第40話 Tー14 制圧戦8 最強

 ブラームスはタイタン攻略を生業としているのでタイタンでのことはひとしきり知っている。だが、個人についてことやパーティーについてのことは上位ランカーぐらいしかしらない。だが、このケントだけは未だに謎に包まれている。なぜなら今までのイベントでランキングに入っていなかったからだ。それが今回のイベントで急にランキング一位になり、それで名が一躍知れ渡ったのだ。


 すぐに攻略班の部下がコンタクトを取ったが無口なのか人嫌いなのか口を割らなかった。

 そして本人が名前以外、情報非公開としているので彼のランクは知れない。こういう輩は大抵チーターが多い。


 だが今のスゥイーリアとのやり取りで彼の強さが本物だというのが分かった。このイベントではチート行為ができないのが判明しているからだ。


「ケント君、ここを任せもいいかな?」

「構わない」


 ブラームスはインカムでフィールド内の生き残ってるプレイヤーに連絡。砦に戻って体勢を整えるように指示をする。


  ○ ○ ○


「お強いんですね」


 スゥイーリアがケントに言葉を投げる。それにケントは、


「まあな」


 と、短く返し、不意うちに拳銃を発砲。

 早撃ちだ。一発に聞こえるが実は3発撃っている。

 大抵のプレイヤーは銃口を向けらたと知った頃には殺られている。


 だが、スゥイーリアはそれを易々と剣で弾く。そして、


「あなた、リョウですね」


 その一言でケントは一瞬息を飲んだ。どうしてわかったのか? リョウという名前は2年前、アヴァロンでプレイヤーしてたときのもの。わけがあり今はアヴァロンを辞め、タイタンでケントと名乗りプレイをしている。


「その反応は肯定ということでよろしいですね」


 実は鎌をかけたのだ。もしケントがすぐに違うと言えば、間違いだったと留めていた。


「ひどい人だ。あなたは」


 ケントは息を吐いて答えた。

 アヴァロンプレイヤーの時にはスゥイーリアのパーティーに所属し、スゥイーリアの右腕を務めていた。この姿で相対したときは多少動揺があれど正体がばれないという確信はあった。


「でも、どうして俺だと?」

「雰囲気でしょうか。あと攻撃のタイミング、呼吸でしょうか」

「雰囲気って。前とは違い、このアバターはガチャ産だぜ?」


 前のアバターはペルソナ型で背が低く、細身の体。今のガチャ産アバターは長身の細マッチョ。全然似ていない。これならリョウと気付かれることはないだろうと考えていた。


「それでも、……攻撃のクセというか、……呼吸、タイミングが似ていましたから」

「ほんの少しでそこまでわかるのか? まあ、で、どうするよ? やめる?」

「いえ、かつては仲間でも今は敵。このイベント、負けるわけにはいきません」

「だよな」


  ○ ○ ○


 今ではランクを限界の150まで上げたがそれまでの道のりは険しかった。3年前、アヴァロンを辞め、一からタイタンでパーティーやイベントに参加せずにレベルだけ上げるのには苦労した。さらにそこからランクを上げるための時間は膨大であった。


 普通の生活をしている人ならまず無理だった。だが、ケントは違った。

 ケントは生れつき体が動かせなく、ずっとベッドから離れることができなかった。VRMMOもそんなケントのため両親に勧められ始めたのがきっかけだ。


 だから時間は誰よりも膨大にあった。さらにVRMMO関連の企業からモニターの仕事をすることで報奨金が得られるのでケントは誰よりもVRMMOの世界に浸り、その結果、誰よりも強くなった。


 そしてタイタンはアイリス社二番目のVRMMORPGのゲームソフトである。元々アヴァロンは人気ではあったが戦闘のやりこみ要素が少なく、それを踏まえて出来たのがタイタンであった。


 故にタイタンでの限界までの鍛えた実力はアヴァロンを超えていることになる。

 限界までランクを上げたケントは今ではスゥイーリアを圧倒していると自負していたがスゥイーリアも3年で大きく成長していた。


 しかしだ。例え相手がタイタンにはない魔法や数多くのジョブでこちらを上回っていようがステータス面ではこちらが上のはず。

 それなのに――。


 ケントは高速移動しながら拳銃を的確に相手に向け発砲。速撃ちでマシンガンのように一瞬でリロードになるまで撃ち尽くす。しかし、銃弾は相手の剣で全て弾かれる。銃が駄目ならビームソードで。ケントは相手に向けビームソードを振り下ろす。しかし、その斬撃はスゥイーリアの剣で防がれ、鍔迫り合いになる。


「どうしてそんなにお強いんですか? こっちは限界までランクを上げたのに」

「さあ、どうしてでしょうね」


 本当はその問いの答えは自身で分かっていた。

 人気作というものは数多くのプレイヤーが集り、もちろん頂点を目指すものも少なくない。そして時が経てばスゥイーリアのように頂点得るものもいる。そして戦闘のやりこみ要素が少ないとなれば訪れるのはインフレだ。アヴァロンはインフレ回避のためレベルの上限を上げ、さらにジョブを増やしたり、既存のものよりも強力な武器、防具を生み出した。錬金術士もケントがリョウとしてアヴァロンでプレイしてた頃にはなかったジョブだ。


 ケントは高速で剣撃を繰り出す。それにすらもスゥイーリアは高速剣撃で打ち返す。


「私の剣撃についてこれるとは意外です」


 そう言ってスゥイーリアは大振りの一撃を繰り出す。それをケントもビームソードを振り、受け止める。


「しかし、お互い決め手がないままではつまらないな」


 ケントは大きく後ろへ飛び、距離をとる。


「あら? 必殺技はないのですか?」


 スゥイーリアは不思議そうに言う。


「そんなものないだろ?」

「いえいえ、ありますよ」


 そう言うと剣を横に構える。剣が光り輝く。


「おいおい、まじか?」


 光は輝きを増し、


「斬!」


 スゥイーリアは横一文字に剣を薙ぎ放つ。


 すると剣から大きな光の刃が放たれる。


 すぐにケントは光の刃を上に飛び越えてかわす。光の刃は砦の壁に直撃し爆発する。爆発音はすさまじく、壁は粉塵は撒き散らして崩壊する。そして煙がもくもくと立ち昇る。


「どうです? 貴方がいた頃にはなかった仕様です」

「……ずるくない?」

「私に言われても」


 タイタンには必殺技なんてない。銃を撃つ、爆弾を投げる、ナイフで切るというだけ。


「どうします? 逃げます?」

「まさか。逃げるなんて男が廃るってもんさ」


 ケントはビームソードを強く握る。


「――では、参ります」


 スゥイーリアは跳躍した。ケントは彼女が笑っていることに気づいた。


 ――ああ、この人、めちゃくちゃ楽しんでいるな。


 そして自分もまたかつて肩を並べた相手と剣を交えて喜んでいることに気付いたのだ。


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