12話 持ち歩け
外にいる魔物の強さは様々だ。
だが、俺の今の強さを基準にすると三種類に分類できる。
一種類目は、簡単に倒せる奴。
こいつに会っても問題なく処理できるだろう。
二種類目は、実力が近い奴。
俺の気配読みで自分と同じくらいの気配の奴だ。
俺はこういう奴と戦って負けたことが無い。
こいつに会っても対処できるだろう。
問題は三種類目。
倒せそうに無い奴だ。
一種類目は五割、二種類目は三割、三種類目が残り二割。
五十階層まで攻略出来ても、倒せそうに無い奴が二割もいる。
そのうち、将来的に倒せそうなやつは一割。
将来的にも無理そうな奴が一割。
倒せそうに無い奴には絶対会ってはダメだ。
死ぬ。
倒せそうにない奴はもう一つ分類の仕方がある。
気配が馬鹿でかい奴。
全く気配がしない奴。
強い奴は気配も大きい。
気配を隠そうとしていない奴は、近づかなければ良いので対処できる。
全く気配がしない奴が厄介だ。
どうしようも無い。
救いなのはこういう奴は追って来ない事が多い。
見つかってからも逃げれば、助かるかもしれない。
運が良ければだが。
倒せそうもない、気配の無い、好戦的な奴に会ったら、死ぬ。
そういう奴が数%いる。
会わない事を祈るのみだ。
山小屋がまだあるか見に行こうとした。
サバスに来ようとした時は、大人の足で二週間と教わっていた。
今では数時間で移動できる。
あれから、爺が現れない。
小屋に戻っていないか、確かめておきたい。
今思い返してみると、爺はめちゃくちゃ強かった。
外で生活し続けられるというのは、本来有り得ない強さだ。
俺はもちろんの事、ダズやトアスさんよりも実力が上という事に成る。
いなくなったのは、態とだろう。
俺は追い詰められないと実力を発揮しない。
爺はわかっていたのだろう。
だからだ。
だから置いて行った。
爺には教養があった。
聞けば、大抵の事は答えてくれた。
地面に字を書いて、教えてくれた。
動物の解体。
気配察知。
気配消し。
狩りこそ教えてくれなかったが、その他は英才教育だったかもしれない。
思い返せば、それだけ不自然な事が思いつく。
まだある。
俺がおかしな夢を見ると相談しても、意に介して無かった。
むしろ、むしろ、何か納得していたか?
小屋に着いた。
ボロボロに荒れ果てていた。
小屋には、床板を外すと入れる地下室がある。
一応、確認しないとな。
床板を外し、階段を降りる。
真っ暗だ。
昔と同じ場所に、ランプが有った。
魔石で光るランプ。
周囲に全く光が入らない。
手探りで探し当て、ランプのボタンを押す。
ちゃんと灯りが点いた。
俺は、床板を動かした感じから、誰も入っていないと勝手に思い込んでいた。
違った。
中央の作業机に、本が一冊あった。
無造作に置かれている。
紙の本だ。
紙製は夢でしか見た事が無かった。
分厚くは無い。
しっかりとした表紙。
数ページあるが、文字は書かれていない。
絵本だ。
内容は景色だけだ。
壮大な風景。
最後のページだけ、見開きで高層ビルのような何かが描かれていた。
夢の世界の建物に似ている。
最後の見開きに、栞が挟まっていた。
特殊な紋様が両面に描かれていて、『Carry around.』と書かれている。
俺は栞を胸ポケットにしまった。
裏表紙を見ていなかった。
裏表紙には、黒い竜の下に、『Do you live?』と書かれていた。
床板を嵌め直し、小屋を施錠した。
厳重に施錠したところで、きっともう誰も来ることは無い。
爺と過ごした時間を思い出しながら、部屋を片付けて、小屋を出た。
あんな本は見た事が無かった。
爺は帰って来た後、別の場所に移動したのだろう。
俺には会いに来なかった。
意味深な絵本。
爺とはまた会う。
俺は確信した。
小屋を出てほんの数時間。
厄介なのに捕まった。
俺は死ぬ。
移動速度を上げようと無理したのがいけなかった。
気配を読むのが得意な、倒せそうにない奴を引き付けてしまった。
動きが速くて目立ったのだろう。
敵は巨大な鴉だ。
知能が高く、空を飛ぶ。
攻撃スピードが速すぎた。
突撃スピードもだが、風魔法も使ってくる。
逃げようが無かった。
繰り出される攻撃全てが、俺を即死させるに十分だ。
風魔法が放たれる。
敵の強さが段違いすぎて、攻撃の起りを知覚できない。
俺の目にはノーモーションに映る。
躱せているのは偶然だ。
魔法を躱すのに集中していたら、いつの間にか姿が無い。
悪寒を感じ、前に飛び込んで前転する。
俺のいたところを、鴉が猛スピードで通過する。
受けていたら衝撃で致命傷だった。
無事に帰れていたら、ダズは何を食べさせてくれるつもりだったのだろうか?
