第41話 Tー15 イベント終了
終了時刻の15時なり、空中に大型の投影が、そしてロザリーが現れた。
『はーい、みなさーん。これにて制圧戦終了でーす』
その言葉にアリスはホッとした。もう戦わなくていいのだと。そして解放されるのだ。――そう。
『では、結果発表したいと思いまーす』
そしてドラムロールが鳴る。アリスは両手を握りしめ祈る。
『勝利は、――タイターン! 制圧フィールドは計28!』
「……や、やったぁーーー!」
アリスは嬉しさで空に向かい拳を上げる。周りのタイタンプレイヤーも嬉しさで飛び跳ねたり、雄叫びを上げたり、抱き合ったりと様々。
「やりましたよ。キョウカさん!」
「ああ」
キョウカは口端を緩めて返す。
アリスはカナタに手の平を向ける。カナタは首を傾げた。
「いや、ハイタッチだよ。ハイタッチ!」
理解したのかカナタは向けられた手にハイタッチをする。
「ほらキョウカさんも」
「……そう、だね」
二人はハイタッチする。が、キョウカだけまだ緊張が解けていない様子。まだ不安要素が残っているのだろうか。
『では皆さん。お待ちかねの報酬となります』
もちろんそれは解放であろう。しかし、ここでアヴァロン側はどうなるのかと考えた。残されるのか、死ぬのか。そう考えると身震いした。
『勝者報酬は解放権です。こちら側が選んだ300名が現実への解放となりまーす』
その言葉にアリスは止まった。
――今、なんと言ったのか? 300名? 全員でなく?
他のタイタンプレイヤーも喜びも冷めやり呆然とする。
『そしてアヴァロンプレイヤーには罰として300名死んでもらいます。300名は悪質かつイベント貢献度が低いプレイヤーとなります。今後、悪質なプレイヤーを取り締まるためカルマ値を設けさせてもらいます』
300名死ぬよりかはましだが、残りはどうなるのか? アリスが知りたいのはそこだ。
『では皆様、次のイベントをお楽しみ下さいませ』
ロザリーはそう言って消えた。
しばらくの間、タイタンプレイヤーは空中に向け呆然としていた。口開き、消えた映像の名残を探すように宙に視線を注ぐ。そして誰かが叫びを上げ、時は動いた。波紋のように広がり、ふざけるな帰せと怒号を発し、ある者は膝を折りさめざめと泣いていた。
アリスも顔に手を当てていた。瞳からは涙が止めどなく溢れ出る。それを拭うのでもなく、ただ流していた。そして手の平が青く輝き始めた。その青い光は手の平だけでなくアリスの体全体から発している。この関ヶ島に来たときと同じ現象だ。そして全身の青い光がますます強くなり、視界が青一色になったときアリスの体は島から消えた。
○ ○ ○
全身の青い光がなくなると元のブリーフィングルームにいた。元に戻ってきた何人かのプレイヤーが怒りで地面や壁を声を荒らげながら叩き始める。次第に他のプレイヤーもつられて声を上げる。頭をかきむしる者、腿を叩く者、色々。そんな中、レオは黙って目を閉じていた。だが、眉は強く下り、眉間には皺が寄り、口は固く閉ざされていた。
○ ○ ○
祝勝会なんてものはなかった。
勝った。だけど誰も喜べなかった。現実へ帰れた者はいいだろうが。残った者にとっては絶望であった。
アリスは自室に戻り、薄明かりの中、ベッドの上で体育座りをしていた。膝に顔を当て心ここにあらずだった。そうでないと心が壊れそうだった。
――やっと帰れると思ったのに。だからここまで頑張ってきたのに。これじゃあ、あんまりだ。
○ ○ ○
レオは自室で端末を取り出しブラームスにメッセージを送ろうと内容を作製していた。
レオもブラームス攻略班も解放がない可能性を考慮していた。だからといって精神的な苦痛は低かったといえば嘘になる。心の中ではやはり皆、解放だと望んでいたのだ。
メッセージは誰が解放されたか分かるかという内容。
しかし、メッセージを送ろうとするもエラーになる。何度も端末をタップして送信を試みるもエラーになる。
「どうしたの?」
見かねてエイラが尋ねる。
「エラーだ。送信できない」
レオは頭を掻いた。
「何かあったのかしら?」
外では一部プレイヤーがデモ行進を行っている。それに巻き込まれたのか。いや、攻略班のおかげで勝てたのだ。そんな彼らに誰が叩くだろうか。
レオは攻略班のメンバーにメッセージを送る。相手はブラームスの秘書を務めているプレイヤー。
返事はすぐにきた。その内容にレオは顔を強張せる。
「レオ、なんて?」
レオは下唇を噛んだ後、文面を読み上げる。
「ブラームスがいない。解放された可能性が高いと」
「彼が!?」
よりにもよって重要な人物が解放されるとは。レオは急いで顔見知りのハイランカーにメッセージを送る。その内三名だけエラーで送れないプレイヤーがいた。
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