第163話 Aー4 告知

「ふう〜、食った、食った」

 セシリアが行儀悪くお腹を叩く。


「行儀悪いですよ」

 ミリィが窘める。


「結局、野菜そんなにたべなかったじゃん」

 アルクが溜め息交じりに言う。


「いいじゃない。どうせ現実の体には影響はないんだから好きなもの食べさせてよ」

「駄目ですよ。きちんとした食事をしないと現実に戻ったら生活リズムに影響が出ますよ」

「あー、ニュースとかで聞いたことある。怠け癖がついちゃうってやつだっけ?」

「そこんとこは大丈夫よ」

「本当に?」


 ユウは疑わしな目をセシリアに向ける。


「そんなことより、次は定番のマシュマロよ!」

「定番?」


 スピカがキョトンとする。


「そうよ。キャンプといえばマシュマロじゃない」

「まだ食べるの?」

 ユウが呆れたように言う。


「当たり前」

 セシリアが胸を張る。


 木製の串に刺されたマシュマロが2本ずつ配られる。


 コンロセットを端末内に戻して、替わりに焚き火セットを取り出す。コンロのあった場所に数本の薪が現れ、アルクは一番上に点火というマークをタップした。

 薪に着火し、火が大きくなったところで皆は焚き火を囲み、マシュマロを刺した串を取手を下にして地面に突き刺す。


 表面に焼き目が付いたところでミリィがお盆を持ってきた。お盆の上にはクラッカーにビスケット、そしてチョコを盛った皿が。


「これでお好きなように」


  ◯ ◯ ◯


 マシュマロを食べ終えようとしたとこで、軽快な音が脳内に響く。


 この音にユウ達は身構えた。


 音に驚いたこともあるが、音の意味にも緊張したからだ。

 その音は経験上一つしか当て嵌まらない。


「ロザリーのようだね」

 アルクは端末を取り出す。


「もう次のイベント?」

 セシリアは冷めた声で言う。


「告知かな?」

 ユウはメッセージを開く。


『アヴァロン、タイタンの両プレイヤーの皆様へ。先日のイベントにおきまして、タイタンプレイヤー様から数多くの苦情が寄せられました。そのほとんどがタイタン側のみ連絡、集結、現在位置の確認の不公平さが際立っているとのことでした。

 そこで我々は調査したところ、確かにタイタンプレイヤー様には不利となる条件であったと認識致しました。

 協議の結果、現パワーバランスを公平に保つため、次のイベントは特殊イベントとさせていただきます。

 イベント内容につきましては後述の①を。タイタンプレイヤー様からの苦情等につきましては②を参照をお願い致します』


「タイタンからの苦情?」

 セシリアは疑問の声を出す。


「どうも通信機器が使えなくて連絡が出来なかったことが原因らしいね。向こうの言い分は、アヴァロンは鳥を使って連絡手段を持って、ずるいだってさ」

 先を読み進めたスピカが答える。


「何それ!? こっちだって連絡出来なかったわよ。鳥を使えるやつなんて一部じゃん。それに向こうは空飛べるやつがいたし。あんなのこっちにはいないんだし、卑怯だよ。ねえ、アルク?」

「えっ! あっ、うん」

「空を飛ぶやつ……ああ! エイラですか? 確か貴女が倒した? スゥイーリアが賞賛してましたよ」

「……どうも」


 ここでセシリアもなぜアルクがぎこちない反応をしたのか理解した。


 スピカは分からず、


「? どうしたの? …………ああ、そっか。ごめん。でも、君のせいじゃないよ。私だって囚われてから多くのタイタンプレイヤーと戦った。エイラとも制圧戦で戦った。それに中には消滅したプレイヤーもいただろう。だから、そう気を落とすことないよ」

「ありがとうございます」


 違う。

 あのイベントでエイラを倒したのはアルクだけではない。

 ユウもだ。


 最終日に戦闘してエイラに勝った。

 あのイベントはローランカーがハイランカーを倒すと勝者はポイントを大きく足され、敗者はポイントを大きく引かれる。

 そしてエイラはポイントが低く、消滅した。


 消滅はプレイヤーにとって死を意味する。


 けど本当は死なないことをユウだけが知っている。このデスゲームは偽りだと。そしてその目的も。


「それにしても次のイベントは一部プレイヤーには大変かもしれませんね」

 とミリィが真剣な声で話す。


 次のイベントは『鬼ごっこ』だ。


 タイタンプレイヤーからのアンケートで選ばれた100名が召喚されるというもの。

 アンケートは明日から十日間タイタン内で行われ、二週間後に結果発表がなされる。途中のアンケート六日目に中間発表がなされると。


 イベントは日を跨いで24時間。向こうは全員でアヴァロンは選ばれた100名だけである。


 選ばれたプレイヤーは敗れた時点で消滅。

 タイタンプレイヤーには何もない。報酬もペナルティも。

 ただアヴァロン側の戦力を削るというもので、実質、死刑宣告に近かった。


「ああ、そうそう。ホワイトローズあたりが選ばれるんじゃない?」

 セシリアがスピカに話を振る。


 例え囚われたメンバーが少なくともホワイトローズはハイランカーが集まったパーティーだ。タイタンプレイヤーからしたら脅威の存在。そのため生き残るためには出来るだけホワイトローズの面々は減らしておきたいだろう。


「どうでしょうか? 確かに私達はタイタンプレイヤーには驚異ですが私達全員を召喚したとなると、むしろ向こうが大変なのでは?」

「あ、そっか」

「誰が選ばれるかはわかりませんが、ホワイトローズの面々が選ばれる可能性は高いでしょう」

「ウチは中堅だから問題ないよね」

 とセシリアは言うが、


「それは……どうでしょうか」

 と答えたのはミリィだった。


「どうしたのミリィ? そんな険しい顔をして?」

「……私は私設ギルド・アムネシアのリーダーです」

「だから何? そりゃあ、あんたが不正プレイヤーを摘発してたのは知ってるけど」


 アヴァロンのサービス開始時は悪質なチートプレイが横行した。そのためミリィは私設ギルド・アムネシアを結成し悪質なプレイヤーを見つけては運営に報告したのだ。


「知ってます? 垢BANされたプレイヤーはタイタンに鞍替えったと」

「え?」

 セシリアは驚く。


 だが、驚いたのはセシリアだけではない。ユウ達もだ。


「私に恨みを持ってるプレイヤーも多いでしょう」

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