第67話 Mー3 カミングアウト

 夕食を食べ終えてユウはタイミングを計りアリスに話しかけた。


「実は確認しておきたいことがあるだけど」

「え? 何?」


 アリスは食後のコーヒーを飲んでいた。


「……君はタイタンプレイヤーだよね」

「そりゃそうよ」


 どうしてそんなことを聞くのという顔をするアリス。


「俺はアヴァロンプレイヤーなんだ」


 アリスは目をパチクリした後、


「まったまた~。つまんない冗談言わないでよ~」


 しかし、ユウが真剣な表情のままでいるので、


「それじゃあさ。証明してみせてよ」


 ユウは端末からプロフィール欄を見せる。

 アリスはそれを見て驚き、すぐに立ち上がった。右手は腰のベルトに。


 そして乾いた銃声がダイニングに響く。

 クイックショット。

 銃口からは煙が登っている。


 アリスの所有する武器にはスピードスター以外に拳銃を所持している。普段はあまり使わない得物。それを今、見事に使いこなした。その見事なクイックショットにエイラがその場にいたら驚くことだろう。


 額を撃ち抜かれたユウは慌てることなく額に手を当てる。カミングアウトしたらこうなる可能性を考慮していたからだ。


 ユウは言葉を発しようとすると、銃声によって止られた。

 ユウはため息混じりの息を吐き、


「落ち着いて。お願い。危害を加える気はないから」

「嘘よ!」


 アリスはそう言ってトリガーを引く。


「そんなことしてたらカルマ値跳ね上がるよ」

「敵を倒すのにカルマ値が上がるわけないでしょ」


 ユウは両手を上げながら、


「今回のイベントは敵プレイヤーを倒すイベントではないだろう。現に俺のHPは下がってないでしょ」


 アリスはユウの頭の上のHPバーを見ると確かに全く下がっていない。試しに1発撃ってHPを確かめる。やはり下がっていない。アリスは拳銃を下げ、次に自身の端末を取り出しカルマ値を確認。


「上がってるじゃない! どうしてくれるのよ!?」

「それは君が悪いんでしょ」

「む」


 アリスは唇を尖らせた。そして落ち着いたアリスは椅子に座り直し、


「それでも両プレイヤーが一緒っておかしいでしょ」

「うん。たぶんあの城が原因だと思うんだ」

「そうよ。そういえばあの城って結局なんなのよ」

「考えたんだけどあの城があったエリアはたぶんだけどのゲームのエリアではなかったんだと思うんだ。だから俺たちは出合ったんじゃないのかな」

「そんなことってある?」

「アップデートっで島が変わったでしょ。だからバグの一つや二つあったんだと思うんだ。ほらあの赤髪の幽霊もさ。きっとバグだったんじゃないかな?」

「……ええ。バグよ。バグ」


 アリスは赤髪の幽霊の単語が出ると大きく頷いた。


「それじゃあ、俺たち一時休戦ということでいいかな?」

「ええ、いいわそれで」


 ユウが手を伸ばすとアリスは一瞬戸惑ったのち、その手を握った。

 そこでチャイムが鳴り、ユウとアリスは玄関に向かった。


 ドアを開けるメイド姿の女性がいた。すぐに案内所ですれ違った白いワンピースの女性だと気づいた。


「何か?」

「先程から銃声がしたものですので」

「ああごめん。うるさかった? なんでもないから」

「そうそう」


 ユウの後ろからアリスも言葉を掛ける。


「そうでしたか」

「そういうことだから」


 と言ってユウがドアを閉めようとすると、


「申し遅れました。私、葵と申します」

「え、あ、うん」

「この度こちらハウスメイドをさせてもらうことになりました」


 葵と名乗るメイドはスカートを掴み、お辞儀をする。ユウとアリスは一度顔を合せて、


『えぇーーー!』


  ○ ○ ○


 本来ユウたちが利用しているコテージは葵たちが利用する予定であった。ゆえに今、葵を除いたロザリーたちは案内所の部屋にいる。


「無事潜入に成功したようね」


 ロザリーが葵からの通信を受け取って答えた。ロザリーたちは人ではないのでゲーム内では端末がなくても直接通信が可能である。人で言うところのテレパシーに近いものである。


