12話 ため息くらい許容しろ

 レイセ:主人公。

     黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。

     融合者。

     契約者。

 黒崎鏡華:プロミネンスと名乗っている。

      ルビー・アグノス。

      融合者。

      契約者。

 黒竜:真名、レムリアス。

    神獣。

    レイセと契約している。

    四足移動。

    背中に羽根がある。

 黒沼直樹:ベル。

      黒羽学園高等部の数学と物理の教師。

      中等部生徒会顧問。

      融合者。

      守護者。

 黄山十夜:春日高校一年生。

      融合者。

      契約者。

 青井友介:七星学園高等部一年生。

      融合者。

      契約者。

 エウェル:クリア・ノキシュの妻。

      故人。

 リビア:元守護者。

     レイセと北の大地に旅立った。

     聖国クリアを創設した。

 ボーデン・バレット:傭兵団アートルム所属。

           ソロのBランク冒険者だった。

           閑話に登場。

 ラトス・ミュラ:元ルピアスの将。

 クルダム・ゼロス:ノスヘルの代表。

          文官。

 セムリス・リルム:クルダムの腹心。

          文官。

 ニシエラ・ラドラルフ:クルダムの腹心。

            文官。

 フレドリック・ユルロア:ノスヘルの騎士。

             副騎士団長。

 ピナンナ・ラクトリ:ノスヘルの騎士。

           騎士団長。



 俺達はノスヘルの代表、クルダム・ゼロスに会いに行く。



 執務室に通された。




 今日はクルダムだけだ。


 彼は緊張しているようだ。


 プロミネンスを知っているらしい。


 視線が泳いでいる。


 実に彼らしくない。


 笑える。


「ローベルから連絡が有りました」

「同盟を結びたいらしいです」


「不満そうだな」

「お前は兵を出さず、戦わずして勝った」

「喜んだらどうだ?」


「喜んでいるのは貴方だけだ」

「この戦いは次の戦いを生むだけです」

「今後、更に戦いの規模が大きくなる」

「どう収拾を付ける気なんです?」


「お前たちが千年続けた小競り合いでも人死にはあった筈だ」

「停滞は最悪の事態を招く」

「人口の多寡が魔物の王を引き寄せる要因かどうか、確定した訳じゃ無い」

「十八都市は薄氷の上に浮かんでいて、今にも崩れそうというのが俺の意見だ」

「犠牲を伴ってでも、十八都市を一つに纏める必要がある」

「それは俺がやってやる」

「お前は、まず自分の心配をしろ」


「…………」

「では、問題を片付けましょう」

「フレドリックから報告を受けています」

「セムリスがローベルと内通していたらしいですね」


「他人事みたいに言うな」

「俺はお前がセムリスに指示を出していた可能性も視野に入れているぞ」


「そう言われましても、ねえ?」

「証拠は無いですよね?」


「まあな」

「無いな」


「当り前です、私は関与していない」

「セムリスは処刑です」

「どうかそれでご勘弁を」

「それで、そちらの女性にご挨拶させて頂いても?」


「ちょっと待て、気持ちはわかるが確認させろ」

「確実なんだな?」


「すでに刑は執行済です」

「遺体を確認しますか?」


「刑は?」


「打ち首です」


「……一応確認する」

「ニシエラの手綱を緩めるなよ」


「言われなくても」

「そもそもルピアスを併合したせいで、手が足りない」

「これ以上勝手な真似を行うなど不可能です」


「さて、お待たせしました」

「ご機嫌麗しゅう女王様」

「私はこの都市の代表を務めています、クルダム・ゼロスと申します」


「格式ばった挨拶はいらないわ」

「聞きたいことが有るのよね?」


「話が早くて助かります」


「この彼とは、どのようなご関係です?」


「そうね」

「貴方にはあまり情報を与えるなと言われているわ」

「特に親しくしているとだけ言っておきましょう」

「それで十分でしょう?」


「一時的に協力をされた訳では無いのですね?」


「そうよ」

「こいつは私の国で二百年過ごしたわ」

「死なない限り、関係は続くでしょうね」


「…………」

「ただの興味で訪ねますが、何をすればそれほど現人神に気に入られるのです?」


「私が魔物の王とやり合っているのは知っているの?」


「ええ、存じています」


「彼は魔物の王の配下を一人殺したわ」


「なっ?!」


「おい、プロミネンス」

「それは言うなよ」


「貴方、このままじゃ毒殺とかされるわよ」

「いいの?」


「配下を葬れる実力には利用価値があるわ」

「そう思うでしょ?」


「なるほど」

「それほどの力とは思いませんでした」

「考えを改めましょう」

「私は武人ではない」

「部下から計り知れない実力と報告を受けても、程度の感覚がわからず判断が出来無かったのです」

「宿の手配はお済ですか?」

「無ければ手配いたしますが」


「結構よ」

「彼と同じ宿に泊まるわ」


