第23話 Tー7 キングゼカルガ

「あ、すごいじゃない。レベル=ランクになってる」


 アリスは今日一日のキョウカたちとのことをエイラに話した。


 場所はエイラの部屋。アリスと同じ個室部屋で全体的に白い部屋。その部屋にはベッドと机と椅子しかなく簡素でさみしい。ベッドにはエイラが腰掛け、椅子にはアリスが。二人とも部屋着姿である。エイラは黒の部屋着で短パン姿。健康的な太腿を露にさせている。エイラ曰く、この部屋着は兄のレオが選んだらしい。それをネタにからかってやろうとアリスは悪巧みを考える。そしてアリスは昨日購入したピンクの部屋着である。エイラはかわいい、似合ってると誉めるのだがアリスはどこか物足りなさを感じていた。やはりエイラのようなセクシーさが足りてないのか?


「カナタくんも強くなったんだよね」

「うん。そっちはどうだったの? カブキオオトカゲ狩りまくってポイント稼いだの?」


 その質問にエイラは表情を暗くして首を振った。


「どうしたの?」

「人が多くなった分、こちらの討伐数も減ってきたのよ」

「みんな考えてることは同じか。ポイントを稼ぐにはカブキオオトカゲってか」


 それも仕方ないだろう。自分の命がかかってるかもしれないのだ。必死になるのも無理はない。


「カブキオオトカゲは獲得ポイント高いもんねー」


 アリスは天井の照明を見ながら足をぷらぷらさせる。


「できれば安易に攻めて欲しくないのよね」


 エイラが頬に手を当て悩ませ顔を作る。その仕草も色っぽいなとアリスは思った。


「倒せない人とかいるの?」

「ええ。マルチ型のモンスターだから複数で狩るのに一人で狩り始める人もいてね。狩れないとわかったらロックを外すんだけど。とっと外せよって感じ」


 エイラが毒を吐くなんて珍しい。そうとうストレスが貯まっているのだろう。


「みんなで何か対策とかしてないの?」

「一応、攻略班が掲示板に注意喚起してるわ。『できるだけチームを組んで下さい。推奨レベルは80』って。でも、イベントに参加された人ってチームから一人だけ参加とかそういう人が多いのよ」

「へえ、うちのパーティーや攻略班とかとは大違いなんだ?」

「それは違うわ。私たちのチームや攻略班チームも半分以上がイベントに参加してないのよ」

「え、そうだったの? てっきりみんな参加してるのかとばかり」


 アリスは目を点にして驚いた。

 今、このイベントに参加しているパーティーメンバーは8人はいた。実際のパーティーメンバーはその倍の数はいるということか。


「結構な大所帯なんだ」

「攻略班なんて準メンバーとかいれると30はいるのよ」

「30!」

「パーティーから一人だけでイベント参加とかそういう人もいてね。それでそんな人たちを集めて急遽臨時パーティーを作ろうっていう話もあるんだけど。周りはどうせ一週間で終わるんだしって否定的なのよね」

「そういえば今日、キョウカさんがこんなこと言ってたよ」


 アリスはレストランでの会話を教える。


「なるほど。キョウカさんはまだイベントは続くかも知れないと考えているのね」

「制圧戦の後もイベントは続くってこと?」

「実は攻略班もそう考えているのよ。ほら、この島ってまだ解放されてないエリアがあるでしょ」


 確か、島の北と東側だったはず。


「やっぱりロザリーは何か隠してるっていうのが攻略班の考えよ」

「エイラは制圧戦の後に何があると思う? 負けたらどうなるのかな?」

「なんとなくだけどイベントは続くと思うわ。だからいきなり負けた、こちらかアヴァロンのゲームプレイヤーが一斉に亡くなるわけはないと思うの。でも、数名は亡くなるかもしれないという可能性を考慮しておかないと」

