第39話 Aー16 制圧戦7 スピカvsエイラ

 スピカはエイラを見た瞬間から今まで会ったタイタンプレイヤーとは違う戦闘服にただ者ではないと感じていた。


 今までのタイタンプレイヤーは無骨なプロテクターに頭を除いた全身タイツスーツ姿が多かった。しかし、目の前の敵は白のハイレグ。そして虹色に輝く四枚羽。見た目はもう妖精フェアリーだ。どちらかというとアヴァロン側ではないかと感じるほど。得物は左に白のハンドガンと、右にビームソード。


 スピカが動いたと同時に相手も動いた。

 エイラは低空飛行で高速接近。そしてビームソードを横一線に振るう。スピカはそれを鞘から刀を抜き迎え討つ。


 ビームソードと刀がぶつかる。刀は押すものではなく引くもの。力任せの鍔迫り合いは苦手とする。故にせいぜい軌道を逸らせる程度。しかし、向こうもパワーがないのか刀で押される。双方、バランスを崩した。


 次にスピカが跳躍し、斬り込む。それを上空へ急上昇してエイラは回避。そしてハンドガンでカウンター。


 銃弾の雨をスピカは人間離れた高速移動で回避。そしてエイラに近付こうとする。壁を踏み、跳躍して袈裟懸けで刀を振るう。


 エイラはそれをビームソードを盾にして防ぐ。

 攻撃後のスピカは重力に引かれ地上へと落ちる。その瞬間がチャンスとエイラはハンドガンの弾を炸裂弾に変えて発砲する。


 回避不能、そう思われた。

 だが、スピカは空中でもありえない高速の回避行動をとった。


 そしてスピカは地上に着地するやいなや、刀の切っ先を上に向け、膝と腰を曲げ、一気に伸ばし跳躍する。


 その跳躍は音速のスピードで水蒸気爆発を放ちながら上空へ一直線に飛ぶ。

 エイラはハンドガンを盾にするが、切っ先がハンドガンを突き抜けエイラの左肩に切っ先が刺さる。


 痛みが走る。

 エイラは激痛で顔を歪ませるがすぐにハンドガンを放して腰のフォルダーから拳銃を抜き取る。そして至近距離からスピカの頭を狙いトリガーを引く。


 だが、その攻撃をスピカは頭を横に傾けなんなくかわす。

 エイラは羽を動かし距離をとった。スピカは体を一回転させ、地上へ悠々に着地する。そして刀に突き刺さったハンドガンを投げ捨てる。投げ捨てられたハンドガンは地面に転がる前に消失。ゲーム内では所有者から離れた武器やアイテムはすぐに消失し、所有者の端末もしくは手元に戻る。今回は刀に突き刺され、損壊しているのでハンドガンは端末に戻った。


 エイラは拳銃を発砲しながら急降下。

 ハンドガンほどではないが何発もの銃弾がスピカに向かって飛びかう。スピカは自分に向かって来る銃弾を全て回避する。エイラは拳銃の攻撃を止め、ビームソードでスピカに飛びかかる。


「やあああぁぁぁ!」


 スピカも刀を鞘に収め、エイラに向け跳躍。

 抜刀術だとスピカはすぐに理解した。

 洗練された抜刀一閃が放たれる。エイラはなんとか一閃を見極めビームソードを振る。光の剣と刀が交差する。


 一瞬の交差の後、エイラは地上へと着地。さすがはと言ったところだろうか。ビームソードを持つ手首に痺れが発する。次は防ぎきれるだろうか。


 少ししてからスピカも悠々と着地した。彼女は余裕のある笑みを顔に浮かべている。それを見てまだ何か実力を隠しているのではと考えてしまう。


 端末が使えないため、これ以上は武器を出すことはできない。こんなことなら前もって沢山、武器を出しておけばとエイラは後悔する。フェアリースタイルは意気込みとしてフィールドに飛ばされる前に着ていた。もし着用していなければ、いつものクラス1ジョブスタイルで挑んでいて、役には立てなかっただろう。


 だが、武器の数は相手も同じであろう。見たところ相手は刀しか使っていない。もちろん他に武器を隠し持っている可能性もある。しかし、あのドレスから隠せる部位は胸元かスカートの中ぐらい。胸元は薄く武器を隠し持っているようには見えない。


 ――ならスカートの中か? 隠せるならナイフか? 


