第70話 Mー6 二日目③

 魚釣りクエストで魚10匹と1000ポイント。キノコ狩りクエストは報酬はポイントだけだが付与されたポイントは3000ポイントで初級クエストでは破格の報酬である。


 しかも案内所のクエスト登録係で初回クリア報酬として魚釣りクエストからはバーベキューセット、キノコ狩りからはキノコセットがプレゼントされた。


 さっそくユウとアリスは案内所で今日の昼食と夕食分の食料をポイントで交換した。


「で、どうする? もう今日の分は終わったけど?」


 時間はまだ昼の14時を少し過ぎたあたり。

 ゲーム内だから空腹はない。味覚刺激のため昼食を取るともよし、その他に――。


「討伐クエストに挑戦してみましょ」


 アリスはクエスト一覧表から討伐クエスト初級③を指差している。しかし、


「いきなり③? ①から行くべきじゃない? ③の次は中級だよ」

「今の私たちなら平気よ」

「ん~」


 ユウは顎を撫でなから戸惑う。


「でしたら救援機能はどうしでしょうか?」


 受付のマルテが提案する。


『救援機能?』


 二人は同時して聞く。


「はい。ランクの低いプレイヤー様のためNPCが手助けするというシステムです」

「それじゃあ、それで中級①を」

「中級①!」

「救援があるなら大丈夫だって」

「本当?」

「大丈夫よ。私、こう見えて数多くの高難易度のマルチモンスターを退治したんだから」


 そう、アリスはカブキオオトカゲ、キングゼカルガ、メタルカブキオオトカゲと戦っている。ただしほとんどのダメージは他プレイヤーによってのものである。アリスの功績は二体は発見、一体はラストアタックである。


「中級①よろしく」

「わかりました」


 クエスト登録後マルテは、


「NPCを連れて参りますので少々お待ちくださいませ」


 と言って奥の部屋へと消えた。


  ○ ○ ○


「ちょっと馬鹿じゃないの! 誰が行くのよ! なに勝手に仕事増やしてんのよ」


 奥の部屋からやり取りを聞いていたロザリーはマルテに詰め寄り、大声を上げて非難する。


「お静かに。あまり大声を上げるとプレイヤーに聞こえますよ」

「大丈夫よ! 外には聞こえないようになっているから。それよりどうするのよ!」

「えーと、誰か行けませんか?」


 マルテは部屋にいるメンバーに助けを求める。


「うちとヤイアは無理だろ。それにロザリーだって」


 セブルスがソファーに寝転びながら言う。それにロザリーが力強く頷く。


「ですが変装すれば問題ないのでは? プレイヤー両方とも別々のゲームプレイヤーですから一人に疑われても片方は騙せるでしょ」

「それじゃあ、私は絶対無理だからセブルスかヤイアね」


 ロザリーはセブルスたちに話をふる。


「うちパスな」

「私も嫌です」


 しかしながらセブルスもヤイアも非協力的でマルテは肩を落とす。


「もう。どっちでもいいから変装して下さいよ。時間がないんですから」


 困ったマルテは唇を尖らせて言う。そこへ、


「では私が行きましょう」


 助け船が。そしてその声の主は――、


「葵! あなたその格好は!」


 声の方へ振り向いたマルテは葵の姿を見て驚いた声を出す。メイド服ではない銃器を背負った赤い戦闘服の葵がそこにいたのだ。


「私がいきます。これなら問題はないのでは?」

「ですが、……貴女はメイドの仕事が」

「大丈夫です」


 マルテは逡巡して、


「……ではよろしくお願いします」


  ○ ○ ○


 クエスト受付にマルテが人を伴って戻ってきた。


「遅かったじゃない? ……って、あれ? もしかして葵?」


 アリスは葵を見て驚く。


わたくしがご一緒させていただ

きます」


 その言葉に驚き、ユウとアリスは顔を見合わす。


「まあ、いいけどさ」

「ていうか戦えるの?」

「はい。ご安心くださいませ」


  ○ ○ ○


 討伐クエスト中級①は制限時間内に指定された荒野のグリーンサイクロプスを倒すことだった。


 荒野は島の北にあり案内所から遠かった。アリスは時点でこのクエストを選択したことに少し後悔していた。


 森を抜けると荒野でグリーンサイクロプスはすぐに見つけた。荒野には何もないとかそういうのでとかでなく遠くからでもわかるくらい大きかったのだ。高さ40メートル。レベルは50のマルチ型。制限時間は30分。正直無理の案件だった。


