第69話 Mー5 二日目②

 案内所の前で待ち合わせをしていた二人は互いに成果を発表した。


「魚二匹なの?」


 アリスがバケツの中の魚を見て不満そうに言った。


「そっちは? 何も持ってないけど」


 次にユウが聞く。アリスは手ぶらだった。キノコ一つも持っていない。


「キノコは狩ったわ」


 なぜか明後日の方向を見て話すアリス。


「で? キノコは?」

「……ないわ」

「え?」


 アリスは視線をユウに合わせて、


「キノコ狩りはキノコモンスターを狩ることだったのよ。なんとか三体倒せて報酬ポイントを得たわ」


 と指を三本立てる。

 アリスは端末から獲得した報酬ポイントを見せる。300ポイント。昨日のクエストで報酬ポイントが600ポイントだったはず。


「低くない?」


 その言葉にはアリスはムッとして身ぶり手振りを交えて早口で巻くし始める。


「仕方ないでしょ。森の中よ。霧で視界は悪いし、木々が邪魔して当たらないし、幹で躓くし。途中からわんさか湧いてきてピンチだったんだから。逆に三体も倒せたのよ。魚釣ってただけの人に言われたくないんですけど」

「こっちだって、ただの魚釣りではなかったんだからな。魚10匹釣ると大型半魚人が現れて大変だったんだから」

「10匹? 2匹じゃない」

「そいつがバケツの魚を奪うんだよ」

「倒しなさいよ」

「そう言うんだったらやってみろよ」

「いいわよ。その代わりそっちもキノコ狩りやってみなさいよ」


  ○ ○ ○


 ユウとアリスの言い合いを案内所の中から窺っている人物がいた。それは青のワンピ姿のロザリーと受付服を着たマルテだ。


「ほらね。やっぱり戦闘になるって知らなかったようね」


 ロザリーは呆れたかのように言う。


「あらあら、まさか本当に」


 マルテは額に指を当て、ため息を吐く。


「あの様子だともう一度挑戦するみたいね」


窓の向こうでは二人が、だったら次はお前がと言い争っている。


「私たちはどうしましょうか?」

「次は二人で参加するように説得してみたら」


 ○ ○ ○


 ユウとアリスは案内所に入り、クエスト受付でもう一度前と同じクエストを受けることにした。


「お一人様でしょうか。お二人で参加することを推奨しますが」

「いいの。私が魚釣りでこれがキノコ狩りだから」

「人のことをこれって呼ぶなよ」

「ですがそれだとまた失敗するのでは?」

『あ!』


 二人同時してその可能性に気づく。そうなったら二人とも今日は大した食事ができないことに。


「それでしたら、とりあへずお二人で登録して、もし一人で倒せない場合はお二人で戦ってみてはどうでしょうか?」


 とマルテが提案する。


「そうね。それでいきましょ。そして魚釣りの後にキノコ狩りをしましょう」


  ○ ○ ○


「で、まず魚を10匹釣ればいいのね?」


 川の前でアリスは仁王立ちになってユウに聞く。


「そう。釣り自体はそんなに難しくないよ」


 そう言ってユウは釣り針に餌を付ける。


「ねえ、それ虫じゃないよね?」


 アリスは少し距離を取って尋ねる。


「違うよ。肉団子だね」

「良かった。私、虫だったら釣りなんてできなかったわ」


 アリスは胸を撫で下ろす。

 二人はそれぞれ餌を付けて釣竿を振るう。


 魚はユウの話していた通り簡単に釣り上げることができた。

 程なくして二人は9匹釣り上げた。


「次が10匹目。10匹目をバケツに入れると川から半魚人が出てくるから」

「オッケー。10匹目は私に任せ……っと! 来た! 10匹目」


 アリスは竿を振り上げ、岸辺に魚をあげる。


「自分でキャッチしなよ」

「ムリムリ。生きてるじゃん」

「ここゲームだから。生きてないから」

「それでもムリ」


 アリスは腕でバッテン作って拒否をする。

 代わりにユウが魚を捕ってバケツに入れ、アリスに言葉をかける。


「さあ、来るよ」

「任せなさいよ!」


 アリスは釣竿から自身の得物に持ちかえる。


 川が爆発し、そして半魚人が現れた。名前はフィッシャーマン。レベルは35、マルチ型。


 前情報がなければその得体のしれない図体でアリスは腰を抜かしていただろう。

 ユウはバケツ持ち、


「バケツを安全な所に置きにいくから。それまで足止め頼むよ」

「まっかせてー」


 照準を合わせたスピードスターの銃口から銃弾が放たれる。1発だけでなく何度も放つ。


 その何発もの弾丸が半魚人を穿つ。しかし、銃弾をものともせずに半魚人は岸辺に進む。やはりマルチ型のレベル35はなかなかHPを削れない。


「ちょっと! 上がってきちゃったけど! どうしよ?」


 半魚人は大きな手を振り上げ、そしてアリスに向けその手を叩きつける。


「きゃっ!」


 アリスは左にステップを踏んでぎりぎり避ける。


「あと数歩前にそいつを引きつけて!」

「わっ、わかった」


 そして半魚人が完全に岸辺まであがった所でユウが背後から攻撃を開始する。


