第160話 Tー3 パーティー編成
「どうも私はティナと言います。……元攻略班のメンバーでした」
ティナは金髪のお嬢様風プレイヤーに頭を下げる。そのお嬢様風プレイヤーはキョウカというプレイヤーで、現実世界では深山グループの令嬢で本物のお嬢様である。そして深山グループはレオパーティーのスポンサーをも務めいた。アリスはそういったこともあり、キョウカとは何かと縁があった。
そしてここはキョウカ達が根城にしている施設の客室。
部屋は広く、四方のうち一面はガラス戸で小さい庭が窺える。そのガラス戸寄りに丸い白テーブルに装飾のある椅子があり、今そこにアリス達は座っている。そしてガラス戸とは反対側の壁の前には謎のカウンターがある。残りの壁には絵画が取り付けられている。
天井も部屋が吹き抜けになっているかのように高い。
アリスには客室というかラウンジのように感じられる。キョウカ達の住処にはアリスも初めて訪れたので少しは緊張していた。
「ふむ。……で、うちのパーティーに入りたいと」
「はい!」
ティナは力強く頷く。
「どうしてウチに?」
「正直言いますと私、レベルが低くて、どこのパーティーに入ることができないんです」
「そうかな? ローランカーも歓迎しているパーティーとかあるよ?」
「駄目です。ああいうのはローランカーをパシらせるパーティーですよ」
「さすがは元攻略班。情報に詳しいようで」
「別にこれは大した情報ではありませんよ」
「では、私達のパーティーにはそれがないと?」
「アリスさんの紹介ですし、それにキョウカさん達はカナタを保護しています」
「アリス君の」
キョウカはアリスへと目を向ける。そのアリスはどうもと少し頭を下げる。
「なぜレオのパーティーに入隊を申し込まなかったのかな?」
「レオさん達はハイランカーですので先にも言いましたが私はローランカーで……」
ティナは言葉を詰まらせる。
それもそうだろう。
自分は弱いけど仲間にしてくれと言っているのだから。
「いいだろう」
「それは!?」
「ウチに入りたまえ」
どこか溜め息交じりにキョウカは告げる。
「あっ、ありがとうございます!」
「で? アリス君も入隊希望かい?」
「あー、いえ。私は……えー、今は兄貴のパーティーに」
「レオのパーティーに居続けるのかい?」
レオ達は皆、ハイランカーだ。妹とはいえ、この前までローランカーだった中級プレイヤーをパーティーに居続けられるだろうか。
仲の良かったエイラもいないのだ。窮屈なおもいをするのではとキョウカは危惧している。
「……できるだけ。役に立てるよう頑張ろうかなと」
「そうか。もし除隊されたらウチにきなさい」
「いいんですか?」
「なあに、今までの仲ではないか」
「アハッ、その時はよろしくお願いしますね」
◯ ◯ ◯
アリスが帰ったあと、キョウカはティナに部屋の案内をした。
「この空き部屋を好きに使いたまえ」
「はい。ありがとうございます」
「まず君はレベルを上げなくてはね」
ティナのレベルは23。
子供のカナタでも今は48はある。
「はい」
それはティナも分かっていた。
「今、クルミとカナタがレベルとランク上げのため外にいる。南西のエリアだ。連絡をしておくから今からクルミ達と合流し、共に訓練するように」
「分かりました」
「クルミについては知っているかな?」
「はい。存じています」
クルミはキョウカの付き人をしている人で常に後ろに侍り、慇懃な姿勢。影の役割であっても逆にそれが目立っているのでレオパーティーや攻略班の間で知らない人はいない。
「それは良かった」
◯ ◯ ◯
アリスは気分転換に街をぶらぶらしていた。ウインドウショッピングでブティックやショプを周っていた。
四つ目のショップを出たところで道を歩くキョウカに遭遇した。
「やあ」
「あっ、どうも」
先程別れたばかりなので街中で再会してアリスは驚いた。
「奇遇だね」
とキョウカは言う。でも本当は奇遇でもなかった。葵達にアリスがどこにいるのか教えてもらっていたのだ。
「本当ですね。ティナさんは?」
「彼女はレベル上げで訓練中」
「そうでしたか。……なんか、すみませんね。その……ローランカーを紹介して」
「少し人手が欲しかったから一人くらいローランカーがいても問題ないよ」
「そう言ってくれて助かります。では──」
「あっ、少し話いいかい?」
「えっ、……ええ。いいですよ」
◯ ◯ ◯
アリスとキョウカは近くのカフェに移動した。アリスはコーヒーを。キョウカはウインナーコーヒーを注文した。
「で、話とは?」
キョウカはウインナーコーヒーを一口飲んだ後、
「お兄さんの調子はどうだい? 恋人のエイラを亡くして少し自暴自棄になっていないかい?」
「兄貴は普通……ですよ」
と言い、アリスはコーヒーを飲む。
「でも、この前の大規模パーティー説明会はすごかったではないか。呼び掛けていたパーティーがブチギレて辞退を表明したんだから」
「あ、あれは仕方ないと思います。周りのプレイヤーは全然協調性がないし、説明会だって紛糾していたじゃないですか。あれだと兄貴がキレてもおかしくありませんよ」
と言い、アリスは唇を尖らし、コーヒーカップを見つめる。ミルクと砂糖が入り混じったコーヒーは茶色くなっている。それをもう一度掻き混ぜるようにアリスはスプーンでカップの中身を掻き回す。
「そうか」
とキョウカは言い、ウインナーコーヒーを飲む。
「そういえば今日はクルミさんは見かけませんでしたが?」
「彼女はカナタと訓練。そして今はティナを交えて訓練だよ」
「訓練ですか」
アリスは反芻した。
「今はカナタのランク上げだね。それとジョブクラスも3にしないとね」
「頑張っているんですね」
カナタはしっかりしているなとアリスは思い、それと同時に安心もした。
「君も頑張っているだろ?」
「私も?」
「この前のイベントの後、色々と連絡役を務めたとか?」
「兄貴がエイラの件で参っちゃって。それでですよ」
アリスは苦笑した。
「君もショックだったんだろ?」
「……まあ」
数少ない仲の良いプレイヤーで、かつ
それでも、色々と考えずにはいられない。
それを払拭するためにアリスは働いた。働いているうちは考えずにすむと。
「何か話したいことはあるかい?」
「え?」
「君、何か思い悩んでいる顔をしているよ?」
そう言われてアリスは自身の頬を反射的に触れる。
「私でよければ相談に乗るよ」
「ありがとうございます。でも、何もないですよ。アハハッ」
とアリスは笑い、そしてコーヒーを飲む。
──苦っ!
そして砂糖を少し入れ足して、掻き混ぜる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます