2話 やっぱりな

「私が彼の隣に移動します」

「お二人は私達の前に座って下さい」


 女は男の隣に座った。


 私達は黙って彼らの前に座った。


「お招きいただき、ありがとうございます」

「私は、ニーナ・アイマーです」


「私は、アリア・アランテです」


「俺はゼアス」


「私は…………」

「トリポリ、です」

「正直に言いますが、二人とも偽名です」


「…………」


「…………」


「さっきは良い歌声だった」

「また会うとはな」


「…………」

「気に入って頂けたようで何よりです」


「胃には、まだ入るか?」


「ええ」


「入ります」


 ゼアスはテーブルに付いている文字盤の魔道具でコース料理を四人分注文した。


 コースの注文には時間が掛ると注意書きがされている。


 ゼアスからの確認は無かった。


「エルフの隠れ里出身か?」


「?」

「エルフとは?」


「レナメントレアの事だ」


「…………」

「隠し事が出来ないですね」

「ディーダス出身です」


「この町にはいつ着いた?」


「一か月前です」


「旅の目的は?」


「…………」

「目的地は首都クリアです」


「まあ、その答えでも、いいか」


 彼は笑顔になった。


「旅は道ずれ世は情け」

「俺達も聖国に向かう」

「ついて来るか?」


「…………」


「…………」


すぐに答えを出すのは無理そうですね」

「連絡先を交換しておきましょう」

「決断したら連絡を」


「そうだな」

「三日だ」

「この町には三日いる」

「その間に答えを出せよ?」


「…………」


「…………」


「俺達は、自分で言うのも何だが、怪しいからな」

「自覚はあるぞ」

「他の手も考えてみるんだろ?」

「だがな」

「今、傭兵を雇うのはお薦めしないな」


「何故です?」


「今、外を徘徊している奴を相手にするには、冒険者ギルドのAランク以上の実力が必要だ」


「!!」


「!!」


「ソロでだぞ」


「…………」


「…………」


「よく考えてみると良い」

「命を預けられる傭兵を雇うには、金もコネも相当分必要だぞ」


「…………」


「貴方達は、何人で来られました?」


「そうか、興味出てきたか?」


「ただの確認です」


「三人だな」

「これは本当だ」


「旅の目的は?」


「…………」

「首都クリアに向かってる」


「やり返されると腹が立ちますね」


「そういう時は、笑うんだ」


 私は、アリアの顔を見た。


 ゼアス。


 ちょっと面白いかも知れない。


 アリアは笑顔だ。



 前菜が運ばれてきた。





 私達はデザートを食べ終わった。



 デザートはプリン。


 素朴でおいしかった。


「「懐かしい感じがする」」


 ゼアスと発言が被った。


「い、今のはプリンの感想か?」


「そうです」

「タイミングが合いましたね」


「ちょっと、びっくりした」

「俺が驚くのは珍しいんだぞ」


「驚きました」

「私もマネしたいです」


「…………」

「トリポリ」

「妬くな」

「ちょっと恥ずかしい」


 アリアはしらけた目だ。


 私は、この二人は結婚しているんだろうな、と思った。


 羨ましい。




 アリアは魔道具でメッセージを送った。


 トリポリが返信している。


 キチンと送れるかの確認だ。



 二人に挨拶して、店で別れた。


「どう思う?」


「選択肢が有るかよね」


「無ければ?」


「同行するわ」


「三日有るもの、焦らず行きましょう」


「そうね」


 正直、印象が良かった。


 怪しいが。


 怪しいが、信用できる気がする。


 アリアもきっと同じ気持ちの筈。


 ゼアスとトリポリの実力はまるっきり解らなかった。




 三人で来た。


 この時期に。


 何処から?


 何処から来た?