そんなことを考え、半ば諦めかけていた。
そんな時だった。
黒い塊が俺を横切った。
全く気付かなかった。
冷汗が出てきた。
こいつはヤバい。
鴉には気配を感じる。
だが今俺を横切った奴は不気味なほど静かだ。
気配が全くない。
森の中、すぐ近くを通り過ぎたのにだ。
黒い塊の移動スピードは異常だ。
鴉も黒いが、鴉だと解る。
だが黒い塊は、姿を正確に捕捉出来ない。
黒い塊としか認識できない。
震えで歯がカチカチと鳴る。
『小僧、俺はお前を助けねばならない、不本意だがな』
頭の中に声が聞こえた。
約七メートルの黒い塊は、鴉に襲い掛かった。
上空へ逃げようとした鴉に黒い塊のブレードが届いた。
鴉の左の翼が落ちた。
鴉は地面に激突した。
黒い塊は追撃。
落下した鴉に、黒い塊の角が突き刺さった。
鴉は動かない。
あっけなく死んだ。
一瞬の間。
鴉から角を引き抜く黒い塊に、熊が飛び掛かる。
紫色をした熊だった。
こいつも倒せそうにない奴だ。
俺は全力で光る突きを放ち、熊を撃つ。
全く効いていない。
いや?
少し態勢を崩せたか?
黒い塊と、紫の熊は戦闘を開始した。
俺は足手纏いだ。
そのまま戦闘を離脱した。
逃げた。
助かった。
俺は無事サバスにたどり着いた。
俺は一旦家に帰り、少しフォーマルな格好に着替えた。
待ち合わせ時間より少し早く、拠点に着いた。
まだ足が震えていたが無視するよりなかった。
ダズは時間通りに来た。
ダズが連れてきてくれたのは、品の良い小料理屋だった。
小さい店で、カウンターしかない。
俺は意外と酒に強い。
ダズもだ。
いっぱいやりながら、今日会ったことを話す。
「僕はあの黒い塊に助けられたかもしれません」
「ふん、俺の常識に無い事だが、お前には俺の常識を覆されてばかりだからな」
「お前がそう言うなら、そんなこともあるかもしれん」
「神獣と言われる類の魔物は、言葉を話す事もあるらしいしな」
「なんですか?」
「神獣?」
「暇があったら町の図書館で調べてみると良い」
「外の魔物の情報は少ないが、確かそういう本もあったはずだ」
「本ですか?」
「そうだ」
「今日、昔生活していた小屋を見に戻ったら、絵本を発見しました」
「紙のやつです」
「見ますか?」
俺は鞄から絵本を取り出した。
ダズはページをパラパラとめくる。
「この本は絶対に無くすな」
「貴重品だ」
「わかるんですね」
「今まで見た事が無い色が使われている」
「描かれた景色が、綺麗すぎる」
「全て、実際にある風景を書き写して在るように見える」
「だが、最後の見開きの建物には、現実感が無い」
「不思議な絵本だ」
「お前の爺が残したのだろ?」
「たぶんそうです」
「他の本と比較してみろ」
「違いがわかるぞ」
「図書館に入るには資格が必要だ」
「神獣の事もあるし行ってみろ」
「俺から話しを通しておく」
「それはそうと、今日結界師が三人も増えて俺は驚いている」
「案内人に結界師が少なくてかなりまずい状況だったんだ」
「それを簡単に……」
「やれと言ったのはそっちでしょう」
「手早く片付けただけです」
「……そんなに簡単に覚えられるなら俺も覚えとくかな」
「クリア、コツを教えてくれ」
「いいですよ」
良い店だ。
今度リビアに教えてあげよう。
アルさんも誘ってみるか。
案内人の夜は更けていく。
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