第24話 Aー11 ミリィ
ギルドでのジョブチェンの後、ユウとセシリアは通りを歩いていた。そこである人だかりを発見した。
「おらおら、どうした? どうした? ああん?」
「獲得ポイント見せらんねえのか?」
「おいおい何か言えや」
なんか聞いたことのある声とセリフだった。
ユウは人波を
そこにはあのモヒカンたちが一人の女性に難癖をつけていた。女性はショートヘアーで上は青で下のスカートは白のドレス風の服装。いや、魔法少女風であろうか。右手には杖を持っている。背丈はアルクより少し低くく、セシリアよりかは高い。
ユウは近づいてある異変に気づいた。それはどうして周りの人は助けようとしないのかということ。ユウたちの時とは違い野次馬ができているのだ。なら誰か助けてもおかしくないはず。ユウは憤りを感じて、割り込んだ。後ろから「ユウ!」とセシリアの静止が声が聞こえる。
「こいつらに見せる必要ないからね」
と、ユウは女性に教えた。
女性とモヒカンたちがユウに振り向く。
「てめえ」
「こいつらさっきも俺に獲得ポイント見せろって言ってたけど自分たちの分は見せなかったんだ」
モヒカンは舌打ちして、
「関係ない奴は引っ込んでろよ」
「関係ないってなんだよ」
ユウがモヒカンにに詰め寄った時、警笛が鳴った。
そして、人だかりが左右に割れNPCの自警団が現れた。
「そこ何を言い争っている」
「あん? NPCは関係ないだろ」
「自警団だ! 通報があったぞ。お前たちを拘束させてもらう」
「はあ? なんだそりゃあ?」
驚き呆けているモヒカンとその仲間たちは自警団によりお縄になった。
女性も周りの野次馬もそれを見て驚く。ユウだけが当然のように逮捕劇を見る。
そしてモヒカンたちは自警団に連れ去られ、野次馬たちも散り散りに去る。
「大丈夫?」
ユウは女性に聞いた。
「ええ。ありがとうございます」
「ちょっと、ユウ。何勝手なことしてるの?」
なぜかセシリアは非難をする。
「いや、だってあいつらさ……」
セシリアは女性に眉根を寄せて聞く。
「貴女、アムネシアの……ミリィよね」
「知り合い?」
「ううん、有名人よ」
「助けていただきありがとうございます」
ミリィと呼ばれる女性は丁寧に頭を下げ、その場を去った。
「どういう人?」
「告げ人よ」
セシリアはユウに目を合わせることなく小さく答えた。
○ ○ ○
ユウはカフェにて先程の女性についてセシリアに尋ねていた。
「アムネシアっていうのは私設ギルド名なの。というか自称ギルドかしら。彼女はそのギルドのトップよ」
「自称?」
セシリアは肩を上げ、
「ギルドと言っても色々あるのよ。名ばかりのものがね。ほとんどがクラブとかサークル、愛好会を想像した方がいいかしら。その中で一際有名なギルドがアムネシアよ」
「どういうギルドなの?」
「簡潔に言えば治安よ。ゲーム内の風紀とかそういうのをやってるギルド」
「いいギルドじゃない」
「そうとも言えないのよ。プレイヤーやパーティーを調査して問題があれば運営に報告。報告された人は垢バンよ」
「それはいけないこと?」
「そりゃあ間違ってはいないよ。ほら、裏技とかバグを利用した行為の一つで報告なんだから。狩り場行為も禁止と訴えているのよ。何て言うか融通の聞かない感じでさ」
「もしかしてセシリアも昔、なにかあったの?」
「私はないけど兄がね。金髪の兄だけど覚えてる?」
噴水広場で会った金髪の騎士を思い出す。確かにあの時、ユウはメンチを切られ胸ぐらを掴まれたのだ?