「それよりうちら今日の寝泊まりどうすんだよ」

「コテージ獲られましたしね」


 セブルスの問いにヤイアがため息混じりに答える。


「では作ってはいかがです?」


 マルテが提案する。


「作るのに時間が掛かるわよ。それにいきなり作ったら彼らに不信に思われるわよ」

「じゃあどうすんだ?」

「しばらくはここね。せいぜい部屋を改造するくらいはできるわよ」

「葵がうらやましいな。うちが立候補すれば良かった」

「あんたがメイドなんてできるの?」


 それにロザリーが鼻で笑う。


「うちのことなんだと思ってんだ?」

「脳筋」

「てめえケンカ売ってんのか?」


 セブルスが額をひきつらせてロザリーに詰め寄る。


「ちょっと二人ともよしてください」


 ヤイアが二人の間に割って入る。


「いいですか。どっちにしろこの中でメイド役に努めることができるのは面割れしてない葵とマルテだけですから」


 セブルスは鼻を鳴らし近くの椅子に座る。


「マルテはどうして立候補しなかったのですか?」


 ヤイアの質問にマルテは肩をすくめ、


「私がメイドなんてやったら今後のモンスター作成に支障がきたすと思って」

「ああ、人間がかわいくなって弱いモンスターを作成してしまうということで?」

「いえいえ、逆に強いモンスター作成してしまいそうで」


 マルテはうっとりとして答える。


「そ、そうですか」


 その反応にヤイアは若干引いていた。


「それにより早くベッド作ってくんない?」


 そう言ってセブルスは欠伸をした。


「それじゃあ一旦部屋出て行ってくんない?」


 皆はロザリーの言う通りに部屋を出た。一分もしないうちに、すぐロザリーから入って大丈夫と返ってくる。


 ドアを開け部屋に入るとシングルベッドが四つ生まれていた。


「なんだよベッドだけか?」


 セブルスがつまらなさそうに答えた。


「今日はそれくらいで我慢しなさいよ」

「おや。どうやらプレイヤーの二人は就寝に入ったらしいですわね。あら、この後、ハイペリオンに話を聞きに向かうらしいですわね」


 と言ってマルテがベッドに座る。


「仕事熱心だな。うちはもう寝るから」


 セブルスはベッドに横になり、他もセブルスにならい就寝に入る。それを見届けてロザリーは電気を消した。


  ○ ○ ○


 ホテルのスイートルームのような部屋。ここはハイペリオンの部屋で来訪者は基本いない。しかしこの前、偶然にも二人のプレイヤーがクルエールの導きによって訪れた。その二人のプレイヤーは今はいない。二度とこのようなことが起きぬようセキュリティーをもう一段階上げた。葵は許可証があるのでそういうのとは関係なく入室可能である。そして部屋に入った葵は例の二人のプレイヤーについて説明を求めた。


「私はちゃんと説明したわよ」


 そう言ってハイペリオンは不思議そうに小首を傾げた。絹のような金髪が首の動きにあわせて揺れる。


「二人を島に飛ばしたとは聞いていましたけど。一緒の島とは聞いていません」

「それよりその格好は?」


 葵は今、いつもと違う黒を基調としたメイド姿をしていて、ハイペリオンはそれについて尋ねた。


「わけあって今はその二人を監視する目的のためメイドに扮しているのです」


 鼻息荒く葵は答えた。


「なら安心ね」


 ハイペリオンはベッドに背を倒し、目を瞑る。


「ちょっときちんと説明してくださいよ」


 葵はハイペリオンを揺するのでなくベッドを押す。ベッドはバウンドし小さいハイペリオンの体を揺らす。


「これ以上何を?」


 ハイペリオンは目を瞑りながら聞く。


「二人をこのままにするのですか?」

「そうよ。面白いじゃないの。こういう趣向もいいじゃない」

「よくありません。何かあったらどうするのですか? 二人は敵対しているプレイヤーですよ」

「あの二人なら大丈夫よ」


 葵が訪ねる前に多少の揉め事はあったらしいがそれ以降は仲良くやっている。だが、まだ一日目だ。もしかしたら次第に仲が悪くなるかもしれない。人間というものは今はよくても痼が溜まり、そして心が汚れておかしくなるのだ。


「どうして大丈夫と?」

「直感よ」


 そう問われるとわかっていたように即答する。その声音は透き通っていて不思議と葵の胸にすっと差し込む。


「直感……ですか?」


 反芻しながら葵は尋ねる。直感。それはAIである自分たちには理解しかねる言葉だ。


「もういい?」


 ハイペリオンは先程から目を開けようとしない。


「よくわかりませんが、わかりました」


 矛盾した言葉を葵は吐く。そして、


「ただ目的と手段を履き違えないでくださいね」


 最後に葵は釘をさして部屋から消えた。葵が部屋から出るとハイペリオンはゆっくりと目を開けた。


「さあ、もがきなさい。もがいてもがいて、私にその輝きを見せなさい。さあ、いったい何色に輝くのかしら。楽しみだわ」


 それは誰に言った言葉なのだろうか。人類か機械か。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る