第66話 Mー2 食材クエスト初級編
ユウとアリスは指定された草原にいた。草原は案内所から北東に進んだところにあり、球場ほどの広さがある。
「ここ……だよね?」
「うん。ここのはずだけど」
「あ! あれじゃない。あの矢印!」
アリスが指差す方に赤い矢印があった。受付のNPCは赤い矢印に近づくと端末に詳細な指令がくると言っていた。
二人が矢印へと近づくと端末にクエストの詳細が届いた。
「えっと田んぼを荒らすモンスターを退治だって」
「田んぼって?」
「向こうのあれかな?」
少し坂を下ったところに川があり、川を越えたところに田んぼがあった。稲が実っていて風が吹くと波紋を生み揺れる。
「稲ってこの時期実る?」
アリスが疑問を呈する。
「収穫時期は違うんじゃないかな。でもゲームなんだし」
「ま、深く考えるなということね。それでモンスターは?」
「クエストは守れってあるから反対方向からくるのかな?」
二人は田んぼを背に予測される進行方向に目を向ける。
「モンスターの詳細は?」
「マチョだって」
ユウは詳細データを読み上げる。
「ん? マッチョ?」
「マッチョじゃなくてマチョ。猪だよ」
「そうなの?」
「前に似たような名前のモンスターと戦ったことがあるからたぶん猪だよ。それに田畑を荒らすといえば猪でしょ」
「害獣については詳しくないけど。猪だろうが何だろうが蜂の巣にしてやるわ」
アリスはライフル・スピードスターを構える。
「そういえば貴方の武器は?」
「これだけ」
ユウは腰のダガー・ウィンジコルを見せる。
「それダガーよね。貴方……」
険しい表情でアリスはユウの腰元にあるダガーを見る。もしやアヴァロンプレイヤーと気付いたのだろうか?
しかし、
「貴方、アサシンね。クラス2の。私もクラスチェンジしたばっかだから知ってるの」
「え、うん」
本当はシーフなんだがユウはこの場は頷いておくことにした。
「でもアサシンってダガーだけなの? それ以外にも武器を装備できなかったっけ?」
自問するように呟くアリス。
「それより来たよ」
遠くから茶色の猪モンスターが5匹現れた。名前はマチョ。平均レベルは10。
「なんか小さくない? それに遅いような」
「初心者クエストだからかな?」
「やっぱ中級にしとくべきだったのよ」
「今さら文句言っても仕方ないよ。君のライフルでさくさく終わらせてよ」
「仕方ないわね」
アリスはスピードスターでマチョを狙う。ライフルでマチョに狙いを定めてトリガーを引く。甲高い銃声が周囲に響く。
マチョは撃たれ消滅。
「どう? やったわ。……ってあれ?」
誇ったように告げるアリス。だが、側にいたユウの姿がない。
そのユウは前方に駆け、残りのマチョをウィンジコルで狩っていた。
「君! 早く残りを倒して」
「え!?」
マチョはバラバラに行動していた。
アリスは急いで残りのマチョを探して撃ち倒す。
○ ○ ○
「あのさ。一匹だけじゃあないんだからさ」
ユウが呆れて言うと、
「複数戦は初めてなのよ」
と、アリスは弁明する。しかし、それは嘘であった。設営キャンプで山を登った際に複数のモンスターと遭遇している。ただ、その時は高ランクの仲間がいた。
「危うく被害に会いそうだったよ」
マチョ自体は弱く。ユウやアリスレベルでも攻撃を受けても些細なもの。倒すのも攻撃を与えたらすぐに消滅。ただ、クエスト達成は田んぼを守ること。田んぼ、もとい稲穂に被害があれば失敗に終わる。草原にやって来たマチョは5体のうち4体は向かってきて返り討ちにしたが最後の1体が田んぼに向かってしまい二人は急いで追いかけ川の手前でなんとか倒せたのだ。その際、ユウはアリスの誤射で数発撃たれている。
「倒せたんだから結果オーライよ」
○ ○ ○
案内所に戻り、クエスト登録係で報告、及び報酬を受け取る。報酬は米と肉、イベントポイント。米と肉はコテージに自動転送。イベントポイント600では二人の端末に300ポイントに分配。
「中級受ける?」
ユウの問いにアリスは首を振る。
「今日は疲れたわ。休みましょ」
時刻は夕方5時18分。食材クエストの受付は夕方6時までと期限つき。クエストは受付さえ済ませていれば期限を過ぎても問題はない。
「でも米と肉だけだよ」
「その他の食材はポイントで買いましょ」
ポイントはアイテム交換以外にも食材にも交換可能である。
