第158話 Tー1 アリスとレオ
エイラ亡き後、アリスは頑張った。
がむしゃらに。考えないように。
訓練をして、パーティー内の雑用も手伝い、そして黙々とモンスター退治に勤しんだ。
だが、逆に腑抜けた者もいた。
それがアリスの兄でエイラの彼氏であるレオだった。
攻略班臨時代表が解放権を使用したことにより、ハイランカー達はそれに
レオはそれに何もしなかった。
なんとか繋ぎ止めようとも、新しい案を作ることも何も。
レオパーティーそのものも危うい状況であった。今の所、脱退者はいないが、いつ出てもおかしくはない状況でもあった。
だからこそアリスは頑張った。パーティー内の雑用も率先してこなした。連絡係として右に左に走った。
そして今日は予定もなくオフだった。
だけどアリスは外に出て、モンスター退治に出掛けていた。
相手に近づき両手に持つ拳銃のトリガー引く。
戦法としては間違っている。
遠距離武器であえて近づくのはおかしい。
しかし、今はそれでいい。がむしゃらに。ピンチになれば戦うことしか考えられなくなる。
相手は亀型モンスター、アルブルタートル。
車並み胴体に大木が一本甲羅から生えているモンスターだ。
かつてカナタと共に倒した敵。
今はソロで挑んでも問題はない。
アルブルタートルは吠え、枝を
それをアリスは踊るかのように避け、カウンターで鉛玉をぶちかます。
敵は怒り狂い、幾重もの鞭をアリスへと下ろす。
アリスは鞭の嵐を避け、敵の背後へと移動する。
「鬼さんこちら手のなる方へ」
そしてアリスはトリガー引く。
乾いた音が鳴り響く。
◯ ◯ ◯
アルブルタートル撃破後、アリスの
「あっ、あのう〜」
二人のうち、茶髪の女の子がおずおずとアリスに声をかける。二人はずっと戦闘が終わるのを待っていて、声をかける機を伺っていたのだ。
「何?」
アリスも戦闘の途中から変わったギャラリーには気づいていた。それは観戦ではなく、何か用があるように話しかけるタイミングを計っているかのような。
「アリスさんですよね?」
「うん。貴女は?」
「私はティナと言います。こっちはナツメです」
「どうも」とナツメと紹介されたボブヘアーと少女は頭を下げる。
アリスはティナには覚えはなかったがナツメにはどこかであった記憶があった。
「ええと、どこかで……」
「攻略班です。前に一緒に入力の仕事をしました」
「そうだ。あの時の!」
アリスは一度、情報を纏めるという仕事を手伝っていた。ナツメはその時に会っていた。
「はい。その節はどうも」
「いえ、こっちこそ。あまり役に立たず」
「得手不得手がありますのでお気になさら……ブッ」
ナツメがティナの脇を突く。
「ちょっと何よナツメ!」
「長い! ほら要件!」
「もう! 何よ自分は言わないくせに!」
ティナは少しムッとして言う。
「私に何か?」
「あっ、はい! 少しお話しいいですか?」
「いいけど」
3人は腰を落とせる岩がある隣りのエリアに移動した。
「えっと、それで……レオさんは今、どうですか?」
ティナが聞く。
「今は放心中ね」
「……ですか。それで大規模パーティーの件は?」
大規模パーティー。それはレオが攻略班とその他プレイヤーを仲間に入れて、このデスゲーム攻略のためのパーティー結成しようとしていたこと。
「たぶん出来ないでしょうね。うちのパーティーメンバーもその件はほったらかしだし」
アリスは正式にはレオパーティーの一員ではないがとりあへずうちのパーティーと言った。
「……そうですか」
ティナは残念そうに呟く。
しかし、
「なんとかなりませんか」
とナツメが問う。
「なんとかって……それは無理よ。うちの兄貴がやる気を起こしても他のパーティーは嫌でしょ?」
ハイランカー達が次々と解放権を手にして現実へと戻り、解放権を得られないローランカー達はハイランカー達に不信感を抱いている。
「大規模パーティーを作っても解放権について
「やっぱり、そうですよね〜」
とティナは諦めるように言う。
「ティナ!? 諦めるの?」
ナツメが非難するように言う。
「仕方ないじゃないですか」
「それじゃあ攻略班はどうするのよ?」
「もう攻略班じゃなくて普通のパーティーでいいじゃないですか? ブラームスもいない。サラもいない。元々このデスゲームイベントに囚われた攻略班メンバーも少ないですし。残りの私達で何が出来るって言うんですか?」
「…………」
「もう普通にやりましょうよ」
「……普通にやったら戻れるの?」
ナツメは小声で言う。
「分かんないわよ」
どこか居心地の悪くなったアリスは、
「攻略班はどこかのパーティーと合併するとかは?」
「どこに?」
ナツメが目を鋭くさせて聞く。
「えっ!?」
「サラが自分勝手に辞めて今更、攻略班を信じるプレイヤーなんている?」
「あー、うん、そうだね」
ブラームスが消えた後、サラは臨時で攻略班の代表となった。しかし、エイラがイベントで負けて消えた後、解放権を使用して逃げた。
「そっちと合併は出来ますか?」
ティナがアリスに聞く。
「えっ!? こっちに!? どうだろう?」
正直、イメージが悪くなったパーティーと組みたがるだろうか?
