28話 俺の予想

 レイセ:主人公。

     黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。

     融合者。

     契約者。

     黒羽学園中等部生徒会長。

     美月は妹。

 黒崎鏡華:プロミネンスと名乗っている。

      ルビー・アグノス。

      融合者。

      契約者。

      月と太陽の国女王にして、現人神。

      小学六年生。

      美月と友達。

      レイセと婚約している。

 リビア:聖国クリアの元代表。

     レイセと婚約している。

 黒竜:真名、レムリアス。

    白竜と並ぶ最古の神獣。

    レイセと契約している。

 黄山十夜:春日高校一年生。

      融合者。

      契約者。

      ファガス。

 青井友介:七星学園高等部一年生。

      融合者。

      契約者。

      コナル。

 ボーデン・バレット:フレドの補佐。

           守護者。

           閑話に登場。

 フレドリック・ユルロア:連合国クロトの守護者長纏め役。

 リアンナ・ドバスカリ:海洋国家ドバスカリの女王。

            黒沢香織。

            大学生。

 エウェル:クリア・ノキシュの妻。

      故人。

 エーシャ:エウェルとクリアの娘。

      クリアとは血が繋がっていない。




 

 夢を見た。


 エウェルの夢だ。


 夢を見ている間は、エウェルが傍にいて笑顔を見せてくれていても当たり前に感じている。


 夢から目が覚めた時、あの笑顔がどんなに貴重だったかを思い知らされる。


 俺はまだ、笑顔を思い出せた。


 切ない。


 切ないが、笑顔を思い出せたのが救いだ。


 いつか、考えたくないが、仮の話。


 思い出せなくなる日が来るのか?


 そんな日が来てしまうのか?


