第165話 EXー1 定例報告会

 どこかヨーロッパの古城にある作戦室を思わせるような部屋に二人の人物が時間ギリギリに現れた。

 一人はお嬢様風で、もう一人はサイドテールの女性。


「遅い!」

 開口一番にセブルスは言う。


「すまない。少々あってね」

 と、お嬢様風のプレイヤーが謝罪する。謝罪はしているが悪びれた様子はない。


 遅れた二人はキョウカとマリー。

 キョウカは椅子に座ると「では、定例報告会を始めようか」と告げる


「なんで貴女が仕切るのですか?」

 とヤイアが目を細めて言う。


「おや。ずいぶん嫌われたもので」

「たりめーだろ。てめえはプレイヤーなんだぞ。本来はここに参加できないんだからな」

 セブルスは不機嫌さを隠さずに言う。


「そうだね。君達の英断には頭が下がるばかりだよ」

「けっ!」


 葵は咳払いをして、

「では、皆様、定例報告会を始めます。まずロザリー、イベントに関して何かありますか?」

「特にないわね」

 そっけなくロザリーは返答する。


「本当に何もないのかい? 私が初めて考えたイベントだからね。色々不備があるかもしれない。もし気になることがあったら、何でも聞いてくれても良いのだよ」

 とキョウカは告げる。


「今はないわよ。イベントに関してエラーも最悪な事態なるような不審な点もないわよ」

「そうか。てっきり、クルエールと麒麟児絡みで問題が発生しそうかもしれないから案じてはいたんだが。……そうか。問題ないか」


 その言葉にロザリーの額は引き攣る。


「……あんたねえ」


 ロザリーは勢いよく両手で机を叩き、椅子から腰を上げる。


「エラーかつ今後の不安要素はあんたなのよ! いい! 麒麟児……カナタをしっかり見張っときなさいよ。決してユウと会わせないようにね。分かった?」

「分かってるとも。安心したまえ」

「ロザリー、気持ちは分かるがここは押さえな」


 セブルスがロザリーを宥める。


 ロザリーは息を吐いて、腰を下ろす。


「では、次にヤイア。アヴァロンプレイヤーで何か問題はありましたか?」


 葵は次にヤイアへと質問する。


「恐怖と緊張、ストレスは増加していますわね。次のイベントは勝手に投票され、強制参加ですからね」

「訳もわからぬ内に参加させられるのは堪えるものだからね」

 と発案者とキョウカが答える。


 それにヤイアは眉を寄せる。


「それと特に不満がプレイヤー間に顕著に現れています。掲示板などには『連絡が出来ないって言っても、向こうは空飛ぶ奴がいたくせに』というのが多く書き込まれていますね」

「空飛ぶ……エイラのことかな。アヴァロンにはいないのかい? 飛行能力のあるジョブを持つプレイヤーは?」

「いいえ。一人います。ただ、当の本人は飛行能力のあるジョブを使用していませんね」

「どうして?」

「さあ? 目立ちたくないとか?」

「ふむ」


 キョウカは思案するように顎を撫でる。


「それで葵、どうします?」

 とヤイアは葵に尋ねる。


「精神が不安定なプレイヤーには安定剤を」

「おや、現実の体に薬を投与するのかい?」

「違います。脳内でセロトニンを作らせるようにするだけです」

「おや? 現実の体とは繋がっていないのだろ?」

「ええ、そうですよ。ですので脳内物質を生み出すのは体です。そして我々はその体を掌握しているのですよ」

 と葵はキョウカの体を指して言う。


「おお、怖い」

 とは言うもののキョウカは全く臆していない。


「次にセブルス。そっちはどうです? ついこの間まで大規模パーティー案が廃され、問題になっていましたけど、この度のイベントで何かありましたか?」

「今は落ち着いているな。……というか、むしろイベントでやる気が上がっている。問題はない」

「そうですか」

「しかし──」



 ここでもまたキョウカが口を挟む。


「どうもタイタンは纏まりがないね」

「あん?」


 セブルスはメンチを切るがキョウカはそれを無視して進める。


「アヴァロンは基本現実でのことを忘れてのびのびとプレイすることをモットーとしている。勿論、モンスターを倒したり、レベル上げもする。けど、逆にタイタンは戦うことをモットーとしている。プレイヤー間での戦闘が可能な闘技場やイベントもあった。それはつまり他のプレイヤーは競い合う敵ということ。さらにアヴァロンでチート行為をして垢BANされた大勢のプレイヤーがタイタンに流されてきた。チート行為していたんだマトモなプレイヤーではないだろう」

なげーよ。何が言いてぇんだ?」

「つまりだ、ゲームスタイルの違いがプレイヤーの現状に大きく関わっているのではないかな?」

「だったらなんだってんだ?」

「タイタンでは、もっとプレイヤー間で協力できるような環境を整えてはいかがかな?」

「……フン、そうかい。なら今回のイベントでより親密になれるだろうな」


 今回はアンケート上位のアヴァロンプレイヤーが選ばれる。それはタイタンプレイヤー間での共通の敵とも言える。その強敵を共に倒すとなると親密度も上がるというもの。


「だと良いんだが」

「なんだよ?」

「敵を倒すだけなら、今までだってあっただろう? ストーリーイベントとか」


 タイタンでのストーリーイベントのラスボスは大勢のプレイヤーが一致団結して臨んだ。

 だが、それでもプレイヤー同士で仲が良くなった者は少ない。


「モンスターを倒すだけではいかないと?」


 ここで一言も発していなかったマルテが会話に加わる。


 マルテはモンスターを作成する立場ゆえ、キョウカの発言に食いついたのだ。


「うむ。戦いだけでない、もっと親密になれるイベントを作らないと。リゾートイベントのような」

「テコ入れを増やせってこと?」


 ロザリーが面白そうに言う。


「他にもスポーツ系とか文化系のイベントも作ってみるべきでは?」

「ふ〜ん。葵はどう?」

「面白いかもしれませんね。もしプレイヤーのストレス値がこちらで制御出来なくなりそうな時はそういうイベントもありかもしれません」

「じゃあ、いくつか考えておくわ」

「では次にマリー、カナタの件で何かありましたか?」

「いいえ。これといって何も。普通にプレイをしているだけです」

「でも気をつけて下さい。彼は我々と同じA.E.A.Iなのですから」

「はい」


 葵はメンバーを見渡して、

「他に何か伝えなければいけないことはありますか?」


 皆は黙して首を振る。


「では終了致します」

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