第159話 Tー2 混乱
雛壇型の扇型講堂。時刻は夕方18時。集まっているのはレオパーティー、攻略班、その他プレイヤー達。彼らは大規模パーティーの件で集まり、今後の大規模パーティー結成について議論をする予定であった。
そう。その予定であった。
けど、大規模パーティー説明会は議論も何もなく紛糾していた。
内容はハイランカー達による解放権使用ついて。ローランカー達は怒り、「自分達は結局利用されるだけではないのか」と喚く。
それにハイランカーは「自己責任」だの「甘えるな」と反論。
誰も大規模パーティーについて具体的な案は出さない。
それを攻略班代理リーダーを務めるティナは壇上でおろおろしている。
止めようにも攻略班ということもあり、前に出れない。勇気を振り絞り、なんとか声を出すも、紛糾したプレイヤーの声にかき消される。
ティナは助けの視線をレオに求めるもレオはプレイヤー達の論争を面白そうに見ているだけであった。
しばらくして弁の熱が下がった所で、ティナが、
「では皆さん、大規模パーティーについて説明を……えーと、レオさんから」
名前を呼ばれてレオはのっそりと立ち上がり、舞台中央へと向かう。
ティナは不安気にマイクをレオへと渡す。
「あー。……大規模パーティーは白紙させてもらう」
その言葉に講堂に集まっていたプレイヤー達の時間は一瞬止まった。
なぜならレオの言った言葉は思いもよらぬものだったのだ。
予想では懇願か虚勢の張った提案か。だが、放たれた言葉はそのどれもではなかった。
一拍開き、時が動いた。プレイヤー達は罵詈雑言を交えた言葉を発する。
静まり返った講堂はすぐにうるさくなった。
「ふざけんな!」
「テメエが提案したんだろ!」
「自分勝手も甚だにしろ!」
「人を巻き込んで何様だ!」
それらの罵詈雑言をレオを一身に受けた。
それが収まり始めた所で、レオは息を大きく吸う。
「自分勝手はお前らだー!」
そしてレオは大声で怒鳴った。その怒声は講堂に広く響き渡る。
ある者は顔を顰め、またある者は反射的に身を縮ませる。
「エイラがやられた」
レオはぽつりと呟く。その言葉にプレイヤー達は一度黙るが、
「いや、それ自己責任だし」
「はあ? だから何? それ今、関係ある?」
「弱い奴が駄目なんでしょ?」
それら中傷のある言葉にレオは悲しむのでもなく、むしろ笑った。一部のプレイヤーはその笑みに訝しんだ。
「お前らが今言った言葉、そのまま返す」
レオは腕を広げ、
「死ぬ奴は自己責任なんだろ? 弱い奴が悪いんだろ?」
そして、
「それじゃあ、お前らが生きようが死のうが知ったことではないわけだ」
レオは皮肉った笑みをプレイヤー達に向ける。
その言葉にローランカーのプレイヤー達は激怒した。
「何言ってんだよ。おっ、お前ら、ローランカーを見捨てるのかよ!」
「人でなし!」
「自分勝手!」
「死ね!」
「クソッタレが!」
喚くプレイヤー達に、「だから自分勝手はお前らだ!」とレオはもう一度怒鳴った。
「いいか? こっちはわざわざ大規模パーティーなんて作る義務なんて、はなっからないんだよ。お前らに合わせて作ってやってんだよ。それなのにお前らはグチグチ、ネチネチとわがまま言ってんじゃねえよ! もう、てめらの好き勝手にしろ! こっちはもうお前らのために動かない! わかったか!」
そう言ってレオはマイクを地面に叩きつけた。
静けさの中、ハウリングが講堂を支配する。
レオは壇上の裏へと歩く。
それを誰も止めるものはいなかった。
レオの姿がなくなると一部プレイヤー達が倣うように講堂を出る。それらはレオのパーティーメンバーやハイランカーであった。
残された者は戸惑い、そして不安に襲われる。壇上を見るとティナの姿もなかった。
この日を境にタイタン内ではあちこちでパーティー結成がされた。
それはローランカーが少しでも生き残ろうとハイランカーのパーティーに頭を下げて。
だが、それはランカーカーストによる負の坩堝でもあった。
◯ ◯ ◯
「攻略班のほとんどがゼノスのパーティーに吸収されたらしいよ」
説明会もとい破綻報告会から2日後の昼、アリスはレオに告げた。
レオはあの破綻報告会から真面目に動いていた。
けれど前とは違い、瞳に影があった。
「聞いてる?」
レオはソファーに座り、端末を操作している。
「聞いてるよ。そうかそうか」
「いいの? 攻略班だよ?」
それをレオは鼻で笑う。
「能力のない攻略班が今更何が出来るんだ?」
元々、このイベントには一部のプレイヤーのみが招待され閉じ込められた。それゆえ攻略班もレオのパーティーも全員がいるわけではない。さらに先のイベントにてブラームスやサラがいなくなったのだ。攻略班としての能力は低くなっている。
「でも……せめてウチのパーティーに入れることはしなかったの?」
攻略班のプレイヤーから入隊を望む声があった。
しかし、レオはそれを蹴った。
「入隊だからな」
「どういうこと?」
「普通はパーティー単位の吸収合併だろ?」
「え? ……あ、うん」
「向こうはもうバラバラなんだよ。そんな奴はもう仲間割れしてやってきたプレイヤーだ」
そう言ってレオは部屋を出る。
◯ ◯ ◯
あれからアリスはレベル上げにエンカウントエリアに足を踏み入れた。
そこはソロで活動できるエリアで首都カシドニアから南西にある平原。
アリスは岩場に仰向けに寛いでいた。
──どうなるんだろ?
