第164話 Aー5 対岸の黄昏
スピカはホワイトローズのリーダー・スゥイーリアからメッセージを受け取り、返事をするため席を外した。
メッセージの内容は明日、昼14時に会議をするから出席するようにとの連絡だった。スピカは返事を送信して端末をしまい、
「何か?」
と振り返らず背後へと声をかける。
「お気づきでしたか」
現れたのはミリィだった。
「だいぶ前からね」
「すみません。気配は消したつもりでしたのですけど」
「いやいや、上手だったよ。というか気配を消すって忍者ですか?」
そう言ってスピカは苦笑した。
「ただの僧侶ですよ」
とは言うものの、実は気配を消すスキルは対象となるプレイヤーを調査及び尾行する際に身に付けたものである。
「スキル名は気配遮断でしたっけ? それと認識阻害も使ってましたね」
言い当てられミリィは眉を反応させた。
認識阻害は意識させられないというスキル。ただし目があったり、一度認識させられると効果がなくなる。
「お詳しいんですね」
「で? そのスキルを使ってでも私に何か用ですか?」
「お気に障りましたならすみません。ただ、気配遮断も認識阻害も元はスピカ様に向けてのものではなかったのです」
それはつまりパーティーメンバーにバレずに抜け出すためスキルを使ったということ。
「少々ご相談がありまして」
「相談?」
ミリィは強く頷く。
◯ ◯ ◯
「ああ! また負けたー!」
ババ抜きに負け、セシリアは残りの手札をテーブル中央の山に投げ捨てる。
「どうする? もう一回やる?」
山のカードを纏めながらアルクは聞く。
「もちのろんよ。負けで終わりたくない」
今、ユウ達はカードゲームに興じていた。
「あれ? ミリィは?」
アルクはカードをシャッフルし、そして配ろうとした時、ミリィがいないことに気付いた。
「あっ、本当だ。さっきまでいたのに」
とユウも気付いた。
「コーヒーでも淹れにいったのかな?」
「いやいや、セシ、キャンプ用コンロは隣りだよ」
簡易テーブルに椅子側にユウ達がいて、その右側にキャンプ用コンロがある。
「スピカは?」
「セシ、彼女はホワイトローズに連絡が来たから返信しに席を離れたじゃん」
「ああ、そうだったわね。きっとスピカのとこに行ったんじゃない?」
「どうして?」
「どうしてって、そりゃあ……」
セシリアはアルクに目を配る。
「イベントの件だろ?」
アルクはカードを配りながら答える。
「自分が選ばれるってやつ?」
ユウはカードを受け取り、聞く。
次のイベントはアンケートで選ばれる。それでタイタンプレイヤーに恨まれることの多いミリィは自分が選出されると踏んでいた。
「本当にアヴァロンで垢BANされたプレイヤーはタイタンに鞍替えるの?」
「詳しくは知らないけど、そういうプレイヤーはいるってのは聞くよ」
「あと、別に垢BANされたプレイヤーだけって訳ではないよ」
「どういうことセシ?」
「アムネシアには運営にチクられて一時的にアカウント停止とか注意喚起されたプレイヤーは多いのよ」
「でもそれってアヴァロン内でしょ?」
「アヴァロンやってる奴はタイタンをプレイしていないわけではないでしょ? 両方プレイしている奴だっているんだから」
「そうなの?」
「結構多いわよ」
「それじゃあ、向こうに知り合いがいるとか?」
「私はいないけど、中にはいるんじゃない?」
と言い、手札から受け取ったカードと同じ数字のカードを捨てる。
ユウはアルクに目を向ける。
視線に気づきアルクは、
「まあ、何人かはね。山田達もタイタンやってたらしいよ」
「え? そうなの?」
「誰よ。その山田って?」
「山田はクラスメートの女子だよ。ユウはその山田に唆されてアヴァロンに登録したの」
「唆された?」
「山田達は紹介プレゼントが欲しくて。それで俺にアヴァロンを誘ってきたの」