 あー、確認しとけば良かった。


 あの二人に、私達と同行するメリットは、きっと無い。


 旅は道ずれ世は情け。


 話相手を増やしたいだけ。


 笑える。



 次の日、私達は冒険者ギルドを訪ねた。


 まずは宝石の買取り価格を聞く。


 答えは、お金を出して買える類いの物じゃない、との事。


 売ってしまうと二度と手に入らない貴重品。


 アリアには解らなかったが、カットの技術も考えられないレベルらしい。


 お金に替えるのは保留になった。




 私達はかなりお金を蓄えてきた。


 冒険者ギルドで、ソロでAランク以上を雇うのに幾ら掛かるのか確認する。


 ギルドの受け付けで聞いてみた。


 引き受けられる冒険者が居ないらしい。


 金額の問題では無かった。


 ソロでAランクは最低条件らしい。


 この一か月で外に出るのに必要な実力が跳ね上がって、誰も出られない状況との事。



 誰も出られない筈はない。


 ゼアスは?


 トリポリは?


 町の中に人が入ってきている。


 それはどうなる?


 受け付けに聞いてみた。


 受け付けに逆に怒られた。


 デマを流すな、と。


 信じて貰えなかった。


 私達に選択肢は無かった。


 彼らに付いて行かなければ、魔物の王の配下の襲撃が終わるまで待たないといけない。



 三日も必要なかった。


 一日で良かった。


 私達は彼らに連絡した。




 トリポリさんから返信が来た。


 明日、朝十時、町の出入り口で待ち合わせ。



 今日連絡して、明日だ。


 準備は?


 反応が早過ぎる。


 食料はどうするのか?


 何日分用意するか聞いてみた。




 必要ないらしい。


 ここからだと何も障害が無くても首都まで一か月掛る。


 …………。


 説明が無いのは、からかわれているのだ。


 ゼアスの笑った顔が思い浮かぶ。


 なるほど。


 こういう時は笑うんだっけ?