「諦めよっか」


 グリーンサイクロプスの情報を見てアリスはポツリと呟いた。


「選んだのはあんたでしょうが。とりあへずものは試しだ。挑戦してみよう」

「そういえば殺られたどうなるの?」


 問われたユウは葵に顔を向ける。


「知ってる?」

「コテージに転送されます」


  ○ ○ ○


 別に前もって話し合って行動しているわけではない。お互い相手の得物から役割を読んで行動をとっていた。


 ユウは前衛で相手の注意を惹き付けるように戦い、アリスは遠距離攻撃でダメージを与える。ゆえにメインアタックはアリスとなる。


 しかし、相手の防御力が高いのか全くダメージを与えられない。弱点であろう目を攻撃するも与えるダメージは微々たるもの。


 ユウは避けるのが精一杯で反撃ができない。本来なら完全に避けることすらできずダメージを受け殺られていた。


 だが上手く避けきれているのは葵の援護によるものだ。葵は高速移動で立ち回り、ハンマーを振りながら相手を攻撃する。その攻撃があるからグリーンサイクロプスはよろけユウへの攻撃を遅らせたり、狙いを外させる。


 葵は手から大きな光の球が生まれ放たれる。瞬速で飛ぶ光の球はグリーンサイクロプスの胸に当たり爆発する。それを機にユウは足を攻撃する。高くまで飛ぶジャンプ力がないため足への攻撃が限界である。


「魔法も使えるの!?」


 ユウは足を切りながら葵に聞く。


「はい」

「補助魔法は?」

「可能です」

「それじゃあスピードを上げるバフをかけて」

「わかりました」

「ユウ! 何ぼさっとしてるの!」


 後方からアリスが注意する。

 グリーンサイクロプスが体勢を整え、ユウに金棒を振り下ろそうとしていた。


 そして金棒が――。

 殺られた。そう思いアリスは目を瞑った。そしてゆっくりと目を開け確認する。


「え!」


 なんとユウは生きていた。

 金棒はユウには当たらず地面を割るにとどまった。


 グリーンサイクロプスはもう一度ユウへと金棒を叩きつける。

 しかし、当たることなくユウはやすやすと避け、さらにカウンターで足を切りつける。


 それは補助魔法の効果であった。

 先程とうって変わってユウは高速で立ち回り、避けては隙をつき足を切る。

 アリスも攻撃を再開してスピードスターで相手の一つ目を狙う。すると今までと違い大きくHPが減った。


 ――え!?


 驚くも好機と見て、謎は後回しにしてアリスは銃撃を繰り出す。

 そして制限時間内に見事、グリーンサイクロプスを倒した。


  ○ ○ ○


「やったね。まさか本当に二人で倒せるなんて」


 戦闘後、ユウは喜んで言った。しかし、アリスは難しい顔をしている。


「どうしたの?」

「ねえ、おかしくない? グリーンサイクロプス途中からみるみるHPが減ったわ」

「補助魔法のおかげじゃない?」

「いえ、わたくしがかけたのはスピードを上げるもので攻撃力を上げるものではありません」

「そう。私の銃撃でもかなりHPが減ったわ。それにおかしいのは今回だけではないの。半魚人の時もよ。急にHPが簡単に減るのよ。おかしくない?」

「ああ、それはこれのおかげかな」


 ユウはダガー・ウィンジコルを二人に見せる。


「どういうこと?」

「実はこれ武器スキルがあって。極稀に相手のステータスを削るってあるんだよ。だからそれで防御力が減ったんだよ」

「何よその武器。どうしたの?」


 初心者が持つには高レアなものだ。


「登録者100万人記念で運営から貰ったんだよ」

「へえ、アンタすごい運が良かったんだね」


  ○ ○ ○


 案内所のクエスト係で報告した後、二人は満足してコテージに戻った。葵は二人とは別に案内所の奥の部屋に向かった。部屋にはロザリーたちが真剣な顔をしてテーブルを囲んで椅子に座っていた。


「ロザリー、戦闘を見ましたか?」

「ええ。ここで全員、先の戦闘を見たわ」


 ここにいる全員はこの島だけでなく全てのイベント用の島、あらゆるところを覗き見ることが可能である。


 ロザリーは先程の戦闘映像をテーブルの上に投影する。


「このウィンジコル。100万人登録記念だっけ。こんなのなかったわ」

「ええ。100


 葵が眉間に皺を寄せて答える。


「私もよ。皆は?」


 ロザリーは画面いっぱいにウィンジコルをアップさせ、皆に問う。


「いいや。タイタンでもそんな武器知らねえな」

「聞いたことはありませんわ」

「みなさんと同じく」


 セブルス、ヤイア、マルテも知らないと言う。ならこの武器は一体誰が作り、ユウに送ったのか?


「武器スキルが極稀に相手のステータスを削るなんて恐ろしいわね」

「実際どれくらいの確率でどれくらいステータスを削るんだ?」


 セブルスが聞いた。


「発生確率はクリティカル発生時に1%で発生。ステータスは半分から90%ね」

「1%の1%つまり0.01%。しかし発生したらやばいなそれ」

「まさに


 ロザリーが背もたれに体を預けて息を吐くように言った。


「ここに送られてきたといい、彼には何かあるのかもしれませんね」

「そうね。葵、しっかり監視してね」

「ええ」


 葵は力強く頷いた。

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