12話 間違うな

 ニーナ・アイマー:レナメントレアのはぐれ里出身。

          未契約だが黒戸美月の人生を追体験した。

          黒戸美月の精神が意識の中にある。

          五章主人公。

 アリア・アランテ:レナメントレアのはぐれ里出身。

          ニーナとは幼馴染。

 レイセ:レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

     黒戸零維世。

     連合国クロトと聖国クリアの王。

 リビア:リビア・クロト。

     レイセと婚約。

     聖国クリアの元代表。

 ダズ:聖国クリアの代表代理。

    レイセの元上司。

    昔は無精ひげだったが、今は剃ってる。

 フレドリック・ユルロア:通称フレド。

             連合国クロトの守護者長の纏め役。

             ピナンナと婚約。

 コナル:青井友介。

     大学生。

     連合国クロトの戦闘指南役。

     美月が気になる。



 はー?


 プロポーズ?


 小娘!


 とか言っておきながら、その流れでプロポーズ?


 ダズさん。


 いや、ダズ。


 付き合ってくれ、とかかなと思ったら、これか?


 もう呼び捨てで良いだろ。


 何だこいつ。


 舐めてんのか?


 私の幼馴染だぞ。


 親友だぞ。




 よし、殺そう。


「貴方は他にやらなければいけない事が有るんじゃないですか?」


 え?


