第263話 Pー15 作戦

「では、作戦内容を話そう」


 鏡花が皆に向け、話し始める。


「まあ、作戦といってもシンプルだ。敵の目を惹きつけるている間に侵入し、敵リーダー格とその他を無力化。そして人質の解放」

「問題はどうやってよね」


 雫が水を刺す。


 先程、鏡花が言ったことは頭の硬い警察の指令官でも思いつく考え。


 問題はどうやってである。


「まずは陽動で相手の注意を惹きつける。その隙に潜入。そして二手に別れて行動」

「言うは易しよ。具体的にどうやって注意を惹きつけるというの?」

「それは九条君が」


 鏡花は九条へと手を差し向ける。


「はい。私でーす」

「できるの?」


 雫は懐疑的な目を九条に向ける。


「私、警察庁の人間ですよ。それに今回は中国側では色んな思想が錯綜して噛み合っていない状態。なら、それぐるぐると掻き乱してやればいいのよ」


 九条は人差し指をぐるぐると回す。


「そして胡桃は敵を中枢を無力化に。君とアリス君は人質の解放」

「ちょっと待って、あの人だけで敵リーダー格を倒しに行くの? 無理よ」


 敵は一人ではない。数十人はいる。さらにリーダーを守る屈強な奴もいるだろう。


 素人数人がプロのボクサーと試合をしても勝てない。だが、それはルールにのっとって話。ルール無視の背後からの攻撃、武器を使っての攻撃なら話は変わる。


「一人ではないよ。ここにはいないがもう一人エージェントがいる。そして我々は強襲するのではない。奇襲だ」

「もう一人いると言っても奇襲が上手くいくの?」

「上手くいくと言ったら?」

「……その自信はどこからきているのよ」


 雫は呆れたように息を吐く。


「スゥイーリア」

「!?」


 鏡花の言葉に雫は目を丸くした。


「え? 本当に?」

「本当だよ。本作戦に彼女も関わっている」

「いやいやいや、た、例え本人でも、それはゲームの……そうだ。確かあの人、脚が悪くて車椅子の人じゃなかった?」


 スゥイーリアはタイタンのみならず、一般にも名前が知られている人だ。

 そして何か記事で脚が悪くて車椅子での生活を送っていると書いていた。


『こんな自分でもフルダイブ型VRゲーム内では脚を動かせて、自由に駆け回れるんです』


 その時の一文が思い起こされた。


「だから彼女はアンドロイドでの参戦だよ」

「アンドロイド!? 何それ!?」

「アンドロイドの意識を入れて操るんだよ」

「いや、それは……」

「彼女の実力なら問題はない。そして彼女は経験済みだしね」

「経験?」

「前にもちょっと色々あってね」


 優が苦笑して答える。


「前にもって、あんた達、何者なのよ?」


 一介の令嬢ではない。事件に首を突っ込み、引っ掻き回す。


「テロリスト?」


 雫にとって浮かび上がった答えがテロリストであった。


「違う、違う。前にも話したが、中国当局からの攻撃を防ぎつつ、政治家や国民に危機感を強く抱いて欲しいだけなんだよ」

「啓発者。宗教的で怖い」

「それは違うよ」


 鏡花は強く否定した。その声音はいつものどこかおどけた感じはなく、雫へ一直線に投げられた。


「私達は国防と囚われたプレイヤーを助けるために動いているんだ。扇動するわけでもなく、新たな思想を押し付けることもしない。ただ、日本国民を守る。それだけさ」


 雫は唾を飲み、


「そう。それで作戦は上手くいくと?」

「君次第だ」

「何よそれ」


 前にも雫は君次第だと鏡花に言われた。

 友人を説得することはそれほど重要なのだろうか。


 むしろ、立て籠りに加担した人物や人質の監視を行ってる者は先の戦いで使ったテーザー銃で懲らしめればいいはず。

 それが1番合理的だ。


「どうだい?」

「分かった。私は説得ね。それで行こう」


 半ばヤケクソ気味であった。


  ◯ ◯ ◯


 そして胡桃、雫、優は上下ともに黒の特殊スーツを着せられた。関節部、脛にプロテクター。耳にはインカム。


「なんか本格的ね」


 自身のスーツを見て雫は呟く。


「やはり君はハイレグ系が良かったな?」 


 鏡花が冗談を言う。


 ハイレグ系とは雫がタイタンゲーム内でEXジョブ時の戦闘スーツのことを指している。


「やめて。あれはゲームの中での姿だから。あんなの現実では防御力ゼロでしょ?」

「そのスーツも隠密性に特化しただけで防御力はゼロだよ」

「それでもまだこっちの方がマシよ」


 EXジョブ時のハイレグは日常では痴女だ。

 例え、戦場であってもそうであろう。


「さあ、皆、持ち場についてくれ」


 鏡花は手を叩く。


  ◯ ◯ ◯


 雫と優は旧講堂の裏手の茂みにいた。

 そして少し離れて旧講堂を囲むように盾を持った機動隊が配置されている。


 ここまで警察官や機動隊にバレずに辿り着いたのは九条の指示によるおかげ。


 九条は警察庁側から今回の立て籠りの情報を入手。そして警察官の配置、行動を手に入れ、その情報を元にインカムで雫達を今いるここまで案内した。


 ──本当に警察庁の人間なのね。


 そして講堂前で何らかの騒ぎが発生。


 ここからでは何も分からない。

 ただ、音から騒ぎの規模が大きいものと考えられる。


 旧講堂周囲に配置された機動隊にも緊張が走ったのを雫は目にした。


 そして旧講堂から出てきた何人かの学生が走り去り、それを周囲に配置された機動隊が追う。


『今よ。裏の搬入口に向かって』


 雫の優はインカムの指示通り、機動隊がいなくなったこの機に旧講堂の搬入口に向かう。


 しかし、搬入口にはシャッターが降りていて、そこからは中に入らない。


「どうするの?」

『今はそこにいて』


 しばらくしてから、


『2階の窓から縄はしご落とすからそれで上がって』


 と、九条が言い終わると2階の窓から縄梯子が降ってきた。


 雫と優は縄はしごを使って2階へと上がる。


 2階に上がると、胡桃がいた。


「なんでいるんですか?」


 先に胡桃がいたことに雫は驚いた。


「私は別ルートで中へ入りました」

「それなら私達もそれで……」

「駄目です。危険ですので。それに人数が多いとバレる可能性が高いので」

「……そう」

「では、私は下へ。大広間へ向かいます。お二人は3階の倉庫代わりの部屋へ向かってください」

「ええ。分かったわ」

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