第65話 Mー1 リゾートアイランド

 ユウとアリスはビーチ沿いを歩いていると少し離れた林に道があるのを発見した。


「これどう見ても道だよね」

「ああ。どこに続いているんだろ」


 道の奥はぼやけててわからない。


「他に道はありそうにないし。入ってみよう」


 ユウが提案するとアリスは頷いた。


「分かった」


 そして二人は林へ入り、道を突き進む。


「……」

「……」


 前を歩くユウは何か話さないとと思うも何を話せばいいのかわからず言葉がでない。しかし、それはアリスの方もそうであった。二人は互いにプレイして日が浅く、他人と会話経験も少ない。アリスに至っては兄以外の異性と共に行動したのはカナタくらい。しかもカナタは子供だからノーカンに近い。きちんと同年代の異性プレイヤーとの行動は実はこれが初めてである。


「あー、そう言えばストーリーイベントどう?」


 ユウは少し後ろを歩くアリスに話を振る。


「ん、まあ、ぼちぼちかな。設営までしたよ」

「設営?」

「設営キャンプよ。一日で登山してクリアは難しいでしょ。だから休憩ポイントとか作ったのよ」

「はーなるほど。君って結構上級プレイヤー?」

「ううん。初心者よ。って前!」


 ユウの前方にキノコモンスターが現れた。ユウはダガー・ウィンジコルを抜き、素早くキノコモンスターを狩る。


「手際いいね」


 アリスがライフル・スピードスターを構えた時にはキノコモンスターは消失していた。

 ユウはアリスの持つ得物を見て驚いた。


「……それ!?」

「ん? これがどうしたの?」

「それってもしかして……」


 ライフルと言おうとしたところで頭の中で軽快な電子音が鳴った。


「この音って……」

「ええ。ロザリーよ」


 二人は端末を取り出しメッセージを開く。


『アヴァロン、タイタンの皆様へ。この度はこちら側で不具合が発生が致しましたので急遽リゾートイベントを繰り上げさせて頂きました。このメッセージを開封後マップとTipsが自動ダウンロードされますのでTipsのほどを確認の上でイベントをお楽しみくださいませ。イベント報酬にはストーリーイベントに活躍するアイテム等を用意しておりますのでぜひともご参加くださいませ』


「これってロザリーなの?」


 アリスは今までとは違う丁寧な報告で違和感を感じた。


「うん。なんか変だ」


 その後、二人はマップとTipsを読む。


「どうやらこの先を進めば案内所に着くらしい」

「なんかリゾートだって。パーティー単位で分けられているってあるけど。私たちってどうなの?」


 確かにおかしい。Tipsにはパーティー単位で小島ステージに飛ばされているとある。そしてリゾートイベントで羽を休めかつ楽しんでイベントに参加とある。なのにどうして両プレイヤーが一緒にいるのか。


