第68話 Mー4 二日目①
朝、アリスはセミダブルのベッドで微かに寝息を立てながら寝ている。窓からは朝陽が差し込み、鳥のさえずりが聞こえる。その部屋のドアからノック音が鳴る。そしてドアが開きメイド服の葵が入ってきた。葵はアリスの元へと進み、アリスの肩に手を置く。
「アリス様。起きてくださいませ」
と言いいながらやさしくアリスの肩を揺する。
「ん~あと一時間」
アリスは肩に置かれた手を振りほどくように寝返りを打つ。
「朝食が冷めてしまいます」
葵はもう一度アリスの肩を揺する。
「ううぅ」
「起きてください」
「わ~かったぁ~」
そしてとうとうアリスは呻き声を発しながらぼんやりと瞼を開ける。
「えっと……」
葵を見つめたまま言葉を止めるアリス。
「葵です」
「そうそう。葵だった。おはよう」
「おはようございます。朝食の準備が出来ております」
「……うん」
アリスは瞼をこすり答える。
一階のダイニング向かうとユウがすでに朝食を取っていた。空腹はなくても朝餉のにおいでアリスの食欲が増す。
「この朝食はどうしたの?」
ユウに対面するように椅子に座りアリスは聞く。ユウはもう半分ほど朝食を食べていた。
「葵が用意してくれたんだ」
「いや、そうじゃなくてさ。食材は?」
「あ、ホントだ。ねえ、この食材は?」
ユウがキッチンに向かった葵に尋ねる。
「運営様からのプレゼントが来ておりましたのでそれを使って朝食を作らせていただきました」
「運営? ……ああ! ロザリーね」
アリスの前にユウと同じ朝食が置かれる。ホットコーヒーと目玉焼きにベーコン、そしてこんがりと焼かれ斜めに2つに切られた食パン。
「洋食なんだ」
「和食が良かったでしょうか?」
「ううん。でも和食もできるの?」
パンにバターを塗りながらアリスは聞く。
「和食のセットもありますので」
「和食だと献立は何?」
バターを塗り終わりパンをかじる。
「卵かけごはんと焼き鮭、味噌汁です」
「卵かけか~。それなら納豆がいいな」
「アリス様、食べながら喋るのはどうかと」
「ゲームだしいいじゃない」
「せめて呑み込みからで」
「わかったわよ。で、こういうのもいいけど優雅な朝食がいいわね」
「優雅な朝食って何?」
ユウが小首をかしげて聞く。
「ほらさっくさくのクロワッサンとか甘くてこくのあるコーンスープとかとろとろのオムレツとかよ」
「まあ、わからなくはないね」
「でしたら朝の食材クエストを挑戦してはいかがでしょうか」
「そうね。でも討伐クエストが優先だからね」
「クエストの内容にご注意下さい」
「大丈夫よ。難しいのは選ばないから」
「いえ、そうではなく。時間帯のことです。朝、昼、夕方の時間帯で食材クエストの内容が変わりますので」
「え! そうなの?」
ユウが驚き、葵に尋ねる。
「はい。朝の食材クエストは昼食、夕食用で。昼は朝食、夕食用。夕方は全てのクエストが挑戦可能です」
「ふ~ん。それじゃあ今日のクエストどうする? 二手に分かれる?」
アリスの意見にユウは、
「昨日のアレでよく言えるな。初回は一緒でよくない?」
「まあ、そうね。私たち初心者だし。急いで討伐クエストに参加する必要もないよね」
そう言ってアリスはホットコーヒーを飲む。
「苦いわ。砂糖はない?」
「用意します」
葵はキッチンへと向かう。
「ミルクも」
○ ○ ○
朝食後、ユウとアリスは案内所に向かい、どの食材クエストを受けようか迷っていた。
「まずは昼食としてこれじゃないかな?」
ユウはクエスト表のフィッシング初級(昼食)を指差して答える。
「でも魚だしなあ。私、捌けないし。それに肉がいいな。この害獣駆除初級(夕食)は?」
「それ昨日のやつだから」
「あの、魚釣り=報酬が魚だけというわけではありません」
受付のNPCが二人に言葉を掛ける。
「もちろん魚も獲られますがそれ以外にも報酬はありますしポイントが発生します。そのポイントで食材交換もできます」
「そうなんだ。……あれ? 昨日の人と違う?」
アリスは受付のNPCを見て首を傾げた。
「私はクエスト担当受付のマルテと申します」
