第2話 クレラメイ・フォーラス



 レイセ:レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

     黒戸零維世。

     連合国クロトと聖国クリアの王。

 リビア:聖国クリアの元代表。

     レイセと結婚している。

 プロミ:プロミネンスの略で通り名。

     本名はルビー・アグノス。

     黒崎鏡華。

     月と太 陽の国アウグストラの女王。

     国では現人神と扱われている。レイセと結婚。

 カーミュ:カーミュ・セーグル。

     『トゥエルブ』第一席。

     冒険者ギルドを創設。

 アスマ:アスマ・アーゼス・カミキ・セーグル。

     『トゥエルブ』第二席。神木遊間。

 メイ:メイ・ルイ・カジワラ・トト。

    『トゥエルブ』第五席。

    融合者。

 ニーナ:ニーナ・アイマー。

     黒戸美月と融合した。

     五章主人公。

 ジーク:聖国クリア所属。

     レイセに認められ、守護者の中でも特別扱い。

     自由に鍛えている。

 瑠璃:長月瑠璃(ながつき るり)。

    『能力』は使えなくなった。

    替りに寿命が伸び、味覚は戻っている。

    現在の『ロストエンド』のマスター。




 その男の名前は、クレラメイ・フォーラス。


 突然城に訪ねて来た。


 無名の旅人らしい。


 聖国クリアには、俺に直接会いたいと言ってくる奴も偶にいる。


 そんな場合は、誰かが応対し、実力を試す。


 今回実力を試したのは、ベルだった。


 結果を言えば、ベルの負けだ。


 刃が立たなかったらしい。


 しかし、倒された訳じゃない。


 膠着状態が長く続き、勝負が決着しなかった。


 ベルが言うには、クレラメイは狙ってそうしたらしい。


 そこに何の意味が有るかはわからないが、俺は興味を持った。


 話しを聞く。



 ニーナの歌をカーミュと聞く日。


 カーミュとの融合は明日だ。


 来週には戦争がある。


 俺は力の融合の持続時間を延ばす訓練の合間に、軽い気持ちでクレラメイに会う事にした。


 他の皆は訓練で忙しい。


 その日、ジークは俺と訓練したかったらしい。


 同席して俺が動けるようになるのを今か今かと待っていた。



 気が付くと、男は広間の中央で傅いて待っていた。


 俺は慌てて声を掛ける。


 レイセ:「面を上げてくれ」


 クレラメイ:「はッ」


 クレラメイは顔を上げた。


 面構えが戦士じゃない。


 漁師や、樵の様な、自然を相手に仕事をしてきた人間の雰囲気がする。


 旅人と聞いていたが、おそらく本当の事を話していない。


 表情や仕草からはそれ以上を読み取れない。


 彼の外見を分析する。


 使い古された外套を畳んで持ち、冒険者の様な服装をしている。


 服の素材は高級だが、やはり使い古されている。


 全体的に、上品さがあるが、くたびれた印象も受ける。


 デザインも、流行りに影響されない伝統的なものだ。


 色味も無難で、自己主張が極端に少ない。


 ハッキリ言って、地味だ。


 その所為で街に出るとかえって目立ちそうだ。


 謁見に来る人物としては、かなり珍しい。


 俗世間に興味を持っているとは思えない。


 仙人の様だ。


 ここまで考えて、ピンと来た。


 目立ちに目立った成果が出たのだ。


 釣り上げたかった人物が釣れたらしい。


 レイセ:「要件を聞きたい」


 クレラメイ:「出来れば向こうの世界で話したいのですが、可能ですか?」


 レイセ:「可能、というか、こっちの世界は時間が無い」

 レイセ:「向こうの方が助かる」


 クレラメイ:「日時は解っています」

 クレラメイ:「貴方の街の『ロストエンド』で待っています」


 レイセ:「わかった」


 ジーク:「ちょっと待ってくれ」


 レイセ:「なんだジーク」

 レイセ:「訓練はまた今度にしてくれ」


 ジーク:「そうじゃ無い」

 ジーク:「そんなんじゃない」

 ジーク:「クレラメイ殿」

 ジーク:「また会えるか?」


 クレラメイ:「おそらくは」


 ジーク:「………」

 ジーク:「ならいい」


 レイセ:「?」

 レイセ:「説明してくれ」


 ジーク:「クレラメイ殿もわかっています」

 ジーク:「向こうの世界で説明を受けてください」


 レイセ:「よくわからんが、とにかく移動する」

 レイセ:「ジーク、行ってくる」


 ジーク:「待ってます」




『ロストエンド』に着いた。


 昼ご飯時だ。


 チキン南蛮定食を食べながら待つ。


 今日は日曜。


 開放日だが、客は少ない。


 処刑人を撃退して、敵対グループを壊滅させた所為で客が寄り付かない。




 食べ終わった頃、客が来た。


 小学生だ。


 小学五年生って感じだ。


 このくらいの年齢は身長がまちまちだ。


 場合によってはもっと若いかもしれないし、中学生って可能性もある。


 黒ぶち眼鏡を掛けた彼は、俺の隣に座った。


 カウンター席のイスに背伸びして座る。



 今日はついていない。


 こいつの存在を忘れていた。


 俺の右隣に小学生の彼が。


 左隣には、なんと、キシが座っている。


 二回席を変わったが、どうやっても隣の席に座りに来る。


 声は掛けない。


 向こうも掛けて来ない。


 内緒話が出来ない。


 が、仕方ない。


 この場所を選んだのは、彼だ。


 我慢してもらう。


