第162話 Aー3 キャンプ

「ここで?」

 セシリアは不満気に地面を指してアルクに聞く。


「うん。キャンプ可能エリアだから」

「あれ? どこでもキャンプできるんじゃないの?」

 ユウが疑問を述べる。


「基本はキャンプエリアと休憩ポイントの2つだよ」

「へえー。ファンタジー世界だからどこでもできると思ってた」

「そんなわけないじゃん。どこでもキャンプできたら皆に迷惑だよ」

「そう?」

「戦闘付近にテントなんてあったらうっとうしいよ」

「そっか。それにモンスターにも出くわしちゃうしね」


 ユウは想像して納得する。


「うんうん」

「待てーーー!」

 セシリアがユウとアルクの会話に声を大にして割って入る。


「何?」

 アルクは驚きつつ聞く。


「なんでここなのさ?」


 セシリアはまた地面を指差す。


「何か問題でも?」

 ミリィが首を傾げる。


「ありよ! 大ありよ! ここさっきゴーレムと戦ったとこでしょ!」

「正確には先程の戦闘フィールドから少し離れた丘の上ですが」

「なんでキャンプ地がそこなのよ!」

「じゃあ、どこが良かったのですか?」

「キャンプといえば海。ビーチよ。あと、山。岸部付近。ね?」

 とセシリアはユウに同意を求める。


「……まあ、イメージとしてはね。でもさ、遠くない? それに見晴らしの良い草原でキャンプってのもありじゃない? ほら、こっから王都グラストンが見えるよ」


 丘の上からでは南の方角にに城と城下町、そしてそれらを囲む塀が小さく窺える。


「だから何? こんなとこでグランピングのテントを張ったらキャラバンと思われるでしょ」

「ないない。それにここはあまり人が集まらないから大丈夫」

「でもさ〜」

「じゃあセシは一回、城下町に帰って、明日キャンプしたいってこと?」

「んん〜」

 セシリアは目を瞑り、考える。


「そもそもビーチがあるかどうかも怪しいですよ?」

 とミリィが答える。


 ビーチの有無についてはユウとアルクは一度ビーチに行っているので知っているが面倒なので知らぬふりを決め込んだ。


「ここなら夜空とか、すごそうだからいいじゃん」

 とアルクが言う。


「んん〜」

 ミリィは空を見て唸る。


「私、マシュマロ持っています」とミリィが。

「おお! キャンプと言えば焼きマシュマロだね」


 セシリアの目が輝き始める。


「バーベキュー用の肉あるよ」次にアルクが。

「いいね。いいね」


 セシリアの顔が綻ぶ。


「トランプ持ってるよ」とユウが畳み掛ける。

「トランプは別に」

「ええ!」


  ◯ ◯ ◯


「キャラバン?」


 夕刻、空が青みを深め始めた頃、客が来た。


 客は空と同じ深みのある青色のドレスで、ユウ達は近づかれるまで気が付かなかった。

 それとユウ達がテント前で簡易チェアに座り、カードゲームに興じていたことも気付かなかった原因でもある。


「へっ、違います。キャンプで……って、ああ!」

 ユウは驚いた。そしてアルクとミリィも続いて驚いた。


「ん? 君は!?」

 客もまたユウを見て驚く。


 一人驚かないセシリアは頭上にクエスチョンマークを放つ。


「え? 皆、知り合い? 誰この人?」

「セシ! 彼女はEXジョブ・ソードマスターを習得し、かつ、あのホワイトローズに所属しているスピカさんだよ!」

 アルクが早口で説明する。


「そういえば聞いたことはあるわ。皆は知ってた?」

「うん。前に会ったから」とユウ。

「ええ。有名な方ですので」とミリィ。

「おや、アムネシアのミリィに名を覚えらているとは光栄ね」

「そんな。私の方こそ名を知っていただき光栄です」

 とミリィはスピカに会釈する。


「ふ〜ん。そうなんだ」

「そうなんだじゃないよ、セシ」


 スピカは笑みこぼして、

「アハハ、ごめんね。てっきりキャラバンと思って」

「あー、やっぱそう見えちゃいます。テントでかいですもんね。それでスピカさんはここで何を?」

 とアルクは尋ねる。


「うん。訓練をね」

「ここで、ですか?」

「いやいや、山の方だよ」

 とスピカは丘の背に聳える山を指す。


「それじゃあ」

「あっ、あの!」


 アルクが声を上げて去ろうとするスピカを止める。


「? 何か?」

「これからバーベキューをするんですけど、どうですか?」

「ありがとう。でも、もう暗いから」

「あーそうですか」


 と、アルクは落ち込む。それを見てセシリアはやれやれと手を貸すことに。


「泊まっていけばいいんじゃない? グランピングテントだから中は広いし」

「……でもねぇ〜」

「ここから王都グラストンは遠いよ」

「そ、そう」

「着いたときには深夜ですよ。その時間帯はお店もやってませんよ〜」


 いや、さすがに深夜まではかからないのではとユウは思うけど、スピカには方向音痴の気があったはず。


「なんかパーティー内で決まりがあるんですか?」

 とユウは聞く。


「いや、これといってないけど……あー、でも他のパーティーとの交流は勝手に進めてはいけないとかあったような」

「ん? でも先にウチのアルクを使ったのはそっちじゃん」

 セシリアは思い出したように言う。


 先にというのは以前、ホワイトローズが一日だけアルクを借りたことである。


「セシ、あれは、ほら、囚われてあれこれあったからで」

 アルクはスピカを庇うように言う。


「今も囚われ中でしょ? それに一回は一回なんだからこっちにも付き合うべきでは?」

 とセシリアはスピカに指差して言う。


 それにスピカは諦めたかのように息を吐く。


「わかった。では一晩よろしくね」

「!? いいんですか? 本当に?」


 アルクは喜びつつ、慌てふためく。


「武士に二言はないよ」

 とスピカは腰に差した刀の柄をぽんぽんと叩く。


  ◯ ◯ ◯


 ゲーム内のバーベキューの準備は現実とは全然違う。


 端末から食材を取り出し、使をバーベキューにするだけでいい。洗ったり、切ったりする必要はない。

 後はバーベキューコンロも端末から出し、食材を焼くだけ。


「そういえば、どうしてここでキャンプを?」

 焼き上がるのを待つ間、スピカは質問をした。


「それは気晴らしにゴーレムを倒していたんです」

 アルクが答える。


「気晴らしにゴーレム?」

「はい。ストレスが溜まっていたので気張らに」

「でも、全然ストレス発散できなかったのよ。で、キャンプになったのよ」

 セシリアがやれやれと言う。


「そっちは訓練と言ってたけど、独りで?」

「ええ。レベルとランク上げのために」

「独りで?」

「皆でやると全然上がんないんだよ」

 とスピカは苦笑いして肩を竦める。


「やっぱハイランカーだと上がんないの?」

「相手がマルチ系でレベル120以上じゃないとね」

「それをソロで!?」


 マルチはチームで倒すのが推奨とされ、さらにレベル120となるとチーム平均ランクが120推奨である。


「そう。ソロで」

「大変ですね」

 と言って、ミリィはトングで肉を裏返す。


 裏返すと焼ける音が増し、煙が立つ。


「おお! いいにおい」

 セシリアは目を輝かせて言う。


「肉もいいですけど野菜も食べて下さいね」

「わかってるわよ」

 と言いつつもセシリアの目は肉に向いている。

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