「確か気の強そうな」
「そう。喧嘩っ
「もしかしてあの場にいた人たちもそうなのかな?」
「そうじゃない? 少なくともモヒカンが難癖つけてきたのはアムネシアと揉めたことあったからじゃない?」
セシリアは唇に手を当て、
「それにしてもさっきのNPCはなんだっ
たのかしら?」
「あの自警団の?」
「だって今まででNPCが取り締まるなんてなかったのよ。運営が動いてことはあったけど」
だからあの時、周りの人は驚いていたのかとユウ理解した。
「ここは運営がいないからかな?」
「そうだとするとちょっと怖いよね。なんか機械に支配されてるみたいで。あのモヒカンたち、どうなるのかしら?」
○ ○ ○
昨夜、アルクが明日はスゥイーリアのパーティーの一人と調査をすることになったので今日はユウとセシリアの二人っきり。
セシリアと話し合った結果、今日は新しいジョブの試運転ということにした。
「調査って怪しいわね。もしかして引き抜かれた?」
「可能性はなくもないよね」
アルクは高ランカーだ。引き抜かれてもおかしくない。
セシリアはユウの手をがっしり掴む。
「アルクが抜けても私たちは、パーティーは解散しないわよ」
「え、あ、ありがとう」
「どうしたの? そんな鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して」
「いや、その時は解散だとか言いそうだったから」
「何よ。私、そこまで薄情じゃないし」
そう言ってセシリアは頬を膨らませる。
○ ○ ○
ユウはゼカルガをウィンジコルで切り裂く。
「どう?」
「うん。かなり動きがしっくりくるよ」
ユウは剣士のときより体が思うように早く動く気がすると感じた。
「よし。もう一体いってみるよ」
「気を付けてね。ジョブチェンでステータス変動してるから防御力も下がってると思うわ」
ユウは端末画面からステータスを確認する。
「本当だ。防御力が24になってる」
「シーフはスピードが上がる代わりに防御力が下がるの。他にも色々上がったり下がったりしてるからね」
「わかった。気を付けるよ」
「それじゃあ、私は向こうでゼカルガを狩るね。なにかあったら言ってね」
○ ○ ○
しばらく経って、セシリアがいる方角から先程まで聞こえていた爆音や破裂音が鳴り止んだ。休憩かそれともゼカルガが出現しなくなったのか。いずれにせよ、何かあれば連絡か直接セシリアがユウの元に来るはず。だが、少し待ってみても一向にセシリアはユウの元に来なかった。ユウはセシリアの身になにかあったのではないかと思い、急いで目の前のゼカルガを狩り、セシリアの元へ向かった。
○ ○ ○
「ちょっとあんたたちしつこすぎ。ストーカー。マジでウザい。死ねクズ」
「んだとこのアマ!」
「なまいってんじゃあねえぞ」
「ゴルァア!」
セシリアが昨日のモヒカンたちと揉めていた。
「おい、お前ら何してるんだ!」
ユウは駆け寄った。
「てめえ、あん時の!」
「ユウ!」
「セシリア、どうしたの?」
「ここで、ゼカルガ狩ってたら文句言ってきたのよ。集中できないとか」
「そうだ。雑魚は引っ込んでろよ」
「後から来ておいて偉そうなこというなよ」
ユウはモヒカンに詰め寄る。
「あんだ、てめえ」
ユウ殴ってやろうとしたとき、
「待ちなさい。貴方たち!」
皆は闖入した声の方に向く。そこには昨日の女性、ミリィがいた。
「あ? 関係ないやつは引っ込んでろや。てか、なんでここにいるんだ?」
眉なしがミリィに吠える。
「そうはいきません。先にここで狩っていた彼らが正しいのです。貴方たちは去りなさい」
「去らねえって言ったらどうするよ」
そう言ってリーゼントがミリィに詰め寄り、首元を掴もとした。
だが、リーゼントはミリィに手首を掴まれ下に、そしてミリィ自身もすぐに体をリーゼントに寄せるとリーゼントの体をくるり回り、地面に背をぶつける。
「いってえー」