 どっかで聞いたセリフ。


「ちょっと待て」

「待て」


 レイセ。


 ですよね。


 流石に、止めるよね。


「…………」

「ダズ」

「お前、タイミングが悪い」

「そして、俺はちょっと恥ずかしい」


 タイミング云々では無い。


 一目惚れでもそのプロポーズは無いから。


 それと、レイセ。


 お前は恥ずかしがる権利無いから。


 遠い昔に物語にした癖に何言ってんだか。


「お前は試されている」

「一年間プロポーズし続る気が有るのか?」


「当り前だ」

「もう決めた」

「俺はこいつと結婚する」

「それ以外は無い」

「どうすれば結婚してくれる?」


「そうですねー」

「…………」

「ふふ、考えておきます」

「本の続き読んでも良いです?」


「ああ、そうだった」

「また声を掛ける」


「完全に主導権を握られたな」


「レイセ」

「俺は駆け引きする気無いぞ」

「と、いうか無理だ」

「抗えない」


「ダズ」

「サンドブレイブスピリットは?」

「飲むか?」


「フレド」

「酒か?」

「さっきのか?」

「不味いんだろう?」


「やっぱな」

「覚えて無いのか?」

「だろうな」


「ダズ」

「プロポーズした時に飲んでたぞ」


「…………」

「ああ、かもな」

「確かに、何か飲んだ気がしてきた」


「ライバル」

「しっかりしてくれ」


「レイセ」

「お前の物語に書いていたな、抗えないと」


「ああ、そうだな」


「俺は、この感覚は、二度目だ」


「前は、プロポーズする前に、相手が死んだ」

「我慢してしまった」


「そうか」


「リビアに手を貸したのも、それが原因だ」

「上手く行って欲しかった」


「ああ」


「今度は俺の番だ」

「いいな?」


「抗えないんだろ?」


「まあな」


「ダズ」

「一年は長いぞー」


「フレド」

「お前、どういう性格だ?」

「意地が悪いぞ」


「はは、お前の存在が俺を苦しめてきたんだぞ」

「仕返しさせろ」


「レイセの所為だろが」

「お前の所為だろが」

「そういう所だぞ」


「くっそー、上手い事言いやがって」

「酒、飲めよ」


 ダズさんは慌てない。


 やっぱダズさんだ。


 一瞬で全て覚悟しやがった。


 そして、ドロドロを飲み干した。


「ニーナ、だったか?」


「あー、ハイ」


「彼女は物語が好きなのか?」


「ですね」

「情報を集めるのが趣味です」


「そうか」

「レイセ」

「『ロストエンド』の詳しい話が知りたい」

「レポートを書いてくれ」


「お前の為にか?」

「自分の王を使うなよ」


「結婚祝いはそれでいい」


「俺の結婚のが先だぞ」


「お前とリビアをくっ付けるのに三百年使った」

「お前とプロミの分は用意している」


「抜かりは無いと?」


「まあ、そうだ」


「なら、書いてやるか、本気で」

「物語風に仕上げてやる」

「だが『ロストエンド』はバッドエンドで終わってる」

「良いのか?」


「物語はまだ終わっていない」

「間違うな」


「よくわかってるじゃないか」

「そうだった」

「まだ続きが有る」


「今度は、世界を救う手伝いをしてやる」

「アリアとな」


「当り前だ」

「お前は既に頭数に入ってる」

「アリアもな」


「フレド」

「もう一杯くれ」


「ああ」

「旨いだろ?」


「旨いな」

「嘘みたいだ」


「長く生きてみるもんだな、こういう事も有るのか」


「酒か?」

「彼女か?」


「両方だ」




 ダズさんは解ってない。


 アリアが保留と言ったら、保留。


 誰も一年だなんて言ってない。


 物語に影響されたと思ってる。


 影響はされてる。


 でも、更にその上を目指す。


 それが、アリアだ。


 ダズとは、この世界で、更に、とか、その上、とかの意味らしい。


 ピッタリ過ぎてヒク。


 たぶん、十年は覚悟して貰わないと。


「アリア」

「予定は?」


「百年後」


 ほらね。


 百年だって。


 自分も我慢しないといけない事を考慮して、それで百年とか言いよる。


 アホである。


 友達以上、恋人未満で上手に利用されるんだろうな。


 ダズさん。


 ご愁傷様。


 アリアは、ダズさんが持たなくても、焦らす過程が楽しければ後悔しないから。


 そういう性格だから。


 頑張ってください。


 そう祈るしかない。


 アリアが試そうと思ったのだ、アリアにもその気があるという事だ。


 そっけない態度は、照れ隠しだ。


 脈は有る。


 ダズさんが、ナンバーツーとかじゃ無かったら、アリアはこんなに手間を掛けないだろう。


 なまじっか出来る人だから、ハードルが高くなる。


 気の毒過ぎて笑える。


 アリアはたぶん潰すつもりで負荷をかけるぞ。


「ダズさん」

「アリアを救えるのは貴方だけです」

「頑張ってください」


「救うってなんだ?」

「解るように言ってくれ」


「アリアは、案外複雑な恋愛観です」

「遭難中です」


「お、おう」


「自分から過酷な場所に遭難して、助けが来るか試す性格です」


「?」

「助けが来なかったらどうする?」


「そのまま死にます」


「…………」

「絶対に救い出す!」


 見込み有るなー。


「ダズの本気が見れました」


「リビアさん、もう良いのです?」


「落ち着きました」

「ハイペースで飲み過ぎました」

「反省します」


 口調は落ち着いているが、私に抱き着いたままである。


 かわいい。


 顔が近い。


 美しい。


 良い匂いがする。



 そう思っていると、彼女は自分で立った。


 離れてしまった。


 寂しい。



 レイセに抱き着いた。


 笑顔だ。


 何か悔しい。


「俺のだぞ」


 うるせい。


 なら、しっかり管理しろ。


「貴方も三人目に加わりますか?」


「そんなんじゃないです!」


「ホントに?」


「クドイです」


「意地っ張りですね」


「違います」

「妹は増えませんから」


「ふふ、なるほど」


 レイセは、フレドと会話してる。


 聞こえないフリらしい。


 うん。


 空気読めるじゃん。


 そうしてて。


 兄貴は、私に好きな人が出来ても、悔しがらない。


 脈は無い。


 いいさ。


 兄妹に割って入る事は出来ない。


 レイセの事はそれでいい。


 たった一人の運命の人は他にいるんだろう。


 そうに違いない。


 そうだと良いな。


 友介さん?


 んー?


 んー?


 んー?


 保留にしよう。


 アリアに文句言えないな。


 だって、態度があからさま過ぎるし、キープしても怒らなそう。


 悪い気はしない。


 悪い気はしない。


 けど。


 もう一押し欲しい。



 友介さん。


 コナルさん。


 この会場にいる筈。


 探してみるか。


 まー、気配で解るよね。



 コナルさんに近づこうとしたら、通せんぼされた。


 四人いる。


 え?


 なに?


 なら、諦めようかな?


 良いのかな?


 リビアさんの隣に戻ろうかな。


「ニーナさん!」


 四人の間を抜けて、コナルさんが顔を出した。


「はい」


「友達に成ってくれますか?」


「良いですよ」


「!!」


 嬉しそうだ。


 友達。


 友達ね。


 刺激が少ない。


 アリアは結婚を迫られたのに。


 随分健全だ。


 不満。


「じゃ」


 もう、顔を見たから用事は済んだな。


 リビアさんの隣であの酒を飲もう。


 去ろうとしたら、例の四人に腕を掴まれた。



 説教が始まった。


 四人に代わる代わる。


 何でも、コナルさんは靡かない事で有名らしい。


 超鈍感らしい。


 超超鈍感らしい。


 全て私の所為らしい。


 私、魔性扱い。


 友達に成ってとか、言われたいらしい。


 そうか。


 コナルさん、モテるのか。


 もう少し、構ってやっても良いかな。


「コナルさん」

「サンドブレイブスピリット、有ります?」


「うん」

「有るよ」

「注がせて頂きます」


「うむ」

「苦しゅう無い」


「はは」


「うふふ」


 四人の視線が痛い。


 気にしたら負けだ。


 二人で酒を飲んだ。


 コナルさんはいける口だ。


 悪く無いな。


 現金な私。


 燃え上がる様な何かは感じない。


 抗えないという事は無い。


 でも、幸せになれる予感はする。


 今後に期待だ。

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