「わかった」
二人は隣の交換所でポイントを使って食材を交換するも。
「うぐっ! た、高い」
交換に必要なポイントを見てアリスは呻く。
「ま、初級クエストを一つクリアしただけだし」
「どうしよう? もやしと豆苗ぐしいしか買えない」
「うどん(麺だけ)も買えるよ」
「うどんだけでしょ。うう、どうしよ」
迷った末、もやしと豆苗を購入。
コテージを出ようとした時、ドアで五人組の一団と遭遇。ツーリストのような女性だけの一団だった。
先にその一団がドアを開けて中に入り、ユウたちの邪魔にならぬよう一列で進もうとする。
ユウはその一団の先頭に、
「プレイヤーですか?」
そう尋ねられた女性はつばの広い白いハットと白いワンピース。黒い髪と相まって良いコントラストである。
「いいえ、NPCです」
そのキャラはハットを脱ぎ、上品に笑みを返した。
「……そう、ですか」
「失礼します」
ワンピースの女性は一礼して去る。後ろの女性たちも続いて会釈して去る。その内、一人のキャラにユウはどこか見覚えがあった。金髪ツインテールで顔は大きなサングラスでわからない。アリスもそのキャラにすれ違う時、小首を傾げた。
アリスは外に出てユウに聞く。
「ねえ、NPCが自分のことNPCって言うかな?」
「どうだろ? NPCとあまり話したことないから……」
○ ○ ○
一団はユウとアリスが外に出たのを確認した後、案内所の奥にある関係者室に早足で入った。入ってすぐにサングラスの金髪ツインテールが、
「いやいや、いやいや、なになに? なになに? え? どういうこと? なんでプレイヤーがいるのさ?」
興奮し、だれともなしに聞く。
それに白いワンピースの女性が、
「知りませんよ。こっちが聞きたいくらいですよ! 貴方、プレイヤーがいる島に案内したんですか?」
「いや、でもおかしかったぞ。あの二人、アヴァロンとタイタンのプレイヤーだぞ。なんで一緒にいるんだよ」
ベリーショートの女性が信じられないという風に答える。
「私、顔を見られた時、ヒヤッとしましたわ」
黄色のシャツに赤のロングスカートの女性が胸に手を当て答える。
「ああ、そっか。ヤイアはアヴァロンのストーリーイベントに出てたもんね」
金髪ツインテールがそう言うと、ベリーショートが、
「あの二人、ロザリーの方を気にしてたから大丈夫だろ」
「え、バレてた?」
「サングラスをかけていたのでバレていなかったのではと」
と、緑のキャミにデニムの女性が答える。
そう、ここにいるのはプレイヤーたちを閉じ込めた張本人。
白いワンピースの女性は葵。サングラスをかけていた金髪ツインテールはロザリー。ベリーショートの女性はセブルス。赤のロングスカートの女性はヤイア。デニムの女性はマルテである。
「なーんだ。良かったー」
ロザリーは胸を撫で下ろした。しかし周りは、ではどうしてプレイヤーがいるのかという疑問で頭を悩ましていた。
「とりあへずハイペリオンに話を聞きましょう」
葵が端末を取り出す。
○ ○ ○
ユウとアリスは獲た食材で晩御飯を作った。
テーブルの上には肉の載った丼に豆苗ともやしを炒めたもの。
「猪って私、初めてなんだけど」
アリスが猪肉の載った丼を見て少し不安気な声を出す。
「猪肉ではないよ。牛肉だって」
「おかしいでしょ。なんで猪狩って牛肉が獲られるのよ」
「まあ、食べてみればわかるよ」
ユウは箸を持ち、丼をかきこむ。甘辛いタレの中にきちんと分かる牛肉の味。
「ん、ほら牛だよ。牛」
「そう? ……じゃあ」
アリスも肉を食べる。そして目を見開き、
「ん! ほぉんとーだ。ひゅーにくだ」
「呑み込んでから喋りなよ」
そう言ってユウも再度牛丼をかきこむ。そして豆苗ともやしの炒め物にも箸を向ける。
「アリス、野菜もちゃんと食べなきゃ」
「私、豆苗って実は苦手なんだよね」
「なんでさ?」
アリスは嫌な顔をして豆苗を箸で摘み、それを口へと。そして何度も噛む。しばらくして、
「豆苗ってさ、最初はパリパリしてるけど次第にヘニャヘニャになるよね。今、私の口の中でグニグニした塊になってるよ」
そしてアリスはコップの中の水を口に含み、水と一緒に豆苗を飲み込む。
「噛み切れないのって嫌いなのよね」
「それも豆苗の味だと思ってさ」
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