 もしタイタンプレイヤーなら拳銃を隠せるだろうがスピカはアヴァロンプレイヤー。銃器類いはないはず。ならスカートに隠すならナイフの類い《たぐ》だろう。


 エイラは武器破壊に努めることした。隠しナイフを所持していてもさほど驚異にならないだろうと。

 エイラは大振りでビームソードを振る。エイラの所有するビームソードは耐久値が高いものだ。何度かまじわらせればいつか向こうの刀が折れるだろうと考えた。抜刀術さえ注意すれば勝ち目はある。


「はああぁぁぁ!」


 相手も刀で返す。ビームソードと刀がぶつかっては離れ、またぶつかる。その度にビームソードと刀が音を立て、火花を散らす。

 エイラは歯を食い縛り力任せの大振りを繰り出す。

 スピカは後ろへと大きく跳躍し距離を取る。そして、に左手を差し入れた。


 エイラは目を見張った。胸元には膨らみがなく何も隠していないと思っていたからだ。

 スピカは差し入れた手を抜きつつ何かをエイラに向け投げつけた。計4つの飛翔体が飛ぶ。


 それをエイラはビームソードで斬り捨てる。――しかし。


「え? これは?」


 ナイフだろうと思ったら違っていた。

 スピカが投げたのは札だった。白い短冊状の札で朱の3重八角形、その中心に達筆な漢字一文字が。そして八角形の外には漢字かマークが判別のつかない文字の羅列。


 その札はビームソードに斬られると光り輝いた後に爆発した。

 爆発音が部屋に木霊こだまする。エイラは爆発に巻き込まれるも無事だった。爆発の威力は低く、目眩まし程度だった。スピカは刀を鞘に収め、上半身を少し前へ屈める。それは抜刀術の構えである。つまり先程の札は抜刀術のための時間稼ぎか。


 してやった。それを見てエイラはにやけた。抜刀術は相手にとって必殺技らしいが抜刀術は刀を鞘から抜くこと、ならその前に銃撃すれば相手は自ずと刀を抜かなくてはならない。

 エイラは拳銃を撃つ。予想通りスピカは刀を抜いてして銃弾を斬る。抜刀術の失敗だ。


 それを見てエイラは高速で近づく、抜刀術がミスした今ならチャンスだと。そして大きくビームソードを上から下へと振るおうとビームソードを大きく上へ構える。


 だが、近づいたとき、時間がスローになった。


 ――違う。体が重くなりスピードが落ちたんだ。


 スピカが再度、刀を鞘に収めた。目を閉じ、体を傾ける。

 抜刀術の構えだ。


「クッ!?」


 エイラはビームソードを振ろうとするも体が重い。まるで水中の中で体を動かすみたいだ。今から防御は無理だ。せめて刺し違えようと剣をゆっくり降り下ろそうと試みる。


 ――間に合え!


 スピカの目が開かれ、傾けた体を、腕を伸ばし鞘から刀が抜き放たれる。まごうことなき洗練された一閃が生まれる。


 その一閃はエイラの体を真っ二つに斬る。その時、エイラには斬られたという感覚はなかった。まるで自然に、始めからそうであるかのように体が別れたのだ。

 そしてエイラは消滅した。


「ふう」


 スピカは大きく息を吐き、そして目を閉じながら刀を鞘に戻した。


「なんとか誤魔化せましたか」


 スピカが放った札は。4つのうち3枚は爆発系で残りの1枚はデバフ系だった。しかも特殊型で相手との距離が近いときにしか発動しないもの。抜刀術の構えは相手を誘うためのものだった。エイラはそれに引っ掛り拳銃を撃ち、刀を抜いたのを攻撃のチャンスと思い、間違って接近した。


  ○ ○ ○


 スピカはフラッグを鞘で叩いた。するとフラッグはタイタンマークからアヴァロンマークに変わる。インカムでスゥイーリアに連絡を取ろうとするも呼び出し音のみで今は出られないと理解し、メイプルにかけようしたが『電源が~』というアナウンスが流れた。このアナウンスが流れるということは殺られて元の島に飛ばされたということ。スピカはマップを取り出した。今、スピカのいる最北端の第1フィールドは赤く、そして赤かった最南端の第51フィールドが青くなっていた。

 スピカは他のメンバーに連絡した。


『はい、はーい』

「ソフィア、第51フィールドが青くなってるけど、それって……」

『たぶんそうでしょうね』

「なら戻れるのは私だけだからすぐにでも……」

『んー、ここはアヴァロンプレイヤーが来るまで待つべきでは? 貴女がそこを離れてタイタンプレイヤーがフラッグを変えたら、また制圧を始めないといけないでしょ』

「そうね。では、誰でもいいから人を寄越して」

『わかったー』



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