第157話 Aー1 特訓と公開
青い空、風が芝を優しく撫で、気温も暖かい。まさに絶好のピクニック日和である。
けれどそんな静けさとは相異なることが今ここで行われている。
それはモンスター討伐。
プレイヤーが文字通り、モンスターを討伐しているのだ。
それも剣や魔法といったファンタジー世界でしか見られないやり方で。
ここはグラストン。アヴァロンプレイヤーが閉じ込められているゲーム世界の島でる。そしてその島名と同じ名を持つ都市がグラストン。ここはその都市グラストンから出て、すぐ西側にある草原。
「ユウ、そっちに行ったわよ!」
白シャツに赤いプリッツスカートの金髪少女が叫ぶ。
「わかってる!」
黒服の少年は猪型モンスター・ギガマッチョに飛びかかり、ダガー・ウィンジコルでトドメの一撃を食らわす。
ギガマッチョは雄叫びを上げ、消失。
「おつかれ」
魔法剣士のアルクが剣を鞘に戻して言う。
「ふう〜。やっぱ魔導士ジョブはハズレだったかも」
セシリアはハンマーを上下逆さまにして地面に立て、自身は腰を曲げて言う。
「だろうね。本来はアサシンジョブのユウでなくてハンマー持ちのセシがトドメを刺すべきなんだけどね」
「もしくは魔法剣士のアルクがね」
とセシリアは口を尖らせて言う。
「今回は二人のジョブ慣れのためだろ?」
「やっぱ前衛は無理だわ。なかなか慣れないわ」
「ユウはどう? 慣れた?」
「うん。前々回はシーフだったからね。それに前回のイベントでかなり慣らしたからかな?」
そのユウの言葉にパーティー内で一瞬、時が止まる。
「どど、どっ、どうするセシ? もう一回、挑戦する?」
アルクが急いで会話を変えようとする。アルクの言う挑戦とはギガマッチョとエンカウントすること。
「えー、あー、うん。そうね。そう! あっ、でも、前衛はきついわ。中衛か後衛での作戦組まない?」
「確かに前衛3人はおかしいですよね。しかもその内の2人が魔法が使えるとなるとなおさら」
と後衛担当の僧侶ジョブのミリィが答える。
「それじゃあ、私とユウが前衛で、セシが中衛で魔法を。後衛をミリィが」
「よし。それでいこう」
そして再度ギガマッチョのエンカウントを発生させ、戦闘が開始される。
まずミリィが補助魔法でバフ、デバフをかけ、ユウが挑発し、注意を引きつける。その相手の隙へアルクが剣撃を。そしてセシリアが魔法で大ダメージを与える。
「やっぱこの戦法が1番ね」
とセシリアが敵を倒し終えて感想を述べる。
「それだとハンマーの意味なくないか?」
アルクがどこか呆れたように言う。
ギガマッチョ。
ユウにとってはイベントでこの島に訪れて、最初戦ったモンスター。
当時はレベルが低く、躱すので精一杯。
──あの時は近くに毒沼があって、なんとか……いや、最後はアルクのおかげだったね。
「どうかしましたか?」
ユウが少し感慨深くなっているとミリィが声をかけてきた。
「なんでもないよ」
◯ ◯ ◯
夕刻、西空は茜色に輝き、東空は紫色になり、世界から光を取っていた。
アルク達は特訓を終わらせ、都市グラストンへと帰ることにした。
その帰り道、セシリアはアルクに、
「ねえ、ユウのことなんだけど。どうなの?」
それは前回のイベントでエイラを倒したことだろう。
エイラはポイントが少ないことにより、消失。ユウが直接的な原因かは
ゆえにユウは自分が倒したのではと考えているのではないか。それをアルク達は心配していた。アルク達は知らないが消失されたプレイヤーは死ぬわけではない。解放されたプレイヤーと同じ様に現実世界に戻るだけである。
ユウはそのことをアルク達に教えることは出来なかった。クルエール、アリスのこと現実世界での問題など色々あるからだ。
もしプレイヤーにも話せば、プレイヤーはイベントに参加しなくなるし、大規模なデモも発生しかねないから。
「大丈夫……かな?」
2人の少し前を歩くユウはミリィと談笑しながら歩いている。
──あの様子だと平気かな?