「もしかしてイベントポイントが少ない人から選ばれる?」

「それはないと思うわ。だってレベルの低い子や初心者にとっては不利でしょ」


 その言葉にアリスは少しほっとした。


「それでも念のため真面目に取り組んで置くべきよ」

「うん」


  ○ ○ ○


 翌日、東の高原でアリスは一人でゼカルガ狩りを行った。ゼカルガはもう一人で狩れるようになった。ただカブキオオトカゲはまだ倒せないし、討伐メンバーにもいれてもらえない。パーティーメンバーは少し時間はかかるが一人でもカブキオオトカゲを倒せる実力なのでアリス一人くらいは一緒に討伐参加しても問題はない。ただお荷物であるということがアリスにとって気が引けるので、ご一行できない理由である。


 ゼカルガはソロ討伐がランク25。カブキオオトカゲはランク80が三人以上推奨でソロ討伐はランク100と言われている。やはり不思議だった。どうしてゼカルガとカブキオオトカゲの間にこんなに大きな差があるのか。


 その疑問をぶつけるようにアリスはスピードスターをゼカルガに放つ。


「ふぅ」


 朝から昼まで休みなくゼカルガを狩り続けた。レベルは一つ上がり37。ゼカルガのレベルが低いので、レベルが上がりにくい。


「もうそろそろ別のモンスター倒してレベル上げでもしようかな」


 アリスは一人ごちた。近くには誰もいないのだ。ここで一人大声を上げても誰も聞いていない。音は風の音と風に揺れる草木の音のみ。


 視界にまたゼカルガが現れた。距離は大分離れている。アリスは大きく深呼吸した後、ゼカルガ構え、声を上げ駆けた。


「しゃああああ」


  ○ ○ ○


 もう何十体目だろうか。20までは数えていた。そこから数え忘れた。アリスにとって久しぶりに忘れるくらいゼガルガ狩りを熱中していた。別段これといって面白いわけではない。同じ行為を何度もなんて自分は一体どうしたのだろうか。やはり心のどこかで恐怖心に駆り立てられているのか? それとも恐怖心を忘れたいがために動いているのか?


 レベルは相変わらず37のまま。

 時刻を確かめると16時前だった。

 昼を取らずに狩り続けたので少し味覚が恋しくなった。


 今日はこれくらいにして帰ろうと街へと足を向けようしたそのときだ。

 背後からの青い光がアリスの背を青く染める。


 すぐさまアリスはスピードスターを構え、後ろへと振り返る。


 ゼカルガがいた。

 ただし大きかった。アルブルタートルと同じくらいに。そして体全体に青い電流を纏っている。


 アリスは距離を取った。相手はまだアリスに気づいていない。あれは本当にゼカルガだろうか。アリスはゼカルガの頭上を見上げた。


 キングゼカルガ。レベル50。

 もしかするとこの大きさから察するとマルチ型ではないだろうか。


 アリスは端末を取り出し、エイラたちに救援要請を送ろうとした。その時、キングゼカルガの頭がこちらを向いた。くるりとした丸い目とアリスの目が合った。やばいと感じたアリスはすぐに救援を送った。間に合ってくれるだろうか。エイラたちは今日もカブキオオトカゲ狩りを行っている。ここから南の丘までは距離がある。早くても一時間はかかるはず。それまで耐えきれるだろうか?


 キングゼカルガが啼いたと同時にアリスは相手を中心に回り込みスピードスターを放つ。


 キングゼカルガの攻撃は通常のゼカルガと違い、突進はなく基本は前脚の攻撃で時折地面に向け電撃攻撃を放つくらいだ。それさえ気を付ければ対処は可能だ。ただこちらの攻撃回数が少なく、持久戦となる。アリスは少しずつHPを減らし続ける。


 キングゼカルガの様子がおかしい。体に纏ってる電流が強くなる。アリスはすぐに距離を取った。高圧電流でも放つのか?

