第161話 Aー2 ストレス発散

「暇ね」

 セシリアはつまらなさそうに呟く。


「こら。ちゃんとレベル上げしないと駄目だろ」

 そんなセシリアをアルクがたしなめる。


 今日もアルク達はレベル上げのためにモンスターを狩っていた。

 今は城下町グラストンから東に位置するエリアにいる。


「ん〜でもさ〜」

 それでも不満そうな声を出すセシリア。


「何よ」

「なんかモチベ上がんなーい」

「駄々こねるなよ」

「いつも同じことでつまんなーい。雑魚ばっか倒してさ〜。周回って言うの? こういうの好きじゃなーい」

「じゃあ、強い敵と戦ってみます?」

 とミリィが提案する。


「んん〜。強いのもね〜」

 セシリアは腕を組み考える。


「たまにはストレス発散に暴れてみるのもいいのでは?」

「それだとミリィは暴れられないんじゃない?」

「私は大丈夫ですよ。ストレスありませんし」

「うっそぉ〜」

「それよりどうする? 強いのに挑戦してみる?」

 ユウが聞く。


「いや、強いのは無理。負ける」

「ならセシとユウ、ミリィの三人で倒しにくいやつは?」

「いやいや、倒しにくいなら駄目じゃん」

「だから三人ならってこと。私がいたら問題ないやつ」

「何それ。自分強いって言いたいの?」

「実際そうだし。で、どう? 基本、私が立ち回り、隙を見て三人が攻撃するってのは?」

「まあ……いいんじゃない。あと、敵は大きめで動きが鈍いやつで」


  ◯ ◯ ◯


 ユウ達はグラストンから北にある山脈付近に移動した。

 山脈は東から西へと伸びていて、プレイヤー達からには尖った壁のように見える。


「ねえ、前のストーリーイベントの山に向かってるの?」

 セシリアは前を歩いているアルクに聞く。


 前のストーリーイベントとは攫われた姫様を黒騎士から助けるというもの。

 その際に洞窟ダンジョンや山、山の上の城等とステージを突き進んだ。

 今、ユウ達が近づいているのはストーリーイベント時に登った山。


「いいや。そこの丘」

 と言いアルクは北東の丘を指す。


 山に比べるといくばくか低く、ぱっと見、難しくなさそうだが、近づくと丘は高く、さらに傾斜が高い。登り道が長く、頂きまで道の両端が一つになるほど長く伸びている。


「きっつーい」


 セシリアは駄々をこねながら道をのぼる。


「肉体的疲労はないでしょ?」

 先頭のアルクは前を見ながら言う。


 ゲーム世界において、痛覚と肉体的疲労はない。


「精神的疲労はありまーす」

「まだ全然でしょ」


 丘を登り始めて十分も経っていない。


「でもさー、なんでここなの?」

「端末の掲示板によるとここに硬い大型モンスターがいるんだってさ」

「どんなの? まさかドラゴンじゃないでしょうね?」

「違うから安心しな。ゴーレム系だってさ」

「ゴーレム!? うわー硬そう。私達で大丈夫なの?」

「マルチ型のレベル65。厳しいかもしれないけど相手は硬いだけでノロマだから」

「そういうのって長期戦にならない?」

「もし飽きたら逃げるってのも手だから」


 そしてユウ達はあいだに休憩を一つ挟んで丘の上まで登った。


「あら? 誰もいないですね」

 ミリィが周囲を窺って言う。


 丘の上にはユウ達しかいなかった。丘の上は草原が広がっている。


「そりゃあ、好きこんなでこんな丘の上でゴーレムと戦いたくないよ」

 とアルクが答える。


「ん? でもそれって、皆はストレス溜まってなってことなの?」

 ユウが首を傾げる。ストレスがあるからここに来る。しかし、今は自分達しかいない。


「まあ発散方法は人それぞれですよ。買い物したりとか、美味しいものを食べたりとか」

 とミリィがユウの疑問に答える。


「それだ! 他にもストレス発散方法あったじゃん! 何でモンスター退治なのよー!」

 セシリアが髪を掻き回す。


「本当だね」

「本当だね……じゃねぇーし。アルク! あんたが言ったんでしょうが! 脳筋め!」

「の、の、脳筋! ひどーい。こっちはレベル上げのついでにストレス発散になるから教えたのに!」

 アルクが頬を膨らませて反論する。


「あのう」

 ミリィが二人に言葉をかける。


 しかし──。


「もっと女の子らしく!」、「何さ、それ!」、「ボコって、ストレス発散って野蛮!」、「この世界では当たり前なんだよ!」、「いーやー、メルヘンじゃないー!」

「……あの〜」

『何よ!』

「ゴーレム来ましたよ」


 すぐ近くにネズミ色のレンガで組み立てたような人型のゴーレムがいた。

 すでにユウはダガー・ウィンジコルを取り出し、構えている。


『ぬぅわぁぁぉ!』


  ◯ ◯ ◯


「はぁ〜。疲れた」


 セシリアはハンマを手離して地面の上に大の字になる。


「本当。全然、刃が通らなかった」


 ユウも地面に尻を着ける。

 ゴーレムはスピードが低いだけで攻撃力と防御力が高い。特に防御力は物理及び魔法防御力が高く、アルク以外はほとんどダメージを与えられなかった。


「どう? ストレス発散した?」

 アルクはセシリアに尋ねる。


「ただ単に疲れたわー! ノロマだから避けるのに苦労はしなかったから良いものの、防御力が高いのよ!」

 セシリアは天に向け、叫んだ。


「でも、その分にバンバンと敵を攻撃が出来ただろう?」


 的がデカイ分、セシリアは魔法でバンバンと撃ち、敵に命中させた。


 だが、セシリアは上半身を起き上がらせ、

「倒れなきゃあ、怖いっつうの! 分かる? びくともせずにゆっくり近付いてくるのよ。あの巨体で!」

 とアルクに言う。


「残念。ストレス発散ならなかった?」

「ならないわよ。こうなればショッピングやオシャレなカフェ巡りでしかストレス発散できないわよ」

「もっと他の方法はどうです?」

 とミリィが聞く。


「他のって何よ」

「例えばキャンプとか」

「あっ! それいいね」

 とユウが賛同する。


「テントって言っても道具とかは?」

「私、持ってるよ。テント一式」

 とアルクが言う。


「それ四人も入れるの?」

「グランピング用だから余裕かな」

「なんでグランピング一式持ってるのよ?」

「いやー、グランピングで寛ぎたいなって」

 アルクは照れながら言う。


「……まあ、いいわ。じゃあキャンプでもしましょうか」

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