「痛くないでしょ。腰抜けね」
仲間に加勢しようとモヒカンと眉なしがミリィに飛びかかろうとする。それをモヒカンはユウが蹴り飛ばし、セシリアが眉なしの頭に杖で思いっきり叩く。
「ぶわっ」、「いでっ」と言い倒れる。
三人は起き上がり、
「クソてめえらいい気になるなよ。ここにはお前のご主人、運営はいねえんだ」
「別に運営の下についてるわけではありません。それに運営がいなくても自警団は自立しているらしいですね。昨日のように自警団のお縄になります?」
ミリィは微笑んだ。
「うっ!」
「報告いたしましょうか?」
ミリィは端末を取り出す。
「覚えてろ!」
三人は逃げ口上を言って去った。
ユウはその背中を見て、ため息を吐いた。
「ありがと」
ユウはミリィに礼を言った。
「いえいえ、昨日のお礼です。それに今回は張っていたのですよ」
「張る?」
「ほらお礼参りとか言うでしょ。だから彼らを張っていたのです。そしたら彼女と揉め始めたのです」
と、言ってミリィはセシリアを見る。
「そうなんだ。まあ一応ありがとね」
「ああいう輩は110番ですよ」
「110番?」
「運営報告です」
「でも運営なんていないでしょ」
セシリアが言う。
「確かに運営は居ませんが、NPCの自警団がおりますし。昨日の件から運営がいなくても活動はされているらしいです」
「昨日のあれか。もしかして昨日のNPC自警団に報告したのって……」
「はい。わたくしです」
「ねえ、あいつらまた来たよ」
セシリアが指差す方にモヒカンたちが。だが三人だけでない。後方にゼカルガが。なぜか三人より大きく見える。しかも青い稲妻を纏っているようにも見える。
モヒカンたちはこちらに笑みを向け近づいてくる。そしてユウたちにすれ違うとき煙幕ともう一つ何か人型紙を放った。セシリアはそのアイテムを見て驚いた。
「ざまあみろや」
と、モヒカンは言い残して、走り去っていった。
そしてもう一つ残されたものがある。ユウたちの眼前に現れた大型のゼカルガ。
「なによ、こいつ」
セシリアはゼカルガを見上げて言った。
キングゼカルガ、レベル60。
そのキングゼカルガばこちらに目を向け、啼いた。
ユウは右にダカーのウィンジコルを構える。
「みんな逃げて」
「駄目です。責任払いされてます」
ミリィが声を大にして言う。
「何それ?」
「先程、彼らが放ったアイテムです」
「煙幕?」
「それともう一つ、人型の紙片です。あれはモンスターの逃亡を止めるものです」
「だったらこっちが逃げれば」
「いいえ。こっちも逃げられないのです」
「なんでよ?」
「バグみたいなものです。まさかあのアイテムをまだ所有してる人がいるとは」
ゲーム内には経験値モンスターやレアアイテムドロップモンスターがいる。
そういったモンスターは基本遭遇率が低く、そして防御力、回避率が高く逃げ足が早い。だから、モンスターを逃げ出さないようにするためのアイテムが存在する。それが先程モヒカンたちが使用したアイテムである。
アイテム名、封縛札。
本来はモンスターを逃げ出さないようにするものだが、制作者がまさか使用したプレイヤーが逃げ出したりしないだろうと、その前提で作りあげたせいかある作用が生まれた。それはプレイヤーも逃げられないというもの。だが、ここで一つのバグが発生した。ロックを解除し、逃げながら、かつモンスターが他のプレイヤーも攻撃対象とした時に煙幕と封縛札を使用すれば戦闘を回避できるというもの。そしてモンスターの攻撃対象となったプレイヤーは逃げられなくなってしまうのだ。さらにロックは施錠されたままとなるので対象となったプレイヤーだけで倒さないといけなくなる。
そしてこのバグは他のプレイヤーにモンスターを押し付けることができるという認識で広まった。以降、このアイテムが生まれてから数多くのプレイヤーが嫌がらせを受け、アムネシアはすぐ運営に報告し、運営はアイテム販売を取り消した。