 涙は自然と流れていた。





 プラスに考えよう。


 エウェルの夢を見られた。


 悪い兆候の訳が無い。


 この先、きっと良い方向に進む。


 間違いない。




 涙を拭っているところを、プロミとリビアに見られていた。


 しょうが無いなって感じで俺を見ている。


 なんだか子供に成ったかのような錯覚を覚える。


 もう手に入らない者を惜しんで悲しむ。


 それを婚約者達に慈しむような眼で見守られる。


 確かに子供かもな。


 ぜんぜん恥ずかしく無いけどな。


 エウェルを思い出して、泣きたくなるのは当たり前だろ。


 夢の中では俺のすぐ隣に…………。


 この感情を割り切れる事が出来てしまったら、もうそれは、俺じゃない。


 別の誰かだ。




 プロミとリビアは、俺が泣いている所を見慣れている。


 他の皆はギョッとしていた。


 おかしくなったと思っているらしい。


「みんな、大丈夫」

「偶にあるのよ」


「そうです」

「ある意味いつも通りです」


「心配させて悪い」

「エウェルの夢を見たんだ」


「確か、前の奥さんか?」


「そうだ」


「『最初の冒険者』に出て来るヒロインか?」


「ああ、まあ、そうだ」


「じゃあ、しょうが無い気がするぜ」


「ですね」

「あのヒロインは、良い」


「だな」

「憧れたもんな」


「俺の結婚は、あの物語に影響を受けたと言ったら、信じるか?」


「俺は信じるぜ」


 男性陣は皆頷いている。


「思い出せなくなるんじゃないかって、怖くなるんだろ?」


「レイセに比べたらまだ最近の話だが、俺も怖くなって来てるんだ」

「わかる気がする」


「ファガス…………」


「俺はお前が心変わりしたと思っていた」

「済まない」


「良いんだレイセ」

「前の妻、フィレナが有りながら、俺はリアンナに惹かれた」


「お前ら似たもの同士だよな」


 コナル、お前は一途で凄いよな。


 言わないけど。



 その位で無かったら、美月は渡さんしな。



 十分な睡眠と十分な食事、そしてトランプなんかによるちょっとした娯楽でのリラックス。


 これらにより、消耗した体力と気力を回復させた。


 百階層はもの凄いのが待っている。


 絶対だ。


 万全の体勢を作らなければいけない。


 きっと何事も長く続けるにはそれらが必要なのだろうけど。


 まあそれは今いい、あと更に必要なのは打ち合わせだ。


 俺は、俺の得意なあのセリフを言う。


「この先の展開は予想が着いている」


「貴方のその予想、当たるから困る」


「そうです」

「もうレイセが操ってるんじゃないですか?」


「そんな訳無いだろ」

「ヒントが出てるんだ」


「お前ら、壁の外の魔物で、どうあっても倒せそうにない奴と戦ったこと有るか?」


「俺は有るぜ」

「追い返すのが精一杯だった」


「無いな」

「会うと死ぬしかない」


「俺も無いな」


「私も有りません」

「会いましたが、全力で逃げました」

「奇跡的に追ってきませんでした」


「私の場合も追ってきませんでした」


「私は何度かあるわ」

「いつも追い返してきたわ」


「じゃあ、わかるのはフレドとプロミ位か」


「それがヒントなの?」


「あいつ等の再生力、ここのエレメント人と原理が同じじゃ無いか?」


「……かも」


「確かにすごい再生力だったが……」


「つまり、何です?」


「ダンジョンは訓練施設だ、と、仮定する」


「なら、訓練施設の最後にこなさないといけないのは、どんな要素だ?」


「この流れだと、存在感自体にダメージを与えられるように成る事でしょうか?」


「そうだ、リビア」

「その流れだ」


「存在感にダメージを与えられるようになる訓練として、仕上げはどうなると思う?」

「答えを言うと、確実さだ」

「確実にダメージを与えないと突破出来ないようなハードルを用意してくる」

「みんな、九十一階層から九十九階層で、炎人を一撃死させられていたか?」

「俺の予想の結論を言う」

「大群が攻めて来る」

「それも、一晩や二晩では終わらない」

「今でさえ三徹が必要なんだ」

「それ以上を用意してくる、筈だ」

「みんな、睡眠は十分か?」

「簡易トイレが必要なら今の内だぞ」


「レイセ、今までと同じくらいの難易度じゃねーのか?」


「俺の予想を言おうか?」


「めっちゃこえー」


「おいフレド、聞かない方が良く無いか?」


「いや、聞くぜ」

「覚悟が必要だ」


「耳を塞ぎたくなってきたわ」


「私もです」


「同じく」


「聞くしかないわな」


「しょうが無いな」

「聞いてやる」


「三倍位になるんじゃ無いか?」


「え?」


「ちょっと待て、何が?」


「確認するぞ、何が三倍なんだ?」


「動き続ける、集中が必要な時間だ」

「十日位寝ないで戦わないとクリアできないだろ」


「ふざけんな!」

「出来る訳無いだろ!」


「予想はあくまでも予想だ」

「外れるかもな」


「あんた予想を外した事あったか?」


「まあ、こういう時は百%当てるな」


「外したのは、フレド、お前が騎士団長だと思った時だけだ」


「ああ、合ったなそんな事」

「ピナンナより俺のが強いものな」


「つまり百%は揺るがないって事だな」


「俺達は精神体の、筈だ」

「気力が持てば、何とかなるだろ」


 たぶん。



 まず間違いなく、大群が攻めて来る。


 何故言い切れるかって?


 俺の予想だぞ。


 外れる訳無いだろ。


 こんな絶望的な予想が。


 こんな馬鹿な予想が。


 外れる気が全くしない。


 十日とか。


 三日くらい徹夜してみろ。


 十日がどの位不可能かわかる筈だ。


 だが俺には、この、十日と言う馬鹿げた日数に自信がある。


 笑うしかない。


 どうする?


 十日だぞ。


 はー。


 ちょっとクドイか?


 このクドイ感想が終わったら、始め無いといけない。


 嫌なんだよ。


 始めたくない。


 踏ん切りがつくと思うか?