「昨日の人は?」
「……この度はご利用ありがとうございます。受付のマルテと申します」
NPCのマルテは満面の営業スマイルで受け答えする。
「昨日の……」
「アリス、NPCは会話はできないよ」
「そうね。まあ、いいわ。それじゃあ魚釣りにする?」
「魚釣りだから戦闘もないと思うんだ。それでアリスはこっちのキノコ狩りなんてどう?」
クエスト表には魚釣りクエストの下にキノコ狩り初級があった。
「じゃあ二手に分かれよっか」
ユウが魚釣りにアリスがキノコ狩りに参加することにした。
○ ○ ○
二人が案内所を出て、受付奥の部屋からロザリーが出てきた。
「あの対応はどうなのよ。低能なNPCのふりしちゃってさ。受付が変わった理由とか考えてなかったの?」
とマルテに非難の言葉を掛ける。
「まさか受付の顔を覚えいるとは思っていなかったので」
緊張していたのかマルテは肩の力を緩めて息を吐いた。
「ロザリーは出てきていいのですか? こんなとこにいて顔を見られたらどうするんです?」
「大丈夫よ。ほらイメチェン」
ロザリーはツインテールの房と眼鏡を持って答える。
「大丈夫ですかねえ?」
「それよりクエストの説明してなかったけどいいの?」
「? 何か説明することありました?」
「あったじゃない。とっても重要なこと。勘違いしてたでしょ」
○ ○ ○
魚釣りクエストと聞いていたので海かと思っていたら川でユウは少し残念だったが綺麗な清流を見てこれはこれでいいかなと感じた。
丁度良い気温に湿度。
釣り場近くにいたNPCから釣り道具を借り、針に餌を付けて、竿を振って釣りを開始。NPCからは制限時間は二時間で最初の一振りから開始されると言われた。
餌の付いた針が川面に沈むと視界にタイムカウントが現れた。
ユウは砂利の上に座り、獲物が引っ掛かるのを待った。
「アリスは大丈夫かな?」
ついアリスを心配したユウは一人ごちた。
まあ、キノコを採集するだけだし問題ないだろうとユウはそう結論づけ太陽の光を反射する川面を見た。
○ ○ ○
「あなたがキノコ狩りを受けてくれたお人ですか?」
アリスは霧が濃い森の手前で妖精に尋ねられた。
なんか変な雰囲気だなと思いながらも、
「……え、ええ。そうだけど」
「良かったです。さ、こっちです」
と妖精は霧が濃い森へと誘う。
妖精の後ろを歩きながらアリスは尋ねる。
「キノコ狩りよね」
「はい。とっても恐ろしいキノコを狩ってください」
「え、恐ろしい?」
「ほら、あそこです。あれです。あのキノコです」
妖精は声を上げて
人より少し背丈の高いキノコがピョンピョン飛んでいた。脚はないが大きな腕があった。そして赤の水玉模様の頭が揺れる度に霧とは違う小さい胞子をふり撒いていた。
「キノコじゃないじゃん! モンスターじゃん!」
アリスは大声でつっこんだ。
「プレイヤー様、お願いします。倒してください」
妖精は言うだけ言って消えた。
「シャアー」
口もないのにキノコはどこから声を出しているのだろうか解らない声を出す。
「もう! こうなったら、やるだけやってやろうじゃないの」
そうアリスは猛りライフル・スピードスターを構える。
○ ○ ○
ユウにとって釣りというものは待つものだから獲物が引っ掛かるまで暇なんだろうなと考えていたがそんな心配もよそに約五分くらいの間隔で浮きが沈み魚が引っ掛かる。かれこれ一時間弱釣りを興じていて魚も9匹釣り上げ、今まさにユウは10匹目を釣り上げたところだ。10匹目をバケツに入れた。バケツには魚がもういっぱいでこれ以上は入りそうになかった。
これで終了かなとバケツを持ち上げようとした時、川が爆発した。地響きと大きな音と水柱を立て、ユウの体には水しぶきが降りかかる。
水柱が消え、大型モンスターが現れた。
魚の体に人間のような手足。そうそれは半魚人のモンスターだった。
「な、な、なんだこいつは?」
ユウはダガー・ウィンジコルを構えた。
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