「どうしたの?」

「いや、何も」


 二人はまた歩き始める。

 視界が開けて、1階建ての小さな木造建築が見えた。


「あれっぽいね」


 他に建物がないのであれが案内所なのだろう。


「案内所でまずコテージのキーを受けとるんだっけ?」


 と、ユウは確認する。


「それとイベント情報を聞くんだよ」

「そうだった」


 二人は案内所に入り受付でコテージのキーを受け取った。――だが、


「え? 一つ?」


 アリスが受付で疑問の声を上げた。


「はい。一つのパーティーで一つのコテージです」


 ユウとアルクは互いに顔を向けた後、


『いやいや。パーティーじゃないから』


 と、同時に手を振って否定した。

 しかし、受付の女性はにんまり笑うのみである。


「もう一つコテージを貸してもらえませんか?」

「すみませんが現在空きのコテージは一つですので」

「他に宿泊地はありませんか?」

「いいえ。ありません」

「テントとかは?」

「すみませんが」


 どうしたものかとあぐねていた時、アリスに腕を引っ張られ壁際まで。


「こっち」

「何?」

「仕方ないわ。ここは一緒のコテージを使いましょ」

「でも同じ……」

「この際、パーティーとか言ってられないわ」


 ユウが言いたいのはパーティーとかでなく。


「それにここはゲームだし。非常事態だから。あ、私の兄、レオだから私に手を出すとぶっ殺されるわよ。ま、ゲームだから手を出すとかはないんだろうけど」

「レオ?」

「レオよ。レオパーティー知らない? 廃ゲーマー集団」

「ごめん」

「ふ~ん」


 アリスはユウの体を上から下まで視線を動かす。そして手を叩く。

 アヴァロンプレイヤーと気づいたのだろうか。しかし、


「もしかして初心者ね」

「え!? あ、うん」


 初心者なのは間違いではなかった。


「まあ、初心者なら知らなくて当然ね。大丈夫。私も初心者だから」

 そこで、

「あのう。お客様? イベントについてご説明なのですが」

「あ、すみません」


「では、イベントについての説明を致します。とうステージではまず食材、討伐のクエストがあります。クエストはあちらのクエスト登録所で登録をしたのちに開始となります。

 食材クエストは山菜採集、魚釣り、魔物狩りで主にプレイヤーの食事関するものです。強制ではありませんが食材がなければ食事も最悪なしということです。

 討伐はモンスター討伐は指定されたモンスターを狩ることによりステージ通貨を獲得できます。このステージ通貨によりアイテムと交換が可能となります。アイテムは交換ラインナップを御覧くださいませ。

 説明は以上となります。何かご不明な点は御座いますでしょうか?」


 二人は顔を見合わせた後、


『大丈夫です』

「では参加開始支給アイテムをどうぞ」


 受付の女性は台の下から大量のアイテムを台の上に置いた。それらのアイテムは二人が確認する前に消えた。


「あれ? アイテムは?」

「お客様の端末に転送させてもらいました」

「そうなんだ。びっくりした」


 そして受付の女性は丁年に頭を下げた。


  ○ ○ ○


 二人はまずコテージに移動した。コテージは案内所から西の方角に進んだ所にあった。


「これだね」

「おお~! すっごくかわいいじゃん」


 アリスは目をキラキラさせてコテージを眺め回す。

 コテージは2階建ての木造建築で茶色く、赤い三角屋根に白い窓枠。1階にはテラス。


「まさに別荘って感じよね」


 アリスは満足そうに言う。


「中に入ろう」


 ユウが鍵穴にキーを入れ、回した。するとカチャリという音の後、キーが消えた。


「鍵が!? えっ?」

「こういうのは一度使うと登録されて、あとはオートなの」

「開けるときは?」

「別に。ノブを回すだけよ」

「鍵を使う必要がないってこと?」


 廊下を進み、リビングに。


「広いわね。それにソファーもおっきいし」


 キッチンにはコンロと冷蔵庫がありユウは驚いた。


「どうしたの?」

「いや、コンロと冷蔵庫があったから」

「そりゃあ、あるでしょ」


 ユウはアヴァロンで買ったパーティー用の家について考えた。家にはコンロや冷蔵庫はあっただろうか。基本、料理はミリィが担当していてユウは一度もキッチンには立ったことがないことを思い出した。


 アリスが冷蔵庫を開けた。中は空っぽで何もない。


 2階に続く階段はリビングにあって、次に二人は2階に上がって寝室へと向かった。

 廊下を挟んで部屋が2つ。2つとも寝室で各々にシングルベッドが2つとテーブルに椅子、タンス、化粧台と姿見。


「私、こっち使うからあなたは向こうの部屋ね」

「わかった」


 さすがにベッドが2つあっても同じ部屋はまずい。

 二人は1階リビングに戻り、今後のことを話し合う。


「まずは食材クエストに挑戦しよう」

「二人で? 食材と討伐って別けた方が良く……ああ、君、初心者だったね」

「あのね、それは君もだろ。お互い初心者なんだから慎重に動くべきだろ?」

「そうね。ごめん」


 アリスは茶目っ気に謝罪した。


  ○ ○ ○


 二人は案内所に戻ってクエスト登録所で食材クエスト・害獣駆除初級(夕食)を受けることにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る