 半魚人の足を踏み背中へと飛び乗りウィンジコルを突き刺す。相手が前屈みなのでやすやすと背中を何度も突き刺せる。


 だが半魚人も黙ってるわけにはいけない。大きく背を伸ばし、ユウを振りほどこうとする。


「アリス、足を狙って!」

「了解!」


 アリスは右足を狙いトリガーを引く。

 するといとも簡単に半魚人はバランスを崩し、両手を地面に着ける。


「あれ?」


 それには攻撃を行ったアリス自身も驚いた。まさかこうも簡単に手を地に着かせるとは思ってもいなかったのだ。


 その後、二人はそれを機に猛攻撃を開始する。

 ユウは背中を切り裂き、アリスは顔を撃ち狙う。半魚人のHPがもりもり減っていく。


 そして半魚人のHPがゼロになり、敵は雄叫び上げ体を地面に倒した。

 ユウは飛び降り、アリスとハイタッチ。


「やったね」

「楽勝じゃない」

「なに言ってんのさ。一人だと倒せないでしょうに」

「まあね」


 アリスは茶目っ気に舌を出す。


 ――でも、最初は全然ものともしていなかったのに。どうして?


 少しわだかまりが残るがアリスはすぐ気分を変える。


「さ、次はキノコ狩りよ!」


  ○ ○ ○


 次に二人はキノコ狩りクエスト舞台である森の中にいた。


「ほら! 現れたわよ」


 ユウから少し離れた見晴らしの良い場所からライフルを構えたアリスは声をかける。

 言葉通りキノコモンスターが木々の間に現れた。名前はマンダラキノコ。レベル25とマルチ型でない限り、今のユウたちには問題のないレベル。


 ユウはマンダラキノコに駆け寄り、ウィンジコルで切りつける。三回ほど切りつけると敵は消滅。これといった抵抗もなくあっさり倒した。


「終わり?」

「これで終わりじゃないんだからね。ほら次々と現れたわよ」


 するとアリスの言う通りユウの眼前にマンダラキノコが何体も現れる。


「じゃ、行くか」


 ユウは切りかかろうと動くも、足のないマンダラキノコは胴体を曲げ、そして一気に胴体を伸ばし地面を蹴り上げものすごい速さで飛んだ。


「え、ええっ――!?」


 それはもう木の先端まで向かうかのように頭上高く飛んだのだ。

 そして飛び立ったときと同じスピードで真っ逆さまにユウの元へ降りかかる。轟音と地面を抉り、粉塵を撒いて降り立つ。


「わっ! わわっ!」


 なんとか上手く避ける。避けた後、カウンターで攻撃しようと駆け寄るも、すぐにマンダラキノコは半回転して頭を上にし、胴体をしならせ上空へと飛ぶ。


「ほら避けてばっかだと駄目だよー」


 アリスが離れた所からエールを送る。


「これ俺一人だと無理だから、援護頼む!」

「仕方ないわね」


 と言うもののアリスはにんまりと笑っていた。スピードスターを上空ではなくユウへと向ける。そしてユウが避け、マンダラキノコが降り立つとともにトリガーを引く。


 見事弾が命中し、マンダラキノコは消失。

 そして次々と降り立つ敵をアリスは撃ち抜く。一人の時は避けなければいけなかったので上手く反撃はできなかったが、今はユウが敵の的になってくれているので地面に降り立つ敵を撃つだけで楽勝だった。


「ふう、これで全部か」


 ユウが最後の一体の消失を見て問うと、アリスは声を張り上げ、


「まだよ! そろそろたくさん出てくるわ」


 その言葉通りマンダラキノコがわんさか湧いて出てきた。ざっと八体はいる。よく見ると先程のとは少し形が違う。腕や爪が大きくなっている。名前もマンダラキノコ・ハンズに変わっている。


「気を付けて、そいつらは肉弾戦をしかけてくるわ」


 マンダラキノコ・ハンズたちはユウに向け飛び跳ねる。先程の個体とは違いそんなに高くは飛ばない。ただ、爪を振り上げている。


 ユウは避けて、カウンターでウィンジコルで袈裟懸けでかっ切る。

 倒すのは楽勝だが――。


「クッ! 数が多い!」


 敵を倒すには最低でも三回は切り刻まないといけない。カウンターでの攻撃は可能でもすぐに別の個体が襲ってきて連続攻撃ができない。


「避けることを専念して!」


 アリスの援護によりマンダラキノコ・ハンズは消滅していく。

 言われた通りにユウは攻撃ではなく敵の攻撃を避けることに集中する。


 そして次第に数は減り、とうとう一体になった。ユウは邪魔もなくなり最後のマンダラキノコ・ハンズをカウンターで切り刻む。


「終わったー」


 最後の一体を倒してユウは安堵の息をつき、地面に尻餅をつける。両手を後ろ側の地面に。


「お疲れー。大変だったわね」


 アリスが見晴らしのいいところからユウの下に近づいてねぎらいの言葉をかける。


「途中からも数増えてなかった?」

「増えてた。増えてた。かなりの数だったんじゃない?」

「だとするとポイントもいっぱい!」

「そうよ。沢山入ってるわよきっと」


 アリスはさっそく端末でポイントを調べた。そして端末に分配されたポイントを見て黄色い悲鳴を上げた。



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