「ああ、そうだ、フレドリックは不問にしろよ」


「わかっています」


「なら良い」


 部屋を後にした。


 フレドリックに会いに行く。



 訓練場にいた。


 拘束は解かれているらしい。




 泣いているピナンナをなだめていた。


「フレド」

「お前らそういう関係だったのか?」


「あーあー、そうだとも」

「悪いか?」


「いや、泣かすなよ」


 リビアに左腕をつねられた。


 俺が言っていいセリフではないようだ。


 うん、わかったから、もうつねるのをやめてくれ。




「で?」

「他の都市の情報は入っているか?」


「あんたも調べさせてるんだろ?」


「そっちはどうなんだ?」


「オアミ、クベルト、ミクトシアに動きが有る」


「こっちは、ミスト、シーセー、ケダ、テワだ」


「結託してると思うか?」


「わからねえな」

「最悪を想定しておいた方が良さそうだ」


「最悪、同時という事か?」


「そうらしい」


 七都市を同時に相手とか、無理過ぎる。


 どうするんだよ。


 一人一都市を相手にしても、手が足りないぞ。


 ダンジョン攻略者チームが紛れていたら、確実に負ける。


 もしそうなったら賭けすら成立しない。


 ハァ~~。


 俺は深いため息をついた。



「ハァ?」

「あんた、俺達に逃げ場失くしといて、ため息とか…………」

「しっかりしてくれよ、こうなったらあんたが頼りだ」


 うるせえ。


 予定の倍の都市が動いているんだぞ。


 ため息くらい許容しろ。


 ハァ~~。



 俺はこれ見よがしに、もう一回ため息をついた。


 フレドは冷ややかな目で俺を見ている。



「そうだった」

「あんたに聞きたい事がある」


「あんた『レイセ・クリア・クロト・ノキシュ』と名乗ってなかったか?」


「聞こえてたのか?」


「いや、読唇術だ」

「そうか、合ってるんだな?」


「どうだったかな?」


「今更とぼけるな」

「南で『光刃のリビア』と『魔槍のクリア』と言う名は有名らしいな」


 魔槍のクリアか、またその呼び名か。


「何を笑ってる?」


 いつもの通り、二つ名が大げさすぎて笑ってしまった。


「まだある」

「『最初の冒険者』の主人公はクリア・ノキシュと名乗っている」

「作者もクリア・ノキシュだ」


「同時期のはずだ」


「…………」


「最近南では魔物の王の配下が一人倒されたと聞いた」

「倒した奴に『光刃のリビア』が付いて行ったと」


「リビアの名前も伏せるべきだったな」


「私は話した方が良いと言いましたよ」

「じきに解る事です」


「その位、どうって事ないわ」


「お前が言うと説得力があるな」


「フレドと言ったかしら?」

「貴方、積極的にその噂を広めなさい」

「あくまでも噂として」


「あんたは何者なんだ?」


「私を知らないとは失礼な」


「プロミネンスを知らないのか?」


「プロミネンスって、あれか、魔物の王と対立してる」


「それだ」


「あれとか、それとか、失礼ね」


「はー、あんたら、どうやって知り合うんだ」


「向こうから探しに来た」

「黒竜を追って」


「プロミネンスに探されるか、一度言ってみたいね、そんなセリフ」


「しかし、本当に、あの『最初の冒険者』とは…………」

「あんた、めちゃくちゃやるな」


 フレド、違うぞ。


 まだ始まっていない。


 めちゃくちゃやるのは、たぶんこれからだ。


「念を押しとく」

「あんたなんだな?」


「ああ、そうだ」


「…………、で?」

「こっちが、もし片付いたら、聖国クリアはどうするんだ?」


「もし、な」


「もし、さ」

「確率から言って、もしもの話だ」


「もし、ここで争いを無くしたら、一旦帰るよ」


「こっちはどうなるんだ?」


「両方治めるさ」

「だれか、信頼できる奴を置いて行き来する」


「ボーデンが候補か?」


「いや、第一候補はお前だ」

「ボーデンは補佐だ」


「…………、マジで言ってるのか?」


「冗談で言える事じゃない」


「お前、本当に実力を隠しているだろう?」

「お前の奥の手に心当たりがある」

「お前、時々視線が不自然だろ?」


「…………」


「カマかけただけだ」

「引っかかるなよ」

「こっちが不安になる」


「な、なんで俺なんだ?」

「あんた自分の部下を使えよ」


「勘だ」

「重圧に耐えられる奴はそう居ない」

「まあ、その前に、攻められそうなんだが」


「だな」

「後で考えるか、どうやって断るか」


「断るなよ」

「クルダムとか無理だぞ」


「クルダムさんはそんなに悪い人でも無いぞ」

「そこそこだ」


「まあ、俺が王に成ったら命令してやる」

「お前は騎士だから断れないだろ」


「辞めるか」

「騎士」


 諦めろ、俺が留めをさしてやる。


 お前の弱点は、恋人のピナンナだ。


 ピナンナはどう言うかな?


「ピナンナはどうする?」


「私はフレドに仕えてみたいです」


「だと」


「な、ん、だ、と」


 やっぱな。


 そう言うと思った。


 断れそうもないな。




 面白い奴だ。

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