第255話 Aー16 救援①

 ユウはなんとかハイランカーであるケイティーの攻撃を避けつつ、逃げ延びていた。


 そのわけとしては相手が暴走状態で攻撃が単調であったからであった。

 それはまるでNPCの決まったコマンド。


 距離があれば銃撃。

 距離が近ければ突進。

 接近していたら斬撃。

 中距離は跳躍してからの空中投擲、そして間合いに入ってからの斬撃。


 だからパターンさえ覚えれば、あとは上手く回避をすればいいだけ。


 ──でも、これじゃあ、ジリ貧だ。


 そう。回避するだけで精一杯。反撃はやはり厳しい。

 そしてとうとう袋小路に行き当たった。


 ユウは今まで通り、相手との距離を掴んで攻撃を回避。そして来た道を戻ろうと考えた。


 だけど、今回は違った。

 中距離。

 相手は空中へとジャンプ。そして空中でナイフを2本投げる。

 ユウはタイミングよく避ける。

 ここまでは良かった。


 問題は次に繰り出すケイティーの行動だった。

 今までなら3番目のナイフを取り出して斬撃。


 けれど、ケイティーは家屋の屋根に着地し、バズーカーを構えていた。


「ええ!?」


 ユウは声を出して驚いた。


 いつ取り出したのか。

 だが、ここはゲーム内。

 端末を操作すれば武器やアイテムを取り出せるし、専用のポーチがあればどんな大きさだろうが取り出すことが可能。


 驚くユウにお構いなくケイティーはバズーカーで周囲一帯を爆撃。

 地面が抉れ、家屋は破壊。煙が立ち昇る。


 ユウも爆撃に巻き込まれ、遠くへ吹き飛ぶ。

 直撃を免れたとはいえ、ダメージは相当なものだった。


 起き上がったところで背後に気配を感じた。

 ユウは反射的にガードをして、相手の攻撃を防ぐ。


 けど、いかんせんことにパワー差がある。

 ユウはタタラを踏む。


 そこへケイティーの回し蹴りがユウの腹部にヒット。

 ユウは後ろへと転がり、起きあがろうとするもケイティーの動きの方が速かった。


 ──無理だ。


 そう諦めたときだ。

 ケイティーはユウへの攻撃をしなかった。


 いや、出来なかった。

 それはケイティーに対して何者かが強襲したからだ。


 ──誰?


 ユウは立ち上がり、ケイティーを強襲したプレイヤーを見る。


「確か……」

「さっきはありがとうね」


 それはペリーヌパーティーメンバーの1人だった。


「どうして?」


 ユウのその問いを、


「どうしてって、助けにきたに決まってるでしょ?」

 ペリーヌが答えた。


「さあ、皆、行くよ!」

『おおおー!』


 いつの間にかユウの周りにペリーヌパーティーがいた。


「セシは?」

 ユウはペリーヌに聞く。


「あれ? あいつ、まだ来てないの? あんだけ啖呵切っておいて」

「啖呵?」

「なんでもないわ」


 ペリーヌは鼻を鳴らしてなぜかそっぽを向く。

 それにパーティーメンバーは苦笑した。


「ほら、あんた達、ぼっさっとしてないでやるわよ!」


  ◯ ◯ ◯


「……嘘でしょ?」


 ペリーヌは最後にそう呟いて消えた。


 残ったのはユウだけだった。


 あれだけ大勢いたペリーヌパーティー。それを暴走したケイティーが1人で屠った。


「なぜ俺だけ残した?」


 ケイティーはなぜかユウへの攻撃はしなかった。


 まるで美味しいものは最後に残すような。


 暴走状態であっても芯の部分は残っているようで、嗜虐性があらわになっていた。


「くそー!」


 ユウは突っ込んだ。


 味方をしてくれたペリーヌ達のためにもユウはダガー・ウィンジコルを振るう。


 それをケイティーは嘲笑うかのようにいなして防ぐ。


「くそっ! くそっ!」


 力を込めてユウは何度も攻撃する。

 けれどケイティーは片手のナイフのみで軽々と打ち返す。

 実力差は大人と子供ほどあった。

 ケイティーの左フックがユウの右頬に当たる。

 それだけでユウの体は吹き飛ぶ。

 ケイティーはゆっくりと、倒れたユウへと近づく。


 ──無理だ。実力差が開きすぎている。


 二度目の挫折。

 でも、ユウは立ち上がった。それは根性でもない。諦めに似た最後の決意だった。


 ──差し違えてでも。


 ユウは突っ込む。

 それをケイティーは躱し、カウンターでユウの背中を蹴る。


 ユウ立ち上がり、今度は袈裟懸けに切りかかる。

 それも躱され、足を引っ掛けられ、ユウは転がる。


 暴走したケイティーが嘲笑う。

 ユウは苛立ち、何度も立ち向かってはやられる。


「くそっ!」


 ユウは毒づき、肩で息をして立ち上がる。

 そして息を整え、ケイティーへ飛びかかる。


 だが、相手を攻撃するのでなく、近づくとユウは両腕を後ろにして体勢を低くし、サイドステップでさらに背後へ回り込もうとする。


 が、ケイティーもすぐに対応して背後を取らせないよう姿勢を向き直す。


 ユウは右腕をケイティーへと伸ばす。

 ケイティーは斬撃だと思い、上手く躱す。


 が、ユウの右手にはダガー・ウィンジコルはなかった。


 接近した時に後手うしろてで左手に移し替えたのだ。


 ユウはすぐに左手に持つダガー・ウィンジコルでケイティーの脇を突き刺す。


「ぐガがgaギぃyaアぁァぁ!」


 ケイティーはフェイントで突き刺されたことに腹を立て、咆哮する。そしてユウの髪を掴み、右拳を連打。そして後ろ回し蹴りで大きく後ろへ飛ばし、最後はバズーカーで吹き飛ばす。


 煙が立ち昇り、ケイティーはもう一度咆哮する。


「おや? もう勝った気ですか?」


 煙から声がした。


 その声はユウではなく、別の女性の声だった。


 煙が《内から》2つに斬られたと瞬間、煙は霧散した。

 露わになったのは巨大な鉛の玉とその側に立つ、刀を持った1人の青いドレスの女性。

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