 レイセ:「何か頼むか?」


 クレラメイ:「僕がクレラメイかの確認は無しですか?」


 レイセ:「いらないだろ」

 レイセ:「注文は?」


 クレラメイ:「海鮮丼で」

 クレラメイ:「昼ご飯がまだなんです」


 レイセ:「瑠璃さん、海鮮丼一人前」


 瑠璃:「ハイ」

 瑠璃:「ちょっと待ってね」


 海鮮丼が出てきた。


 クレラメイは無言で食べる。


 食べ終わってから話し始めた。


 キシは頬杖をついて固まっている。


 レイセ:「この場所で良かったか?」


 クレラメイ:「キシさんの事ですか?」

 クレラメイ:「大丈夫です」


 キシ:「彼は古い友人なんだ」

 キシ:「しばらく一緒に行動していたこともある」


 クレラメイ:「そうですね」

 クレラメイ:「そんな事もありました」


 レイセ:「お前が話すなよ」

 レイセ:「はぁー」

 レイセ:「で?」

 レイセ:「仲間になってくれるのか?」


 クレラメイ:「その前に自己紹介を」

 クレラメイ:「僕の名前は鞍馬栄(くらま えい)」

 クレラメイ:「小学六年生です」

 クレラメイ:「戦闘では役に立てないかもしれませんが、仲間に加わりたいです」


 レイセ:「ベルと戦って、狙って引き分けられるなら、実力に申し分ないがな」


 キシ:「相変わらずの性格だね」


 クレラメイ:「自分では、表に出て来ただけ以前よりもマシと思ってますが」


 キシ:「まあ、そうだね」


 レイセ:「なんの話だ?」


 キシ:「彼は、自分を過小評価して積極的に動けない」

 キシ:「そういう性格なんだ」

 キシ:「暗くて、後ろ向き」

 キシ:「その分慎重だ」

 キシ:「一歩引いた位置から前に出ないから安定感はある」

 キシ:「現実では若いのに、むこうでは根性が無くて隠居していた」


 クレラメイ:「手厳しい」


 キシ:「事実さ」


 レイセ:「勝手に話を進めるな」

 レイセ:「このタイミングで仲間に成りたいと思った理由は?」


 クレラメイ:「情報が入って来なかった」

 クレラメイ:「ずっと単独行動だったんです」

 クレラメイ:「わかっていればその時点で仲間になりに来てました、たぶん」


 キシ:「どうだか」


 クレラメイ:「…………」


 レイセ:「やけに突っかかるな?」

 レイセ:「気に入らないのか?」


 キシ:「当たり前だろ」

 キシ:「カーミュ・セーグルと同じ、真理への到達者だ」

 キシ:「仲間にしたかった」


 クレラメイ:「期待されると困るから、その話はしたく無かったです」


 レイセ:「仲間になって貰うのに問題無いが、次の戦争に参加するつもりか?」


 クレラメイ:「…………」

 クレラメイ:「出来れば人と戦うのは避けたいです」


 レイセ:「そうか」

 レイセ:「気が合いそうだ」

 レイセ:「出来るんなら俺もそうしたい」


 キシ:「…………」

 キシ:「帰る」


 レイセ:「やっとか」

 レイセ:「なんでいたんだよ」


 キシ:「うるさい」

 キシ:「自分中心に世界が回ってると思うなよな」


 レイセ:「俺はそういう役割なだけだ」

 レイセ:「皆が良い方向に向かえるなら何だって良いんだ」


 キシ:「チッ」


 キシは舌打ちして帰って行った。


 レイセ:「話が変わるが、ジークが言っていたのは何だったんだ?」


 クレラメイ:「僕と同一の存在です」

 クレラメイ:「同一存在がいるのは知ってましたが、まさか出会うとは」


 レイセ:「……」

 レイセ:「融合するつもりか?」


 クレラメイ:「彼はそうでしょう」

 クレラメイ:「彼と相談ですね」


 レイセ:「戦争までに解決できないなら、無理する必要はないぞ」


 クレラメイ:「ありがとうございます」


 レイセ:「礼なんていいさ」

 レイセ:「ところで、何がきっかけで俺の事を知ったんだ?」


 クレラメイ:「黒戸美月さんの歌ですね」

 クレラメイ:「イメージが流れ込んで来る」

 クレラメイ:「素晴らしかったです」


 レイセ:「……」

 レイセ:「カーミュ・セーグルを知ってるか?」


 クレラメイ:「ええ」

 クレラメイ:「存じています」


 レイセ:「彼は美月の、ニーナの歌が聞きたいそうだ」

 レイセ:「明日コンサートがある」

 レイセ:「出席してくれ」

 レイセ:「その後、カーミュと融合する」


 クレラメイ:「つまり、カーミュ・セーグルと同一存在と?」


 レイセ:「そうだ」


 クレラメイ:「キシさんは、この事を?」


 レイセ:「カーミュと繋がっている事は知ってるだろうが、同一存在とは思って無いだろ」


 クレラメイ:「なるほど」

 クレラメイ:「カーミュとは面識があります」

 クレラメイ:「そうですか、同一存在ですか」




 話を終え、聖国クリアに戻ったあと、クレラメイは、ジークと融合した。


 クレラメイはジークを気に入ったらしい。


 一歩引いた性格のクレラメイは人格の表には出て来ず、ジークが表に出ている。


 そんな印象だった。


 根源、アカシックレコードについての議論を俺としたいらしい。


 カーミュは感覚派だから、融合しても議論は出来ないと断った。


 恐らくそうなる。


 この時点で答えに辿り着く事は出来ない。


 そういう流れだ。


 そして、流れは変化している。


 キシも強くなっているだろう。


 戦争は、前回の焼き直しじゃ無い。


 気を引き締めないとな。

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