第264話 Pー16 錯綜
立て籠りが発生したということで旧講堂前にテントが張られた。そしてその中では現場責任者が苛立っていた。
「そろそろ、差し入れに仕込んだ睡眠薬が効くころでは?」
部下の一人が尋ねる。
「待て。まだ上からは何も指示されいない」
「しかし!」
「黙れ。言いたいことはわかる。でも、今回は中国側のクソ坊ちゃまが関わっているんだ」
「……」
現場責任者はこれ見よがしに大きく溜め息をついた。
さらに命令には隣のテントにはS.I.Tがいるので決して邪魔はしないようにと告げられている。
そしてこちらからの命令以外は何も動くなとも。
そのこちらとはネゴシエーターのいる本部のこと。本来はここにいて彼らと交渉を行い、現場責任者は逐次情報を手に入れ、突入作戦を考えるもの。
しかし、今回は中国の留学部生が関わっているとのことで、ネゴシエーターはここにはいない。交渉の話を聞かれたくないようだ。
つまり、ここにいるのは命令を待つ警察官達。
◯ ◯ ◯
S.I.Tのいるテントでは、隊長が目を瞑りながら椅子に座っている。その顔は険しいもので、苛立ちを無理に抑えているようだった。
他の隊員もじっと待機していた。
上からは指示があるまで待機と言われた。
テーブルには旧講堂内の地図があり、そこにはバリケード、立て籠り犯がどこに立て籠もっているのかが記されてある。
ただ立て籠り犯の数と人質の数、そして人質がどこに監禁されているのかは不明であった。
情報では一部人質は立て籠り犯と一緒であると聞く。
「上から連絡が来ました」
伝令係の部下が隊長に言う。
「なんだ?」
「正面バリケード、そして一部エリア内にて騒ぎがあるが、決して動くなとのことです」
「なんだそりゃあ?」
伝令係に対して隊長は怒鳴る。
「すみません」
「いや、すまない。悪いのは上のはずだ」
今回の立て籠りは中国のクソ坊ちゃまが関わってるせいか、上は鎮圧におよび腰のようだ。
◯ ◯ ◯
ネゴシエーターのいる本部。
それは──存在しなかった。
現場責任者のいるテントとS.I.T側には本部があるように思わせているだけ。
そしてそんな現場責任者とS.I.Tに命令を出しているのは九条だった。
内閣のお偉いさん達は極秘裏に解決したいために特殊な捜査本部を建てるように命じた。そしてそれを下に送られる前に九条が掻っ攫った。
九条はマンションの一室にありのしないネゴシエーターのいる捜査本部を作り、現場とS.I.Tの指揮権を手に入れたのだ。
そうなると後は簡単だ。
盾を持った機動隊を旧講堂周辺で囲む。
現場責任者やS.I.Tのテントには権力の圧により、難航しているように見せ。かつ、双方が協力しないようにけしかけた。
雫達が潜入できるように時折、盾を持った機動隊の配置を変えて、その隙に雫達を旧講堂へと誘導。
そして先行していたスゥイーリアこと風祭莉緒がトラップを発動。
それにより、立て籠り側は警察を、警察は立て籠り側と互いに誤認させ衝突させた。
九条は現場責任者に機動隊はなるべく穏便に事を済ませるよう告げさせ、S.I.Tには混乱が落ち着くまで待機と命ずる。
そして雫達には縄はしごで2階へ上がれと命じた。
「よし。これで潜入成功。あとは中国側をちょちょいとなっと」
九条はパソコンを使い、中国側の情報を操作する。
「あまり深入りしないように。トラップでウイルス打たれた大変だからね」
鏡花が注意を言う。
「わかってますよ」
「にしてはウキウキだけど」
「そりゃあ、今までこっちは上のせいで防戦一方だったけど、やっと好き放題ボコボコにできると思うとね」
九条は今まで鬱憤を晴らすかのようにキーを叩く。
「パネルキーボードではないんだね」
九条が使っているのはボタン式のキーボードだった。
「いやあ、ついドンドンやっちゃうんで旧式のキーボードですよ」
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