アリスは乾いた笑み張る。
「何とか出来ませんか?」
「私に言われても……」
「妹さんなんでしょ?」
「いやいや、それだけだよ。私、ローランカーだし。皆の足を引っ張らないようにするだけで精一杯なんだから」
『…………』
「ごめんね。役に立たなくて」
「いいえ。お気になさらず。ただ、次の大規模パーティー説明会にはレオさんを参加させてくれませんか?」
「……一応、声は掛けておく」
◯ ◯ ◯
──さて、一体どう誘うべきか?
ティナとナツメと別れた後、アリスはパーティー施設に戻った。
エイラが消えた後、パーティーメンバー達から明ら様な視線を向けらることが多くなった。
今の所、腑抜けた兄の面倒と連絡係を担当しているから冷たい言葉も出て行けとも言われない。ただ、視線が冷たい。
アリスはパーティーリーダーの部屋をノックする。この部屋は個室ではなく、仕事用の部屋。所謂、社長室や校長室みたいもの。
返事はなかったが、アリスは勝手にドアを開け、部屋に入る。
部屋の二人掛けのソファーにレオは寛いでいた。
片手にはワイン瓶を持ち、思い出すかのようにグビグビとラッパ飲みでワインを飲む。
「また飲んでるの?」
「うるさい。……ちっ、空か」
レオは空になったワイン瓶を投げ捨てる。
これはアリスに対してのものではない。
地面に壁にぶつかったワイン瓶は砕け、そして消えた。
そう。ここはゲーム内なのだ。ワイン瓶の破片が床に散らばることはない。
消費されたものは消える。消し方は二つ。端末内に戻すか、壊すかだ。
レオはいちいち端末に戻すという動作が面倒だから壊すを選んだのだろう。
でも、例えそうと分かっていてもされた側にとっては気分が悪い。
「いつまでこうしておくの?」
「次のイベントまでだ」
「皆はどうするの?」
「ウチのパーティーメンバーは優秀だから問題はない」
「でもリーダーでしょ?」
「うるさい」
そう言ってレオは端末を操作する。
ワイン瓶が2本虚空に現れ、レオは掴む。
「やめなよ。辛いからってさ」
「ふん。お前に俺の何が分かる」
「分かんないわよ。でも、子供のように不貞腐れているのは分かるわよ」
「子供は酒なんか飲まねえよ」
「屁理屈言うな! 全く! もう、やめなさいよ。どうせ酔えないんだから」
それはアルコールに強いというわけではない。ここゲーム世界では酔うことはないのだ。満腹も空腹もない。あるのは味覚のみ。
「酔えねえならどうしろってんだよ」
ここでレオは弱々しく言う。
「……」
「出て行け」
「エイラがいなくなって辛いのは分かるけどさ」
「お前に俺の何が分かる! お前に!」
レオは怒鳴った。
アリスは肩を震わせ、一歩下がる。
胸の前で手を握り、俯く。
「すまん」
レオはそっぽを向き、ワイン瓶に口をつける。
「……今日、ティナに会った」
「誰だ?」
「攻略班の」
「……ああ、あれか」
「大規模パーティーの件で兄貴に次の説明会に出席して欲しいって」
「いいぜ」
「え!?」
アリスは驚いた。てっきり断られると考えていたからだ。
「全部終わらせてやる」
と言い、レオは不敵な笑みをする。
それはやる気の目ではなく、もっと別の黒い光のある目であった。
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