「ふ〜ん。アンタが言うなら大丈夫なんでしょうね」
とセシリアはどこか含みのあるように言う。
「なんだよ。それ」
「ねえ、アンタ、ユウのことどうなの?」
「どうなのって?」
「だーかーら、好きなのかってこと」
「なんでそうなるんだよ?」
「だって現実でも知り合いなんでしょ?」
「まあ幼馴染みってやつかな」
「で? どうなの?」
「ないよ。ないない。幼馴染みに恋するって少女漫画ではあるまいし」
「えー、本当?」
「それにユウは……」
「何?」
「なんでもない」
本当はユウは女なんだよとアルクは言えなかった。本人が言っていないのにバラすのはいけないと考えたのだ。
◯ ◯ ◯
「ねえ? ユウは好きな子とかいないの?」
『ブッ!』
ユウとアルクは吹いた。
今は街のレストランで食事中。
「セシ、ちょっと? 急に何言ってるの?」
脈絡もなく恋愛系の質問をされてユウは驚いた。
「で、どうなの?」
「いないよ!」
「本当に?」
「セシこそどうなのさ?」
「私はいないわね〜」
とセシリアは目を上にして言う。
「アルクは?」
「いないよ!」
「ミリィは?」
「それは現実での話ですか?」
「そう。ミリィは現実で好きな人とかいないの?」
「私は仕事でいっぱいいっぱいですので」
「社会人なの? 何の仕事?」
「セシ、そういうのは……」
アルクが注意をするが、
「いえ、構いませんよ。ただの公務員です」
「お堅い職業ね。周りもやっぱりお堅い人が多いの?」
「ええ。がっちがちの堅物ばかりですね。ですので恋愛対象にはなりませんね」
ミリィは肩を竦めて言う。
「で、セシは本当にいないの?」
「いないわ。いないからVRMMOやってるのよ」
「それだとプレイヤーは皆、非リア充ってこと?」
「あーでも、ユウはペルソナ型なんだっけ。モテるんじゃない?」
ペルソナ型。それはアバターを作る際、現実の姿を参考にしたものをいう。つまり、ユウの姿は現実の姿とほぼ同じということ。
「でもモテないよ」
「なんで? その姿だと結構女の子にモテるでしょ?」
セシリアからするとユウはなかなか良い造形である。
「モテないよ。それに現実では女だし」
「?」
「……それは……ユウは現実では女の子なのです……か?」
ミリィが首を傾げて聞く。
「うん。俺は現実では女なんだ」
「へえー。…………ん? え? はいー? 女!? えっ? 嘘? 本当?」
セシリアはユウに指差して聞く。その顔は驚きと疑問がいり混じっていた。
「セシ、声がでかい。ユウは女だよ」
アルクが口に指を立て、セシリアを叱る。
「まっ、まま、マジ? えっ、待って? それは現実は女の体で心は男。それとも男の体で女の心?」
「体は女だよ。生まれた時からね」
「……なるほど。つまり……」
「うん。そういうこと」
「Trans gender」
「セシ、なぜ発音良く言う?」
「いや、その、びっくりして。アルクは知ってた。……って知ってたよね」
「勿論」
アルクはどこか悲しげに言う。
「そ、そうなんだ」
「こんなんだけど。今まで通りでお願いね」
「オッケー、オッケー。女なら、なおのこと親しみやすいってものよ」
とは言うものの、動揺が隠しきれないセシリア。
「まあ今時、TSは珍しくありませんし」
ミリィは逆に何ともなしの様だ。
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