「そして用済みとなり、すぐに突き放されて、その日にロザリーによってゲーム世界に囚われちゃったということ」
「なんとも、まあ」
セシリアは呆れたように言う。
「それは大変でしたね」
と声をかけられ三人は振り向いた。
そこにスピカがいた。
「ミリィは?」
「そこ?」
とスピカはキャンプ用コンロを指差す。
「話、聞いてました?」
「タイタンにも手を出している知り合いプレイヤーがいるってところから」
「そっちは知り合いとかいるの?」
「セシ、ホワイトローズはハイランカーのパーティーだよ。他に浮気するプレイヤーなんていないよ」
「ううん。いるよ」
『え!?』
「元スゥイーリアの右腕でね。アヴァロンを辞めて、今はタイタンでケントという名でプレイヤーしているらしいよ」
「そのプレイヤーは……その……向こうに?」
「いたよ。制圧戦の時、スゥイーリアがぶつかったって」
「へえぇ……かつての仲間が向こうにいたと知った時、どんな気分?」
「特に何も。ああ、向こうにいるんだってことくらいですよ」
スピカは何ともなしに言う。
「皆さん、コーヒーをどうぞ」
そこへミリィが四つのコーヒーカップを乗せたお盆を持って現れた。
「ちなみに何でアヴァロンを辞めたの?」
「セシ!」
アルクがセシリアを諫める。
「構わないよ」
そう言ってスピカはカップのコーヒー飲む。
ユウ達は続きを聞こうと口を閉ざす。ミリィも椅子に座り、スピカが話し始める。
「トップランカーって知ってるよね?」
皆は首肯する。
「当時、彼はリョウと名で活躍していたんだ。そんな彼は現実では体が不自由な人間でね。VRMMOを始めたきっかけも、偽りでも体を動かしたいがためだったんだ。彼は体を動かせる喜びを知り、VRMMOに夢中になったんだ」
そこでスピカは言葉を止めた。
コーヒーを眺める目には、どこかかつてを懐かしむ色があった。そしてその色は憂いに変化していく。
「この当時、アヴァロン内ではチートプレイが横行していてね。その中でも、レベル上げが有名だったかな。トップランカー=チートプレイヤーというイメージでしたね。それでリョウにも疑いの目が向けられたんだよ」
そこでスピカは溜め息を吐く。
「彼はVRMMOしか体を動かせないから……仕方がないのにね。それでチート行為を疑われてアヴァロンを辞めたの」
「どうして!?」
声を上げたのはアルクだった。自分でも大きな声を上げたことに驚いたのか、
「すみません」
「いいよ。あの当時はすごく炎上してね。それはすごかったよ。否定しようが、チートでないことを出来るだけ証明しても、疑惑だけが延々と上がった。鬱陶しいから無視をしても……ね」
とスピカは嘲笑し、肩を竦める。
「それでリョウもホワイトローズに迷惑をかけれないと感じて、辞めたんだよ」
「ひどい」
セシリアが眉を下げて言う。
「その後にアムネシアが出来たんだよね?」
「ええ」
「君達のおかげでリョウの尊厳が守られて感謝だよ」
「そんな。私は白黒はっきりさせ、そして黒を徹底的に排除しただけです」
「で、その人は戻って来なかったの?」
「ええ」
「どうして?」
「それは私にも分かりません。まだ自分は疑われたままと勘違いされているのか、それともなんらかの理由があるのかもしれませんねまあ、向こうが面白くて抜け出せないという理由かもしれませんね。ここはランクシステムが出来てからはぬるま湯状態ですから」
「ランクが出来てからめんどくさくて辞めた人もいましたしね」
と言ってアルクは笑う。
「ん? 知っているの? あの当時のこと?」
「あっ、はい。ランクシステムが生まれる少し前くらいからアヴァロンをやり始めたので」
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