タイタン内では弱肉強食が始まっている。
弱いプレイヤーは強いプレイヤーのパーティーに入り、使役されている。
中にはそれを嫌がるプレイヤーが集まり、パーティーを結成するもこれといった活躍をしていない。
──私はこのまま兄貴のパーティーに居られるかな?
パーティーメンバーは皆、ハイランカー。そしてメンバーとは溝がある。
強なって役に立てれば問題はないが、一朝一夕で強くなれるわけではない。
──どうしよ?
アリスは寝返りを打つ。と、そこで銃声の音を聞いた。
どこかで戦闘が行われているのだろう。
アリスは耳を澄ませて、銃声の方角を調べる。
音量からして戦闘は近くで行われているらしい。
少し気になってアリスは見に行った。
先程いた岩場から南へ100メートル離れ地点でとある少女がサイ型モンスター・クロサイダーと戦っていた。
「……あの子」
クロサイダーと戦っている少女はティナであった。
そのティナはソロでクロサイダーに挑戦しているが、なかなか倒せないでいる。
クロサイダーはレベル26でそう難しくないはず。そこでアリスはティナのレベルを見る。
プレイヤーの頭上にはネームとレベルもしくはランクが表示されている。普段は透明化されているが、確認を意識して頭上を見ると現れる使用となっている。
ティナ。レベル23。
「低っ!」
ついアリスは声に出した。
アリスでも今はレベル43だ。
「あ、あのうー。助けて下さーい」
ティナが戦闘をしつつ、アリスに救援を望む。
「仕方ない」
アリスは戦闘に参加して2丁拳銃による銃撃をクロサイダーに与える。
◯ ◯ ◯
「ありがとうございました」
戦闘後、ティナは頭を下げ感謝を述べた。
「いえ、別に」
「まさかアリスさんだったとはびっくりですよ」
「私、弱いですから。いっつもここでレベル上げとか練習しているんですよ」
「あはは、でしたら私はもっと弱いですね。お恥ずかしい」
ティナは申し訳ないように顔を曇らせる。
「デスクワーク担当だったのでしょ? でしたら仕方ないですよ」
「でも今となってはもっとレベル上げしておけばと後悔しています」
「それじゃあ頑張ってね」
「あっ、あの!」
去ろうとした所を呼び止められる。
「何?」
「アリスさんから、その、レオさんに私をパーティーに入れられるように出来ませんか?」
ティナは頭を下げ、アリスに頼みこむ。
「あー、ごめん。それは無理だわ。私、きちんとしたパーティーメンバーではないから」
「そう……ですか」
「むしろ私もパーティーを追い出されそうでいつもひやひやもんよ」
「そうなのですか?」
「所詮はリーダーの妹だしね。今まではエイラもいたからなんとか繋がっていたけど……。そういえばナツメさんは?」
「彼女は他のパーティーに。その他のメンバーもハイランカーのパーティーに」
「それであなただけ残ったの?」
ティナは人気があったはず。残るなんて意外であった。
「私はなんとか攻略班を維持しようと努めたのですが、皆、去っていって……」
ティナは悲し気に俯く。
「それはなんというか……」
アリスはかける言葉が見つからなかった。
「今から他のパーティーに声をかけては?」
「私はレベル23ですから」
「う〜ん。そうだ!」
アリスは妙案を思いつき手を叩いた。
「キョウカさんはどうかな? キョウカさんなら仲間に入れてくれそうかも」
──子供のカナタを仲間に入れるくらいだし……いや、子供だから仲間に入れたのかな?
「キョウカさんって、あの深山グループの?」
「うん。攻略班なら面識はあるでしょ?」
「ええ。でもあの人、気難しいのでは?」
「気難しい?」
「はい」
確かに言葉遣いは変わっているが気難しい人ではなかったはず。
「それじゃあ、やめときます? 私が紹介できそうなのはキョウカさんくらいですけど」
「いえいえ、紹介してくださるなら、ぜひ」
またティナはアリスに頭を下げる。
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