本当に、偶然って感じだ。


 向こうも驚いている。


 彼とは縁がありそうだ。


 作為的な何かを感じなくもない。


 流れにノリ過ぎると物語を上回れない。


 ほどほどにしないと、とは思う。


 このホテルは一流店とは違ってメイン通りから外れた場所にある。


 掘り出し物って感じの店なんだ。


 気が合いそうで何より。


 今回は声を掛ける。



 キシ:「やー、確か、ジャドだっけ?」

 キシ:「このホテル?」


 ジャド:「ハイ」

 ジャド:「ここに泊ってます」


 キシ:「……」

 キシ:「僕もだ」

 キシ:「趣味が合う」

 キシ:「いいね、これから時間有る?」


 ジャド:「……」

 ジャド:「食事ですか?」

 ジャド:「お供します」


 キシ:「良かった」

 キシ:「部屋に荷物を取りに行く」

 キシ:「ちょっとここで待ってて」


 ジャド:「了解です」


 キシ:「ふふ、じゃあ」



 ロビーを通って部屋に向かう。


 ネロも同じホテルに泊まっている。


 今は部屋で待機中。


 二人っきりってのは、むこうも緊張するだろ。


 ネロを使う。


 王が加わるよりも、僕と二人っきりのが緊張するだろ?


 たぶん。


 そうだ、ジャドにも友達呼ばせるか?


 話が複雑になるけど、ジャドの気は楽になる筈。


 聞くだけ聞いてみるか。


 部屋からジャドの端末に連絡する。


 チームメンバーの番号は全員わかっている。


 掛けようと思えばだれにでも掛けられる。



 キシ:「もしもし、ジャドかい?」

 キシ:「唐突だけど、誰か友達呼ぶ?」


 ジャド:「いや、いいです」

 ジャド:「仲いい奴らは、今日は訓練です」

 ジャド:「お気遣い無く」


 キシ:「そう」

 キシ:「こっちはネロを連れて行く」

 キシ:「気さくな奴だから」


 ジャド:「ネロ王!」

 ジャド:「りょ、了解です」

 ジャド:「気合入れます」


 キシ:「気楽にって」

 キシ:「気合入れてどうする」


 ジャド:「押す!」


 キシ:「ボケたの?」

 キシ:「ずいぶん余裕あるね」

 キシ:「楽しみになって来たわー」


 ジャド:「オス!」

 ジャド:「お待ちしてるっス!」


 はー。


 語尾が変わっとる。


 大先輩に対して何たる不遜。


 気遣って損したわー。




 ロビーでネロと合流し、玄関に向かう。


 ジャドは携帯端末を操作して時間を潰していた。


 何処かダラッとしてる。


 直立して待っとけよ。


 リラックスし過ぎ。



 キシ:「何か良い情報でも手に入ったかい?」


 ジャド:「あっ、小説を読んでたんです」


 キシ:「ふーん」

 キシ:「ちなみに、なんて小説?」


 ジャド:「『最初の冒険者』っス」


 キシ:「君には教育的指導が必要そうだ」


 ネロ:「ははは、ほどほどに頼むぜ」


 ジャド:「めちゃくちゃ面白いです」

 ジャド:「このレイセさんと引き分けたんですよね?」

 ジャド:「その話、聞きたいっス」


 キシ:「語尾が自由」

 キシ:「勝負は引き分けだけど、実力は僕のが上だ」

 キシ:「言わせんな」

 キシ:「恥ずかしい」


 ネロ:「確かに実力はお前の方が上な」

 ネロ:「今は」


 キシ:「一言多いんだよね」


 ネロ:「おっと失礼」

 ネロ:「つい本音が」


 ジャド:「ははは」




 僕とレイセの一騎打ちの話か。


 実は話すにはリスクがある。


 正確に話すなら、僕の具現化能力を伝えないといけない。


 ネロが死兵だと説明するか?


 そういう話になる。


 まー、どうするかは決めてある。


 彼のセンス次第だ。


 行きつけの飲み屋に移動する。




 着いた。


 キシ:「こんばんはー」


 店員:「いらっしゃい」


 ネロ:「好きなところに座ってくれよ?」


 ジャド:「はいー」



 ジャドは入口近くに座った。


 僕達も座る。



 キシ:「とりあえず生三つ」


 店員:「はーい」


 突き出しは筑前煮。


 箸でつつく。


 三人とも融合者で、マイ箸を持参している。


 普通は渡されたトングを使う。


 僕は出汁巻き卵とシーザーサラダ、刺身の盛り合わせを頼んだ。


 ネロはタケノコの天ぷらを追加した。


 ジャドはフライドポテトを追加した。


 注文している間に、生が来た。



 キシ:「じゃー、乾杯」



 三人でジョッキをカンと合わせる。


 飲む前に言っとくことがある。



 キシ:「この店はマジで旨いから」


 ネロ:「そうだなー」


 ジャド:「へー、普通って気がしますけど」


 キシ:「甘いな」

 キシ:「若造」

 キシ:「ほえずらかかせてやる」


 ジャド:「期待してまーす」


 ネロ:「はは」

 ネロ:「受け流すのが上手い奴」



 シーザーサラダと出汁巻きとフライドポテトが来た。


 僕はシーザーサラダを三つに分けて配った。


 ジャド:「あざっす」


 ネロ:「あざっす」


 キシ:「じゃー、あざっす」


 ネロ:「なんのだよ」


 ジャド:「仲良いですよね」


 ネロ:「そう?」

 ネロ:「普通じゃね?」


 ジャド:「一国の王が普通なのが、こう、キます」


 キシ:「なるほどねー」


 ジャド:「二人の関係も気になりますが、それより、一騎打ちの話が聞きたいです」


 キシ:「いいけど」

 キシ:「まずは質問がある」

 キシ:「最強ってどんなだと思う?」


 ジャド:「最強ですか?」

 ジャド:「なんでまた?」


 キシ:「いいから、答えてみて」


 ジャド:「武器の扱いが上手くて、具現化能力と身体能力が高いとか?」

 ジャド:「でしょうか?」


 キシ:「他には?」


 ジャド:「七つの大罪を使いこなす、とか?」


 キシ:「もう一声」


 ジャド:「多重契約者である、とか?」


 キシ:「多重契約ね」

 キシ:「参考になった」


 ネロ:「多重契約以外にキシは当てはまっているぞ」


 キシ:「お前もだろ」


 ネロ:「いや、七つの大罪がな」


 キシ:「そうか、そうだな」

 キシ:「そうだった」

 キシ:「それを言うなら、武器の扱いはまだまだだよ」


 ネロ:「まあそうか」


 ジャド:「どっちでもいいですよ」


 キシ:「バカ言うな」

 キシ:「その小さな差がカギになるんだよ」


 ネロ:「具現化能力の最終系は?」


 キシ:「ネロ、君、今日は攻めるねー」


 ネロ:「うるせー」

 ネロ:「若造にほえずらかかすんだろ?」


 キシ:「それはこの店がやってくれる」


 ネロ:「そうだったな」



 ジャドが出汁巻きを一口食べた。


 驚いた顔をしている。


 そうだろう。


 そうなる。


 昆布と鰹から出汁を取っている。


 この世界でそんなのはこの店位だ。


 現実世界と比べても遜色ない。


 この店はそういうレベルだ。


 ジャドはフライドポテトを食べた。


 また驚いた顔。


 ポテトのホクホクさ、甘さ、表面の焼き加減、塩加減。


 文句の付けようがない筈。


 ケチャップとマスタードも旨い。


 シーザーサラダも野菜はシャキシャキ、ドレッシングは向こうと遜色ない深い味。


 大体、刺身がメニューにあること自体おかしい。


 完全に融合者の、日本人の知識だ。


 この店は融合者がやっている。



 キシ:「それで、具現化能力の限界は?」



 畳み掛ける。



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