11話 酒を飲み干した

 ニーナ・アイマー:レナメントレアのはぐれ里出身。

          未契約だが黒戸美月の人生を追体験した。

          黒戸美月の精神が意識の中にある。

          五章主人公。

 アリア・アランテ:レナメントレアのはぐれ里出身。

          ニーナとは幼馴染。

 レイセ:レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

     黒戸零維世。

     連合国クロトと聖国クリアの王。

 リビア:リビア・クロト。

     レイセと婚約。

     聖国クリアの元代表。

 ベル:黒沼直樹。

    聖国クリアの守護者の纏め役。

    聖国クリアの守護者と言えば彼を指す。

    物理と数学の教師。

 ダズ:聖国クリアの代表代理。

    レイセの元上司。

    昔は無精ひげだったが、今は剃ってる。

 フレドリック・ユルロア:通称フレド。

             連合国クロトの守護者長の纏め役。

             ピナンナと婚約。

 ボーデン・バレット:連合国クロトでフレドの補佐をしている。

           エーディンとは書類上では夫婦。

           結婚式がまだ。

 ファガス:黄山十夜。

      大学生。

      リアンナ・ドバスカリと婚約。

      海洋国家ドバスカリの重要処。

 リアンナ:リアンナ・ドバスカリ。

      海洋国家ドバスカリの女王。

      黒沢香織。

      一流企業に就職。

 アル:聖国クリアの守護者長。

    クリアの飲み友達だった。

    火炎魔法を多用する魔法タイプ。




「ち、ちょっと待ってください」

「僕も聞きたい」


「俺もだ」

「俺達はまだダンジョンを完全攻略してないからな」

「参考にしたい」


 隣のテーブルからベルさんとアルさんが会話に加わって来た。


「ほら、ニーナ」

「貴重な話なんだよ」

「心して聞いてくれ」


 ファガスさんは自慢げだ。


 六十階層より下の層の説明を丁寧にしてくれた。


 そして、階層構造よりももっと重要な情報が出てきた。


 集合無意識。


 精神の世界。


 言われてみて、なるほどな。


 と、思った。


 この世界は強く思い込めば、叶うのだ。


 私が胸を貫かれた時、レイセは自分の腕を切り落として、再生するところを見せてくれた。


 私が再生すると思い込めるように、一芝居してくれたのだ。


 あれのお陰で、私はコツを掴んだ。


 そういう事だ。


 まだお礼を言ってなかったかも。


「お兄様、助けてくれてありがと」


「あの意味が解ったか」

「調子いい奴」

「お前がカマキリの腕を落とした時、やつは再生しようとしていた」

「存在感にダメージを与える事がまだまだ甘い」


「カマキリの魔物と戦って勝ったのですか?」


「だぞ」

「ニーナは急激に力を付けた」

「こっちでのダンジョン攻略の人数が揃った」

「ベル、アル」

「次の聖都のダンジョン攻略に来るか?」


「レイセ、俺が断ると思うか?」

「行くに決まってる」


「なら、そうだな」

「メンバーは、俺、ベル、ニーナ、アリア、ダズ、アル、タロストかな」

「ランとカーは留守番に成る」


「支援魔法が必要ですよ」


「ボーデン、ニーナとアリアがこなせる」


「特にアリア」

「苦手な魔法が一つも無い」

「理魔法も使える」

「むしろ得意になった」

「シーリスから、聖都までの移動の三十日で俺達の何十年かを短縮しやがった」


「フレドが聞いたら、本気で悔しがりそうです」


「ニーナとやら、コツが有るのか?」


「アルさん、試します?」


「はあ?」

「今簡単に出来るような事なのか?」


「です」

「おでことおでこをくっ付けるだけで終わります」

「一瞬です」


「…………」


「照れてます?」


「なんでだよ!」

「俺は女に不自由してない」

「うぶな性格に見えるのか?」


「ふふ」

「いえ」

「からかうと面白そうと思って」


「…………」


「あっは」

「アルさん、一本取られましたね」


「ベル」

「笑い事じゃねーぞ」

「レイセ、お前の妹殴って良いか?」


「そんな訳に行くか」

「からかわれるお前が悪い」


「で?」

「どうです?」

「試しときます?」


「くっそ」

「足元見やがって」

「試すよ」


 アルさんはおでこの前髪を手でどけた。


 私もおでこを露出させる。


 私からおでこをくっ付けた。


 限界を超えるイメージを一気に流し込む。


「うっ、く」

「流れ込んできたイメージは、一線を越える感覚か?」


「まあ、そうです」

「通じた様ですね」


「…………」

「ベル」

「お前にイメージを流せるか、試させろ」

「俺の火炎魔法のイメージもついでに送ってやる」

「レイセ」

「イメージをそのまま送れるなら、部分融合は一発だぞ」


「まさか、本当に部分融合を短期間でマスターする方法が有るとは…………」


「部分融合って何です?」


「え?」

「ああ、そうでしたね、契約がまだでした」


「契約したら、レイセにイメージを送って貰うといい」

「ついでに霧化とかも」


「霧化は出来ますよ」