 しかし、起こったのは電撃攻撃ではなかった。


「ちょ、え? ええ?」


 地響きが起こったのだ。

 アリスは足を開き中腰になり、足を踏ん張って揺れに耐える。


「え、まだ?」


 地響きは一向に収まらない。揺れだけでなく、地が割れ、地面が隆起する。それはまるで岩が地面から飛び出してきたかのように。隆起した岩は高さ三メートル。

 揺れに耐えるので精一杯でアリスは突起した岩に為すすべなく攻撃を受けてしまう。


「きゃあああ!」


 天高く飛ばされ、背を地面に叩きつけられた。


 HPは半分以上減らされた。

 なんとか起き上がろうとするも揺れできちんと起き上がれない。また地面が隆起する。今度は横に倒れ、攻撃を回避する。しかし、通常の倒れこみではなく地面の揺れを受ける。それによる判定があり、HPが減らされる。このままだと隆起した地面の攻撃を回数しても倒れる度に少しずつHPが減らされやられてしまう。


 確か離れられなくなった時は近接格闘だとクルミは言っていたことを思い出し、アリスはダガーを構えキングゼカルガに近づく。近づいたとき大きな揺れにバランスを崩し地割れに落ちてしまった。だが悪運なのか地割れの間に体を挟まれたおかげで隆起する地面の攻撃を受けずにすんだ。そしてアリスは地鳴りが止むのを待った。


 そして地鳴りが鳴り止みアリスは地割れから這い出て、キングゼカルガの下に潜り込んだ。そしてスピードスターのトリガーを引く。


 キングゼカルガは移動を開始すると同時にアリスも移動しゼガルガの下に居続ける。このままいけるかもしれない。アリスはそう思った。だが、電流のこと忘れていた。下に居ても、相手がこちらを視認できなくても周囲全域に放出された電流の渦に巻き込まれる。


 HPがレッドゾーンに達する。


 ――ああ、駄目だ。


 アリスは倒れた。

 大きな影が消える。キングゼカルガが動きアリスは外へと露にされた。キングゼカルガは高い位置からアリスを見下ろす。そしてアリスを踏みつけるため右前脚を上げた。


 前脚の影がアリスの体を覆う。

 アリスは目を瞑り覚悟した。


 そして大きな爆音が。

 爆音? 不思議と思い、瞼を開けた。

 首を傾げたとき、キングゼカルガが横に倒れた。


 ゆっくり立ち上がり状況を確認する。キングゼカルガのHPがゼロになっている。頭から煙が立っている。


「大丈夫か?」

「きゃっ!」


 急に後ろから声をかけられてアリスは驚いて体を跳ね上がらせる。

 後ろにいたのは兄のレオだった。


「びっくりした。何してるの? こんなところで?」

「お前が救援を要請したんだろ」


 レオはバズーカーをしまう。さっきの爆音はバズーカーのものだったのか。


「あ、そっか」

「で、こいつは何だ?」


 キングゼガルガは消滅し始める。


「さあ? 急に現れてさ」


  ○ ○ ○


「……なるほど」


 キングゼカルガ討伐後、攻略班のブラームスに報告と説明をアリスはさせられた。


「では明日、さっそく確かめてみよう。名前はキングゼカルガか」


 ブラームスはアリスの端末画面を見ながら言った。端末画面には討伐履歴が表示されキングゼカルガの名前が。


「ゼカルガ討伐数を数えたいので少しスクロールさせてくれないかい」


 アリスはゆっくりとブラームスを窺いながらスクロールさせる。


「ソロで30だね。うん。もういいよ」


 アリスは端末をしまった。


「お前はもう下がれ」


 レオに言われアリスは一礼した後、部屋を出た。

 アリスは廊下に出て、溜め息を吐いた。


「大丈夫だった?」


 廊下で待っていたエイラが心配して尋ねる。


「うん。ありがと。キングゼカルガの説明しただけだから。怒られたりとかではないから」

「そう。良かった。何も言わずにブラームスとこに向かったから」


 エイラは胸を撫で下ろす。

 そう、レオは有無言わさずアリスを部屋に連れていき、メンバーには何も言わなかったのだ。


「兄貴は大袈裟なんだよ。全く」

「それでなんだったの?」

「ああ、後で兄貴が説明するってさ」


 その日の夜18時にレオはブリーフィングルームでキングゼカルガのことを発表した。そしてアリスに皆の前でブラームスにしたようにもう一度説明をさせた。


 その他のタイタンプレイヤーにはブラームスが掲示板で報告した。

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