「要はこいつを倒すか、殺られるかしかないってことね。やってやろうじゃないの。キングゼカルガより余裕よ」
と、セシリアは威勢よく言う。
「みなさん、一つになってはいけません。散開してください」
ミリィが大きく声を上げ、指示を出す。
大型マルチモンスターの討伐は基本一ヶ所に纏まらないこと。
セシリア、ミリィがキングゼカルガから距離を取る。
「ユウ!」
「俺がこいつを引き付けるから。二人は魔法で援護して」
キングゼカルガの前足攻撃をうまく避けて言う。だが微かに放出される電撃にダメージを受ける。
「わかったわよ!」
セシリアは火炎の魔法を放つ。
「なら私は」
ミリィは支援魔法を放つ。
ユウの体が軽くなる。そしてキングゼカルガの攻撃を簡単に避けられるようになる。
キングゼカルガがユウに向いている間、セシリアは魔法を連発する。MP消費なんて気にせずに打ちまくる。
ミリィは回復魔法を唱えユウのHPを回復させる。
三人は時間をかけじわりじわりとキングゼカルガのHPを減らし、とうとうレッドラインにまで減らした。そこにきてキングゼカルガは体を纏う電撃を強く輝かせた。すると地面が大きく揺れ、そして辺りの地面が隆起し、三人を吹き飛ばしダメージを与える。
「二人とも大丈夫?」
「私たちは大丈夫。ユウ! 前!」
キングゼカルガが前足を上げ、ユウに狙いを定め、落とす。
ユウは右に転びなんとか掠めた程度におさめる。
セシリアは魔法を唱え、光の玉をぶつける。爆裂系の魔法でキングゼカルガがよろめく。ユウはその隙に立ち上がりウィンジコルで前足を攻撃する。
もう一度足を斬ろうとした時、またキングゼカルガが地面を揺らす。そしてまた地面が隆起する。ほぼ下にいたユウは攻撃を受けなかったが二人は攻撃を受け、吹き飛ばされた。
ミリィは回復魔法でセシリアのHPを回復させる。だがその隙にキングゼカルガが駆け寄る。
「二人とも逃げて」
キングゼカルガが突っ込むのでなく、飛び上がり前足で二人を踏み潰そうとする。
――間に合わない。
キングゼカルガの足が地面を叩き、大きな土煙が舞う。
「セシリア!」
ユウは叫ぶ。
「大丈夫よ」
土煙から離れた箇所からセシリアがいた。
「ミリィさん!」
「私も平気よ」
だがその声は土煙から聞こえる。そして土煙が晴れた。
ミリィはキングゼカルガの下敷きになっている。
ユウは駆けつけよう動こうとしたが。
「私のことはいいから攻撃を」
と、言われた。
「でも……」
「大丈夫。私の防御力なら耐えられるから」
確かにミリィのHPがあまり減っていない。もしかしてカブキオオトカゲの時のようにウィンジコルがステータスを減らしたのか?
「わかったわ」
セシリアは魔法で炎や光の玉を放つ。
ユウも足をウィンジコルで高速で切り続ける。
そしてとうとうキングゼカルガは消失した。
「ミリィさん、大丈夫ですか?」
「ええ。平気よ」
ミリィのHPは全く減ってなかった。
「不思議どうして? またウィンジコル?」
「さあ?」
「耐えきれたのは魔法で防御力を底上げしたからです。それと元々ボーナスポイントを防御力にたくさん振っていましたから」
「防御力いくらなの?」
セシリアが聞いた。
「124です。バフかけて50%アップなので180くらいでしょうか」
「180なんてシールダークラスじゃない」
今のユウで防御力は24である。バフをかけてその約6倍の防御力をミリィは持っているということである。
「私たちのギルドは基本は防御にボーナスポイント振るのが基本でしたので」
「変わったギルドね」
セシリアがそう言うとミリィは表情を少し曇らせた。
「セシ! 失礼だろ」
「あ、ごめん。つい反射的に」
「いえ。いいのです。アムネシアはおかしなギルドですから」
ミリィはぎこちなく笑った。
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