「風になるのと同じでしょ?」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「お前ら、黙るなよ」


 アルさんはベルさんにイメージを流して成功させた。


「レイセ」

「貴方、私にイメージ流せる?」


「リアンナ…………」

「そうだな」

「可能性は有るな」


 レイセはリアンナにイメージを流し込んだ。


 何を流し込んだのかは解らない。


「レイセ」

「いけそうよ」


「全部か?」


「もちろん」

「でも、全員が同じようには行かないと思うわ」

「私は、集合無意識についての知識が有ったから」

「レイセ」

「魔物の王へ用意してる攻撃方法、試した事有るの?」


「無い」

「流し込んだイメージで解ったろ?」


「完全にイメージ出来てると感じたけど、違うのね」


「ああ、まだ不完全だ」

「試す気もない」


「単純な発想だろ?」


「単純な方が、効果が有るんでしょ?」

「それも読み取った」

「今回必要かもなんでしょ?」


「そんなイメージ流して無いぞ」

「今のタイミングで私に流し込んできたのよ、推理出来るわ」


「…………」

「選択肢を増やしたくて、念のために送った」

「想定では、俺が一人受け持っている間に、他の二人を、ダンジョン完全攻略組が受け持つ」

「問題は、押し寄せて来る多数の魔物達だ」

「俺が無茶やってもどうにもならない強さと数だ」

「ニーナのお陰で何とかなりそうだ」

「あと、想定より魔物の王の配下が強い可能性がある」

「その場合、数ではどうにもならない」

「今言ってた策が必要だ」


「私が一肌脱ぎましょうか?」


「せっかくだが、お前が命を預けるのはファガスにしとけよ」


「俺は、リビアとプロミに命を預ける」

「ベル」

「お前も俺のイメージを受け取っておけ」


「ですね」

「話に付いて行けなくて、困ってました」


「ベル?」

「集合無意識への知識は?」


「日本最古からの最高学府を舐めないでください」


「ああ、お前そうなんか」


「私、今、ライバルと認定したわ」


 ダズさんがこっちのテーブルに来た。


 このテーブル、人が集まり過ぎじゃない?


「レイセ」

「リビアを一人にしてやるなよ」


「ああ、ニーナが気に成ってな」


「私も行こうか?」


「お前に任せるよ」


 私はレイセと、ダズさんと、隣の隣のテーブルに移動する。


 リビアさんは泣いていた。


 レイセは空間からハンカチを出して、リビアさんに渡した。


 リビアさんは鼻をかんでいる。


「ああ、ニーナ、無事だったのね」


「ええ?」

「アリア、今どういう感じ?」


「リビアさん、飲みすぎで記憶があの時に戻ってるみたい」


 リビアさんに抱き着かれた。


 なんか、悪い気はしない。


 かわいい。


「ニーナ、そのままなだめててくれ」


「いいけど」


「フレド、その酒をどうする気だ?」


「決まってるだろ、ダズに薦めるんだ」


「はあ?」

「今断っただろ」

「いい加減にしろ」


「レイセ、協力しろよ」


「面白そうだ」


「だが、断る」


「断るを断る」


「俺も断る」


「…………」

「付き合い切れない」


「ベル、ベル!」


「呼びました?」


「この酒を飲め」


「ああ、噂の奴ですね」

「クソ不味い」


「やっぱりだろが!」


「ダズ、まあ待て」


「ベル、噂とは?」


「最初はクソ不味いですが、次第に癖に成ると聞いてます」


「だろ?」


「そうだぜ」

「ダズ、悪意は無い」

「飲めよー」


「フレド、お前、急に馴れ馴れしく成りやがって」


「あ、私、もう一杯飲みたい」


 私はテーブルに有った、空のグラスを手に取り、噂の酒を注いだ。


 既に躊躇ためらいは無い。


 味わって飲んだ。


 見せつける様に飲んだ。


 面白いから、レイセに協力だ。


「…………」


「…………」


「僕も興味が出てきました」

「一杯頂けますか?」


「ベル、お前、その流れだと俺も飲まないとだろ」


「断れると思ってるんですか?」

「飲んで下さいよ」

「僕は飲みますよ」



 アリアは小説を読みながら、酒を飲んでいる。


 自分のグラスが空に成ったので自分で注いでいる。


 サンドブレイブスピリッツ。


 さっきまで飲んでた酒とは刺激が違う。


 本人は気付いていない。


 物語に夢中だ。


 ドロドロの奴を一気に飲み干した。


 普通に物語を読み続けている。


 酒への反応は、無い。


「…………」


「…………」


「…………」


「おい、小娘!」

「名前は?」


「ん?」

「…………」

「アリアです」


「何を読んでるんだ?」


「『最初の冒険者』です」


「ああ、俺も読んだ」

「良かった」

「感動した」


「ぐ、具体的な事は言わないで下さい」

「今良い所なんです」


「そうか、悪い」


「お前、レナメントレアだな?」



 あれ?


 ダズさん、グイグイ行くな。


 もしかして………。


「『フィナリスラーウム』に入った理由は?」


「親友がいるからかな?」


 アリア、大事な所だよ。


 顔、あげた方がいいよ。


「戦争が終わったらどうするんだ?」


「特に予定は無いです」


「そうか」

「なら、俺と結婚してくれ」


 ダズさんは酒を飲み干した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る