 十日だぞ。


 ふざけろよ。


 ダメだ。


 ちょっと待て。


 まだ駄目だ。


「みんな」

「俺、まだ勇気出ないわ」


「レイセ、待っててやる」

「俺はいつでも……良くはないが」


「そ、そうよね、決心出来ないわよね」

「私も、もうちょっと時間が無いと無理だわ」


「私はレイセに付いて行くだけです」

「覚悟はうに出来ています」


「リビア」

「貴方のそう言う所、どうかと思うわ」


「確かに、頼もしいですが、この状況では微かに狂気を感じてしまいます」


「ボーデン」

「狂気は失礼です」


「いや、怖いだろ」

「ボーデンは正常だ」


「私が異常みたいに言わないで下さい」


「いや、異常だろ」

「自覚無いのか?」


「ファガス、コナル」

「決心できないからって、自分を正当化しないで下さい」

「気合が足りません」

「今までの人生で、一番恐怖した事は、どんな事ですか?」

「その恐怖より、今回の試練は困難ですか?」

「今までの訓練は何の為です?」

「答えはすぐに出る筈です」


「ああ、言いたい事は解った」

「こんなのは屁だ」


「やってやるよコンチクショー」


「はあー、ー、ー、仕方ない」


「やる、やってやる」


「突破だ」

「みんな、行くぞ」


 俺達全員は扉の外に出た。


 もう、躊躇ちゅうちょは無かった。



 扉を出た向こう側は、灰色の、コンクリートの様な平らな地面と青空が見えた。


 サッカーコート位の広さだ。


 空間の中央に、出てきた扉だけが浮いている。


 浮いた扉は、端から透明になって、消えた。


 入口も出口も、何も無くなった。


 空間に取り残された。


 クリアするまで、絶対に逃げられない。


 こんなことだろうなと思っていた。


 言ったろ。


 展開は読めている。



 勿体ぶるな。


 さっさと始めるぞ。


 早く出て来い。




 全くの無音の空間。


 俺達は物音を立てていない。


 火、水、砂、風、光、影、樹、氷、雷、鉄。


 色とりどりの塊が一斉に出現した。


 人型に成って行く。



 間合いを読んで駆け引きする気の無い動き。


 突っ込んで来る。


 ついに始まった。



 苛烈な攻撃が延々と繰り返される。


 だがまだ三時間程しか経っていない。


 俺達は自然と陣形を取っていた。



 リビアとフレドがタンクで、前方と後方の攻撃を防いでいる。


 俺、プロミ、ファガス、コナルがアタッカーで、敵を殲滅する。


 ボーデンは、『身体能力向上』と『戦意高揚』の魔法をかけつつ、遊撃を熟している。


 ボーデンの補助魔法『戦意高揚』を温存するのが、今回の戦闘のキモになる。


 みんなで相談した訳じゃ無いが、阿吽の呼吸で把握して連携している。



 繰り返しになるが、敵の動きに、自分の存在を守る感情は一切無い。


 一か八かの万歳アタックしか無い。


 人間には絶対マネできない動きだ。


 『ウォーターフォックス』の死兵共も同じような動きをしてくるのだろうか?


 ハッキリ言って反則に近い。


 ギリギリでしかさばけない。


 喰らうと致命傷になる。


 しかも常に一定の数が補充される。


 たったの三時間で疲労が半端ない。


 たったの三時間で反射的に一撃死させる事に慣れてしまった。


 ゲームで言えば、クリティカル攻撃だ。


 クリティカル攻撃を確実に出し続けて、十日持たせる。


 クリティカル攻撃で確実死させないと数に圧倒されて詰む。


 出てきているのは、水、砂、風、火の時のエレメント人と大差ない実力だ。


 そいつらが防御を捨てて突っ込んで来る。


 設定された難易度にため息が出そうだ。




 まだ三時間だぞ。


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