 次の日、朝十時。


 ゼアスとトリポリがいる。


 後、男がもう一人。


 先に来ていた。


「じゃあ、行くか」


「ちょっと待ってください」

「その方は?」


「俺か、俺はシロだ」

「二人から話しは聞いている」

「よろしくな二人とも」


「あ、はい、よろしくお願いします」


「道中、よろしくお願いします」


 男は冒険者風の服装で、肩から見た事無い剣をぶら下げてた。


 身長が高く、銀髪、サングラス。


 見た事無い人種だ。




 二人は完全に手ぶらだ。


 食料どころではない。


 武器も持っていない。


 そのまま壁迄歩いて行く。


 衛兵が敬礼する。


 ゼアスが扉に触れる事は無い。


 周りが開ける。




 私達はそのまま外に出てしまった。


「東に向かうぞ」


 この国で衛兵が敬礼する人物。


 衛兵はゼアスを恐れていた。


 トリポリも怖がられていた。


 それも尋常じゃない反応だった。


 どうやら、相当な要人達らしい。


「どうする?」

「走るか?」


「避けないで、二人を安心させた方が良いのでは?」


「逆に俺達が怖がられ無いか?」


「ふふ、それはもう手遅れです」


「まあ、そうか」


「二人とも、あと二時間くらい歩いたら、敵と遭遇する」


「あとな、俺達は狙われている」

「そっちは俺達でも気配が読めない」

「油断するなよ」


「狙われてるって、どういう事です?」


「俺達は魔物の王と敵対している」

「魔物の王を信奉する人間達が宣戦布告してきた」

「チーム『ドラゴンズ・クロー』」

「魔物の王の非公式ファンクラブだ」


「なにそれ」


「非公式なんですね」


「そうだ、非公式だ」

「魔物の王が人間と交渉する訳無い」


「それは、笑うしかないです」


「だろ?」


「実力は頭のイカレ具合と比例している」

「聖国に辿り着くまでに、そうだな、二回は遭遇する気がするな」


「そういうの先に説明して下さいよ」


「でも、選択肢無かったろ?」


「…………」

「まー」

「そうですけど」


「大丈夫」

「私達が守ります」


 トリポリさんは眼鏡を外した。


「眼鏡は掛けなくて良いのですか?」


「掛けてみます?」


「え?」


「ふふ、良いから」


 アリアはトリポリさんから眼鏡を受け取って、掛けた。


「視界を完全に潰す魔道具です」


「何の為にこんな物を?」


「物質の存在エネルギーを感じる事の出来る敵が居ます」

「強敵です」


「最低、同じ事が出来ないと負けます」

「訓練の一環です」


「ですが、しばらく訓練は中止します」

「手を抜きません」



 きっちり二時間後、魔物が現れた。


 六体。


 額に角の生えた赤い肌の大男。


 鬼だ。


 巨大な棍を持っている。


 一体がゼアスに向かって突進してきた。


 鬼が棍を振り降ろす。


 ゼアスは左手に持った剣で受けた。


 左手で受けたと思ったら、ゼアスの右手から槍が伸び、鬼の喉を突いた。


 槍は完全に喉の奥まで貫いている。


 一瞬で倒していた。


 槍を引き抜くと、鬼は崩れ落ちた。




 鬼二体が一斉に私達に飛び掛かる。


 私達二人より圧倒的に格上。


 想像し得るどんな奇跡が起こっても、私達では勝てない。


 私達は硬直し、身動きが取れなかった。


 トリポリさんは一体の攻撃を盾で受け止めた。


 もう一体はゼアスが棍で受け止めた。


 二人には動きに余裕が感じられる。


 敵の動きは速い。


 速過ぎる。


 私達には認識出来ない。


 ゼアスとトリポリさんの動きは洗練されている。


 あらかじめ決められていたかのような無駄の無い動きで、手に持った剣が敵の頭や胸に吸い込まれる。


 収まるべきところに収まっていく。


 まるで巻き戻しだ。


 私達にとっての望外の達人だ。


 流れる水が、高い所から低い所に流れる様に、スムーズに無駄なくしなやかに動作される。


 鬼の存在はゼアスとトリポリさんには全く問題では無かった。


 放たれる攻撃は、一撃で必殺。


 余りの見事さに、しばらく息を吸うのを忘れ、呼吸が苦しくなった。


 見事。


 武をたしなむ者にとっての最終到達点では無いか?


 正に想像を超えている。


 超越。


 その二文字が思い浮かんだ。



 その間にシロさんは残りの二体を倒していた。


 戦ってる気配すら無かった。


「安心したか?」


「…………」

「笑うしか無いわ」


「一体、貴方達は何者なのです?」


「明かすかどうかはお前達の目的による」


「貴方達は目的を秘密にする理由が何か有るのですか?」

「私達は存外知識が豊富かも知れませんよ」

「悩みが有るなら相談に乗ります」


「確かに、貴方達は想像を超えています」


「アリア!?」


「ニーナ」

「話しておいた方が良いわ」


「…………」

「解ったわ」


「実は…………」


 私達は異世界の夢を頻繁に見る事を話した。


 この話をすると、正気を疑われる。


 はぐれ里ではそれが普通だった。


 しかし、この三人は違う。


 やっぱりな。


 そう言いたそうだった。


「ゼアス」

「トリポリ」

「後で話が有る」

「その二人には内緒にしときたい」


「シロさん」

「わかった、後で頼む」


「俺達の感想は、やっぱりな、だ」


「お前の歌を聞いた時、縁を感じた」

「直後に同じ店で見かけた」


「お前たちは、その悩みを聖国の誰に打ち明けるつもりだった?」


「賢者、シェルミ様に」


「賢者ね」


「何か不服が?」


「お前達、契約者の存在は知っているか?」


「…………」


「…………」

「話が見えません」


「そうか」


「俺達はシェルミより年上だ」


「!?」


「!?」


「驚くなよ」


「そうです」

「私達の技能レベルに達するのに、どれほど時間が掛ると思います?」


「そうですね」


「確かに」


「ぶ、武器はどうやって出すのです?」


「具現化させる」


「?」

「食料は?」


「理魔法で空間に収納している」


「?」


「?」


「退屈しないで済みそうだ」


「ふふ、確かに」

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